『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』   作:深空 律

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第八章 成長の先
第31話 上級職


ベルハルトの町が見えてきた。ロディオが少し前へ出る。

 

「戻ってきたな」

 

エイルも町を見る。

 

「そうだな」

 

最後にここを出た時は、五人とも職業を授かったばかりだった。装備も今とは違い、戦い方もろくに決まっていなかった。ルシエラが少し懐かしそうに町並みを見る。

 

「そんなに長く離れていた感じはしませんけど」

 

「実際、そんなに経ってないしな」

 

ロディオが答える。メルディアが言った。

 

「一月半も経ってない」

 

「そう考えると短いな」

 

エイルは自分の腰にある蒼鋼剣を見る。あの時は、こんな剣も持っていなかった。クラウスが前を見る。

 

「まず神殿ですね」

 

「だな」

 

五人は町へ入った。

 

◇

 

神殿の建物は、以前とほとんど変わっていなかった。高い天井と白い石の床。その奥には、職業授与を行う場所がある。以前ここへ来た時は、自分たちと同じ年頃の若者が何人もいた。

 

今日は職業授与の日ではないらしく、人は少ない。エイルたちが中へ入ると、一人の神官がこちらを見た。少しして、その視線がルシエラで止まる。

 

「……あれ?」

 

ルシエラも神官を見る。見覚えがあった。

 

「もしかして……」

 

神官が少し近づいてくる。

 

「《光と闇の聖女》の方ですよね?」

 

ルシエラの顔が明るくなる。

 

「はい!」

 

ロディオが驚いた。

 

「覚えてるんですか?」

 

「覚えていますよ」

 

神官は苦笑した。

 

「《聖女》なら知っていますが、《光と闇の聖女》なんて職業は、私もあの日初めて見ましたから」

 

ルシエラが少し照れたように笑う。

 

「やっぱり珍しかったんですね」

 

「珍しいというより、私の知っている記録にはありませんでしたからね。あれを見て忘れる方が難しいですよ」

 

神官は周囲の四人を見る。

 

「皆さんも一緒だった方たちですね」

 

エイルが頷く。

 

「はい」

 

「冒険者になると言っていましたね」

 

「続けてます」

 

ロディオが答えた。神官は五人の装備を見る。以前より明らかに実戦向きになっている。

 

「そのようですね」

 

少し笑った。

 

「それで、今日はどうしました?」

 

エイルが答える。

 

「上級職への転職に来ました」

 

神官の動きが止まった。

 

「……上級職?」

 

「はい」

 

数秒、五人を見つめる。

 

「もう?」

 

ロディオが笑う。

 

「俺たちも、そう言われると早い気がしてきた」

 

「早い気がする、ではなくてですね」

 

神官は少し困った顔をした。

 

「職業を授けたのは、まだ一月半も前ではありませんよね?」

 

「そうですね」

 

クラウスが答える。神官が五人に尋ねる。

 

「職業レベルは?」

 

「俺は四十三です」

 

ロディオが答えた。神官の目が止まった。

 

「四十三?」

 

「はい」

 

「ほかの皆さんも、上級職を希望しているんですか?」

 

エイルが頷く。

 

「ずっと五人で一緒に戦ってきたので、俺たちも条件を満たしているか確認したくて」

 

神官はしばらく何も言わなかった。

 

「……少し待ってください」

 

近くにあった職業授与の記録を開く。五人の名前と授けられた職業、そして日付を確認したところで、神官はもう一度五人を見た。

 

「間違いないですね」

 

「何がですか?」

 

ルシエラが聞く。

 

「皆さんへ職業を授けてからの日数です」

 

神官は記録を置いた。

 

「普通、基本職から上級職へ進めるところまで成長するには、何年もかかります」

 

今度は五人が黙った。ロディオが最初に口を開く。

 

「何年?」

 

「人によりますよ。冒険者としてどれくらい戦うかにもよりますし、全員が同じ速度で成長するわけでもありません」

 

「でも一月ちょっとではない?」

 

「普通はありませんね」

 

メルディアが神官を見る。

 

「早い人なら?」

 

「それでも、あなたたちほど早く戻ってきた方を私は知りません」

 

エイルたちは顔を見合わせた。ロディオが首を傾げる。

 

「結構戦ったからかな」

 

「ダンジョンにもかなり潜った」

 

メルディアが答える。エイルもこれまでを思い返す。ドルガ、カレナ周辺、二つのダンジョン。リューベルでは十日以上続けて下層へ潜っている。

 

「確かに、ずっと戦ってた気はするな」

 

クラウスが言った。

 

「休んでいた日もありますけどね」

 

「でも、何年って言われるとなあ」

 

ロディオはまだ納得しきれない顔をしていた。神官は五人を見ていたが、それ以上は追及しなかった。

 

「成長が早いのは悪いことではありません。条件を満たしているのであれば、転職はできます」

 

ロディオの表情が変わる。

 

「じゃあ、できるんですね」

 

「はい」

 

神官は四人を見る。

 

「ただし、基本職にはそれぞれ進める上級職があります」

 

メルディアがすぐに聞く。

 

「一つじゃない?」

 

「ええ」

 

神官はまずエイルを見る。

 

「《ファイター》から進める代表的な上級職は二つです」

 

エイルが聞く。

 

「何ですか?」

 

「《ウォリアー》と《ガーディアン》」

 

ロディオが横から言う。

 

「名前だけだと、どっちも強そうだな」

 

神官が少し笑う。

 

「方向が違います」

 

エイルへ向き直る。

 

「《ウォリアー》は攻撃を重視する職業です。高威力の武器や攻撃、敵陣への突破などを伸ばしていく」

 

エイルが自分の剣へ視線を落とす。

 

「攻撃……」

 

「《ガーディアン》は反対に、防御と前線維持を重視します。盾を使い、仲間をかばい、敵を止めることに向いています」

 

エイルが顔を上げる。

 

「仲間を守る方……」

 

今度は、すぐには何も言わなかった。ロディオが横を見る。

 

「迷ってる?」

 

「まだ説明聞いただけだろ」

 

そう答えながらも、エイルは少し考えていた。神官は次にメルディアへ視線を向ける。

 

「《メイジ》は《ウィザード》か《エンチャンター》です」

 

メルディアの反応は早かった。

 

「違いは?」

 

「《ウィザード》は攻撃魔法をさらに伸ばします。専門とする属性の魔法を、より強力に扱う方向ですね」

 

「エンチャンターは?」

 

「攻撃魔法を使いながら、支援や強化、魔力の制御を発展させます。水や風、土などを利用した支援とも相性がいい職業です」

 

メルディアが少し考える。

 

「エンチャンターになったら、攻撃魔法が使えなくなる?」

 

「いいえ。どちらを重点的に伸ばすかの違いだと考えた方がいいでしょう」

 

「なるほど」

 

メルディアはそれ以上聞かなかった。だが、頭の中ではすでに何か考えているようだった。神官は続いてクラウスを見る。

 

「《プリースト》は《ハイプリースト》か《エクソシスト》」

 

クラウスが静かに聞く。

 

「お願いします」

 

「《ハイプリースト》は、回復、防御、浄化をより高度に扱う職業です。複数人を治療するような上級の回復魔法も扱えるようになります」

 

クラウスの表情が少し変わった。

 

「複数人を?」

 

「はい」

 

エイルがクラウスを見る。クラウス自身も、その言葉をかなり気にしているようだった。

 

「《エクソシスト》は?」

 

「聖属性の攻撃や、呪い、悪霊、魔力汚染など、特殊な相手への対応を伸ばします」

 

ロディオが聞く。

 

「魔族には強い?」

 

神官は首を振った。

 

「魔族だからというだけで強くなる職業ではありません。アンデッドや悪霊など、特定の性質を持った存在への対応に優れる職業です」

 

「じゃあ、ミゼリアには別に特効じゃないのか」

 

「誰ですか?」

 

「あ」

 

ロディオが口を閉じる。エイルが苦笑した。

 

「知り合いじゃないです」

 

「そうですか」

 

神官は少し不思議そうだったが、それ以上聞かなかった。神官は最後にロディオを見る。

 

「《スカウト》は《アサシン》か《レンジャー》です」

 

「アサシン」

 

ロディオが少し笑う。

 

「急に物騒になったな」

 

「名前だけで判断しないでください」

 

「はい」

 

「《アサシン》は、隠密、奇襲、急所を狙った戦闘を得意とします。人間を暗殺するためだけの職業ではありません。魔物との戦闘でも十分に力を発揮します」

 

ロディオが自分の短剣を見る。

 

「こっちは戦闘寄りか」

 

「そう考えていいでしょう」

 

「レンジャーは?」

 

「索敵、探索、追跡、地形への適応。弓や罠なども含めて、野外での活動能力を大きく伸ばします」

 

ロディオの表情が止まった。エイルが聞く。

 

「どっち?」

 

「分かんない」

 

即答だった。

 

「速く動ける方がいいと思ってたけど」

 

神官が言う。

 

「単純に移動速度だけで分かれる職業ではありませんよ」

 

「ですよね」

 

ロディオは腕を組んだ。

 

「思ったより迷うな」

 

四人それぞれの前に、二つずつ候補が並んだ。エイルは《ウォリアー》か《ガーディアン》、メルディアは《ウィザード》か《エンチャンター》。クラウスは《ハイプリースト》か《エクソシスト》、ロディオは《アサシン》か《レンジャー》だ。

 

ルシエラだけは、その中に入っていない。神官がルシエラを見る。

 

「あなたは特殊職でしたね」

 

「はい。私には転職できるって表示が出ませんでした」

 

「特殊職なら、それ自体は不思議ではありません」

 

「そうなんですか?」

 

「一般に特殊職は、基本職のように上級職へ転職せず、その職業のまま成長していきます」

 

ルシエラが少し安心したように息を吐く。

 

「じゃあ、私だけ何か失敗してるわけじゃないんですね」

 

「少なくとも、その可能性を心配する必要はないでしょう」

 

神官は少し間を置いた。

 

「ただ、《光と闇の聖女》そのものについては、今も私には分かりませんが」

 

「そこはやっぱり分からないんですね」

 

「残念ながら」

 

ルシエラが笑った。ロディオが四人を見る。

 

「で、どうする?」

 

エイルが答える。

 

「ちょっと待て」

 

「まだ何も言ってないだろ」

 

「今、絶対どれにするって聞こうとしただろ」

 

「聞こうとはした」

 

神官がそんな四人を見て言った。

 

「急いで決める必要はありませんよ」

 

四人が顔を上げる。

 

「名前だけで選ぶより、自分がこれまでどう戦ってきたか、これから何をしたいかを考えてください」

 

ロディオがもう一度、自分の二つの候補を見る。

 

「思ったより迷うな」

 

「さっきも言ってた」

 

エイルが言う。

 

「候補聞く前より迷ってる」

 

「聞いたからだよ」

 

メルディアも二つの名前を見比べている。クラウスもすぐには口を開かなかった。エイルが言う。

 

「一回、ちゃんと考えよう」

 

ロディオが周囲を見る。

 

「ここで?」

 

神官が少し笑った。

 

「構いませんよ。決まれば、そのまま手続きを進められます」

 

「じゃあ、そうしよう」

 

四人は改めて、自分の前にある二つの職業名を見た。一月余り前には、こんなことで迷う日がすぐに来るとは思っていなかった。

 

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