ところで、みんな。
単行本の【デッドプール:SAMURAI】の第1巻は持ってる?
単行本を置いて、机の上に置いてみて?
で、後ろのページからパラパラっと漫画をめくって……からの、表紙をドン!
「OK、それじゃあ最初から説明しよう。」
彼女の名前は「
科学館で放射性の蜘蛛に噛まれて、今まで2年間。
日本でただひとりのスパイダーガールだ。
……日本の主要都市で科学館って言ったら、東京都の国立科学博物館と日本未来科学館のふたつが有名だと思うんだけど、ぶっちゃけ彼女が言った科学館ってどこなんだろうな?
ねいろちゃんのコンサートが日本武道館で開催されたと仮定するなら。
たぶん距離が近い国立科学博物館が聖地だと……えっ、そういう話はあとでいい?
もちろん、彼女の活躍は知っているよね?
日本のHENTAI同人誌かな?
見覚えのあるアームを背負った女子中学生「
それはもう、救いすぎるくらい世界を救った。
なら、あとは言わなくてもわかるだろ?
ひとを救い、街を救い。
ときには世界を救い、決して自分の責任から逃げない。
何度倒れても、車に
熱いハートを持った、日本でいちばんホットなスパイダーガール。
世界でただひとりの、ボクの推し。
それが彼女、「サクラスパイダー」だ!
「いやあ、助かったよ!
ボクの左肩は助かってないけどね!」
と、まあ現実逃避をしたわけですが。
自分の推しの登場シーンを
ずっと
「それ本当に助かってるんですか!?
いえ、そもそも、なんで私の学校に
ボクへと声をかけてから、すぐに周りを見渡すサクラスパイダー。
床に転がった
あっという間に蜘蛛の糸で他の部員の目を潰し、みんなが動揺して手を顔に寄せた瞬間を逃さず、足を拘束して転がさせた。
これだからスパイダーマンは強いんだよね。
そりゃ
おかげでボクは相手の腕を外せた。
羽交い締めって単純だけど、うまいひとは肩の関節極めやすいから肩を外されかねないし、脱出しづらいしで抵抗しにくいんだよね。
レスラーならバックドロップまで狙えるし。
ほんと厄介。
よし、今のうちに注射器を取っちゃえ!
あ、よいしょ、っと……なんか今、「パキッ」って鳴った?
まあいっか。
「そりゃあ、
アベンジャーズになれる”かも”ってチャンスだよ?」
劣等感で疲れた体に、これ一本!
男の子なら誰でもヒーローになれるかも!
女の子でも……女の子でも……どうだろう、それ。
ブラックウィドーの遺伝子で何ができるんだ……??
なんにせよ。
スーパーパワーがほしい人間なら、誰でも手は
伸ばす、ではなく。
「だとしても、違法薬物の使用は立派な犯罪ですよ?
おもちゃの変身アイテムではないんです。なのに、どうしてこんな、」
「おもちゃの変身アイテムだったんじゃない?
プレミアム商品をセット買いしてでも、アベンジャーズの真似がやりたかったとか?
親の口座を空にしたくらいだし、先輩、よっぽどアベンジャーズが、」
「……そんな高そうな商品を、なんで親の口座で買えたんですか?」
真顔で言葉を返すサクラスパイダー。
言われてみれば、確かに妙だ。
部室に転がっていた注射器を確認してみる。
「注射器と部員の数は?
ひいふうみいよお……あっ」
どっちの数も同じだ。
アベンジャーズのメンバーより、
しかも、こう、……注射器のパッケージが、なんかちがう!
「やっぱ偽物掴まされたろ先輩!?」
「本当に急にどうしました!?」
「どうしたも こうしたも。
見なよ
キャプテンアメリカの
……ということなのだろう、とある人物の名前が書かれているパッケージ。
ボクは、それを指で示した。
「ここをですか? えっと。
『スティーブ・ロジャース』……?」
「ちがうよ、サクラスパイダー。
英文字の
”
「え? はい? ……あっ!?」
驚き、愕然とするサクラスパイダー。
つい読み流してスペル間違いに気づけなかったらしく、スマホを取り出して連絡先一覧のアプリを開き、何度も注射器のパッケージと見比べる。
「コレ、全部が”そう”ってことですか!?
「なんかパチモン商品みたいだよね」
冗談交じりに
正直なところ、パチモンで助かった……いや本当に……。
なにが助かったかって?
『ハルク級のパワーがあるんじゃね!?』
って言われてるスパイダーマン
(テレレテレッテテー)やめて!
ハルク級のパワーがある3人で街中を暴れまわれたら、闇のゲームでライフラインと繋がってる首都部のインフラまで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないで東京都(仮)!
あんたが今ここで倒れたら、医療や交通への電力供給はどうなっちゃうの?
ライフラインはまだ残ってる。ここを耐えれば、ハルクに勝てるんだから!
> > 次回「東京都(仮)死す」デュエルスタンバイ! < <
↑ってなるに決まってるじゃん!
本当に偽物で良かったよ!!!
それにしても。
こんな凝った偽物、誰が売ったんだろうな?
ドロップキック一発で気絶とか弱すぎて……ごめん弱くはなかったわ、さっきので頭を強打して気絶してらぁ。
「わ、わお。
さすがはサクラスパイダー!
悪党退治はお手の物だね! ワザマぇ
あーあ、……サバゲ部は お終いか。
「あの、本当に、大丈夫なんですか……?」
ボクから
明るく茶色い瞳は、フードの中からでも
こういうの、宝石で例えたくなるよね。
ブラウンジルコンとか。
その中に、自分が映る。
……そうされると、いつも変な気分になる。
歪んだ笑顔が映ると、なおさらに。
「大丈夫だよ。
ほら、こんなに元気。
『ハッピー、うれピー、よろぴくねー!』」
身振り手振りで元気にアピール。
いやあ、体が自由に動くっていいものだよね。
さっきまで男に抱かれたのがウソみたいだ!
なんか注射器を抜くとき、ぱきっ、って鳴った気がするけど。
たぶん大丈夫でしょ。
「……本当にですか?」
「せやで」
一瞬、こちらの正気を疑う目がボクの胸を刺す。
動きが大袈裟すぎたかな。
「せやで、ではなくてですね……」
なぜか呆れたように溜息を吐く。
ボクの肩に手を置くと、わずかに撫でた。
「いてっ」
「ほら、やっぱり!
針が残ってるじゃないですか!」
推しに怒られちゃったぜ うへへ。
サクラスパイダーがピンセットを取り出し、するりと注射針を抜く。
ウェブシューターなんてガジェットを発明するだけあって、精密機械や証拠品の確保に使いそうなピンセットは常備して当然ってことなのだろうか。手際がいい。
「これでよし。
まったく、強がりは
男の子だからって
「うぐぅ……」
「本当に『ぐうの音』を出して
くっ、バレたか。さすがは
やっぱ現実で「うぐぅ」なんて『ぐうの音』をあげるの、冗談言ってるようなモンだよね。
「あー、うん、ごめん。
冗談言いすぎた。まだ痛い……」
「ちがいます、私が言いたいのは!
冗談だけじゃなくて、あなたの部活が、……ああ、もう!」
こちらを見あげるサクラスパ、……
心配と怒りで、ちょっと瞳に涙が浮かんでいるらしい。
なにか冗談を言って、
……やめよう。
推しの表情を歪めてまで へらへらできる趣味は、ない。
でゴザル。
「左肩……自分でやるには難しそうですね。
体育館のシャワー室で患部を洗って……そうしましょう」
ボクの背中に、
「ん?」
「それじゃあ、」
くるんと視界が回って。
両膝の裏に、するりと
「うん??」
見慣れた天井だあ。
なんか「落ち着いて聞いてくださいね?」って感じの真剣な顔で、
「これで行きましょう。
左肩が痺れる状態で歩いても、振動が傷口が響くでしょうし」
「どれで行く気なの???」
ボクを抱きあげ、……ちょっと待って?
えっと、あの。
これってぇ……
「お姫様抱っこじゃね?」
「そうですね」
「そうですね???」
宇宙を背に猫が呆然としているかのような。
なんとも言えない顔にされながら、ボクは思う。
「いや、あの、
たぶん普通に歩けるよ? 大丈夫だよ?」
「強がりは、ダメです。」
よくわからないが、ダメらしい。
ちょっと過保護すぎない?
「ただでさえ、偽物でも薬を打たれた後なんですよ?
中身が禁止薬物かもしれないなら、まともに歩けると思いますか?」
「たしかに」
あっ過保護じゃねぇわ、これガチのやつや。
場合によっては 病院まで直行ですわ コレ……。
ガチすぎて冗談が思いつかない。
お姫様抱っこの状態で見つめあってしまう。
ただの
彼女の
布ずれの音は爽快感の欠片もなく、胸をこそばゆく感じさせる。
……なんか恥ずかしいし、話を逸らしたろ。
「
うちのサバゲ部、廃部確定だよね?」
「ですね。……ごめんなさい。
私がもっと早く、彼の動きに気づいていれば……」
顔を伏せ、フードで表情を隠すサクラスパイダー。
ちらっと見える、泣き
じゃなくて。
「いいよ別に、大した部活動じゃないし。
『いいからドーピングだ!』なんてノリで頑張っても、野球部やサッカー部とくらべたら超弩級のマイナー、ドマイナーな部活なんだからさ!」
思わず、けらけらと笑ってしまう。
部長たちは本気で自分たちの部を守ろうとしたけど、どれだけ結果を残そうとも放送部や新聞部に報道してもらえなければ、知名度までは得られない。
元より、活動許可や部費は生徒会から与えられる。
話題性がなければ、みなや生徒会に認められて部活動を継続できるほどの納得が得られない。
まあ、だからこそ。
放送部のボクが入部届を出した時、「こいつだ!」と捕まえて、うまいこと報道してもらおうと画策していたのかもしれないけれども。
……ちょっと人間不信になりそう。
「いまさら潰れたところで、ねえ?
みんな『え、どこの部?』ってなる話じゃない?
サバゲ部とか誰が興味持つんだよ。
『いつも何してるわけ?』みたいな」
そう、誰も気にしない。
だったら、目指すべきは「スターロード」だろうに。
アベンジャーズに鞍替えした先輩の理由だって、きっと、誰も。
『―――で、なんで洋楽を流してるんすか?』
今でも思い出せる。
『これで ブッ放すのが最高なのさ』
リズムにあわせてガスガンをぶっ放す、なんかイカれ、……イカしてる先輩の、なんかちょっと馬鹿っぽいダンスとか。
『テープ式の、めっちゃ時代遅れな旧型ウォークマンで??』
『かっこいいだろ?』
アンティーク趣味なところとか。
『……いいノリっすねぇ!』
『だろ!? 俺の憧れのヒーローもそうさ!』
よくわからない洋楽を聞かされながら射撃訓練を受けたのは、今でも意味がわからないけど。
『ほほう? じゃあ推し
ボクは幼馴染のサクラスパイダー!』
『俺はスターロードだ!
エイリアンに誘拐された時に助けてくれてな!?
この曲を流しながら、くそったれな宇宙のギャングどもをだな!』
そんなに憧れていたなら、どうして。
「……ほんと、何してんだろうね、先輩は」
楽しくなかったわけじゃない。
つまらなかったわけじゃないのに。
いやいや。
つらい時こそ、笑わなきゃあ、さ?
「まあ、事件を起こされなくてラッキーだけどね!
ラッキー! クッキー!
はぁ、と。
ため息が、ボクの冗談を
「強がりは、ダメですよ」
「え、なにが?」
「…………そういうところ、ですよ」
いや、どこが??
とにかく、先輩の動向を理解できない。
スターロードへの憧れを捨てたのは、別にいい。
サバイバルゲームなんかでドーピングして、どうするつもりだったんだか。
ひとつ忘れちゃいけないことがある。
ガスガンを競技で使用する都合上、間違っても校舎内や校庭で射撃訓練や演習をやって、サバゲ部以外の学生に怪我をさせることは厳禁だ。
外で部活動をするなら、サバゲ専用施設へ
交流試合であれ、対戦相手を用意しづらい現状を解決できるわけじゃない。
部員全員を強くすることは簡単じゃあなかった。
放送部と兼部してる最弱のボクも然り。
みんながみんな先輩ほどモチベが高くないのも、あっさりと
楽に結果が出せるなら、精神論も基礎もいらないし。
だからって全員ドーピングするか、普通?
「うちの部に必要だったのは、まともな対戦経験じゃないの?
と、思うのですが、スパイダー歴2年の
「えっ!? それは……そうじゃないかな……?」
いったい誰を思い浮かべたのか、すこし恥ずかしそうな顔をする
ははあ、さては異世界のタコ博士でも思い出したな?
「なんてね。冗談だよ、冗談!
ボク好きなんだよ、西部劇のガンマン」
「
あれを友達や先輩と熱く語るの、いつも楽しかったんだよ」
「そう、だったんだ……いえ! そうだったんですね」
なぜだろう。
さっきから、じっとボクを見つめてくる。
「そんなことより、さ!
最近のスパイダー活動はどう? 部費足りてる?」
「え? 部費って……お小遣いのことですか?
最近、ねいろちゃんのライブチケッ……じゃなくて!*1
新しいガジェットを開発したばかりで、ちょっと財布が……って、」
はっ、と表情を変えて、
「ごめんなさい、ちょっと行ってきます!」
「ああ、スパイダーセンスってやつ?」
サクラスパイダーがフードを被り直した。
廊下の窓のカギを開けて、窓枠に足をかけ、
「はい! 校庭のほうで反応があって、」
ウェブシューターを構え、
「とにかく! 待っててくだ、」
「あとでロッテリ屋、行く?*2」
ぴたり、と動きを止めた。
「……バーガーですか? 食べられませんよ?
「シェーキ
「お誘いは、……えっと、」
サクラスパイダーは振り返らない。
ほんのちょっと首をこちらへ回しては、すぐに戻す。
「おかわりもいいよ?」
「……その、」
振り返っては、いない。
もご、もご、……と、言葉に迷っている。
ほほーん?
「パフェも頼んでいいよ!
終わったら、ちょっとゆっくりしない?」
「あの、」
推しに
「助けてもらったお礼でもさ。
マジで危ないお薬なら、しばらく歩けないだろうし?」
甘いもの、ほしいよねぇ。
女の子だもんね、ただ飯でデザートは最高だよねぇ。
「…………お気持ちは嬉しいのですが、また今度で!」
あっ、今ちょっと本気で悩んでた?
ドル活オタクは懐がさみしいからかな?
「うん、またね。
気にしなくていいよ! がんばって!」
「……。」
サクラスパイダーは、蜘蛛の糸を射出した。
夕焼け空を駆け、ひらりと校庭の中央へと舞い降りていく。
こうやって置いて行かれるの、やっぱ男の子でも
おなじ学校のクラスメイトで。
相手が女の子なら、なおのこと。
「……よしっ」
しみったれブルースを心に奏でている場合じゃあない。
せっかく兼部していたサバゲ部が潰れるのだ。
ボクの
学園のスーパーヒロイン、
スターロードを目指して
その活躍を(先輩たちが瞬殺されてたのを含めて)面白おかしく知らしめて、昼休みの間だけでも、みんなの笑い話になるくらいには記憶に留めてもらおうか。
もちろん、アベンジャーズまわりの先輩の妄言はカットしておこう。
スターロード推しの先輩からしてみたら、本望ではなかっただろうし。
さて。
放送部が報道するときに必要なものは?
「原稿、書くか。」
そう、原稿だね。
ついでに新聞部に写真送ったろ。
「あのクソッタレを
『おまえ新聞記者なのに、ニュースキャスターに先を越されてんの?』みたいな!」
日頃から幼馴染を好き放題に言ってくれるのだ。
このくらいのカウンターは叩き込んでやってもいいだろ、たぶん。
「……へへっ」
へらへらと笑って、振り返る。
にぎやかだったサバゲ部の部室から。
聞きなれた洋楽は、もう聞こえてこなかった。
夕焼けの空を舞う、一匹の桜蜘蛛。
赤く照らされた校庭で
「……
「気にしないわけ、ないじゃないですか。」
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