『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』 作:深空 律
翌日。
五人は、再び冒険者ギルドの掲示板の前に集まっていた。
「これ」
メルディアが一枚の依頼書を指差した。
エイルが横から覗き込む。
「ゴブリン討伐?」
「昨日の林より少し北。街道近くで何度か目撃されてる」
「昨日の今日で、またゴブリンですか?」
ルシエラが言った。
ロディオが肩をすくめる。
「昨日よりいいだろ。どんな相手か分かってる」
「それはそうですけど」
クラウスも依頼書を見る。
「討伐数の指定はないようですね。見つけた群れを追い払うか、討伐してほしいという依頼です」
「危なくなったら戻れる」
メルディアが言う。
「昨日の反省も試せる」
エイルが頷いた。
「俺はこれでいい」
「俺も」
ロディオもすぐに答える。
クラウスがルシエラを見る。
「どうします?」
「私も大丈夫です」
全員の意見が揃った。
依頼を受け、街を出る。
昨日と違って、五人の歩く位置は最初から決まっていた。
先頭はロディオ。
少し後ろにエイル。
中央にルシエラとクラウス。
最後尾にメルディア。
「昨日と同じですね」
ルシエラが言う。
「昨日よりは理由が分かってる」
エイルが答えた。
「俺は前に出る。ロディオは先に見つける。メルディアは後ろから撃つ」
「僕とルシエラは、前に出すぎない」
クラウスが続ける。
「そういうこと」
「ちゃんと覚えてたんですね」
メルディアが言った。
「覚えてるよ」
「薬草は間違えてた」
「それは関係ないだろ」
昨日より会話も多かった。
目的地までは一時間ほど。
街道を外れ、低い丘と林が続く場所へ入る。
しばらく進んだところで、ロディオが足を止めた。
今度は誰も質問しなかった。
全員がその場で止まる。
ロディオが少し先を見る。
それから四人へ戻ってきた。
「いた」
エイルが小声で聞く。
「何体?」
「四体」
「昨日より一体多いな」
「でも、こっちは気づかれてない」
メルディアが杖を持つ。
「先に撃つ」
「昨日言ってたやつか」
「そう」
エイルが周囲を確認する。
「俺たちは?」
「当たったら向こうが来る。その時に前へ」
「分かった」
ロディオが言う。
「俺はエイルの右側。動く時は言う」
クラウスも頷く。
「こちらは後ろで待機します」
全員の視線がルシエラへ向いた。
「はい」
ルシエラも分かっていた。
「《光と闇の祝福》」
柔らかな光が広がる。
昨日と同じ感覚。
エイルが軽く肩を回した。
「やっぱり少し動きやすい」
「始める」
メルディアが杖を構えた。
茂みの向こう。
四体のゴブリンが固まっている。
まだこちらには気づいていない。
メルディアが狙いをつける。
「《ファイヤーボール》」
火球が飛んだ。
一体のゴブリンへ直撃する。
悲鳴が上がった。
「今!」
エイルが走り出す。
残ったゴブリンたちもこちらに気づいた。
三体が武器を手に走ってくる。
昨日なら、ここでエイルは全部を止めようとしていた。
今日は違った。
一番先に来た一体だけを見る。
棍棒が振られる。
エイルは横へ避けた。
そのまま剣を振る。
ゴブリンが後ろへ下がった。
二体目がエイルの横を抜けようとする。
「右、行く!」
ロディオの声。
「頼む!」
ロディオが二体目へ飛び込む。
短剣で進路を変えた。
三体目。
「メルディア!」
エイルが叫ぶ。
「見えてる」
杖が向く。
ロディオは射線に入っていない。
火球が飛ぶ。
三体目の胸に当たった。
「よし!」
昨日より、明らかに動きやすかった。
エイルが目の前の一体に集中する。
棍棒を避ける。
剣を振る。
今度は迷わない。
ゴブリンが倒れた。
横を見る。
ロディオも相手を引きつけている。
「エイル、空いた!」
「今行く!」
二人で一体を挟む。
ゴブリンがロディオを見る。
その間にエイルが踏み込んだ。
剣が当たる。
最後の一体が倒れた。
静かになった。
エイルは周囲を見回す。
「……終わり?」
「四体」
メルディアが数える。
最初に魔法を受けた一体も動いていない。
「終わり」
ロディオが短剣をしまった。
しばらくして、エイルが言った。
「昨日より楽だったな」
「かなり」
ロディオが答える。
クラウスも前へ出てくる。
「怪我は?」
「ない」
「俺も」
「メルディアとルシエラは?」
「大丈夫です」
「問題ない」
クラウスが安心したように息を吐いた。
ルシエラもほっとする。
「昨日は三体だったのに、今日は四体ですよね?」
「昨日は俺たちが下手だったんだろ」
ロディオが言った。
「下手って」
エイルが顔をしかめる。
「実際そうだった」
メルディアが言う。
「最初に一体減らせた。エイルが一体だけ止めた。ロディオが声を出した。射線も空いてた」
「全部昨日できなかったことだな」
クラウスが笑う。
エイルも少し笑った。
「じゃあ、ちゃんと上手くなってるってことか」
「一回分は」
「一言余計だな」
討伐した証明になる部位を回収し、五人は周辺を調べることにした。
依頼の内容は、街道周辺に出るゴブリンへの対処。
一群倒しただけで戻ってもいいが、近くに他の群れがいる可能性もある。
「少しだけ見て回る」
ロディオが言った。
「見つけても、数が多かったら戻る」
「それでいいと思います」
クラウスが答える。
一度戦ったことで、緊張も少し薄れていた。
そのまま林の縁を進む。
しばらく何もなかった。
「これならもういないんじゃないか?」
エイルが言った直後。
ロディオが止まった。
「いる」
「また?」
「今度は五体」
エイルが少し顔を引き締めた。
「五体か」
「一体、持ってる物が違う」
「何?」
「弓」
メルディアがロディオの横まで来る。
「場所は?」
「あっち」
木々の隙間から覗く。
五体のゴブリン。
四体は棍棒や短剣。
一体だけ、少し後ろに立って粗末な弓を持っていた。
エイルが小声で言う。
「どうする?」
「弓から倒す」
メルディアが即答した。
「狙える?」
「たぶん」
ロディオが首を振る。
「木が邪魔」
「じゃあ近づく?」
「向こうが先に気づくかも」
五人で少し考える。
昨日なら、この時点でもうかなり不安になっていただろう。
エイルが言う。
「一戦したばっかりだし、無理なら戻ってもいいぞ」
クラウスも頷く。
「五体で遠距離攻撃もありますからね」
ロディオはもう一度、相手を見る。
「でも、逃げるなら今。まだ気づかれてない」
ルシエラは四人を見る。
誰もすぐには決めなかった。
やがてメルディアが言う。
「弓がいること以外は、さっきと同じ」
「それが結構違うんじゃないか?」
エイルが聞く。
「だから先に考える」
メルディアは周囲を見る。
「エイルが前。ロディオは弓を狙う」
「俺が?」
「近づけるのはロディオが一番早い」
「まあ、それはそうだけど」
「私は前のゴブリンを撃つ。数を減らす」
クラウスが言う。
「弓がこちらを狙った場合は?」
少し間が空く。
ロディオが答えた。
「木を使う」
「それしかないか」
エイルが剣を抜いた。
「やってみる?」
全員が頷いた。
ルシエラも祝福を使う。
「《光と闇の祝福》」
光が広がった。
五人がそれぞれ位置につく。
メルディアが杖を上げる。
「行く」
《ファイヤーボール》。
火球が一体へ飛ぶ。
だが、今度はゴブリンが直前にこちらへ気づいた。
横へ動く。
火球は腕に当たっただけだった。
「倒れてない!」
エイルが叫ぶ。
ゴブリンたちが動き出す。
その後ろ。
弓を持ったゴブリンが矢をつがえた。
「来る!」
ロディオが叫んだ。
矢が飛ぶ。
エイルではない。
後ろにいるメルディアへ向かっていた。
「っ!」
メルディアが身を引く。
矢がすぐ横を抜け、地面へ刺さった。
ルシエラが息を呑む。
「メルディア!」
「大丈夫!」
その間に前のゴブリンたちが迫る。
エイルが二体の間へ入った。
「こっちは止める!」
「右行く!」
ロディオが走った。
前衛の一体を大きく回り込み、そのまま弓持ちへ向かう。
「ロディオ!」
エイルの正面から一体が抜ける。
ロディオを追おうとしていた。
「そっちは――」
エイルが動こうとする。
だが目の前にも敵がいる。
「私がやる」
メルディアが杖を向けた。
「《ファイヤーボール》!」
火球が、抜けた一体に当たる。
ゴブリンがよろめいた。
「エイル!」
クラウスの声。
正面。
棍棒。
エイルが剣で受ける。
「分かってる!」
今度は弾かれなかった。
足を踏ん張る。
押し返す。
昨日より力が入る。
エイルは棍棒を横へ弾き、そのまま剣を振った。
一体が倒れる。
その頃、ロディオは弓持ちへ近づいていた。
ゴブリンが次の矢をつがえる。
「遅い!」
ロディオが飛び込む。
弓を持つ腕へ短剣を当てる。
弓が落ちた。
「これで撃てない!」
だが、隣にいた別のゴブリンがロディオへ棍棒を振る。
「うわっ!」
ロディオが後ろへ跳ぶ。
完全には避けきれない。
棍棒が肩をかすめた。
「ロディオ!」
クラウスがそちらを見る。
「平気!」
「本当に?」
「ちょっと当たっただけ!」
クラウスは一瞬迷ったが、ロディオが動けているのを確認してエイルの方へ視線を戻す。
誰か一人だけを見ていてはいけない。
昨日より少しだけ、それが分かっていた。
メルディアが叫ぶ。
「ロディオ、左へ!」
「左!?」
「早く!」
ロディオが反射的に左へ飛ぶ。
直後。
その横を《ファイヤーボール》が通り抜けた。
ロディオを追っていたゴブリンへ直撃する。
「おお!」
「止まらないで!」
「分かってる!」
弓を落としたゴブリンへ向き直る。
ロディオが一気に間合いを詰めた。
一方、エイルも二体目を倒した。
残るのは、傷を負った一体と弓を失った一体。
数が減れば、もう慌てる必要はなかった。
エイルとメルディアが一体。
ロディオがもう一体。
間もなく、最後のゴブリンも倒れた。
「……今度こそ終わり?」
エイルが息を整えながら聞く。
ロディオが周囲を見る。
「五体いる」
「じゃあ終わりか」
クラウスがすぐロディオへ向かう。
「肩を見せてください」
「大したことないって」
「そう言って悪化したら困ります」
服をずらして確認する。
赤くなっているが、大きな傷にはなっていない。
「打撲ですね」
「ほら」
「治しておきます」
淡い光が肩を包む。
ロディオが腕を回した。
「お、楽になった」
ルシエラはメルディアへ駆け寄った。
「さっきの矢、大丈夫でした?」
「当たってない」
「本当に?」
「ほら」
メルディアは両腕を広げて見せる。
怪我はない。
「よかった……」
ルシエラは大きく息を吐いた。
エイルが近づいてくる。
「さっき、ちょっと焦ったな」
「弓」
メルディアが言った。
「あれがあるだけで違う」
「でも勝てた」
ロディオが答える。
「途中でちゃんと動き変えられたし」
クラウスも頷いた。
「最初に決めた通りではありませんでしたけどね」
「それでも何とかなった」
エイルは倒れたゴブリンたちを見る。
「昨日よりは、パーティーっぽくなったかな」
「昨日もパーティー」
メルディアが言う。
「そういう意味じゃない」
ルシエラが笑った。
「でも、ちょっと分かります」
昨日は全員、自分のことで精一杯だった。
今日は誰かが声を出せば、別の誰かが動いた。
上手くいかなかったところもある。
それでも、昨日とは違う。
ロディオが立ち上がる。
「これ以上は?」
クラウスがすぐ答えた。
「今日は帰りましょう」
「俺も賛成」
エイルが言った。
「二回戦ったしな」
メルディアも反対しなかった。
討伐証明を回収し、五人は街へ戻った。
冒険者ギルドで報告すると、受付の女性が数を確認する。
「九体ですか。初めての討伐依頼としては十分ですね」
「二回に分かれてました」
エイルが答える。
「怪我は?」
「少しだけ」
ロディオが肩を触る。
「もう治してもらいました」
「なら問題ありません。依頼達成です」
報酬を受け取る。
昨日より少し多い。
ロディオが硬貨を見て笑った。
「討伐の方が儲かるな」
クラウスが言う。
「危険も増えますけどね」
「それもそうか」
その時。
メルディアが自分の表示を開いた。
「上がった」
エイルが見る。
「何が?」
「レベル」
その言葉で、他の四人も確認する。
「あ、本当だ」
エイルも声を上げた。
肉体レベル。
職業レベル。
どちらも、また一つ上がっている。
ルシエラも自分の表示を見る。
《光と闇の聖女》の職業レベルが一つ上昇していた。
肉体レベルも同じ。
ステータスの数値も、それぞれ少しずつ上がっている。
「昨日も上がって、今日も上がった」
ロディオが言う。
「今日は九体倒したからじゃない?」
メルディアが答えた。
「昨日は三体」
「三倍だな」
エイルが言う。
「人数も相手も同じじゃないから、単純に三倍ではない」
「分かってるって」
クラウスは自分の表示を確認していた。
「低いレベルのうちは上がりやすいとも聞きますし、こんなものなのかもしれませんね」
「強くなるならいいじゃん」
ロディオが言う。
エイルも嬉しそうだった。
「次はもっと動けるかな」
メルディアが顔を上げる。
「レベルだけじゃなくて、今日の二戦目の方が大きいと思う」
「なんで?」
「予定と違うことが起きても、昨日みたいに全員止まらなかった」
ロディオが笑う。
「珍しく褒めた?」
「事実を言っただけ」
「それを褒めてるって言うんだよ」
ルシエラは自分の表示を閉じた。
昨日より今日。
最初の戦いより、二回目。
少しずつできることが増えている。
「次は、もっと上手くできるといいですね」
「できるだろ」
エイルが答える。
今度は、誰もその言葉を否定しなかった。