『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』 作:深空 律
ロザリアは、倒れたディモスの胸に手を当てていた。
額の傷から流れる血が乾き始め、焼けた袖の下では腕がひりついていた。岩場に打ちつけた肩も痛む。それでもロザリアは、自分の傷を確かめるより先にディモスの生命反応を探した。
反応はない。あれほど頑丈だった肉体も、自ら放った《天地断砕》の熱と衝撃に耐えられなかったのだろう。
「……本当に、馬鹿な人ですね」
何度止めても聞かなかった。強い相手を前にすると、いつもこうだ。ロザリアは小さく息を吐き、杖を握り直した。
普通の回復魔法では、もう間に合わない。しかし、彼女にはまだ一つだけ手段が残されていた。
最高位蘇生魔法、《パーフェクトリザレクション》。
残されたSPのすべてを使う大魔法だった。
「帰ったら、今度こそ説教ですからね」
ロザリアはディモスの額へ手を伸ばし、静かに詠唱を始めた。足元に光の紋様が浮かび上がり、倒れた巨漢の身体を包み込んでいく。
少し離れた場所では、ロディオがその変化に気づいていた。
「……おい、あの魔族、何か始めたぞ」
エイルも顔を上げた。ロザリアの周囲には先ほどまでとは違う魔力が集まり、地面に複雑な紋様が広がっている。
「攻撃か?」
「分からない。でも、さっきまでとは魔力の流れが違う」
クラウスが警戒する中、ロザリアの詠唱は続いた。やがてディモスの身体から白い光が立ち上り、その輝きが急激に強まっていく。
「……おかしいですね」
ロザリアは眉を寄せた。
術式へ注いだ魔力が、予想を超える勢いで膨らんでいる。最高位の蘇生魔法とはいえ、これほどの反応は経験したことがない。
(……また、ですか)
先ほどの《アースアーマー》も異常だった。やはり、この山には何かあるのだろうか。
しかし、今は考えている余裕がなかった。
「《パーフェクトリザレクション》!」
ロザリアが魔法を完成させた瞬間、白い光が爆発するように広がった。
周囲の魔力が激しく乱れ、ロザリアは思わず杖を握りしめた。崩れた山道は眩い光に包まれ、近くにいたエイルたちも顔を背ける。
やがて光が弱まり、荒れ狂っていた魔力が少しずつ落ち着いていった。
ロザリアは、ディモスが倒れていた場所へ顔を向けた。
確かに人の気配がある。しかし、先ほどまでの巨漢とは比べものにならないほど小さかった。
「…………」
ロザリアはしばらく動かなかった。
「……誰?」
思わず、そんな言葉が口から漏れた。
◇
天界でも、二人の女神がその様子を見ていた。
「……あれ?」
フィルネラが観測画面へ顔を近づけた。
「今、蘇生魔法を使ったよね?」
「ええ。かなり高度な術式でしたが……」
オルディナは、地上で発生した魔力の反応を確認していた。
「……妙ですね」
「何が?」
「蘇生魔法にしては、発生した魔力が大きすぎます」
「そうなんだ。それで、ちゃんと生き返ったの?」
「今、確認を……」
オルディナが答えかけたところで、地上の光が収まった。
そこに映し出されたものを見て、二人の女神は同時に動きを止めた。
倒れていたはずの巨漢は、どこにもいなかった。
代わりに立っていたのは、長い緑色の髪を持つ小柄な少女だった。赤い瞳に、頭から伸びた赤黒い二本の角。魔族であることは分かるが、先ほどの大男とは似ても似つかない。
「……ねえ、オルディナ」
「……はい」
「さっき死んだのって、大きな男の魔族だったよね?」
「……そのはずです」
「じゃあ、あの子は?」
「……分かりません」
フィルネラはもう一度、先ほどの記録を確認した。
蘇生魔法の対象は、間違いなく倒れていた魔族だった。
「……まさか」
フィルネラの目が大きく開かれる。
「生き返ったら、女の子になっちゃったの?」
オルディナは返事ができなかった。
しばらくの沈黙。
そして。
「……ふふっ」
フィルネラの口元が緩んだ。
「……あははっ!」
とうとう笑い出した。
「何これ! どうしてこうなるの!」
「フィルネラ! 笑っている場合ですか!」
「だって、こんなの初めて見た!」
フィルネラは観測画面へ身を乗り出した。
これまでにも、ルシエラの祝福は予想を超える成長を見せていた。出力が急激に上昇することも、職業レベルが変わらないまま数値が大きく変動することもあった。
それでも、特殊職の力が成長していくこと自体は、フィルネラにとって不思議な話ではなかった。
しかし、今回は違う。
蘇生した魔族が、まったく別の姿になる。
そんなことは想像もしていなかった。
「面白い!」
フィルネラは目を輝かせた。
「ねえ、あの子、ちゃんと本人なのかな?」
「それを調べる必要がありますね」
「早く喋らないかなあ」
「フィルネラ、少し落ち着いてください!」
「だって、本人が自分の姿に気づいたら、どうするんだろう?」
フィルネラは楽しそうに笑った。
オルディナは深いため息をつきながらも、観測画面へ視線を戻した。
◇
「……むう」
小柄な少女が唸った。
声は随分と高くなっていたが、その言い方には聞き覚えがあった。ロザリアは思わず身を強ばらせた。
「……今、何と?」
「むう、と言った」
少女は自分の両腕を持ち上げ、手を握ったり開いたりしていた。
「……おかしいな。ずいぶん身体が軽い」
「……ディモス?」
「む?」
少女が顔を上げた。
「おお、ロザリア! 無事だったか!」
ロザリアは額に手を当てかけ、傷に触れる前に手を止めた。
声は違うが、魔力の気配も話し方も、間違いなくディモスだった。
「……本当に、ディモスなのですね?」
「何を言っている。俺以外の誰だと思った?」
「……それはこちらの台詞です」
ディモスは不思議そうに首を傾げたが、そこでふと何かを思い出したように顔を上げた。
「……そういえば、ロザリア」
「何ですか?」
「俺は確か、あの一撃の衝撃に巻き込まれて倒れたはずだが……」
ディモスは自分の胸に手を当てた。
「……死んだのか?」
「……ええ。一度、亡くなりました」
「そうか」
ディモスは静かに頷いた。
「お前が蘇生してくれたのだな。助かったぞ、ロザリア!」
「……本当に、心配したんですよ」
「すまんな。少々やりすぎた」
「少々どころではありません!」
ロザリアは思わず肩を押さえた。その仕草を見たディモスが、ようやく彼女の額の傷と焼け焦げた袖に気づく。
「……お前も、あの衝撃を受けたのか?」
「ええ。障壁を張っていても、これです」
ディモスはしばらくロザリアを見つめた。
「……それは、すまなかった」
「本当に、次はやめてくださいね」
「うむ。次からは気をつけよう」
「……本当にお願いしますね」
ようやく反省してくれたのだろうか。
ロザリアがそう思ったところで、ディモスは再び自分の手を見下ろした。
「……ところで」
「はい?」
「俺の身体は、どうなった?」
ロザリアは痛む額を気にしながら、呆れた声で答えた。
「……ようやく気づきましたか」
ディモスは改めて周囲を見回した。
視線が低い。
手が小さい。
腕も脚も細くなっており、足元には以前の体格に合わせて作られた防具の部品が散らばっている。
「……むう」
ディモスはしばらく自分の身体を眺めていた。
「……ロザリア」
「はい」
「これは、どういうことだ?」
「それを私が聞きたいんです!」
ロザリアは傷に触れないよう、こめかみに指を当てた。
蘇生には成功した。生命反応も戻っているし、魔力の気配もディモス本人のものだ。
しかし、肉体だけが以前とはまるで違っていた。
「……なぜ、こんなことに」
ロザリアが考え込んでいる間に、ディモスは自分の長い髪をつまんでいた。
「……髪まで伸びておる」
「そうですね」
「戦う時には少々邪魔だな。結んでおく必要がある」
「……そこですか?」
「む?」
「他に気になることはないんですか!」
ディモスは少し考えた。
「……あるぞ」
「何ですか?」
「俺の戦斧はどこだ?」
ロザリアは何も言わず、しばらくその場に立っていた。
「……あなたという人は」
「大事な武器だからな。どこかへ飛んでいってしまったのなら探さねばならん」
「今は武器の心配をしている場合ではありません!」
「何を言う。身体が変わったのなら、なおさら武器との相性を確かめねばならんだろう」
ディモスは周囲を見回した。
崩れた岩場の向こうに、見覚えのある巨大な戦斧が転がっている。
「おお! あったぞ!」
嬉しそうに歩き出すディモスを、ロザリアが慌てて呼び止めた。
「待ってください! まず、その格好を何とかしてください!」
ディモスは足を止め、余った袖を持ち上げた。
「……確かに、このままでは動きにくいな」
「そうでしょう!」
「帰ったら防具を作り直すか」
「ええ。それがいいと思います」
ロザリアは少しだけ安心した。
ようやく、まともな判断をしてくれた。
そう思った直後だった。
「では、まず戦斧を試すとしよう!」
「どうしてそうなるんですか!」
結局、ディモスはロザリアの制止を聞かず、戦斧の方へ歩いていった。
少し離れた場所では、エイルたちもその様子を見ていた。
「……変身したのか?」
ロディオが首を傾げる。
「でも、さっき死んでたよな?」
エイルも答えに困っていた。
その時、少女の声が響いた。
「この身体でも、戦斧が扱えるか確かめねばならん!」
ロディオがぴたりと動きを止めた。
「……あの喋り方」
「……あいつだな」
エイルが答える。
「……だな」
二人はもう一度、少女を見た。
ディモスは巨大な戦斧の柄を握っていた。
「……むっ!」
両手に力を込める。
巨大な刃が、ゆっくりと持ち上がっていった。
少女の身体には明らかに不釣り合いな大きさだったが、戦斧は確かに地面を離れている。
「おお! 持てるではないか!」
本人が一番嬉しそうだった。
「ちょっと待ってください!」
ロザリアは肩の痛みをこらえながら駆け寄った。
「何をするつもりですか!」
「試しに振ってみようと思ってな」
「こんなところで振らないでください!」
「心配するな。加減はする」
「その言葉は、もう信用しません!」
ディモスは不満そうに眉を寄せた。
「何故だ?」
「あなたが加減しなかった結果、どうなったと思っているんですか!」
「……むう」
ディモスは少し考えた。
「確かに、先ほどはやりすぎた」
「ようやく反省しましたか!」
「次は衝撃の広がりも計算に入れねばな」
「次を考えないでください!」
ロザリアの声が、崩れた山道に響いた。
ロディオは思わず吹き出しかけた。
ディモスは戦斧を持ち直し、以前と同じ構えを取ろうとしている。しかし、柄が長すぎてうまくいかない。足の位置を変え、握る場所をずらしながら、真剣な顔で試していた。
「……ふむ。これは少々工夫が必要だな」
「ディモス!」
ロザリアの声に、ディモスはようやく手を止めた。
「……分かった。今はやめておこう」
「最初からそうしてください」
ロザリアは深いため息をついた。
それから、ようやく周囲へ顔を向ける。
エイルたち五人が、こちらを見ていた。
先ほどまで戦っていた相手だ。当然、警戒されても仕方がない。
しかし、その中の一人が、ゆっくりと歩み出た。
ルシエラだった。
「あの……」
ロザリアが顔を向ける。
「はい?」
「今の、蘇生魔法ですよね?」
「……ええ。そうです」
ルシエラは、グランの方を見た。
「だったら……グランも、生き返らせてもらえませんか?」
ロザリアは言葉に詰まった。
自分がディモスを失っていた間、彼女たちも大切な仲間を失っていたのだ。
ロザリアは静かに首を振った。
「……申し訳ありません」
「……駄目、ですか?」
「今の魔法で、残っていたSPをすべて使ってしまいました。もう一度使うことはできません」
ルシエラは、しばらく黙っていた。
「……そう、ですか」
メルディアも、その言葉を聞いていた。
ロザリアは二人へ顔を向けた。
「……お力になれなくて、ごめんなさい」
ロザリアの言葉に、敵意はなかった。
ルシエラは小さく首を振った。
「……いえ。ありがとうございました」
それ以上、何も言わなかった。
短い沈黙の後、ディモスが口を開いた。
「……そういえば」
ロザリアが嫌な予感を覚えて振り返る。
「今度は何ですか?」
ディモスは、ルシエラたちを見ていた。
「お前たち、名は何という?」
エイルが眉を寄せる。
「……名前?」
「うむ。あれほどの巨人と行動を共にしていた者たちだ。名ぐらい聞いておきたい」
ディモスは胸を張った。
「俺はディモスだ!」
「……先ほどから何度も呼んでいましたけどね」
ロザリアが小さく呟いた。
「む? そうだったか」
「そうですよ」
エイルは少し迷ってから答えた。
「……エイルだ」
それから、仲間たちを示す。
「ルシエラ、クラウス、ロディオ。それと、メルディア」
「……メルディア」
ディモスは、彼女に目を向けた。
「お前が、あの巨人を連れていたのか」
メルディアが頷く。
「……うん。グランっていうの」
「グランか」
ディモスはゆっくりと頷いた。
「実に見事な戦士だった。あれほどの相手と戦えたこと、忘れんぞ」
メルディアは少し驚いた顔をしたが、何も言わなかった。
その隣で、ルシエラがロザリアへ尋ねた。
「……あなたのお名前は?」
「ロザリアと申します」
「ロザリアさん、ですね」
「はい」
ルシエラは小さく頭を下げた。
ロザリアも、静かに頭を下げ返した。
その様子を見ていたディモスが、満足そうに腕を組む。
「うむ! これで次に会っても名前で呼べるな!」
「……次?」
ロディオが反応した。
「また会うつもりなのかよ」
「当然だ! せっかく知り合ったのだからな!」
「いや、そういう問題じゃ……」
「ディモス!」
ロザリアが割って入った。
「まさか、また戦うつもりではないでしょうね?」
「む? 戦う機会があれば――」
「ありません!」
「……まだ最後まで言っておらんぞ」
「言わなくても分かります!」
ロザリアはディモスの腕をつかんだ。痛めた肩に力が入り、思わず顔をしかめたが、その手は離さなかった。
「もう帰ります!」
「しかし、まだ身体の具合を確かめたいのだが」
「帰ってから確かめてください!」
「……むう」
ディモスは不満そうだったが、今度は素直に従った。
ロザリアは懐から小さな魔道具を取り出した。出発前に準備していた帰還用の道具だった。
「少し離れていてください」
エイルたちへそう告げると、魔道具を起動する。
二人の足元に淡い光が広がった。
ディモスは巨大な戦斧を異空間へ収納し、ロザリアの隣に立った。
「……これでよいか?」
「ええ。ようやく帰れますね」
「しかし、この身体でどこまで戦えるか、早く確かめたいものだな」
「……帰ったら、まず診察です」
「むう」
魔道具の光が強まる。
ロザリアは最後に、ルシエラたちへ顔を向けた。
「……では、失礼します」
「……はい」
ルシエラが答える。
ディモスも片手を上げた。
「さらばだ! エイル、メルディア、それに皆の者!」
「……皆の者って」
ロディオが呟いたが、もうディモスには聞こえていなかった。
二人の姿が光に包まれ、次の瞬間、消え去った。
崩れた山道には、再び静けさが戻った。
エイルは二人が消えた場所をしばらく見つめていたが、やがて仲間たちへ向き直った。
戦いは、ようやく終わったのだ。
それとともに、ルシエラの《光と闇の祝福》も静かに効力を失っていた。
◇
天界では、フィルネラがまだ楽しそうにしていた。
「……ふふっ。面白かったなあ」
オルディナは観測記録を確認しながら、深いため息をつく。
「面白いで済ませないでください。あれは明らかに異常です」
「分かってるよ。でも、あんなの初めて見たんだもん」
フィルネラは上機嫌だった。
「大きな魔族が生き返ったら女の子になって、本人は戦斧の心配ばっかりしてるんだよ?」
「……確かに、理解できないことばかりでしたが」
「でしょ?」
フィルネラは嬉しそうに笑った。
オルディナは再び観測記録へ目を戻した。
ルシエラの祝福は交戦の終結とともに解除されていたが、それまでの出力の変化は依然として常識外れだった。
「……こちらも、引き続き調査が必要ですね」
観測記録には、祝福が解除される直前までの推移が残っていた。
オルディナは数字を追っていたが、あるところで手を止めた。
「……千八百倍?」
「えっ?」
「解除直前の祝福出力です。千八百倍前後まで上昇しています」
フィルネラが隣から覗き込む。
「わあ。さっきは千倍くらいだったのに、また上がったんだね」
「それだけではありません。職業レベルも六十三になっています」
「六十三?」
「ええ。先ほど確認した時には、四十八だったはずですが……」
オルディナはもう一度記録を確認した。
短い間に職業レベルが大きく上昇し、祝福の出力もさらに増加している。
ただし、以前から確認されているように、出力は職業レベルの変化だけでは説明できないほど激しく変動していた。
「……本当に、どうなっているのでしょう」
オルディナが呟く横で、フィルネラは満足そうに頷いた。
「ルシエラもすごく成長したね」
「あのですね、フィルネラ。これは普通の成長速度では――」
「あの子にあの職業をあげて、よかったなあ」
オルディナは呆れたように彼女を見た。
「……あなたは本当に、呑気ですね」
「そうかな?」
「そうです!」
フィルネラは笑った。
それから、ふと思い出したように顔を上げる。
「……あ、そうだ」
「何ですか?」
「さっきの魔族、ちょっと調べてみようかな」
「……調べる?」
「うん。せっかくだし、どうしてあんな姿になったのか気になるから」
フィルネラは魔族の魂に関する記録を呼び出した。
先ほど蘇生した魔族の情報を探し、その履歴を開く。
ディモス。
魂の状態は正常だった。蘇生後の肉体との結びつきにも、特に問題は見当たらない。
「……やっぱり本人なんだね」
フィルネラは感心したように呟いた。
しかし、姿が変わった理由までは分からない。蘇生魔法の記録を見ても、術式が別の人物を対象にしたわけではなかった。
「……変だなあ」
さらに古い履歴を開いたところで、フィルネラの指が止まった。
「……ん?」
そこには、見覚えのある姿が記されていた。
長い緑色の髪。赤い瞳と、二本の角。
先ほど蘇生した少女と、まったく同じ姿だった。
「……あれ?」
フィルネラは現在の記録と古い履歴を見比べた。
もう一度確認する。
「……えっ!」
思わず身を乗り出した。
「……あはっ! 見つけた!」
「何をですか?」
オルディナが顔を上げる。
「これ見て!」
フィルネラは記録を指さした。
「……これは?」
「ディモスの魂の、前世の記録!」
「……前世?」
「うん! さっき生き返った姿と同じなの!」
オルディナも記録を覗き込んだ。
前世の姿と、蘇生後の肉体。
確かに一致していた。
「…………え?」
オルディナはしばらく言葉を失った。
「……ちょっと待ってください。それでは、あの魔族は……」
「うん!」
フィルネラは満面の笑みを浮かべた。
「前世の姿で生き返っちゃったんだ!」
「……そんな蘇生魔法、聞いたことがありません!」
「私も!」
フィルネラは声を上げて笑った。
「普通は死ぬ前の身体に戻るはずなのにね。どうして前世になっちゃったんだろう!」
「それを調べなければならないんでしょう!」
「そうだね。でも、すごい発見だよ!」
フィルネラはもう一度、ディモスの記録を眺めた。
あれほど筋骨隆々だった魔族が、今は前世の少女の姿で歩き回っている。しかも本人は何も知らず、あの大きな戦斧を振ろうとしていた。
「……ふふっ」
フィルネラは再び笑い出した。
「何がおかしいんですか?」
「だって、前世があんな可愛い女の子だったなんて、本人も知らないんだよね?」
「……おそらくは」
「それなのに、今度はあの身体で戦おうとしてるんだよ!」
オルディナは頭を抱えた。
「……本当に、あなたという方は」
「だって、面白いんだもん!」
フィルネラは楽しそうに笑った。
神である自分にも、こんな出来事が起こるとは予想できなかった。
「……ふふっ。こんなことまで起きるんだね」
フィルネラは、もう一度ディモスの記録を見た。
「やっぱり、面白いなあ!」
オルディナは、その言葉に返事をしなかった。
前世の姿で蘇生したという事実は分かった。しかし、なぜその姿が選ばれたのかは、二人にも説明できない。
そして、その異常な蘇生にルシエラの祝福が関わっていたことも、まだ知らなかった。
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