『味方全員を最強にする聖女、敵まで強化していたことが判明しました』   作:深空 律

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第6話 確かめてみよう

翌日。

 

五人は冒険者ギルドの裏手にある訓練場へ来ていた。

 

「それで、何するんだ?」

 

ロディオが並んだ木製の訓練標的を見ながら聞く。

 

メルディアは杖を片手に答えた。

 

「昨日分からなかったことを調べる」

 

「《絶対防御領域》?」

 

ルシエラが聞く。

 

「それも。あと《光と闇の祝福》」

 

「祝福も?」

 

エイルが首を傾げた。

 

今まで何度も使っている。

 

少し身体が軽くなって、力も出しやすくなる。

 

そういうスキルだと思っていた。

 

「昨日、後半は明らかに動きやすかった」

 

メルディアが言う。

 

「レベルが二つ上がってたから、それが一番大きいと思う。でも、ルシエラの職業レベルも上がってる」

 

「職業レベルが上がれば、スキルも強くなる」

 

クラウスが頷いた。

 

「そういうことですね」

 

「だから確認する」

 

メルディアは木製の標的を指した。

 

「まず私の《ファイヤーボール》。祝福なしで撃つ」

 

「壊していいの?」

 

ルシエラが心配そうに聞く。

 

「訓練用だから大丈夫。壊したら弁償だけど」

 

「えっ」

 

「たぶん壊れない」

 

「たぶんなんですね……」

 

メルディアは気にせず、標的から距離を取った。

 

杖を構える。

 

「《ファイヤーボール》」

 

火球が飛び、木製の標的へぶつかった。

 

炎が弾ける。

 

火が消えたあとには、標的の表面に黒い焦げ跡が残っていた。

 

「これが今の私の普通」

 

メルディアが振り返る。

 

「次、祝福」

 

「はい」

 

ルシエラが杖を握る。

 

「《光と闇の祝福》」

 

淡い光が広がる。

 

エイルは昨日までより、少し身体が軽く感じた。

 

気のせいかと思ったが、ロディオも自分の腕を動かしている。

 

「前より効いてない?」

 

「俺もそんな感じする」

 

メルディアは別の標的へ杖を向けた。

 

「同じように撃つ」

 

「《ファイヤーボール》」

 

火球が飛ぶ。

 

今度は、着弾した瞬間の炎が明らかに大きかった。

 

ぼん、と低い音が響き、標的が揺れる。

 

炎が消える。

 

先ほどより広い範囲が黒く焦げていた。

 

ロディオが二つの標的を見比べる。

 

「全然違うな」

 

「うん」

 

メルディアも近づいて確認する。

 

「前より祝福が強くなってる」

 

ルシエラが自分の杖を見る。

 

「職業レベルが上がったから?」

 

「たぶん」

 

メルディアが答えた。

 

「普通のスキルと同じなら、職業レベルが上がった影響だと思う」

 

「じゃあ、私もちゃんと成長してるんですね」

 

ルシエラは嬉しそうだった。

 

「みんなをもっと強くできるなら、よかったです」

 

エイルも頷いた。

 

昨日の戦闘で後半が楽になった理由も、それなら分かりやすい。

 

自分たち自身のレベルが上がった。

 

ルシエラの祝福も強くなった。

 

両方が重なったのだろう。

 

「次」

 

メルディアが言った。

 

視線がルシエラへ向く。

 

「《絶対防御領域》」

 

「はい」

 

「昨日の攻撃、本当に全然痛くなかった?」

 

「全然です」

 

「衝撃は?」

 

「えっと……」

 

ルシエラは少し考えた。

 

「当たったのは分かりました。でも、痛くなかったです」

 

「もう一回試す?」

 

メルディアが聞いた。

 

「駄目です」

 

クラウスが即答した。

 

「まだ何もしてない」

 

「昨日言いましたよね」

 

「聞いただけ」

 

「ルシエラさんを標的にするのは禁止です」

 

「分かった」

 

メルディアはあっさり引いた。

 

ロディオが少し意外そうな顔をする。

 

「珍しく素直だな」

 

「別の方法があるから」

 

メルディアは訓練場の隅に置かれていた古い木製標的を指差した。

 

「これ使う」

 

クラウスもそれなら異論はないようだった。

 

標的を運び、ルシエラのすぐ近くに置く。

 

「ルシエラ、《絶対防御領域》」

 

「はい」

 

ルシエラが集中する。

 

「《絶対防御領域》」

 

白い光が淡く広がった。

 

昨日見たものと同じだった。

 

メルディアは少し距離を取る。

 

「撃つ」

 

ルシエラが慌てる。

 

「私も近くにいますけど!?」

 

「標的を狙う」

 

「そういう問題でしょうか!?」

 

「私も少し離れた方がいいと思います」

 

クラウスに言われ、ルシエラは何歩か下がろうとした。

 

「待って」

 

メルディアが止める。

 

「ルシエラが離れたら条件が変わる」

 

「じゃあ私ここなんですか!?」

 

「大丈夫。ちゃんと外す」

 

「その言い方が怖いです!」

 

エイルが苦笑する。

 

「メルディア、本当に外すなよ」

 

「標的に当てる」

 

「そっちじゃなくて」

 

メルディアは杖を構えた。

 

「《ファイヤーボール》」

 

火球が飛ぶ。

 

標的へ直撃した。

 

炎が広がる。

 

ルシエラが思わず目を閉じた。

 

やがて炎が消える。

 

「……あれ?」

 

エイルが標的へ近づいた。

 

焦げていない。

 

さっき二つの標的を黒くした魔法が直撃したのに、木の表面には傷一つなかった。

 

ロディオも横から覗き込む。

 

「本当に何ともなってない」

 

メルディアが指で表面を触る。

 

「熱くもない」

 

「人だけじゃないんですね」

 

クラウスが言った。

 

ルシエラも標的を見ている。

 

「物も守れるんだ……」

 

「みたい」

 

メルディアは標的を掴んだ。

 

「次、もう少し離す」

 

数歩離れた場所へ移動させる。

 

もう一度。

 

「《ファイヤーボール》」

 

炎が弾けた。

 

消えたあとも、標的は無傷だった。

 

「まだ効いてる」

 

さらに離す。

 

もう一度撃つ。

 

無傷。

 

さらに離す。

 

「《ファイヤーボール》」

 

今度は、標的の表面が黒く焦げた。

 

「あ」

 

ルシエラが声を上げた。

 

メルディアが標的へ近づく。

 

さっきまでとは違い、きちんと火の跡が残っている。

 

「ここだと普通に当たる」

 

ロディオがルシエラと標的の距離を見比べる。

 

「じゃあ、ずっとどこまでも守れるわけじゃないんだな」

 

「《領域》だから、範囲があるんだと思う」

 

メルディアが答えた。

 

クラウスも頷く。

 

「十分強力ですけどね」

 

「オークの一撃を受けて無傷ですからね……」

 

エイルが言う。

 

ルシエラは自分の周囲を見回した。

 

目には何も見えない。

 

けれど、この辺りまでなら守れるらしい。

 

「じゃあ、危ない時はみんなに近くにいてもらえばいいんでしょうか」

 

「たぶん、それが一番分かりやすい使い方」

 

メルディアが答える。

 

それ以上は、今の試し方では分からなかった。

 

どれくらい強い攻撃まで防げるのか。

 

どんなものまで守れるのか。

 

細かく調べようとすれば、いくらでも調べられそうだった。

 

だが、今分かっただけでも実戦では十分役に立つ。

 

「よし」

 

エイルが言った。

 

「今日はこれくらいにしよう。訓練標的もこれ以上焦がしたら怒られそうだし」

 

全員が、最初にメルディアが焦がした標的を見る。

 

「……弁償?」

 

ルシエラが聞く。

 

「訓練用だから大丈夫」

 

メルディアが答える。

 

「さっきは弁償って言ってなかった?」

 

ロディオが言った。

 

「壊したら」

 

「焦がすのは?」

 

「たぶん大丈夫」

 

「またたぶんかよ」

 

その日の午後。

 

五人は再び依頼掲示板の前に立っていた。

 

「あ」

 

ロディオが一枚の依頼書を見つける。

 

「またオーク」

 

エイルが見る。

 

東の森とは別の場所。

 

街道近くで三体が目撃されている。

 

「三体か」

 

昨日と同じ数だった。

 

クラウスが少し考える。

 

「昨日戦ったばかりですし、相手としては分かりやすいですね」

 

「今度は最初から三体でも?」

 

ルシエラが少し心配そうに聞く。

 

「油断はしない」

 

エイルが答える。

 

「でも昨日よりは戦えると思う」

 

メルディアも依頼書を見る。

 

「ちょうどいい」

 

「何が?」

 

「本当に強くなったか分かる」

 

ロディオが笑った。

 

「結局また実験じゃん」

 

「依頼」

 

「はいはい」

 

五人は依頼を受けた。

 

街道から少し外れた林で、目的のオークはすぐに見つかった。

 

三体。

 

どれも昨日の相手と大きさはそれほど変わらない。

 

手にしているのも、同じような棍棒だった。

 

エイルは剣を抜く。

 

「行こう」

 

「《光と闇の祝福》」

 

淡い光が広がる。

 

オークたちがこちらへ気づいた。

 

一体が棍棒を振り上げ、突っ込んでくる。

 

エイルが前へ出た。

 

昨日と同じような振り下ろし。

 

剣で受ける。

 

衝撃が腕へ伝わる。

 

重い。

 

だが。

 

エイルは一歩下がっただけで耐えた。

 

「いける!」

 

その横をロディオが抜ける。

 

二体目がロディオへ棍棒を振る。

 

「遅い!」

 

身体を沈めて避け、そのまま脇を駆け抜けた。

 

「メルディア!」

 

「見えてる」

 

杖が向く。

 

「《ファイヤーボール》!」

 

火球が一体へ直撃した。

 

オークが大きくよろめく。

 

昨日の最初の一体と戦ったときとは違う。

 

一発一発が、きちんと効いている。

 

「エイル、そっち!」

 

クラウスの声。

 

三体目が横から近づいていた。

 

エイルが向きを変える。

 

棍棒を避け、腕へ剣を入れる。

 

今度は浅くない。

 

オークが吠えた。

 

「通る!」

 

「昨日よりずっとね」

 

メルディアが次の魔法を準備する。

 

ロディオが一体を引きつける。

 

エイルがもう一体を押さえる。

 

ルシエラは後方で全員を見る。

 

昨日のように、誰かが一撃で吹き飛ばされることはない。

 

「こっちは大丈夫!」

 

ロディオが叫ぶ。

 

「エイル!」

 

「分かってる!」

 

棍棒を避ける。

 

踏み込む。

 

剣を振るう。

 

一体目が倒れた。

 

残り二体。

 

昨日なら、ここからも必死だった。

 

だが今日は違った。

 

相手の動きが見える。

 

攻撃を受けられる。

 

こちらの攻撃も通る。

 

メルディアの魔法が一体の動きを止め、その隙にロディオが脚を狙う。

 

体勢を崩したところへエイルが入る。

 

二体目。

 

そして最後の一体。

 

三人で囲み、焦らず攻撃を重ねる。

 

しばらくして、最後のオークも地面へ倒れた。

 

エイルは息を吐いた。

 

「……終わった」

 

ロディオが短剣をしまう。

 

「昨日と全然違うな」

 

「うん」

 

エイルもそう思った。

 

同じ三体。

 

相手の大きさも武器も、昨日と大きくは変わらない。

 

それなのに今日は、最初から戦えた。

 

ルシエラが嬉しそうに駆け寄ってくる。

 

「みんな、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫」

 

「怪我もほとんどありませんね」

 

クラウスが確認する。

 

擦り傷程度はある。

 

だが、治療が必要なほどの怪我は誰にもなかった。

 

メルディアが自分の状態を確認する。

 

少しして、エイルも見る。

 

「今回は上がってないな」

 

「私も」

 

ロディオが肩をすくめる。

 

「昨日みたいに毎回二つ上がったら楽なんだけどな」

 

「そんなに都合よくはいかないんじゃない?」

 

メルディアが言った。

 

「まあ、そうか」

 

エイルは倒れたオークを見る。

 

昨日は、最初の一体を倒すだけで必死だった。

 

今日は三体を相手にして、大きな怪我もない。

 

「強くなったんだな、俺たち」

 

エイルが言うと、ロディオが笑った。

 

「ようやく冒険者っぽくなってきた?」

 

「まだ始めたばかりですよ」

 

クラウスが言う。

 

「そこはもうちょっと乗ってくれてもよくない?」

 

「油断すると昨日みたいになりますから」

 

「それ言われると何も言えないな」

 

ルシエラが笑う。

 

その手には、いつもの杖が握られていた。

 

職業レベルが上がって、《光と闇の祝福》も前より強くなった。

 

《絶対防御領域》も、思っていた以上に頼りになる。

 

自分の力で、みんなをもっと助けられる。

 

そう思うと嬉しかった。

 

「次も頑張りましょう」

 

ルシエラが言う。

 

「おう」

 

エイルが答える。

 

五人は討伐の証明を回収し、町へ戻った。

 

昨日まで苦戦していた相手と、今日はきちんと戦えた。

 

それは五人にとって、十分に分かりやすい成長だった。

 

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