『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』   作:深空 律

38 / 39
第38話 古代の武具庫

アーデルへ戻ってから数日。五人は食料や照明、ロープなどの準備を整え、再びグランデル山脈の遺跡へ向かうことにした。出発前、クラウスが上級職のスキルについて話を切り出した。

 

「職業Lvが上がって、専用スキルが増えているのに気づきましたか?」

 

エイルがステータスを確認する。

 

「……本当だ。《庇護移動》?」

 

仲間を守るため、素早く移動する技能らしい。メルディアとロディオも、それぞれ新しいスキルを確認した。

 

「私は《魔力収束》だね。攻撃魔法を一点に集中できるみたい」

 

「俺は《死角歩法》。相手の死角に入りやすくなるのか」

 

「僕の《広域防護》は、仲間が受ける攻撃を軽減できるようです」

 

クラウスが説明を続ける。

 

「発動には詠唱が必要ですが、その後は効果を維持できるみたいですね」

 

「それなら、クラウスが防御してくれている間、私は回復を担当できますね」

 

ルシエラが言った。

 

「ええ。ただ、完全に防げるわけではありません。強力な攻撃には、ルシエラの《絶対防御領域》が必要になると思います」

 

二人の話を聞き、エイルは頷いた。

 

「防御の手段が増えたのは大きいな」

 

新しいスキルをどう使えるかは、まだ分からない。それでも、今までより戦い方の幅が広がりそうだった。

 

◇

 

一度通った山道だったため、遺跡の入口までは迷わず到着した。ロディオの地図を頼りに石柱の広間まで進む。前回倒した魔導兵は、崩れた姿のまま残っていた。広間の奥には、まだ調べていない通路が二つある。

 

ロディオがそれぞれの入口を確認した。片方は狭く、奥から微かな機械音が聞こえる。もう片方は幅が広く、床には何か重いものを運んだような痕跡が残っていた。

 

「先にこっちを調べよう」

 

ロディオが広い通路を指さした。

 

「荷物を持ってても動きやすいし、何かあっても戻りやすい」

 

「そうだな」

 

エイルも通路を覗き込む。前回傷んだ大型盾を、これ以上無理に使いたくはなかった。五人は幅の広い通路へ進んだ。

 

◇

 

しばらく進むと、ロディオが足を止めた。

 

「……奥に何かいる」

 

通路の先には、金属製の箱がいくつも積まれていた。その向こうに、二体の魔導兵が立っている。前回の守衛に似ているが、両腕には大きな筒が取り付けられていた。

 

「前に戦ったやつと同じように撃ってくるかもしれないな」

 

エイルが言った。

 

「そうだね。あの箱を使えば近づけそう」

 

ロディオは通路の様子を確かめた。二体の前を通らなければ奥へ進めない。

 

「行こう」

 

エイルの言葉に、ルシエラが杖を掲げた。

 

「《光と闇の祝福》!」

 

エイルたちはそれぞれの身体に力が満ちるのを感じ、金属の箱を遮蔽物にしながら進んだ。やがて魔導兵の胸元に青白い光が灯る。次の瞬間、二体が腕を持ち上げた。

 

ドガァンッ!

 

魔力弾が箱の側面に命中した。金属板が大きく歪み、破片が飛び散る。だが、五人はすでに別の遮蔽物へ移動していた。前回の守衛との戦いで、魔力弾の速さも威力も経験している。

 

エイルは傷んだ盾で正面から受けることを避け、ロディオとともに距離を詰めた。

 

「右は俺が!」

 

ロディオが魔導兵の側面へ回る。射撃しようとする腕の関節へ、古代の短剣を差し込んだ。

 

ガキッ!

 

金属部品が砕け、腕の動きが止まる。

 

「……いいね」

 

ロディオは刃先を確認した。以前の短剣と違い、欠けていない。そのまま胸元の機構を破壊する。もう一体もエイルが腕の関節を斬りつけ、メルディアが《フレイムランス》で胸部を撃ち抜いた。二体の魔導兵は停止した。

 

「この短剣、思った以上に丈夫だな」

 

ロディオが刃を眺める。前回手に入れた時は、握りやすさしか確かめられなかった。ようやく実戦で性能を確認できたことに、満足そうだった。五人は動かなくなった魔導兵を確認し、残骸を避けてさらに奥へ進んだ。

 

◇

 

通路の先には、巨大な金属扉があった。周囲の壁には、これまでと同じような模様が刻まれている。扉の手前には、一体の魔導兵が立っていた。先ほどの二体よりもずっと大きく、全身を分厚い金属板で覆われている。

 

「今度はずいぶん頑丈そうだな」

 

エイルは剣を抜いて仲間を振り返った。

 

「ルシエラ、祝福を頼む!」

 

「うん! 《光と闇の祝福》!」

 

ロディオは周囲を確認したが、扉以外に奥へ進めそうな道はない。五人が近づくと、魔導兵の胸元に光が灯った。重い金属の足が動き始める。

 

ゴンッ。

 

床を踏みしめた魔導兵が、巨大な腕を振り上げた。エイルは拳の軌道を見て横へ避ける。

 

ガァンッ!

 

拳が床に叩きつけられた。石片が飛び散ったが、床には浅い亀裂が入っただけだった。

 

「硬いな、ここの床も……」

 

メルディアが呟く。その間にロディオは魔導兵の側面へ回り込み、膝の関節を調べていた。

 

「エイル、脚を狙おう!」

 

「分かった!」

 

エイルが剣を振るう。分厚い装甲には刃が深く入らない。しかし、関節の隙間を狙うと金属部品が砕けた。魔導兵が体勢を崩す。ロディオは反対側の脚を攻撃し、動きを止めた。

 

「メルディア!」

 

「見えてる!」

 

《フレイムランス》!

 

炎の槍が胸元に命中する。外側の金属板が破損し、内部の機構が露出した。続く一撃が発光部分を砕く。魔導兵はそのまま床へ崩れ落ちた。

 

「やっぱり、正面から斬るのは厳しいな」

 

エイルが剣の刃を確認する。小さな傷ができていた。

 

「もっと丈夫な剣があればいいんだけど……」

 

その時、ロディオが扉の奥を覗き込んだ。

 

「……エイル、ちょっと来て」

 

「どうした?」

 

「これ、当たりかもしれない」

 

◇

 

扉の向こうには、広大な空間が広がっていた。何列もの棚が並び、その一つ一つに武器や防具が収められている。剣、槍、斧、盾、鎧、杖。見える範囲だけでも、相当な数だった。

 

「……何、これ」

 

メルディアが声を漏らす。

 

「こんなに大量の装備を保管していたんですか」

 

クラウスも驚いていた。古い武器の多くは錆びついていたが、密閉された箱に収められたものは、保存状態がよかった。

 

「これだけあれば、使えるものもありそうだな」

 

エイルは大型盾の並ぶ棚へ向かった。手に取った盾は、現在使っているものより少し重かった。だが、縁から持ち手まで頑丈な造りになっている。装着して構えると、重さの割に安定していた。

 

「……これ、いいな」

 

腕を動かし、構えを変える。今までの大型盾と形は少し違うが、十分扱えそうだった。続いて、保存状態のよい片手剣も見つけた。蒼鋼剣と比べると刃の厚みや加工が違い、強い力で振るっても耐えられそうな造りだった。

 

「こっちも使えそうだ」

 

エイルは新しい剣と盾を選び、身体に合う鎧も探した。一方、ロディオは短剣の棚を調べていた。

 

「……おっ」

 

頑丈な箱に収められた一本が目に留まった。黒みがかった金属製の短剣だった。先ほどまで使っていた古代短剣よりも、わずかに長い。しかし、驚くほど軽かった。

 

「これ、すごいな」

 

刃を抜き、何度か握り直す。重心の位置がよく、手に馴染む。近くにいたメルディアが、その短剣へ目を向けた。

 

「かなり細かい加工だね」

 

「やっぱり?」

 

「うん。さっきの短剣よりも、ずっと手が込んでるみたい」

 

ロディオは嬉しそうに笑った。

 

「じゃあ、こいつにしようかな」

 

先ほどの古代短剣は予備に回し、新しい一本を主武器にすることにした。さらに動きやすい軽装防具も選んだ。メルディア自身は、杖の棚に夢中になっていた。先端に金属製の輪が組み込まれ、細かな模様が刻まれた杖を手に取る。

 

試しに魔力を通すと、先端へ滑らかに魔力が流れた。

 

「……すごい」

 

メルディアはもう一度、慎重に魔力を集中させた。今までの杖よりも、魔力が安定している。

 

「これなら《魔力収束》も使いやすいかも」

 

ほかにもいくつか試したが、最初に手に取った杖が最も扱いやすかった。メルディアはその杖と、魔術師向けと思われる軽い防具を選んだ。クラウスも回復魔法に使いやすそうな杖を見つけていた。

 

装飾は控えめだが、丈夫な素材でできており、魔力の流れも安定している。ルシエラは身体に合う軽装防具と、扱いやすい杖を選んだ。

 

《地護りのペンダント》は、これまでどおり身につけている。

 

しばらくして、五人は装備を整えた。

 

「……ずいぶん変わったな」

 

エイルが新しい盾を構える。

 

「これなら、前より安心して戦えそうだ」

 

ただし、実際の性能は使ってみなければ分からない。古い装備は一か所にまとめ、帰りに回収できるようロディオが地図に位置を記した。そして五人は、武器庫の奥へ続く通路へ進んだ。

 

◇

 

武器庫の先には、さらに幅の広い通路が続いていた。それまでの区画よりも壁が厚く、床の表面も滑らかだった。通路の奥には大きな扉が見える。しかし、その手前でロディオが足を止めた。

 

「……三体いる」

 

エイルが奥を確認する。通路を塞ぐように、二体の重装魔導兵が立っていた。さらにその後方には、両腕に筒を備えた射撃型が一体いる。

 

「厄介な並びだな」

 

エイルが呟く。二体の重装型が前を塞ぎ、後ろの一体が魔力弾を放つ。不用意に近づけば、前後から攻撃を受けることになる。

 

「射撃型を先に止めたいけど……」

 

ロディオが通路の幅を確認する。重装型の間を無理に抜けることもできそうだが、背後から攻撃される危険がある。エイルは新しい盾を構えた。

 

「まず前の二体を引きつける。ロディオは隙を見て後ろへ回ってくれ」

 

「分かった」

 

「ルシエラ、祝福も頼む!」

 

「うん! 《光と闇の祝福》!」

 

「クラウス、防護を頼めるか?」

 

「はい。ただ、詠唱が終わるまでは守ってください」

 

エイルとロディオが前へ出る。五人が警備範囲に入ったところで、三体の胸元に青白い光が灯った。重装型が動き出す。その後方で、射撃型の腕に魔力が集まり始めた。

 

「来るぞ!」

 

エイルは盾を構え、重装型の進路を塞いだ。ロディオは反対側へ走り、もう一体の注意を引く。その隙にクラウスが詠唱を始めた。

 

ドガァンッ!

 

魔力弾が通路の壁に命中する。表面の石が砕けたが、厚い壁はびくともしなかった。続けて重装型が拳を振り下ろす。

 

ガァンッ!

 

エイルは新しい盾で攻撃を受け流した。強い衝撃が腕に伝わる。だが、盾は全く変形しなかった。

 

「……よし!」

 

エイルはそのまま魔導兵を押し返す。以前の盾なら、今の一撃だけでも補強部分が傷んでいたかもしれない。新しい盾は、まるで損傷していなかった。その間にクラウスの詠唱が完了した。

 

《広域防護》!

 

淡い光が五人の周囲に広がる。

 

「発動しました!」

 

「ありがとう!」

 

ルシエラは周囲を確認し、いつでも回復できるよう備えた。クラウスの防護があれば、多少の攻撃を受けても被害を軽減できる。

 

一方、エイルとロディオは攻撃を続けられる。重装型の一体が、メルディアへ向かって腕を振り上げた。

 

「メルディア!」

 

エイルが反応する。

 

《庇護移動》!

 

エイルは重装型の脇を抜け、メルディアの前へ移動した。振り下ろされた腕を盾で受け流す。

 

「助かった!」

 

メルディアが杖を構え直す。

 

「こいつら、装甲がかなり厚いね」

 

「関節なら通る!」

 

ロディオが叫んだ。すでに重装型の側面へ回り込んでいる。魔導兵の視線がロディオを追う。その動きを利用して、ロディオが一気に背後へ踏み込んだ。

 

《死角歩法》!

 

身体を回そうとした魔導兵の肩へ、短剣を差し込む。

 

ガキッ!

 

金属部品が砕けた。

 

「……おお!」

 

ロディオは刃を引き抜く。新しい短剣には、傷一つついていない。魔導兵の片腕が動かなくなった。

 

「メルディア、今だ!」

 

「分かった!」

 

《魔力収束》!

 

新しい杖の先に魔力が集まる。いつもの《フレイムランス》よりも、魔力の流れを細く絞り込む。

 

「《フレイムランス》!」

 

炎の槍が重装型の肩へ突き刺さった。

 

ゴォンッ!

 

装甲の隙間から内部へ炎が入り、関節が大きく破損する。

 

「やった!」

 

だが、後方の射撃型が再び腕を持ち上げた。

 

「ロディオ、後ろ!」

 

ルシエラの声に、ロディオが横へ跳ぶ。

 

ドガァンッ!

 

魔力弾が床へ命中した。飛び散った石片がロディオの肩をかすめる。

 

「くっ!」

 

ロディオは着地し、そのまま距離を取った。防護のおかげか、傷は浅い。

 

「ロディオ、こっちへ!」

 

ルシエラが手をかざす。

 

《ヒール》。

 

傷が塞がる。

 

「ありがとう!」

 

ロディオはすぐに前へ戻った。エイルが重装型の注意を引いている間に、射撃型へ回り込む道を探す。だが、重装型のもう一体が通路を塞いでいた。

 

「このままだと、後ろのやつを止められないな」

 

ロディオが呟く。

 

「なら、まずこっちを倒す!」

 

エイルが剣を振るった。新しい片手剣が、重装型の膝の関節へ食い込む。

 

ガキンッ!

 

内部の部品が砕け、魔導兵が大きく体勢を崩した。

 

「メルディア!」

 

「任せて!」

 

再び《フレイムランス》が放たれる。胸元の装甲が破損し、内部の機構が露出した。さらに一撃。青白い光が消えた。一体目が床へ崩れ落ちる。重装型が一体減ったことで、通路に隙間ができた。

 

「今なら行ける!」

 

ロディオが駆け出した。残る重装型の注意がエイルへ向いている間に、射撃型の側面へ回り込む。

 

《死角歩法》!

 

魔導兵が腕を向け直そうとする。だが、その前にロディオの短剣が射撃用の筒を支える関節へ食い込んだ。

 

ガキッ!

 

腕の動きが止まる。ロディオは続けて反対側の腕も破壊した。

 

「これで撃てないだろ!」

 

射撃型は残った腕で殴りかかろうとした。しかし、接近戦ならロディオの方がはるかに速かった。背後へ回り込み、胸元の隙間へ短剣を差し込む。内部の機構が砕け、射撃型が停止した。

 

残る重装型も、エイルとメルディアが関節と胸部を狙い、ほどなく撃破した。三体の魔導兵が、通路に倒れた。

 

◇

 

クラウスが《広域防護》を解除した。エイルは新しい盾を確認する。何度も強い攻撃を受けたが、変形は見られない。

 

「……本当に丈夫だな、これ」

 

ロディオも短剣を鞘へ収めた。

 

「俺の方も問題なし。いいものが見つかってよかったよ」

 

メルディアは新しい杖を眺めていた。

 

《魔力収束》で魔力を集中させても、杖の先端は安定していた。

 

「この杖なら、もっと正確に狙えそう……」

 

メルディアは満足そうだった。一方、クラウスは先ほどの戦闘を振り返っていた。

 

《広域防護》は、発動後も効果を維持できた。

 

ただし、防護を使っていてもロディオは負傷している。その点はルシエラも確認していた。

 

「私の防御領域とは、使い方が違いますね」

 

「ええ。こちらは攻撃を完全に防ぐものではありませんから」

 

クラウスが答える。

 

「でも、戦いながら使えるのは大きいと思います」

 

「はい。これなら私も回復に集中できます」

 

新しい防御スキルの使い方について、二人の認識は少し深まっていた。

 

◇

 

戦闘を終えた五人は、通路の端で休息を取った。ロディオが地図に現在位置を書き加える。

 

「こっちの通路、かなり奥まで来たみたいだね」

 

「そうだな」

 

エイルはステータスを確認した。

 

「肉体Lv48か。ガーディアンも24になってる」

 

以前よりずいぶん上がっていた。だが、遺跡はまだ終わっていないらしい。

 

「奥に扉があるね」

 

メルディアが通路の先を指さした。重装魔導兵たちが守っていた場所だ。その先には、これまでとは違う巨大な扉が見えていた。エイルは皆の状態を確認した。大きな負傷はなく、装備にも問題はない。食料や照明にも余裕がある。

 

「入口だけでも調べてみようか」

 

ロディオが言った。

 

「そうだな。危険そうなら引き返そう」

 

五人は休息を終え、奥の扉へ向かった。

 

◇

 

扉は、今まで見てきたものとは造りが違っていた。分厚い金属板が何重にも重なり、周囲の壁には複雑な模様が刻まれている。ロディオが扉を調べる。

 

「……完全には閉まってないみたいだ」

 

片側に、わずかな隙間があった。エイルが手を貸し、二人で扉を押す。

 

ゴゴゴ……。

 

低い音とともに、扉が動き始めた。人が通れるだけの隙間ができる。ロディオが照明を掲げ、内部を確認した。

 

「……何だ、ここ」

 

扉の向こうには、これまでとはまったく違う空間が広がっていた。天井の高い広大な部屋。壁には何本もの太い管が伸び、床には用途の分からない金属製の装置が並んでいる。その一部には、今も青白い光が灯っていた。

 

「武器庫じゃない……」

 

メルディアが呟く。

 

「これ、何に使う装置なんだろう」

 

近くの装置には、魔導兵にも使われていたものと似た模様が刻まれていた。しかし、構造はまるで違っている。メルディアが装置へ近づこうとすると、ロディオが声をかけた。

 

「ちょっと待って。まだ奥を確認してない」

 

「あ、そうだった」

 

メルディアは足を止めた。ロディオが照明を奥へ向ける。

 

その時だった。

 

「……おい、みんな」

 

ロディオの声が少し変わった。

 

「奥に何かある」

 

五人が視線を向けた。部屋の奥に、巨大な円筒状の装置が立っていた。透明な壁に囲まれた、水槽のようなものだった。内部には淡い青緑色の液体が満たされ、何本もの管が接続されている。

 

そして。

 

その液体の中に、巨大な影が浮かんでいた。

 

「……え?」

 

ルシエラが小さく声を漏らした。人間よりもはるかに大きな身体。長い腕と脚。分厚い外皮に覆われた胴体。その表面には、硬い殻のようなものが幾重にも重なっている。

 

「……魔物?」

 

エイルが呟いた。

 

「こんなの、見たことないぞ」

 

ロディオが答える。メルディアは少し離れた場所から、水槽の中を観察していた。

 

「……これ、魔導兵じゃない」

 

身体の表面には、金属の継ぎ目も機械の部品も見当たらない。

 

「生き物……なのかな」

 

メルディアが呟く。クラウスは周囲の装置へ目を向けた。

 

「どうして、こんな場所に生き物が……」

 

ルシエラは水槽を見上げていた。

 

「……あの」

 

四人が振り返る。

 

「この子……生きているんでしょうか?」

 

誰も答えられなかった。五人が見つめる中、巨大な生物の胸元が、ほんのわずかに上下した。

 

「……今、動いた?」

 

ロディオが呟く。エイルは無言で剣の柄に手をかけた。透明な水槽の中で。巨大な生物は、静かに眠り続けていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。