『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』 作:深空 律
アーデルへ戻ってから数日。五人は食料や照明、ロープなどの準備を整え、再びグランデル山脈の遺跡へ向かうことにした。出発前、クラウスが上級職のスキルについて話を切り出した。
「職業Lvが上がって、専用スキルが増えているのに気づきましたか?」
エイルがステータスを確認する。
「……本当だ。《庇護移動》?」
仲間を守るため、素早く移動する技能らしい。メルディアとロディオも、それぞれ新しいスキルを確認した。
「私は《魔力収束》だね。攻撃魔法を一点に集中できるみたい」
「俺は《死角歩法》。相手の死角に入りやすくなるのか」
「僕の《広域防護》は、仲間が受ける攻撃を軽減できるようです」
クラウスが説明を続ける。
「発動には詠唱が必要ですが、その後は効果を維持できるみたいですね」
「それなら、クラウスが防御してくれている間、私は回復を担当できますね」
ルシエラが言った。
「ええ。ただ、完全に防げるわけではありません。強力な攻撃には、ルシエラの《絶対防御領域》が必要になると思います」
二人の話を聞き、エイルは頷いた。
「防御の手段が増えたのは大きいな」
新しいスキルをどう使えるかは、まだ分からない。それでも、今までより戦い方の幅が広がりそうだった。
◇
一度通った山道だったため、遺跡の入口までは迷わず到着した。ロディオの地図を頼りに石柱の広間まで進む。前回倒した魔導兵は、崩れた姿のまま残っていた。広間の奥には、まだ調べていない通路が二つある。
ロディオがそれぞれの入口を確認した。片方は狭く、奥から微かな機械音が聞こえる。もう片方は幅が広く、床には何か重いものを運んだような痕跡が残っていた。
「先にこっちを調べよう」
ロディオが広い通路を指さした。
「荷物を持ってても動きやすいし、何かあっても戻りやすい」
「そうだな」
エイルも通路を覗き込む。前回傷んだ大型盾を、これ以上無理に使いたくはなかった。五人は幅の広い通路へ進んだ。
◇
しばらく進むと、ロディオが足を止めた。
「……奥に何かいる」
通路の先には、金属製の箱がいくつも積まれていた。その向こうに、二体の魔導兵が立っている。前回の守衛に似ているが、両腕には大きな筒が取り付けられていた。
「前に戦ったやつと同じように撃ってくるかもしれないな」
エイルが言った。
「そうだね。あの箱を使えば近づけそう」
ロディオは通路の様子を確かめた。二体の前を通らなければ奥へ進めない。
「行こう」
エイルの言葉に、ルシエラが杖を掲げた。
「《光と闇の祝福》!」
エイルたちはそれぞれの身体に力が満ちるのを感じ、金属の箱を遮蔽物にしながら進んだ。やがて魔導兵の胸元に青白い光が灯る。次の瞬間、二体が腕を持ち上げた。
ドガァンッ!
魔力弾が箱の側面に命中した。金属板が大きく歪み、破片が飛び散る。だが、五人はすでに別の遮蔽物へ移動していた。前回の守衛との戦いで、魔力弾の速さも威力も経験している。
エイルは傷んだ盾で正面から受けることを避け、ロディオとともに距離を詰めた。
「右は俺が!」
ロディオが魔導兵の側面へ回る。射撃しようとする腕の関節へ、古代の短剣を差し込んだ。
ガキッ!
金属部品が砕け、腕の動きが止まる。
「……いいね」
ロディオは刃先を確認した。以前の短剣と違い、欠けていない。そのまま胸元の機構を破壊する。もう一体もエイルが腕の関節を斬りつけ、メルディアが《フレイムランス》で胸部を撃ち抜いた。二体の魔導兵は停止した。
「この短剣、思った以上に丈夫だな」
ロディオが刃を眺める。前回手に入れた時は、握りやすさしか確かめられなかった。ようやく実戦で性能を確認できたことに、満足そうだった。五人は動かなくなった魔導兵を確認し、残骸を避けてさらに奥へ進んだ。
◇
通路の先には、巨大な金属扉があった。周囲の壁には、これまでと同じような模様が刻まれている。扉の手前には、一体の魔導兵が立っていた。先ほどの二体よりもずっと大きく、全身を分厚い金属板で覆われている。
「今度はずいぶん頑丈そうだな」
エイルは剣を抜いて仲間を振り返った。
「ルシエラ、祝福を頼む!」
「うん! 《光と闇の祝福》!」
ロディオは周囲を確認したが、扉以外に奥へ進めそうな道はない。五人が近づくと、魔導兵の胸元に光が灯った。重い金属の足が動き始める。
ゴンッ。
床を踏みしめた魔導兵が、巨大な腕を振り上げた。エイルは拳の軌道を見て横へ避ける。
ガァンッ!
拳が床に叩きつけられた。石片が飛び散ったが、床には浅い亀裂が入っただけだった。
「硬いな、ここの床も……」
メルディアが呟く。その間にロディオは魔導兵の側面へ回り込み、膝の関節を調べていた。
「エイル、脚を狙おう!」
「分かった!」
エイルが剣を振るう。分厚い装甲には刃が深く入らない。しかし、関節の隙間を狙うと金属部品が砕けた。魔導兵が体勢を崩す。ロディオは反対側の脚を攻撃し、動きを止めた。
「メルディア!」
「見えてる!」
《フレイムランス》!
炎の槍が胸元に命中する。外側の金属板が破損し、内部の機構が露出した。続く一撃が発光部分を砕く。魔導兵はそのまま床へ崩れ落ちた。
「やっぱり、正面から斬るのは厳しいな」
エイルが剣の刃を確認する。小さな傷ができていた。
「もっと丈夫な剣があればいいんだけど……」
その時、ロディオが扉の奥を覗き込んだ。
「……エイル、ちょっと来て」
「どうした?」
「これ、当たりかもしれない」
◇
扉の向こうには、広大な空間が広がっていた。何列もの棚が並び、その一つ一つに武器や防具が収められている。剣、槍、斧、盾、鎧、杖。見える範囲だけでも、相当な数だった。
「……何、これ」
メルディアが声を漏らす。
「こんなに大量の装備を保管していたんですか」
クラウスも驚いていた。古い武器の多くは錆びついていたが、密閉された箱に収められたものは、保存状態がよかった。
「これだけあれば、使えるものもありそうだな」
エイルは大型盾の並ぶ棚へ向かった。手に取った盾は、現在使っているものより少し重かった。だが、縁から持ち手まで頑丈な造りになっている。装着して構えると、重さの割に安定していた。
「……これ、いいな」
腕を動かし、構えを変える。今までの大型盾と形は少し違うが、十分扱えそうだった。続いて、保存状態のよい片手剣も見つけた。蒼鋼剣と比べると刃の厚みや加工が違い、強い力で振るっても耐えられそうな造りだった。
「こっちも使えそうだ」
エイルは新しい剣と盾を選び、身体に合う鎧も探した。一方、ロディオは短剣の棚を調べていた。
「……おっ」
頑丈な箱に収められた一本が目に留まった。黒みがかった金属製の短剣だった。先ほどまで使っていた古代短剣よりも、わずかに長い。しかし、驚くほど軽かった。
「これ、すごいな」
刃を抜き、何度か握り直す。重心の位置がよく、手に馴染む。近くにいたメルディアが、その短剣へ目を向けた。
「かなり細かい加工だね」
「やっぱり?」
「うん。さっきの短剣よりも、ずっと手が込んでるみたい」
ロディオは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、こいつにしようかな」
先ほどの古代短剣は予備に回し、新しい一本を主武器にすることにした。さらに動きやすい軽装防具も選んだ。メルディア自身は、杖の棚に夢中になっていた。先端に金属製の輪が組み込まれ、細かな模様が刻まれた杖を手に取る。
試しに魔力を通すと、先端へ滑らかに魔力が流れた。
「……すごい」
メルディアはもう一度、慎重に魔力を集中させた。今までの杖よりも、魔力が安定している。
「これなら《魔力収束》も使いやすいかも」
ほかにもいくつか試したが、最初に手に取った杖が最も扱いやすかった。メルディアはその杖と、魔術師向けと思われる軽い防具を選んだ。クラウスも回復魔法に使いやすそうな杖を見つけていた。
装飾は控えめだが、丈夫な素材でできており、魔力の流れも安定している。ルシエラは身体に合う軽装防具と、扱いやすい杖を選んだ。
《地護りのペンダント》は、これまでどおり身につけている。
しばらくして、五人は装備を整えた。
「……ずいぶん変わったな」
エイルが新しい盾を構える。
「これなら、前より安心して戦えそうだ」
ただし、実際の性能は使ってみなければ分からない。古い装備は一か所にまとめ、帰りに回収できるようロディオが地図に位置を記した。そして五人は、武器庫の奥へ続く通路へ進んだ。
◇
武器庫の先には、さらに幅の広い通路が続いていた。それまでの区画よりも壁が厚く、床の表面も滑らかだった。通路の奥には大きな扉が見える。しかし、その手前でロディオが足を止めた。
「……三体いる」
エイルが奥を確認する。通路を塞ぐように、二体の重装魔導兵が立っていた。さらにその後方には、両腕に筒を備えた射撃型が一体いる。
「厄介な並びだな」
エイルが呟く。二体の重装型が前を塞ぎ、後ろの一体が魔力弾を放つ。不用意に近づけば、前後から攻撃を受けることになる。
「射撃型を先に止めたいけど……」
ロディオが通路の幅を確認する。重装型の間を無理に抜けることもできそうだが、背後から攻撃される危険がある。エイルは新しい盾を構えた。
「まず前の二体を引きつける。ロディオは隙を見て後ろへ回ってくれ」
「分かった」
「ルシエラ、祝福も頼む!」
「うん! 《光と闇の祝福》!」
「クラウス、防護を頼めるか?」
「はい。ただ、詠唱が終わるまでは守ってください」
エイルとロディオが前へ出る。五人が警備範囲に入ったところで、三体の胸元に青白い光が灯った。重装型が動き出す。その後方で、射撃型の腕に魔力が集まり始めた。
「来るぞ!」
エイルは盾を構え、重装型の進路を塞いだ。ロディオは反対側へ走り、もう一体の注意を引く。その隙にクラウスが詠唱を始めた。
ドガァンッ!
魔力弾が通路の壁に命中する。表面の石が砕けたが、厚い壁はびくともしなかった。続けて重装型が拳を振り下ろす。
ガァンッ!
エイルは新しい盾で攻撃を受け流した。強い衝撃が腕に伝わる。だが、盾は全く変形しなかった。
「……よし!」
エイルはそのまま魔導兵を押し返す。以前の盾なら、今の一撃だけでも補強部分が傷んでいたかもしれない。新しい盾は、まるで損傷していなかった。その間にクラウスの詠唱が完了した。
《広域防護》!
淡い光が五人の周囲に広がる。
「発動しました!」
「ありがとう!」
ルシエラは周囲を確認し、いつでも回復できるよう備えた。クラウスの防護があれば、多少の攻撃を受けても被害を軽減できる。
一方、エイルとロディオは攻撃を続けられる。重装型の一体が、メルディアへ向かって腕を振り上げた。
「メルディア!」
エイルが反応する。
《庇護移動》!
エイルは重装型の脇を抜け、メルディアの前へ移動した。振り下ろされた腕を盾で受け流す。
「助かった!」
メルディアが杖を構え直す。
「こいつら、装甲がかなり厚いね」
「関節なら通る!」
ロディオが叫んだ。すでに重装型の側面へ回り込んでいる。魔導兵の視線がロディオを追う。その動きを利用して、ロディオが一気に背後へ踏み込んだ。
《死角歩法》!
身体を回そうとした魔導兵の肩へ、短剣を差し込む。
ガキッ!
金属部品が砕けた。
「……おお!」
ロディオは刃を引き抜く。新しい短剣には、傷一つついていない。魔導兵の片腕が動かなくなった。
「メルディア、今だ!」
「分かった!」
《魔力収束》!
新しい杖の先に魔力が集まる。いつもの《フレイムランス》よりも、魔力の流れを細く絞り込む。
「《フレイムランス》!」
炎の槍が重装型の肩へ突き刺さった。
ゴォンッ!
装甲の隙間から内部へ炎が入り、関節が大きく破損する。
「やった!」
だが、後方の射撃型が再び腕を持ち上げた。
「ロディオ、後ろ!」
ルシエラの声に、ロディオが横へ跳ぶ。
ドガァンッ!
魔力弾が床へ命中した。飛び散った石片がロディオの肩をかすめる。
「くっ!」
ロディオは着地し、そのまま距離を取った。防護のおかげか、傷は浅い。
「ロディオ、こっちへ!」
ルシエラが手をかざす。
《ヒール》。
傷が塞がる。
「ありがとう!」
ロディオはすぐに前へ戻った。エイルが重装型の注意を引いている間に、射撃型へ回り込む道を探す。だが、重装型のもう一体が通路を塞いでいた。
「このままだと、後ろのやつを止められないな」
ロディオが呟く。
「なら、まずこっちを倒す!」
エイルが剣を振るった。新しい片手剣が、重装型の膝の関節へ食い込む。
ガキンッ!
内部の部品が砕け、魔導兵が大きく体勢を崩した。
「メルディア!」
「任せて!」
再び《フレイムランス》が放たれる。胸元の装甲が破損し、内部の機構が露出した。さらに一撃。青白い光が消えた。一体目が床へ崩れ落ちる。重装型が一体減ったことで、通路に隙間ができた。
「今なら行ける!」
ロディオが駆け出した。残る重装型の注意がエイルへ向いている間に、射撃型の側面へ回り込む。
《死角歩法》!
魔導兵が腕を向け直そうとする。だが、その前にロディオの短剣が射撃用の筒を支える関節へ食い込んだ。
ガキッ!
腕の動きが止まる。ロディオは続けて反対側の腕も破壊した。
「これで撃てないだろ!」
射撃型は残った腕で殴りかかろうとした。しかし、接近戦ならロディオの方がはるかに速かった。背後へ回り込み、胸元の隙間へ短剣を差し込む。内部の機構が砕け、射撃型が停止した。
残る重装型も、エイルとメルディアが関節と胸部を狙い、ほどなく撃破した。三体の魔導兵が、通路に倒れた。
◇
クラウスが《広域防護》を解除した。エイルは新しい盾を確認する。何度も強い攻撃を受けたが、変形は見られない。
「……本当に丈夫だな、これ」
ロディオも短剣を鞘へ収めた。
「俺の方も問題なし。いいものが見つかってよかったよ」
メルディアは新しい杖を眺めていた。
《魔力収束》で魔力を集中させても、杖の先端は安定していた。
「この杖なら、もっと正確に狙えそう……」
メルディアは満足そうだった。一方、クラウスは先ほどの戦闘を振り返っていた。
《広域防護》は、発動後も効果を維持できた。
ただし、防護を使っていてもロディオは負傷している。その点はルシエラも確認していた。
「私の防御領域とは、使い方が違いますね」
「ええ。こちらは攻撃を完全に防ぐものではありませんから」
クラウスが答える。
「でも、戦いながら使えるのは大きいと思います」
「はい。これなら私も回復に集中できます」
新しい防御スキルの使い方について、二人の認識は少し深まっていた。
◇
戦闘を終えた五人は、通路の端で休息を取った。ロディオが地図に現在位置を書き加える。
「こっちの通路、かなり奥まで来たみたいだね」
「そうだな」
エイルはステータスを確認した。
「肉体Lv48か。ガーディアンも24になってる」
以前よりずいぶん上がっていた。だが、遺跡はまだ終わっていないらしい。
「奥に扉があるね」
メルディアが通路の先を指さした。重装魔導兵たちが守っていた場所だ。その先には、これまでとは違う巨大な扉が見えていた。エイルは皆の状態を確認した。大きな負傷はなく、装備にも問題はない。食料や照明にも余裕がある。
「入口だけでも調べてみようか」
ロディオが言った。
「そうだな。危険そうなら引き返そう」
五人は休息を終え、奥の扉へ向かった。
◇
扉は、今まで見てきたものとは造りが違っていた。分厚い金属板が何重にも重なり、周囲の壁には複雑な模様が刻まれている。ロディオが扉を調べる。
「……完全には閉まってないみたいだ」
片側に、わずかな隙間があった。エイルが手を貸し、二人で扉を押す。
ゴゴゴ……。
低い音とともに、扉が動き始めた。人が通れるだけの隙間ができる。ロディオが照明を掲げ、内部を確認した。
「……何だ、ここ」
扉の向こうには、これまでとはまったく違う空間が広がっていた。天井の高い広大な部屋。壁には何本もの太い管が伸び、床には用途の分からない金属製の装置が並んでいる。その一部には、今も青白い光が灯っていた。
「武器庫じゃない……」
メルディアが呟く。
「これ、何に使う装置なんだろう」
近くの装置には、魔導兵にも使われていたものと似た模様が刻まれていた。しかし、構造はまるで違っている。メルディアが装置へ近づこうとすると、ロディオが声をかけた。
「ちょっと待って。まだ奥を確認してない」
「あ、そうだった」
メルディアは足を止めた。ロディオが照明を奥へ向ける。
その時だった。
「……おい、みんな」
ロディオの声が少し変わった。
「奥に何かある」
五人が視線を向けた。部屋の奥に、巨大な円筒状の装置が立っていた。透明な壁に囲まれた、水槽のようなものだった。内部には淡い青緑色の液体が満たされ、何本もの管が接続されている。
そして。
その液体の中に、巨大な影が浮かんでいた。
「……え?」
ルシエラが小さく声を漏らした。人間よりもはるかに大きな身体。長い腕と脚。分厚い外皮に覆われた胴体。その表面には、硬い殻のようなものが幾重にも重なっている。
「……魔物?」
エイルが呟いた。
「こんなの、見たことないぞ」
ロディオが答える。メルディアは少し離れた場所から、水槽の中を観察していた。
「……これ、魔導兵じゃない」
身体の表面には、金属の継ぎ目も機械の部品も見当たらない。
「生き物……なのかな」
メルディアが呟く。クラウスは周囲の装置へ目を向けた。
「どうして、こんな場所に生き物が……」
ルシエラは水槽を見上げていた。
「……あの」
四人が振り返る。
「この子……生きているんでしょうか?」
誰も答えられなかった。五人が見つめる中、巨大な生物の胸元が、ほんのわずかに上下した。
「……今、動いた?」
ロディオが呟く。エイルは無言で剣の柄に手をかけた。透明な水槽の中で。巨大な生物は、静かに眠り続けていた。