『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』   作:深空 律

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第32話 転職

神官の説明が終わった。エイルには《ウォリアー》と《ガーディアン》、メルディアには《ウィザード》と《エンチャンター》。クラウスには《ハイプリースト》と《エクソシスト》、ロディオには《アサシン》と《レンジャー》。

 

四人は並んだ職業名を見ながら、すぐには口を開かなかった。最初にロディオが神官を見る。

 

「一つ聞いていいですか?」

 

「どうぞ」

 

「上級職に変わったら、今まで覚えた技能ってどうなるんです?」

 

エイルたちも神官を見る。

 

「失われません。これまで身につけた技能や習熟は、そのまま引き継がれます」

 

「じゃあ俺がアサシンになっても、索敵とか罠は使える?」

 

「はい」

 

「エイルがガーディアンになっても、今までの剣の技能は?」

 

「使えます」

 

エイルが少し安心したように頷いた。メルディアが聞く。

 

「魔法も?」

 

「もちろんです」

 

ロディオが腕を組む。

 

「じゃあ、今までやってきたことを捨てて選ぶわけじゃないんだ」

 

「そういうことです」

 

神官は四人を見た。

 

「候補は確認できていますので、上級職への手続きはこちらで進めておきます。どちらへ進むかは、決まってからで構いません」

 

「すぐ決めなくてもいいんですね」

 

ルシエラが聞く。

 

「ええ。今後の戦い方にも関わりますから、よく相談してください」

 

その言葉を聞いて、エイルが仲間を見る。

 

「だったらさ」

 

「うん?」

 

「一人ずつ決めるより、俺たち全体で考えない?」

 

ロディオが頷く。

 

「その方がいいかも」

 

クラウスも同意する。

 

「これからも五人で戦うなら、その方がいいでしょうね」

 

ルシエラも少し嬉しそうに言った。

 

「私も一緒に考えていいですか?」

 

「当たり前だろ」

 

エイルが答えた。

 

◇

 

その頃、天界ではオルディナの前に新しい処理が四件並んでいた。上級職への移行手続きだ。名前を確認する。エイル、メルディア、クラウス、ロディオ。

 

オルディナの手が止まった。

 

「……この四人」

 

見覚えがある。職業を授けたのは、それほど前ではない。それがもう上級職への条件を満たしている。

 

「早いですね……」

 

処理内容を確認しようとして、その近くにいる一人へ目が止まった。ルシエラ。《光と闇の聖女》。

 

「あら」

 

オルディナは少し身を乗り出した。以前、フィルネラが勝手に特殊職を与えた少女。その後、《光と闇の祝福》が四・〇倍まで成長しているのを確認している。

 

「この子も一緒なんですね」

 

少し気になった。

 

「今はどうなっているんでしょう」

 

《光と闇の祝福》の現在出力を確認する。表示されたのは十・一倍。

 

オルディナの動きが止まった。

 

「……十・一倍?」

 

隣にいたフィルネラが顔を上げる。

 

「どうしたの?」

 

「ルシエラです」

 

「ルシエラ?」

 

「《光と闇の祝福》が、十・一倍になっています」

 

フィルネラが少し考える。

 

「前はいくつだっけ」

 

「四・〇倍です」

 

オルディナは過去の記録を開いた。最初は一・一倍。前回は四・〇倍。そして現在は十・一倍。

 

「前に四・〇倍だった時」

 

「うん」

 

「特殊職だから、普通とは成長の仕方が違うのかもしれないと考えました」

 

「言ってたね」

 

「通常の聖女が一・二倍前後です。それでも四・〇倍は十分おかしかったんです」

 

「それが十・一倍?」

 

「そうです」

 

オルディナがフィルネラを見る。

 

「さすがに、特殊職だからで済ませませんよ」

 

「私に言われても」

 

「あなたが与えたんでしょう!」

 

「それはそうだけど」

 

オルディナは記録へ視線を戻す。

 

「一・一倍。四・〇倍。そして十・一倍です」

 

「大きくなってるね」

 

「見れば分かります!」

 

普通の《聖女》の《祝福》は一・二倍前後だ。十・一倍は、少し強いという範囲ではない。

 

「……何なんですか、この伸び方」

 

「育ったから?」

 

「その説明だけで納得できる数字ではありません」

 

オルディナは、上級職手続きを待っている五人へ視線を戻した。

 

「少し見ておきます」

 

◇

 

神殿では、五人が相談を始めていた。

 

「まず、今まで何が一番困った?」

 

エイルが言った。ロディオがすぐ答える。

 

「ミゼリア」

 

「それはそう」

 

メルディアも否定しない。クラウスが少し考える。

 

「ダンジョンの強敵もありましたが、これから先を考えるなら、やはりあの戦いでしょうね」

 

ルシエラの表情も少し引き締まった。ミゼリアは、五人より圧倒的に強かった。攻撃は当たらず、魔法も止められ、《絶対防御領域》へ入られても本人を止めることはできなかった。最後にはルシエラの手首まで掴まれた。

 

エイルが口を開く。

 

「俺は最初、ウォリアーかなって思ってた」

 

「攻撃?」

 

メルディアが聞く。

 

「うん。あれだけ何もできなかったら、もっと強くならないとって思うだろ」

 

ロディオが頷く。

 

「分かる」

 

「剣が当たれば、もう少し違ったかもしれないし」

 

エイルはそこで言葉を止めた。少し考えてから、ルシエラを見る。

 

「でも、あいつ俺の横を普通に抜けたんだよな」

 

ルシエラは黙って聞いている。

 

「《絶対防御領域》の中まで入って、ルシエラを掴んで」

 

ロディオが言う。

 

「あれは嫌だったね」

 

「嫌だった」

 

エイルはすぐ答えた。クラウスが静かに言う。

 

「攻撃する人は、エイルだけではありません」

 

エイルがそちらを見る。

 

「メルディアもいます。ロディオもいる。僕も攻撃手段がないわけではありません」

 

「私も一応あります」

 

ルシエラが小さく手を上げた。ロディオが笑う。

 

「ルシエラのは一応って言っていいのかな」

 

「そこは今いいです」

 

エイルも少し笑った。クラウスは続ける。

 

「でも、僕たちの前に立って敵を止めているのは、ほとんどエイルです」

 

メルディアも頷く。

 

「エイルが抜かれたら、後ろまで来る」

 

「ミゼリアみたいに?」

 

「そう」

 

エイルは《ガーディアン》の説明を見る。防御、かばう、足止め、姿勢維持、前線保持といった項目が並んでいる。ロディオが言った。

 

「エイルがもっと攻撃できるようになるのもいいけどさ」

 

「うん」

 

「エイルが抜かれなくなる方が、俺は助かる」

 

「俺も?」

 

「俺も」

 

ロディオは笑った。

 

「俺、前に出ること多いけど、エイルほど正面から受けられないし」

 

ルシエラも小さく頷く。

 

「私も……エイルが前にいてくれると安心します」

 

エイルが少し黙った。

 

「そう言われると、ガーディアン選ばないと駄目みたいだな」

 

「駄目ではないですよ」

 

クラウスが言う。

 

「最後はエイルが決めることです」

 

「分かってる」

 

エイルはもう一度、《ウォリアー》と《ガーディアン》を見比べる。敵をもっと倒せるようになりたい気持ちは、まだある。けれど、次に同じような相手が来た時、また自分の横を抜けられ、ルシエラまで届かれる方が嫌だった。

 

「……ガーディアンにする」

 

エイルが言った。ロディオが頷く。

 

「いいと思う」

 

「でも剣はちゃんと使うからな」

 

「誰も使うなって言ってない」

 

◇

 

エイルが《ガーディアン》を選んだことで、話は次へ進んだ。メルディアが言う。

 

「エイルが守るなら」

 

全員がそちらを見る。

 

「私はウィザードの方がいいかもしれない」

 

ロディオが聞く。

 

「エンチャンターじゃなくて?」

 

「迷ってる」

 

メルディアは二つの職業を見比べる。

 

《エンチャンター》なら、攻撃魔法を残したまま属性支援や強化、制御を伸ばせる。使えることが増えるのは魅力的だった。これまでにも炎で道を塞ぎ、敵を一か所へ追い込むなど、倒すためだけではなく相手を動かすために魔法を使ってきた。

 

「エンチャンターも便利だと思う」

 

「じゃあそっちでもいいんじゃない?」

 

ロディオが言う。メルディアは首を振った。

 

「でも、今の五人を見ると違う」

 

エイルが聞く。

 

「何が?」

 

「支援する人はいる」

 

ルシエラを見る。

 

「ルシエラが強化できる」

 

クラウスを見る。

 

「クラウスも防御と回復がある」

 

エイルを見る。

 

「エイルはガーディアンになる」

 

最後に自分の杖を見る。

 

「だったら、私は攻撃を伸ばした方がいい」

 

クラウスが頷く。

 

「役割を分けるということですね」

 

「うん」

 

メルディアの頭には、ミゼリアとの戦いも残っていた。《フレイムランス》は水に止められ、次の魔法を使う前には目の前まで詰められた。強い相手へ、もっと確実に魔法を通したい。エンチャンターで選択肢を増やすより、今持っている攻撃魔法をもっと強くしたかった。

 

「ウィザードにする」

 

今度は迷わなかった。エイルが頷く。

 

「俺が止めて、メルディアが倒す?」

 

「止められたら」

 

「頑張るよ」

 

「お願い」

 

◇

 

「じゃあ次、俺?」

 

ロディオが言う。

 

「クラウスが先でもいいよ」

 

クラウスは少し笑った。

 

「どちらでも」

 

ロディオは《アサシン》と《レンジャー》を見る。

 

「レンジャーなら、今までやってきたことをそのまま伸ばせるんだよな」

 

神官が頷く。

 

「そうですね」

 

索敵や探索、追跡、罠、それに地形への対応。どれもロディオがこれまで担当してきたものだった。

 

「普通に考えたらレンジャーなんだけど」

 

エイルが聞く。

 

「アサシンが気になる?」

 

「うん」

 

ロディオは腰の短剣に触れ、ミゼリアとの戦いを思い返す。相手の動きは見ていたし、隙ができた瞬間もあった。それでも届かず、攻撃できても決めきれなかった。

 

「索敵とか罠は残るんだよね」

 

「はい」

 

神官が答える。ロディオは少し考えた。

 

「だったら、今までの仕事は続けられる」

 

メルディアが頷く。

 

「レンジャーじゃなくても」

 

「うん」

 

ロディオは五人を見る。

 

「このパーティ、遠くを見る人は俺しかいないから、それはやる」

 

「お願いします」

 

ルシエラが言う。

 

「でも戦闘になったら、もうちょっと自分で決められるようになりたい」

 

エイルが聞く。

 

「ミゼリアみたいなの相手に?」

 

「そこまでいけるかは知らないけど」

 

ロディオが笑う。

 

「見つけた隙に届かないの、結構悔しかったから」

 

《アサシン》は、戦闘、隠密、奇襲、急所攻撃を伸ばせる。

 

「アサシンにする」

 

◇

 

最後にクラウスが残った。《ハイプリースト》と《エクソシスト》を、しばらく見比べる。

 

「エクソシストも、これから必要になる可能性はありますね」

 

エイルが聞く。

 

「魔族がいるから?」

 

「魔族そのものに強い職業ではないと、先ほど神官様も言っていました」

 

「そうだった」

 

「ですが、アンデッドや悪霊、呪いのような相手に対応できる力は無駄ではありません」

 

ロディオが言う。

 

「ハイプリーストは?」

 

クラウスは少しだけ視線を落とし、これまでの戦いを思い返す。エイルとロディオが同時に傷つき、一人を治療しながらもう一人を気にしたこともあった。ルシエラへ治療を頼んだこともある。ダンジョンでも、複数人が同時に傷つけば、どうしても治療する順番ができた。

 

「僕は、そちらの方が気になります」

 

クラウスは《ハイプリースト》の名を見る。

 

「エリアハイヒール?」

 

ルシエラが聞く。

 

「はい」

 

クラウスが頷く。

 

「すぐ使えるようになるわけではないそうですが」

 

神官も頷く。

 

「職業レベルを上げる必要はあります」

 

「それでも」

 

クラウスは四人を見る。

 

「一人ずつ治すしかない状況を減らせるなら、そちらを伸ばしたいです」

 

エイルが言う。

 

「俺が前で止める」

 

「はい」

 

メルディアが続く。

 

「私は後ろから攻撃する」

 

「はい」

 

ロディオが笑う。

 

「俺は走り回る」

 

「できれば怪我は減らしてください」

 

「努力する」

 

クラウスも少し笑った。

 

「皆さんがそれぞれ役割を伸ばすなら、僕は全員を立て直せる方を選びます」

 

クラウスが選んだのは《ハイプリースト》だった。これで四人の希望が揃った。エイルは《ガーディアン》、メルディアは《ウィザード》、クラウスは《ハイプリースト》、ロディオは《アサシン》だ。

 

ルシエラが四人を見渡す。

 

「決まりましたね」

 

◇

 

神官がそれぞれの希望を確認し、手続きを進める。

 

◇

 

天界では、オルディナの前で先ほど保留になっていた四件の内容が更新された。エイルは《ガーディアン》、メルディアは《ウィザード》、クラウスは《ハイプリースト》、ロディオは《アサシン》。

 

「決まりましたね」

 

オルディナは順番に確認し、上級職への移行を処理していく。特に問題はない。四人分を終える。

 

◇

 

手続きが終わると、ロディオが真っ先に自分の状態を開いた。

 

「……本当に《アサシン》になってる。職Lvは一だ」

 

「身体の方は?」

 

エイルが聞く。

 

「四十三のまま。前の技能も残ってる」

 

「説明どおりだな」

 

「うん。分かってたけど、何か変な感じ」

 

ロディオは短剣の柄を握り直した。

 

「でも、これからもっと強くなれるなら悪くないな」

 

「そうだな」

 

エイルが頷いた。

 

◇

 

そのまま神殿を出ようとしたところで、ルシエラが足を止めた。

 

「あ」

 

エイルが振り返る。

 

「どうした?」

 

「聞きたいこと、思い出しました」

 

ルシエラは神官を見る。

 

「神官様」

 

「はい?」

 

「リューベルで、少し変な噂を聞いたんです」

 

「噂?」

 

「ダンジョンで起きていた異変が、魔神復活の兆しなんじゃないかって」

 

神官の表情が変わった。

 

「……魔神復活?」

 

その反応に、ルシエラの方が少し驚く。

 

「はい。でも、誰が言い始めたのかも分からない噂です」

 

神官はしばらく黙っていた。

 

「どんな異変ですか?」

 

メルディアが答える。

 

「魔物の強さが安定しない」

 

ロディオも続ける。

 

「同じ種類なのに、急に強いのが混じることがある」

 

クラウスが言う。

 

「冒険者側にも、急に身体が軽くなった、魔法が強くなったという報告が出ていました」

 

「場所も時間も一定してない」

 

メルディアが付け加える。

 

「同じところを調べても何も起きない時もある」

 

神官は黙って聞いていた。話が終わっても、すぐには返事をしない。

 

「……少し待っていてください」

 

奥へ向かう。しばらくして戻ってきた時、古い記録を一冊持っていた。表紙には何度も補修された跡がある。神官が慎重に開く。

 

「これは、神魔大戦の時代について残された記録の一つです」

 

エイルが覗く。

 

「有名な話なんですか?」

 

「いいえ」

 

神官は首を振った。

 

「神殿でも、古い記録を調べる者でなければ知らないと思います」

 

ルシエラが少し不安そうな顔をした。神官は文字を追う。

 

「ここに、こうあります」

 

ゆっくり読み上げる。

 

「魔神が再び目覚める時、先に世界の力の均衡が乱れる」

 

五人が黙る。

 

「人も、獣も、魔物も、昨日まで持たなかった力を現し、同じ者であっても、時と場所によってその力は変わる」

 

ロディオがメルディアを見る。メルディアも記録を見たまま動かない。

 

「その乱れは一か所に留まらず、やがて地の各所へ広がる。そして乱れが満ちた時――」

 

神官が一度止まる。

 

「魔神は再び地上へ姿を現す」

 

静かになった。エイルが最初に口を開く。

 

「……それ、さっきの話と似てません?」

 

「はい」

 

神官も否定しなかった。ルシエラが聞く。

 

「本当に魔神が復活するんですか?」

 

「分かりません」

 

神官はすぐ答えた。

 

「非常に古い記録です。本当に神魔大戦当時から残っている話なのか。後の時代に加えられたものなのか。それさえ確かではありません」

 

「じゃあ、ただの伝説かもしれない?」

 

ロディオが聞く。

 

「十分にあります」

 

それでも神官の表情は戻らない。

 

「ただ」

 

ルシエラを見る。

 

「この記録は、一般に知られているものではありません」

 

「はい」

 

「それなのに、リューベルで魔神復活という言葉が出ている」

 

神官が古い記録へ目を落とす。

 

「しかも、そこで実際に起きている現象が、この記述と似ている」

 

ルシエラの表情が曇った。リューベルでは、誰かが勝手に言い出した噂だと思っていた。皆も半分笑っていた。けれど、遠く離れたこの神殿にも、同じような話が昔から残っている。

 

「……もし」

 

ルシエラが小さく言う。エイルが見る。

 

「もし、リューベルだけじゃなくなったら」

 

その声には、さっきまでなかった不安が混じっていた。

 

「他の町でも同じことが起きたら、大勢の人が危なくなりますよね」

 

エイルが言う。

 

「まだそうと決まったわけじゃない」

 

「はい」

 

ルシエラも頷く。

 

「分かってます。でも……」

 

神官が記録を閉じた。

 

「この話は、上へ報告します」

 

クラウスが聞く。

 

「神殿の上層へ?」

 

「はい。リューベルで実際に異変が確認されているなら、念のため調べるべきでしょう」

 

◇

 

天界では、四人の転職処理を終えたオルディナが、先ほど確認した十・一倍という数字をまだ気にしていた。一度、別の処理へ移った。それから少し時間が経つ。

 

ふと、ルシエラの現在出力をもう一度確認した。オルディナの目が止まる。表示されていたのは十二・一倍だった。

 

「……フィルネラ」

 

「なに?」

 

「ちょっと来てください」

 

フィルネラが近づく。オルディナは観測結果を示した。

 

「見てください」

 

フィルネラが表示を見る。

 

「十二・一倍?」

 

「はい」

 

オルディナが言う。

 

「さっき私が確認した時は、十・一倍でした」

 

フィルネラが表示を見る。

 

「増えてる」

 

「増えています」

 

「レベル上がった?」

 

オルディナが確認する。《光と闇の聖女》の職業Lvは43のままだ。

 

「上がっていません」

 

フィルネラも今度は少し黙った。

 

「じゃあ、何で?」

 

オルディナは地上のルシエラを見る。先ほどは、仲間たちと上級職について話していた。今は古い記録を前に、不安そうな顔をしている。オルディナの目が細くなる。

 

「……精神状態?」

 

フィルネラもルシエラを見る。

 

「さっきより心配してるね」

 

「それで十・一倍から十二・一倍に?」

 

オルディナは表示とルシエラを見比べる。職業Lvは変わっておらず、短い時間しか経っていない。それでも出力だけが変わっていた。

 

「職業レベルだけで決まっているわけではない……」

 

オルディナはさらに別の記録を開いた。職業授与日は四十七日前。そして現在は、肉体Lv43、職業Lv43。オルディナの動きが止まる。

 

「……四十七日?」

 

フィルネラが見る。

 

「何が?」

 

「この子に職業を与えたの、四十七日前ですよね」

 

「そうだね」

 

「それでレベル四十三?」

 

フィルネラも記録を見る。

 

「早いね」

 

「早いで済ませないでください」

 

オルディナは記録を見比べた。職業授与時は一・一倍。その後は四・〇倍。今日の最初の観測では十・一倍、そして今は十二・一倍。さらに、職業を授けてから四十七日でLv43まで上がっている。

 

オルディナはしばらく黙った。

 

「……フィルネラ」

 

「今度はなに?」

 

「この祝福の倍率」

 

オルディナはルシエラの成長記録を見る。

 

「経験値にも掛かっているんじゃないでしょうね」

 

フィルネラが少し目を開いた。

 

「経験値に?」

 

「今は十倍を超える祝福です。それで、この成長速度」

 

オルディナの表情が険しくなる。

 

「無関係とは思えません」

 

フィルネラはすぐには答えなかった。オルディナは再びルシエラを見る。祝福そのものの異常な成長。同じ職業レベルのまま起きた出力変化。そして、四十七日でLv43という成長速度。

 

「……これは、ちゃんと調べないと駄目ですね」

 

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