『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』   作:深空 律

34 / 34
第34話 新しい役割

翌朝。

 

宿を出る支度をしていたエイルは、腰に蒼鋼剣を差したところで手を止め、自分の左腕を見た。荷物をまとめていたロディオが、それに気づく。

 

「どうした?」

 

「出る前に、盾を見ていこうと思って」

 

「盾?」

 

ルシエラも振り返った。エイルは頷く。

 

「昨日ガーディアンになっただろ。剣だけでも戦えるけど、それじゃ今までとあんまり変わらないし」

 

ロディオが少し笑った。

 

「昨日、昔ならウォリアーを選んでたって言ってたのに、朝になったら盾を買うんだな」

 

「まだその話するのか?」

 

「だって、子供の頃は剣を持って敵を倒す英雄になりたかったんだろ?」

 

「そうだけど」

 

エイルは少し考えた。

 

「今の俺が子供の頃の俺に会ったら、もっと剣に金を使えって言われるかもな」

 

「やっぱり?」

 

「でも今は、あいつに横を抜かれた時の方が気になる」

 

ミゼリアとの戦いが頭をよぎった。剣を振るよりも早く横を抜けられ、振り返った時にはルシエラの目の前まで入り込まれていた。あの時は三人がかりでルシエラを引き戻したが、次も同じように止められるとは限らない。

 

ルシエラが少し考えてから言った。

 

「でも、大きい盾を持っている英雄もいましたよ」

 

エイルがすぐにそちらを見る。

 

「いたよな」

 

「いました」

 

ロディオが二人を見る。

 

「そこは二人で庇い合うんだ」

 

「本当にいたから」

 

「本当にいました」

 

今度はメルディアも口を開いた。

 

「私も読んだことある」

 

ロディオが止まる。

 

「三人いるの?」

 

「有名な話だから」

 

「じゃあ俺が知らないだけ?」

 

クラウスが少し笑った。

 

「たぶんそうですね。僕も子供の頃に聞いたことはあります」

 

ロディオは荷物を肩へ掛けながら首を振った。

 

「昨日から知らないことばっかり増えるな」

 

「お前が今まで聞いてなかったんだろ」

 

「それ、昨日も言われた」

 

五人はそのまま宿を出た。

 

◇

 

ベルハルトの装備屋には、朝から何人かの冒険者がいた。壁には剣や槍、鎧、盾が並んでいる。エイルは店主に、昨日ガーディアンへ転職したことと、蒼鋼剣はそのまま使いたいことを伝えた。

 

店主は剣を一度確認してから、盾の並ぶ一角へ向かう。

 

「なら片手で使えるやつだな。大きければいいってもんじゃないぞ」

 

「動けなくなったら困るので」

 

「そういうことだ」

 

いくつかの盾を見た後、店主は奥から一枚を引き出した。立てれば胴から脚の上まで隠れるほど大きく、表面には厚い金属板が張られている。縁にも補強が入り、目立つ装飾はなかった。

 

「付与はない。ただ、丈夫だ」

 

エイルが受け取ると、ずしりと左腕へ重さが掛かった。固定具を締めて構え、右手には蒼鋼剣を持つ。そのまま何歩か歩き、向きを変えてみた。

 

ロディオが正面へ回る。

 

「でかいな」

 

「持てなくはない」

 

「俺なら持ちたくない」

 

「お前は持たなくていいだろ」

 

メルディアはエイルの後ろへ回ると、左右に少し位置を変えた。

 

「ここなら、ほとんど隠れる」

 

エイルが振り返る。

 

「使う気満々だな」

 

「そのための盾でしょ?」

 

店主が笑った。

 

「使い方としては正しい」

 

エイルはもう一度正面を向いた。盾越しでは左側の視界が少し狭い。取り回しにも慣れが必要になりそうだった。それでも、ミゼリアが通り抜けた場所をこの盾で塞げたらと考えれば、試す価値はある。

 

「これにします」

 

「毎日留め具は確認しろ。盾本体が無事でも、そこが外れたら終わりだ」

 

「分かりました」

 

代金を払い、簡単な手入れの方法も聞いた。店を出る頃には、エイルの左腕に大きな盾が増えていた。隣を歩くロディオが、改めてその姿を見る。

 

「昨日より英雄っぽくなくなったな」

 

「まだ言うのかよ」

 

ルシエラは盾を眺めてから言った。

 

「私はこっちも格好いいと思いますよ」

 

エイルは少しだけ黙った。

 

「……ありがとう」

 

ロディオが笑う。

 

「そこは普通に喜ぶんだ」

 

「うるさい」

 

◇

 

ベルハルトを出た五人は、東へ続く街道を進んだ。まずはベル砦。その先のリゼルへ戻り、そこから南へ下る街道へ入ればメルクへ向かえる。ベルハルトからリゼルまでは一度通った道なので、道順そのものに迷う心配はなかった。

 

町から離れるにつれて人家が減り、代わりに街道を行き交う荷馬車や兵士が目につくようになる。しばらく歩いたところで、ロディオがエイルの盾を振り返った。

 

「それ、次に四天王が出ても使う?」

 

「そのつもりだけど」

 

「誰が来ても?」

 

エイルは少し考えた。

 

「何が来るか分からないから使うんだよ」

 

「それもそうか」

 

ロディオは前を向いたが、しばらくするとまた口を開いた。

 

「四天王って、あと二人いるんだよな」

 

ルシエラが小さく息を吐く。

 

「できれば会いたくないです」

 

「俺も別に会いたいわけじゃないよ」

 

「本当ですか?」

 

「何で疑うの?」

 

メルディアが言った。

 

「ガルベルトの時も、ミゼリアの時もかなり危なかった」

 

「そうだけどさ。二人とも全然違ったじゃん」

 

エイルもそれには頷いた。ガルベルトとミゼリア。同じ四天王でも、戦い方も受けた印象もまるで違っていた。

 

「残り二人も似たような相手とは限らないな」

 

「たぶん違う」

 

メルディアが答える。ロディオが嫌そうな顔をした。

 

「それ、対策しづらくない?」

 

「会ったことのない相手の対策はできない」

 

「正しいけど嫌な答えだな」

 

クラウスが少し笑った。

 

「先に、会わないことを考えた方がいいと思いますよ」

 

「それが一番だよな」

 

ロディオも素直に頷いた。エイルは大型盾を持ち直す。

 

「でも、向こうから来ることもある」

 

ミゼリアは実際にそうだった。潜入していた三人を見破った結果、今度は四天王本人が自分たちの前に現れた。ロディオも同じことを思い出したらしい。

 

「そうなんだよなあ。俺たち、何で四天王二人と戦ってるんだろ」

 

「ガルベルトは偶然に近かった」

 

メルディアが答える。

 

「ミゼリアは、私たちを調べに来た」

 

「そっちは俺たちが三人を見つけたからじゃん」

 

「見つけなかった方がよかった?」

 

ルシエラが困った顔でロディオを見る。ロディオはすぐに首を振った。

 

「いや、それは絶対見つけた方がいい」

 

「じゃあ仕方ない」

 

「そうなんだけどさ」

 

ロディオは少し黙ってから続けた。

 

「また人間のふりして近づいてくるのは嫌だな」

 

普通に話した。ダンジョンのことも教えた。それから相手が魔族だったと知った。クラウスも思い返しながら言う。

 

「次に知らない人から話しかけられたら、少し警戒してしまいそうですね」

 

「でも、普通の冒険者さんかもしれませんよね」

 

ルシエラが言うと、ロディオが頷いた。

 

「そこが困るんだよ。全員疑ってたら何も話せないし」

 

メルディアは前を見たまま答える。

 

「変なところがあったら調べればいい」

 

「また糸を張る?」

 

「必要なら」

 

「やる気だ」

 

「前は見つかった」

 

それ以上は誰も否定しなかった。しばらく歩くと、街道の両側に低い林が続き始めた。その途中で、先頭を歩いていたロディオが急に足を止めて右手を上げる。

 

四人もすぐに止まった。

 

「いる」

 

エイルの手が盾へ移る。

 

「何体?」

 

「三」

 

林の中で枝が揺れた。少しして、三体のホブゴブリンが姿を現した。一体は剣と盾。残る二体は槍を持っている。エイルが前へ出ると、ロディオは少し横へ位置を取った。メルディアとクラウスが後ろへ下がり、ルシエラが杖を握る。

 

ロディオが小さく笑った。

 

「ちょうどいいな」

 

エイルが横を見る。

 

「何が?」

 

「試せる」

 

「油断するなよ」

 

「分かってる」

 

ルシエラが杖を掲げる。

 

「《光と闇の祝福》!」

 

いつものように力が身体へ満ちた。三体のホブゴブリンが一斉に走り出す。最初に来たのは槍だった。エイルは剣で逸らさず、大型盾を正面へ出した。

 

槍が盾へぶつかる。

 

ガァンッ!

 

大きな音が街道へ響き、ルシエラの肩が跳ねた。

 

「エイル!」

 

「大丈夫!」

 

音の大きさに反して、エイルはほとんど動いていなかった。盾越しに受けた感触も、それほど重くない。むしろ異変が出たのは相手の武器だった。穂先が曲がり、柄にも細い亀裂が走っている。

 

エイルはそれを一瞬だけ見た。

 

「……すごいな、これ」

 

すぐに二体目の槍が来た。盾を向けて受けると再び大きな金属音が響いたが、それでもエイルの足はほとんど動かない。その隙に、盾持ちのホブゴブリンが横を抜けようとした。

 

エイルは一歩だけ位置を変え、大型盾をその進路へ入れる。ホブゴブリンが足を止めた。

 

「そっちは行かせない」

 

今度はエイルから前へ出た。盾同士がぶつかり、鈍い衝撃音が響く。押し負けたホブゴブリンが数歩下がった。構え直した盾の中央は、大きくへこんでいる。

 

それを見たエイルの目が少し見開かれた。

 

「ガーディアン、思ってたより強いかも」

 

その横をロディオが抜ける。

 

「《疾駆》!」

 

地面を蹴った瞬間、身体が予想以上の速さで前へ出た。

 

「速っ!」

 

槍持ちが振り返るより先に側面へ回り込み、そのまま脚へ短剣を入れる。刃は思っていた以上に深く食い込み、ホブゴブリンが体勢を崩した。ロディオはすぐに間合いを外す。

 

「同じ《疾駆》なのに、前より速いな。アサシンになったからか?」

 

追ってきた槍持ちがエイルへ向きを変える。

 

その槍が大型盾へぶつかった。

 

ガンッ!

 

先ほど入った亀裂が一気に広がり、乾いた音とともに柄が折れた。ホブゴブリンの手から槍の半分が落ちる。ロディオはすぐに戻り、負傷していた一体へ短剣を入れて仕留めた。

 

残る二体。メルディアが杖を向ける。エイルが盾持ちの進路を塞いでいた。

 

「エイル、少し右」

 

エイルが盾ごと動き、射線を開ける。

 

「《フレイムランス》」

 

炎の槍が一直線に走り、ホブゴブリンの胸へ突き刺さった。そのまま身体を貫いた炎は背後まで抜け、街道脇の地面へ細い焦げ跡を残して消える。

 

ホブゴブリンが倒れた。メルディアは倒れた相手と、その向こうに残った焦げ跡を見比べる。

 

「前より通ってる」

 

ロディオもそちらを見る。

 

「ウィザードになったから?」

 

「たぶん。前より明らかに抜けてる」

 

最後の一体が剣を振り上げた。エイルが大型盾で受けると甲高い音が鳴り、盾の縁へ当たった剣の刃が一部欠けた。ホブゴブリンの動きが一瞬止まる。

 

エイルはその隙に盾を押し込み、相手の体勢を大きく崩した。すぐ横からロディオが入り、短剣を急所へ突き込む。最後の一体も倒れた。静かになった。

 

ロディオが周囲を確認する。

 

「もういない」

 

クラウスも四人を見回したが、怪我をした者はいなかった。ルシエラはすぐにエイルのところへ行く。

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

「ああ。音はすごかったけど、受けた感じはそんなでもなかった」

 

エイルは左腕を動かしてから、大型盾を見る。表面には新しい傷がいくつか付いていたものの、使うのに問題があるような損傷はない。足元には曲がった槍先と折れた柄が落ち、少し離れたところには大きくへこんだ盾と、刃の欠けた剣が残っていた。

 

ロディオもそれらを眺める。

 

「上級職って、思ってたより変わるな」

 

「盾買って正解だった」

 

エイルが言うと、ロディオが笑った。

 

「昨日まで剣一本だったのに?」

 

「だから、それはもういいって」

 

「でも、昨日あんなに迷ってたのに、もう気に入ってますね」

 

ルシエラに言われ、エイルは改めて盾を見る。

 

「実際に止められると、結構いいな」

 

「英雄の剣は?」

 

ロディオが聞く。エイルは右手の蒼鋼剣を少し持ち上げた。

 

「剣も持ってるだろ。両方でいい」

 

「欲張りだな」

 

「お前に言われたくない」

 

「俺?」

 

ロディオは短剣をしまいながら、先ほど《疾駆》で走った場所を見る。

 

「でも、アサシンはいいかも」

 

「気に入ったんですか?」

 

ルシエラが聞く。

 

「うん。あれだけ速く動けるなら、前より先まで見に行けそう」

 

エイルがすぐに顔を向ける。

 

「一人で遠くまで行くなよ」

 

「逃げるのも速くなったって話だよ。見つかった時に戻ってこられる範囲が広がったってこと」

 

「本当に?」

 

「たぶん」

 

エイルはまだ少し疑っている。ロディオが笑った。

 

「大丈夫だって。ミゼリアに捕まって投げられたのは覚えてるから」

 

「それ覚えてるならいいけど」

 

「忘れないよ。あんな投げられ方したの初めてだし」

 

その横で、メルディアは自分の杖と先ほどの焦げ跡を交互に見ていた。

 

「もう一回撃ちたい」

 

ロディオが振り返る。

 

「フレイムランスを?」

 

「うん。どのくらい変わったか、もう一回見たい」

 

「何に撃つの?」

 

「何か出たら」

 

クラウスが少し笑う。

 

「確認するために魔物を探すのはやめてくださいね」

 

「探さない。見つかったら試す」

 

「それなら構いません」

 

ロディオが二人を見てからクラウスへ向き直る。

 

「そういえば、クラウスだけまだ変わったか分かんないな」

 

「誰も怪我をしませんでしたからね」

 

「試したい?」

 

「そのために誰かが怪我をするなら、試さなくていいです」

 

「それはそう」

 

ロディオもすぐに納得した。ルシエラが笑う。

 

「クラウスらしいですね」

 

「そうですか?」

 

「はい」

 

三人分の魔石を回収する。エイルは折れた槍を一度拾おうとして、すぐにやめた。

 

「これは売れないな」

 

「折れてるしね」

 

ロディオが言う。メルディアは大きくへこんだ盾を見ていた。

 

「普通にぶつかっただけなのに、かなりへこんでる」

 

「ガーディアンって、こんなに力出るんだな」

 

エイルも感心したように答える。ロディオは自分の足を見る。

 

「アサシンもかなり違ったし」

 

「ウィザードも」

 

メルディアも続ける。ルシエラには、昨日までどの職業を選ぶか迷っていた四人が、もう新しい職業に手応えを感じ始めているように見えた。

 

「皆さん、自分に合うのを選べたみたいですね」

 

ロディオが笑う。

 

「たぶん当たり」

 

メルディアも頷いた。

 

「ウィザードも当たり」

 

エイルは大型盾を持ち直した。

 

「じゃあ行こう」

 

五人は再び東へ歩き始めた。まずはベル砦。その先にリゼルがある。

 

◇

 

同じ頃。

 

魔王城では、ミゼリアが寝台の上で上半身を起こしていた。身体にはまだ包帯が残っている。扉が開き、長い金髪の女が杖を手に入ってきた。額から上へ一本の角が伸び、黒と白を基調に深紅を差した長いローブをまとっている。

 

魔王軍四天王、ロザリア。ロザリアは寝台の前まで来ると、ミゼリアをしばらく眺めた。

 

「偵察に行ったって聞いたんだけど」

 

「行ったわよ」

 

「偵察って、こんな怪我をして帰ってくるものだった?」

 

「普通はしないわね」

 

「でしょうね」

 

ロザリアは椅子を引き寄せ、包帯の下を確認する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「グラディオからは、先に治せとしか聞いてない。何があったの?」

 

「聖女にやられた」

 

ロザリアの手が止まった。

 

「聖女?」

 

「人間側の五人組にいたの」

 

ロザリアが傷へ手を添えると、淡い光が広がった。治療が始まり、ミゼリアの顔が僅かに歪む。

 

「痛い?」

 

「痛いって言ったらやめる?」

 

「やめない」

 

「じゃあ聞かなくていいじゃない」

 

「治療してるんだから聞くわよ」

 

ミゼリアは諦めたように息を吐いた。ロザリアは手を動かしたまま尋ねる。

 

「それで、何をされたの?」

 

ミゼリアは旧放牧地で起きたことを話した。人間側の聖女が、攻撃を一切通さない防御を持っていたこと。外側から攻撃しても、中へ入ってから攻撃しても傷をつけられなかったこと。

 

ただし、防御の内側へ入ること自体はでき、聖女本人を掴めば身体を動かすこともできた。ロザリアが少し眉を上げる。

 

「変な能力ね」

 

「面白かったわよ」

 

「そこで帰ってくればよかったのに」

 

ミゼリアがロザリアを見る。

 

「そこまで分かったら、もう少し見たいでしょ」

 

「私は見なくていい」

 

「ロザリアはそうでしょうね」

 

治療の光が傷口を覆っていく。ミゼリアはそのまま話を続けた。自分にもいくつかの強化を重ね、最後に《風走》を使ったこと。そして動き出す直前、聖女の胸元にあった緑色の石が光ったこと。

 

「そこから先は覚えてない」

 

「次に覚えているのは?」

 

「知らない場所で倒れてたところ」

 

「どのくらい離れてたの?」

 

「戻りながら地形を見た感じだと、二十キロくらい」

 

ロザリアが顔を上げた。

 

「二十キロ?」

 

「それくらい」

 

「聖女に?」

 

「そう」

 

ミゼリアに迷いはなかった。

 

「あの子か、胸元の石かは分からないけど、光った直後にものすごい衝撃が来た。次に気づいた時には、二十キロくらい離れた場所にいたわ」

 

ロザリアは改めてミゼリアの傷を見る。

 

「それで、この傷?」

 

「そういうこと」

 

「よく帰ってきたわね」

 

「私もそう思う」

 

ロザリアは小さく息を吐き、再び治療へ意識を戻した。

 

しばらくしてから尋ねる。

 

「一緒に行った三人は?」

 

ミゼリアの表情が変わった。

 

「死んだ」

 

ロザリアの手が止まる。

 

「……三人とも?」

 

「ええ」

 

「あなたが戻った時には?」

 

「もう死んでた。三人とも、私がいなくなった後に五人と戦った傷が残ってた」

 

ロザリアは何も言わなかった。再び治療の光が傷を覆い、ミゼリアもそれ以上は話さない。やがてロザリアが手を離した。

 

「大きな傷はこれで大丈夫」

 

ミゼリアは肩を回してみた。先ほどよりずっと動く。

 

「助かった」

 

「でも今日は休んで」

 

「もう動けるけど」

 

「治したばかりでしょう」

 

「グラディオから何か言われたら行くわよ」

 

「今日は行かない」

 

ミゼリアがロザリアを見る。

 

「決めるのはグラディオじゃない?」

 

「もう一度悪化させたら、また治すのは私」

 

「それはそうだけど」

 

「だから休む」

 

しばらく見つめ合った末、先にミゼリアが目を逸らした。

 

「……分かったわよ」

 

「最初からそう言えばいいの」

 

「ロザリアって、治療してる時だけ強いよね」

 

「今、治療中だから」

 

「終わったでしょ」

 

「まだ患者」

 

ミゼリアは諦めて寝台へ背を預けた。ロザリアは杖を取り、扉へ向かいかけたところで足を止める。

 

「その聖女、名前は?」

 

「ルシエラ」

 

ロザリアは一度だけ、その名を繰り返した。

 

「ルシエラ……」

 

そして、その名前を覚えた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

これ僕の! ボクのぉ!!(作者:バリ茶)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

おねショタ漫画に出てくる猿みてぇなガキになって長身銀髪デカパイメイドに無様腰ヘコしたかった


総合評価:6369/評価:8.68/短編:1話/更新日時:2026年10月04日(日) 19:05 小説情報

魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます(作者:異星人アリエン)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

『魔法少女マギアイリス』。それは人気がすこぶる高いアニメとして、名を馳せていたアニメタイトルであった。▼話としては、至極単純世界征服を目指す組織《ディスナンド》が、ミラクルパワーとかいう力を操る魔法少女によって倒される。そんな分かりやすい物語。▼だけど、そんな世界で生きることとなった身としてはたまったものではない。▼そんな世界に転生した男、須佐八雲は男である…


総合評価:14210/評価:8.05/連載:54話/更新日時:2026年10月11日(日) 13:01 小説情報

魔法少女の敵役、命欲しさにドノツラフレンズになる。(作者:ドノツラフレンズ)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

魔法少女の敵役俺「(死にたくねぇなあ……せや!何食わぬ顔で味方面してやろ)ハッハッハ!!しょうがないから仲間になってやる!」▼魔法少女「えっ!?貴方って最初から味方じゃなかったんですか!?」▼俺「えっ?」▼魔法少女「えっ?」▼だいたいこんな感じのお話。


総合評価:5907/評価:8.33/連載:6話/更新日時:2026年08月15日(土) 21:41 小説情報

悪の組織のライバルキャラ転生〜「お前を倒すのは俺だ」と言いたいだけの男、鬱展開をぶっ壊して愛される〜(作者:む〜べ〜)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

※なお周りは主人公扱いしてくる模様。▼ゲームで主人公に敗北して組織のボスに始末される推しの不遇悪役ライバルに転生したので、原作知識で破滅エンドを回避して「理想のライバル」に成り上がる!▼……はずがうっかり死ぬはずだったヒロインを助けて激重感情を向けられたり、勘違いで組織を潰す「英雄」に祭り上げられたり、本編開始前から原作を破壊しまくってしまう。▼これはライバ…


総合評価:6912/評価:8.38/連載:60話/更新日時:2026年10月13日(火) 12:16 小説情報

【悲報】ヒフミさん普通じゃなかったwww (作者:車検のコダック)(原作:ブルーアーカイブ)

ナギサ様「ヒフミさんがブラックマーケットに出入りしてるなんて、嘘ですよね……?」


総合評価:13754/評価:8.95/連載:24話/更新日時:2026年07月24日(金) 01:41 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>