『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』   作:深空 律

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第4話 今度はもう少し上手く

翌日。

 

五人は、再び冒険者ギルドの掲示板の前に集まっていた。

 

「これ」

 

メルディアが一枚の依頼書を指差した。

 

エイルが横から覗き込む。

 

「ゴブリン討伐?」

 

「昨日の林より少し北。街道近くで何度か目撃されてる」

 

「昨日の今日で、またゴブリンですか?」

 

ルシエラが言った。

 

ロディオが肩をすくめる。

 

「昨日よりいいだろ。どんな相手か分かってる」

 

「それはそうですけど」

 

クラウスも依頼書を見る。

 

「討伐数の指定はないようですね。見つけた群れを追い払うか、討伐してほしいという依頼です」

 

「危なくなったら戻れる」

 

メルディアが言う。

 

「昨日の反省も試せる」

 

エイルが頷いた。

 

「俺はこれでいい」

 

「俺も」

 

ロディオもすぐに答える。

 

クラウスがルシエラを見る。

 

「どうします?」

 

「私も大丈夫です」

 

全員の意見が揃った。

 

依頼を受け、街を出る。

 

昨日と違って、五人の歩く位置は最初から決まっていた。

 

先頭はロディオ。

 

少し後ろにエイル。

 

中央にルシエラとクラウス。

 

最後尾にメルディア。

 

「昨日と同じですね」

 

ルシエラが言う。

 

「昨日よりは理由が分かってる」

 

エイルが答えた。

 

「俺は前に出る。ロディオは先に見つける。メルディアは後ろから撃つ」

 

「僕とルシエラは、前に出すぎない」

 

クラウスが続ける。

 

「そういうこと」

 

「ちゃんと覚えてたんですね」

 

メルディアが言った。

 

「覚えてるよ」

 

「薬草は間違えてた」

 

「それは関係ないだろ」

 

昨日より会話も多かった。

 

目的地までは一時間ほど。

 

街道を外れ、低い丘と林が続く場所へ入る。

 

しばらく進んだところで、ロディオが足を止めた。

 

今度は誰も質問しなかった。

 

全員がその場で止まる。

 

ロディオが少し先を見る。

 

それから四人へ戻ってきた。

 

「いた」

 

エイルが小声で聞く。

 

「何体?」

 

「四体」

 

「昨日より一体多いな」

 

「でも、こっちは気づかれてない」

 

メルディアが杖を持つ。

 

「先に撃つ」

 

「昨日言ってたやつか」

 

「そう」

 

エイルが周囲を確認する。

 

「俺たちは?」

 

「当たったら向こうが来る。その時に前へ」

 

「分かった」

 

ロディオが言う。

 

「俺はエイルの右側。動く時は言う」

 

クラウスも頷く。

 

「こちらは後ろで待機します」

 

全員の視線がルシエラへ向いた。

 

「はい」

 

ルシエラも分かっていた。

 

「《光と闇の祝福》」

 

柔らかな光が広がる。

 

昨日と同じ感覚。

 

エイルが軽く肩を回した。

 

「やっぱり少し動きやすい」

 

「始める」

 

メルディアが杖を構えた。

 

茂みの向こう。

 

四体のゴブリンが固まっている。

 

まだこちらには気づいていない。

 

メルディアが狙いをつける。

 

「《ファイヤーボール》」

 

火球が飛んだ。

 

一体のゴブリンへ直撃する。

 

悲鳴が上がった。

 

「今!」

 

エイルが走り出す。

 

残ったゴブリンたちもこちらに気づいた。

 

三体が武器を手に走ってくる。

 

昨日なら、ここでエイルは全部を止めようとしていた。

 

今日は違った。

 

一番先に来た一体だけを見る。

 

棍棒が振られる。

 

エイルは横へ避けた。

 

そのまま剣を振る。

 

ゴブリンが後ろへ下がった。

 

二体目がエイルの横を抜けようとする。

 

「右、行く!」

 

ロディオの声。

 

「頼む!」

 

ロディオが二体目へ飛び込む。

 

短剣で進路を変えた。

 

三体目。

 

「メルディア!」

 

エイルが叫ぶ。

 

「見えてる」

 

杖が向く。

 

ロディオは射線に入っていない。

 

火球が飛ぶ。

 

三体目の胸に当たった。

 

「よし!」

 

昨日より、明らかに動きやすかった。

 

エイルが目の前の一体に集中する。

 

棍棒を避ける。

 

剣を振る。

 

今度は迷わない。

 

ゴブリンが倒れた。

 

横を見る。

 

ロディオも相手を引きつけている。

 

「エイル、空いた!」

 

「今行く!」

 

二人で一体を挟む。

 

ゴブリンがロディオを見る。

 

その間にエイルが踏み込んだ。

 

剣が当たる。

 

最後の一体が倒れた。

 

静かになった。

 

エイルは周囲を見回す。

 

「……終わり?」

 

「四体」

 

メルディアが数える。

 

最初に魔法を受けた一体も動いていない。

 

「終わり」

 

ロディオが短剣をしまった。

 

しばらくして、エイルが言った。

 

「昨日より楽だったな」

 

「かなり」

 

ロディオが答える。

 

クラウスも前へ出てくる。

 

「怪我は?」

 

「ない」

 

「俺も」

 

「メルディアとルシエラは?」

 

「大丈夫です」

 

「問題ない」

 

クラウスが安心したように息を吐いた。

 

ルシエラもほっとする。

 

「昨日は三体だったのに、今日は四体ですよね?」

 

「昨日は俺たちが下手だったんだろ」

 

ロディオが言った。

 

「下手って」

 

エイルが顔をしかめる。

 

「実際そうだった」

 

メルディアが言う。

 

「最初に一体減らせた。エイルが一体だけ止めた。ロディオが声を出した。射線も空いてた」

 

「全部昨日できなかったことだな」

 

クラウスが笑う。

 

エイルも少し笑った。

 

「じゃあ、ちゃんと上手くなってるってことか」

 

「一回分は」

 

「一言余計だな」

 

討伐した証明になる部位を回収し、五人は周辺を調べることにした。

 

依頼の内容は、街道周辺に出るゴブリンへの対処。

 

一群倒しただけで戻ってもいいが、近くに他の群れがいる可能性もある。

 

「少しだけ見て回る」

 

ロディオが言った。

 

「見つけても、数が多かったら戻る」

 

「それでいいと思います」

 

クラウスが答える。

 

一度戦ったことで、緊張も少し薄れていた。

 

そのまま林の縁を進む。

 

しばらく何もなかった。

 

「これならもういないんじゃないか?」

 

エイルが言った直後。

 

ロディオが止まった。

 

「いる」

 

「また?」

 

「今度は五体」

 

エイルが少し顔を引き締めた。

 

「五体か」

 

「一体、持ってる物が違う」

 

「何?」

 

「弓」

 

メルディアがロディオの横まで来る。

 

「場所は?」

 

「あっち」

 

木々の隙間から覗く。

 

五体のゴブリン。

 

四体は棍棒や短剣。

 

一体だけ、少し後ろに立って粗末な弓を持っていた。

 

エイルが小声で言う。

 

「どうする?」

 

「弓から倒す」

 

メルディアが即答した。

 

「狙える?」

 

「たぶん」

 

ロディオが首を振る。

 

「木が邪魔」

 

「じゃあ近づく?」

 

「向こうが先に気づくかも」

 

五人で少し考える。

 

昨日なら、この時点でもうかなり不安になっていただろう。

 

エイルが言う。

 

「一戦したばっかりだし、無理なら戻ってもいいぞ」

 

クラウスも頷く。

 

「五体で遠距離攻撃もありますからね」

 

ロディオはもう一度、相手を見る。

 

「でも、逃げるなら今。まだ気づかれてない」

 

ルシエラは四人を見る。

 

誰もすぐには決めなかった。

 

やがてメルディアが言う。

 

「弓がいること以外は、さっきと同じ」

 

「それが結構違うんじゃないか?」

 

エイルが聞く。

 

「だから先に考える」

 

メルディアは周囲を見る。

 

「エイルが前。ロディオは弓を狙う」

 

「俺が?」

 

「近づけるのはロディオが一番早い」

 

「まあ、それはそうだけど」

 

「私は前のゴブリンを撃つ。数を減らす」

 

クラウスが言う。

 

「弓がこちらを狙った場合は?」

 

少し間が空く。

 

ロディオが答えた。

 

「木を使う」

 

「それしかないか」

 

エイルが剣を抜いた。

 

「やってみる?」

 

全員が頷いた。

 

ルシエラも祝福を使う。

 

「《光と闇の祝福》」

 

光が広がった。

 

五人がそれぞれ位置につく。

 

メルディアが杖を上げる。

 

「行く」

 

《ファイヤーボール》。

 

火球が一体へ飛ぶ。

 

だが、今度はゴブリンが直前にこちらへ気づいた。

 

横へ動く。

 

火球は腕に当たっただけだった。

 

「倒れてない!」

 

エイルが叫ぶ。

 

ゴブリンたちが動き出す。

 

その後ろ。

 

弓を持ったゴブリンが矢をつがえた。

 

「来る!」

 

ロディオが叫んだ。

 

矢が飛ぶ。

 

エイルではない。

 

後ろにいるメルディアへ向かっていた。

 

「っ!」

 

メルディアが身を引く。

 

矢がすぐ横を抜け、地面へ刺さった。

 

ルシエラが息を呑む。

 

「メルディア!」

 

「大丈夫!」

 

その間に前のゴブリンたちが迫る。

 

エイルが二体の間へ入った。

 

「こっちは止める!」

 

「右行く!」

 

ロディオが走った。

 

前衛の一体を大きく回り込み、そのまま弓持ちへ向かう。

 

「ロディオ!」

 

エイルの正面から一体が抜ける。

 

ロディオを追おうとしていた。

 

「そっちは――」

 

エイルが動こうとする。

 

だが目の前にも敵がいる。

 

「私がやる」

 

メルディアが杖を向けた。

 

「《ファイヤーボール》!」

 

火球が、抜けた一体に当たる。

 

ゴブリンがよろめいた。

 

「エイル!」

 

クラウスの声。

 

正面。

 

棍棒。

 

エイルが剣で受ける。

 

「分かってる!」

 

今度は弾かれなかった。

 

足を踏ん張る。

 

押し返す。

 

昨日より力が入る。

 

エイルは棍棒を横へ弾き、そのまま剣を振った。

 

一体が倒れる。

 

その頃、ロディオは弓持ちへ近づいていた。

 

ゴブリンが次の矢をつがえる。

 

「遅い!」

 

ロディオが飛び込む。

 

弓を持つ腕へ短剣を当てる。

 

弓が落ちた。

 

「これで撃てない!」

 

だが、隣にいた別のゴブリンがロディオへ棍棒を振る。

 

「うわっ!」

 

ロディオが後ろへ跳ぶ。

 

完全には避けきれない。

 

棍棒が肩をかすめた。

 

「ロディオ!」

 

クラウスがそちらを見る。

 

「平気!」

 

「本当に?」

 

「ちょっと当たっただけ!」

 

クラウスは一瞬迷ったが、ロディオが動けているのを確認してエイルの方へ視線を戻す。

 

誰か一人だけを見ていてはいけない。

 

昨日より少しだけ、それが分かっていた。

 

メルディアが叫ぶ。

 

「ロディオ、左へ!」

 

「左!?」

 

「早く!」

 

ロディオが反射的に左へ飛ぶ。

 

直後。

 

その横を《ファイヤーボール》が通り抜けた。

 

ロディオを追っていたゴブリンへ直撃する。

 

「おお!」

 

「止まらないで!」

 

「分かってる!」

 

弓を落としたゴブリンへ向き直る。

 

ロディオが一気に間合いを詰めた。

 

一方、エイルも二体目を倒した。

 

残るのは、傷を負った一体と弓を失った一体。

 

数が減れば、もう慌てる必要はなかった。

 

エイルとメルディアが一体。

 

ロディオがもう一体。

 

間もなく、最後のゴブリンも倒れた。

 

「……今度こそ終わり?」

 

エイルが息を整えながら聞く。

 

ロディオが周囲を見る。

 

「五体いる」

 

「じゃあ終わりか」

 

クラウスがすぐロディオへ向かう。

 

「肩を見せてください」

 

「大したことないって」

 

「そう言って悪化したら困ります」

 

服をずらして確認する。

 

赤くなっているが、大きな傷にはなっていない。

 

「打撲ですね」

 

「ほら」

 

「治しておきます」

 

淡い光が肩を包む。

 

ロディオが腕を回した。

 

「お、楽になった」

 

ルシエラはメルディアへ駆け寄った。

 

「さっきの矢、大丈夫でした?」

 

「当たってない」

 

「本当に?」

 

「ほら」

 

メルディアは両腕を広げて見せる。

 

怪我はない。

 

「よかった……」

 

ルシエラは大きく息を吐いた。

 

エイルが近づいてくる。

 

「さっき、ちょっと焦ったな」

 

「弓」

 

メルディアが言った。

 

「あれがあるだけで違う」

 

「でも勝てた」

 

ロディオが答える。

 

「途中でちゃんと動き変えられたし」

 

クラウスも頷いた。

 

「最初に決めた通りではありませんでしたけどね」

 

「それでも何とかなった」

 

エイルは倒れたゴブリンたちを見る。

 

「昨日よりは、パーティーっぽくなったかな」

 

「昨日もパーティー」

 

メルディアが言う。

 

「そういう意味じゃない」

 

ルシエラが笑った。

 

「でも、ちょっと分かります」

 

昨日は全員、自分のことで精一杯だった。

 

今日は誰かが声を出せば、別の誰かが動いた。

 

上手くいかなかったところもある。

 

それでも、昨日とは違う。

 

ロディオが立ち上がる。

 

「これ以上は?」

 

クラウスがすぐ答えた。

 

「今日は帰りましょう」

 

「俺も賛成」

 

エイルが言った。

 

「二回戦ったしな」

 

メルディアも反対しなかった。

 

討伐証明を回収し、五人は街へ戻った。

 

冒険者ギルドで報告すると、受付の女性が数を確認する。

 

「九体ですか。初めての討伐依頼としては十分ですね」

 

「二回に分かれてました」

 

エイルが答える。

 

「怪我は?」

 

「少しだけ」

 

ロディオが肩を触る。

 

「もう治してもらいました」

 

「なら問題ありません。依頼達成です」

 

報酬を受け取る。

 

昨日より少し多い。

 

ロディオが硬貨を見て笑った。

 

「討伐の方が儲かるな」

 

クラウスが言う。

 

「危険も増えますけどね」

 

「それもそうか」

 

その時。

 

メルディアが自分の表示を開いた。

 

「上がった」

 

エイルが見る。

 

「何が?」

 

「レベル」

 

その言葉で、他の四人も確認する。

 

「あ、本当だ」

 

エイルも声を上げた。

 

肉体レベル。

 

職業レベル。

 

どちらも、また一つ上がっている。

 

ルシエラも自分の表示を見る。

 

《光と闇の聖女》の職業レベルが一つ上昇していた。

 

肉体レベルも同じ。

 

ステータスの数値も、それぞれ少しずつ上がっている。

 

「昨日も上がって、今日も上がった」

 

ロディオが言う。

 

「今日は九体倒したからじゃない?」

 

メルディアが答えた。

 

「昨日は三体」

 

「三倍だな」

 

エイルが言う。

 

「人数も相手も同じじゃないから、単純に三倍ではない」

 

「分かってるって」

 

クラウスは自分の表示を確認していた。

 

「低いレベルのうちは上がりやすいとも聞きますし、こんなものなのかもしれませんね」

 

「強くなるならいいじゃん」

 

ロディオが言う。

 

エイルも嬉しそうだった。

 

「次はもっと動けるかな」

 

メルディアが顔を上げる。

 

「レベルだけじゃなくて、今日の二戦目の方が大きいと思う」

 

「なんで?」

 

「予定と違うことが起きても、昨日みたいに全員止まらなかった」

 

ロディオが笑う。

 

「珍しく褒めた?」

 

「事実を言っただけ」

 

「それを褒めてるって言うんだよ」

 

ルシエラは自分の表示を閉じた。

 

昨日より今日。

 

最初の戦いより、二回目。

 

少しずつできることが増えている。

 

「次は、もっと上手くできるといいですね」

 

「できるだろ」

 

エイルが答える。

 

今度は、誰もその言葉を否定しなかった。

 

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