『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』 作:深空 律
第31話 上級職
ベルハルトの町が見えてきた。ロディオが少し前へ出る。
「戻ってきたな」
エイルも町を見る。
「そうだな」
最後にここを出た時は、五人とも職業を授かったばかりだった。装備も今とは違い、戦い方もろくに決まっていなかった。ルシエラが少し懐かしそうに町並みを見る。
「そんなに長く離れていた感じはしませんけど」
「実際、そんなに経ってないしな」
ロディオが答える。メルディアが言った。
「一月半も経ってない」
「そう考えると短いな」
エイルは自分の腰にある蒼鋼剣を見る。あの時は、こんな剣も持っていなかった。クラウスが前を見る。
「まず神殿ですね」
「だな」
五人は町へ入った。
◇
神殿の建物は、以前とほとんど変わっていなかった。高い天井と白い石の床。その奥には、職業授与を行う場所がある。以前ここへ来た時は、自分たちと同じ年頃の若者が何人もいた。
今日は職業授与の日ではないらしく、人は少ない。エイルたちが中へ入ると、一人の神官がこちらを見た。少しして、その視線がルシエラで止まる。
「……あれ?」
ルシエラも神官を見る。見覚えがあった。
「もしかして……」
神官が少し近づいてくる。
「《光と闇の聖女》の方ですよね?」
ルシエラの顔が明るくなる。
「はい!」
ロディオが驚いた。
「覚えてるんですか?」
「覚えていますよ」
神官は苦笑した。
「《聖女》なら知っていますが、《光と闇の聖女》なんて職業は、私もあの日初めて見ましたから」
ルシエラが少し照れたように笑う。
「やっぱり珍しかったんですね」
「珍しいというより、私の知っている記録にはありませんでしたからね。あれを見て忘れる方が難しいですよ」
神官は周囲の四人を見る。
「皆さんも一緒だった方たちですね」
エイルが頷く。
「はい」
「冒険者になると言っていましたね」
「続けてます」
ロディオが答えた。神官は五人の装備を見る。以前より明らかに実戦向きになっている。
「そのようですね」
少し笑った。
「それで、今日はどうしました?」
エイルが答える。
「上級職への転職に来ました」
神官の動きが止まった。
「……上級職?」
「はい」
数秒、五人を見つめる。
「もう?」
ロディオが笑う。
「俺たちも、そう言われると早い気がしてきた」
「早い気がする、ではなくてですね」
神官は少し困った顔をした。
「職業を授けたのは、まだ一月半も前ではありませんよね?」
「そうですね」
クラウスが答える。神官が五人に尋ねる。
「職業レベルは?」
「俺は四十三です」
ロディオが答えた。神官の目が止まった。
「四十三?」
「はい」
「ほかの皆さんも、上級職を希望しているんですか?」
エイルが頷く。
「ずっと五人で一緒に戦ってきたので、俺たちも条件を満たしているか確認したくて」
神官はしばらく何も言わなかった。
「……少し待ってください」
近くにあった職業授与の記録を開く。五人の名前と授けられた職業、そして日付を確認したところで、神官はもう一度五人を見た。
「間違いないですね」
「何がですか?」
ルシエラが聞く。
「皆さんへ職業を授けてからの日数です」
神官は記録を置いた。
「普通、基本職から上級職へ進めるところまで成長するには、何年もかかります」
今度は五人が黙った。ロディオが最初に口を開く。
「何年?」
「人によりますよ。冒険者としてどれくらい戦うかにもよりますし、全員が同じ速度で成長するわけでもありません」
「でも一月ちょっとではない?」
「普通はありませんね」
メルディアが神官を見る。
「早い人なら?」
「それでも、あなたたちほど早く戻ってきた方を私は知りません」
エイルたちは顔を見合わせた。ロディオが首を傾げる。
「結構戦ったからかな」
「ダンジョンにもかなり潜った」
メルディアが答える。エイルもこれまでを思い返す。ドルガ、カレナ周辺、二つのダンジョン。リューベルでは十日以上続けて下層へ潜っている。
「確かに、ずっと戦ってた気はするな」
クラウスが言った。
「休んでいた日もありますけどね」
「でも、何年って言われるとなあ」
ロディオはまだ納得しきれない顔をしていた。神官は五人を見ていたが、それ以上は追及しなかった。
「成長が早いのは悪いことではありません。条件を満たしているのであれば、転職はできます」
ロディオの表情が変わる。
「じゃあ、できるんですね」
「はい」
神官は四人を見る。
「ただし、基本職にはそれぞれ進める上級職があります」
メルディアがすぐに聞く。
「一つじゃない?」
「ええ」
神官はまずエイルを見る。
「《ファイター》から進める代表的な上級職は二つです」
エイルが聞く。
「何ですか?」
「《ウォリアー》と《ガーディアン》」
ロディオが横から言う。
「名前だけだと、どっちも強そうだな」
神官が少し笑う。
「方向が違います」
エイルへ向き直る。
「《ウォリアー》は攻撃を重視する職業です。高威力の武器や攻撃、敵陣への突破などを伸ばしていく」
エイルが自分の剣へ視線を落とす。
「攻撃……」
「《ガーディアン》は反対に、防御と前線維持を重視します。盾を使い、仲間をかばい、敵を止めることに向いています」
エイルが顔を上げる。
「仲間を守る方……」
今度は、すぐには何も言わなかった。ロディオが横を見る。
「迷ってる?」
「まだ説明聞いただけだろ」
そう答えながらも、エイルは少し考えていた。神官は次にメルディアへ視線を向ける。
「《メイジ》は《ウィザード》か《エンチャンター》です」
メルディアの反応は早かった。
「違いは?」
「《ウィザード》は攻撃魔法をさらに伸ばします。専門とする属性の魔法を、より強力に扱う方向ですね」
「エンチャンターは?」
「攻撃魔法を使いながら、支援や強化、魔力の制御を発展させます。水や風、土などを利用した支援とも相性がいい職業です」
メルディアが少し考える。
「エンチャンターになったら、攻撃魔法が使えなくなる?」
「いいえ。どちらを重点的に伸ばすかの違いだと考えた方がいいでしょう」
「なるほど」
メルディアはそれ以上聞かなかった。だが、頭の中ではすでに何か考えているようだった。神官は続いてクラウスを見る。
「《プリースト》は《ハイプリースト》か《エクソシスト》」
クラウスが静かに聞く。
「お願いします」
「《ハイプリースト》は、回復、防御、浄化をより高度に扱う職業です。複数人を治療するような上級の回復魔法も扱えるようになります」
クラウスの表情が少し変わった。
「複数人を?」
「はい」
エイルがクラウスを見る。クラウス自身も、その言葉をかなり気にしているようだった。
「《エクソシスト》は?」
「聖属性の攻撃や、呪い、悪霊、魔力汚染など、特殊な相手への対応を伸ばします」
ロディオが聞く。
「魔族には強い?」
神官は首を振った。
「魔族だからというだけで強くなる職業ではありません。アンデッドや悪霊など、特定の性質を持った存在への対応に優れる職業です」
「じゃあ、ミゼリアには別に特効じゃないのか」
「誰ですか?」
「あ」
ロディオが口を閉じる。エイルが苦笑した。
「知り合いじゃないです」
「そうですか」
神官は少し不思議そうだったが、それ以上聞かなかった。神官は最後にロディオを見る。
「《スカウト》は《アサシン》か《レンジャー》です」
「アサシン」
ロディオが少し笑う。
「急に物騒になったな」
「名前だけで判断しないでください」
「はい」
「《アサシン》は、隠密、奇襲、急所を狙った戦闘を得意とします。人間を暗殺するためだけの職業ではありません。魔物との戦闘でも十分に力を発揮します」
ロディオが自分の短剣を見る。
「こっちは戦闘寄りか」
「そう考えていいでしょう」
「レンジャーは?」
「索敵、探索、追跡、地形への適応。弓や罠なども含めて、野外での活動能力を大きく伸ばします」
ロディオの表情が止まった。エイルが聞く。
「どっち?」
「分かんない」
即答だった。
「速く動ける方がいいと思ってたけど」
神官が言う。
「単純に移動速度だけで分かれる職業ではありませんよ」
「ですよね」
ロディオは腕を組んだ。
「思ったより迷うな」
四人それぞれの前に、二つずつ候補が並んだ。エイルは《ウォリアー》か《ガーディアン》、メルディアは《ウィザード》か《エンチャンター》。クラウスは《ハイプリースト》か《エクソシスト》、ロディオは《アサシン》か《レンジャー》だ。
ルシエラだけは、その中に入っていない。神官がルシエラを見る。
「あなたは特殊職でしたね」
「はい。私には転職できるって表示が出ませんでした」
「特殊職なら、それ自体は不思議ではありません」
「そうなんですか?」
「一般に特殊職は、基本職のように上級職へ転職せず、その職業のまま成長していきます」
ルシエラが少し安心したように息を吐く。
「じゃあ、私だけ何か失敗してるわけじゃないんですね」
「少なくとも、その可能性を心配する必要はないでしょう」
神官は少し間を置いた。
「ただ、《光と闇の聖女》そのものについては、今も私には分かりませんが」
「そこはやっぱり分からないんですね」
「残念ながら」
ルシエラが笑った。ロディオが四人を見る。
「で、どうする?」
エイルが答える。
「ちょっと待て」
「まだ何も言ってないだろ」
「今、絶対どれにするって聞こうとしただろ」
「聞こうとはした」
神官がそんな四人を見て言った。
「急いで決める必要はありませんよ」
四人が顔を上げる。
「名前だけで選ぶより、自分がこれまでどう戦ってきたか、これから何をしたいかを考えてください」
ロディオがもう一度、自分の二つの候補を見る。
「思ったより迷うな」
「さっきも言ってた」
エイルが言う。
「候補聞く前より迷ってる」
「聞いたからだよ」
メルディアも二つの名前を見比べている。クラウスもすぐには口を開かなかった。エイルが言う。
「一回、ちゃんと考えよう」
ロディオが周囲を見る。
「ここで?」
神官が少し笑った。
「構いませんよ。決まれば、そのまま手続きを進められます」
「じゃあ、そうしよう」
四人は改めて、自分の前にある二つの職業名を見た。一月余り前には、こんなことで迷う日がすぐに来るとは思っていなかった。