眷属なき魔王、独りの玉座 作:一般通過アクシズ教徒
天地を揺るがすような凄まじい衝撃音と共に、デス・ナイトたちが築いていた防壁のど真ん中に、上空の闇の底から何かが超高速で突き刺さった。衝撃波によって、頑強なはずの不死者の騎士数体が、一瞬で木っ端微塵に吹き飛ぶ。
もうもうと立ち込める不気味な黒い土煙。アインズは即座にスタッフを構え、眼窩の赤光を鋭く細めた。
大穴の中心の煙がゆっくりと晴れていく。そこに佇んでいたのは、禍々しい巨獣でもなければ、おぞましい化け物でもなかった。金色の美しい髪を夜風に揺らし、夜の闇そのものをドレスのように身に纏った、一人の少女。
しかし、彼女が小さく一歩を踏み出した瞬間、地上の大気が黒く腐食するように歪み始めた。背後に漂う闇の気配は、先ほどまでの数万の妖怪たちの殺気をすべて合わせても足元に及ばないほど、濃密で、狂気的で、圧倒的だった。
(何だ、あいつは……。これまでの野生の個体とは、存在の格がまるで違う!このウルベルトさんを思わせる、危険な気配は一体……!?)
アインズが本能的な警戒に骨の指先をこわばらせるのと同時に、背後の管制センターからも、怯えきった八意の声が通信魔法を通じて響いてきた。
「アインズさん、気をつけて! 何者だか分からないけれど、彼女の周囲の空間だけ、エネルギーの数値が完全にオーバーフローを起こして消滅しているわ!攻めてきた大妖怪たちの誰とも、存在の思想が違っている……!」
「……ああ、分かっている。おい、そこのお嬢ちゃん。私の防壁を一撃で穿つとはな。羽虫の群れのなかに、随分と骨のある奴が混ざっていたようだ。――貴様、何者だ?」
アインズの地響きのような重低音が戦場に冷たく響き渡る。
問われた少女は、ルビーのように妖艶に輝く瞳でアインズを見つめると、小首を傾げ、鈴を転がすような声で、くすくすと妖艶に笑った。
「何者、かぁ。そんなの、私にもよく分からないな。でも……貴方は楽しめそうね。」
「何……?」
「アハハ! 面白い、面白いよ、骨のあなた! 貴方、本当に地上にいた生き物とは比べ物にならないね!? これなら……これなら、私を満足させてくれるよねえ!!」
ルーミアは狂気的な歓喜に瞳を爛々と輝かせながら、一瞬で制動距離をゼロにして肉薄してきた。彼女の周囲を渦巻く黒霧が、触れた大気や近未来都市の鉄骨をじりじりと音を立てて分解していく。
アインズはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを構え、即座にユグドラシルの定石通りの先制攻撃を放った。
「――『三連最強化・獄炎』!」
アインズの放った極大の火が夜空を裂き、ルーミアの小さな肉体へと集中する。第7階位の上位攻撃魔法。名もなき大妖怪なら跡形もなく消し飛ぶ一撃。
しかし、その圧倒的な熱の束は、ルーミアの身体を包む黒い闇の霧に触れた瞬間、まるで水面に落ちたインクのように不自然に滲み、煙のように掻き消えてしまった。
(なんだと……!? 魔法が無効化された!? いや、魔法抵抗されたんじゃない。私の放った魔力そのものが、あの闇に分解されたのか!?)
アインズの眼窩の赤光が鋭く明滅する。ユグドラシルの常識が通用しない未知の法則。だが、歴戦のプレイヤーでもある彼は、すぐさま動脳を抑え込み、さらに検証へと移る。
(落ち着け、まだ第七階位の魔法が無効化されたに過ぎん。ならば、更に上の魔法の一つを叩き込み、その許容量の限界を測定するまでだ!)
「ふん、底の浅い傲慢を。ならば、これで消し飛ぶがいい! ――『最強化・万雷の撃滅』!」
アインズが 杖 を突き出すと同時に、夜空の天蓋を埋め尽くすほどの漆黒の雷雲が召喚され、そこから一本一柱が都市の建造物を容易く融解させるほどの極大の雷が、ルーミアへ向けて一斉に降り注いだ。第9階位の上位攻撃魔術。
凄絶な白熱の雷撃の濁流が、彼女の纏う常闇へと激突する。すると次の瞬間、激しいスパークと共にルーミアの闇がボロボロに引き裂かれ、極大の雷霆が彼女の小さな肉体へと直撃した。
「……っ、あはっ! 痛い、痛いよ!!」
雷撃に灼かれ、小さな身体から白煙を上げながら後方へと吹き飛ぶルーミア。だが、彼女はすぐに狂暴な笑顔を張り付かせ、凄まじい妖気で肉体を再生させながら立ち上がった。
その様子を観察していたアインズの眼窩の光が、冷徹に細められる。
(よし、手応えはあった。第九階位の万雷の撃滅はあの闇を貫通してダメージを与えたな。……なるほど、分かったぞ。あの常闇が分解・相殺できる許容量の上限は、第八階位までの魔法効果に過ぎないのか!)
敵の防御のカラクリを見破ったアインズ。だが、傷を負ったことでルーミアの瞳には、さらに深くドロドロとした狂気的な歓喜の炎が燃え上がろうとしていた。
「あはは! 素晴らしい、素晴らしいよ骨の人! もっと、もっと私を壊してみてよ!!」
驚異的な速度で突っ込んでくるルーミア。アインズは即座に迎撃の構えをとる。
「ならば――『時間停止』!!」
世界の色彩が、一瞬にしてモノクロームへと反転する。風に舞う火の粉も、崩落する瓦礫も、地上のすべての時間が完全に停止した。時間を止め、その隙に致命的な遅延術を叩き込む、アインズの必勝パターンのひとつ。
しかし、アインズはこの世界で初の「例外」を視る。アインズの眼前に迫る黒い闇だけが、時間の停止を完全に無視して、うねるように質量を増しながら狂暴に動き続けていたのだ。
「アハハハハ! 惜しいねぇ! 私の闇の中じゃ、時間だって溶けちゃうんだよ!!」
時の檻を食い破り、ルーミアが闇の爪を振り下ろす。停止した世界のなかで、彼女だけが因果を歪めて動いていた。
(時間停止は無効化するか……! 階位の限界とは関係がない。あの闇は空間の因果そのものを蝕み、融解させているのか……!)
「――っ!」
アインズは咄嗟に、自身のパッシブスキルと装備の防壁を信じて、スタッフで爪を受け止めた。
ギィィィィィィィンッッッッ!!!!
金属同士が擦れ合うような激音が戦場に反響する。アインズの巨躯が、規格外の物理破壊力によって地表を数十メートルも削りながら後方へと吹き飛ばされた。
(うわあああああああ危ねええええええ! 今の攻撃、まともに喰らってたら後衛職の私のHPならごっそり持っていかれるところだったぞ!! なんだあいつ、第八位階までを完全に分解する上に、空間そのものを侵食して時間停止すら歪めてくるなんて、どんだけだよ!!パワーバランスおかしいだろ!!)
パチパチ、と脳内で緑の光が灯り、パニックがスン……と消え去る。冷徹なプレイヤーとしての思考が、絶望のなかから勝利への最適解を導き出していく。
(……落ち着け。奴の能力はほとんど見えた。属性や熱量を伴うエネルギー攻撃は、高階位であってもあの常闇の分解とぶつかり合う。そして時間停止が効かないのは、あの闇が空間そのものを侵食しているからだ。……ならば、世界の連続性そのものを物理的に切断するのはどうだ?)
アインズは、スタッフを左手に持ち替え、右手の骨の指先を、鋭く空間へと突き立てた。近接戦で勝利を確信し、満面の笑みを浮かべて再び突っ込んでくるルーミア。
「もっと、もっと私を楽しませてよ、骨のあなたぁ!!」
「いいだろう。……至高の魔王の技、その身に刻むがいい」
アインズは、空間切断の極技を発動した。魔力を込めた骨の指先が、空間そのものを線でなとなぞるように滑る。
「――『現断』」
その瞬間は、音も、光も、爆発もなかった。ただ、ルーミアが身に纏っていた絶対不可視の常闇の結界と、その奥にある彼女の肉体の右肩から脇腹にかけての空間が――まるで画像編集ソフトで直線的に切り取られたかのように、ぽっかりと消失した。
空間そのものを物理的に切断する概念攻撃。どれほど強固な魔法障壁があろうとも、世界そのものの連続性を断ち切るこの技は、ルーミアの闇の防御を完全に突き抜けた。
「……ッあ!?」
ルーミアの狂気的な笑顔が、初めて驚愕へと歪んだ。空間を抉り取られた激痛に、その小さな身体が大きくのけぞる。
しかし、傷口から血を流しながらも、ルーミアの瞳には、恐怖ではなく、さらに深く、ドロドロとした狂気的な歓喜の炎が燃え上がろうとしていた。
◇
空間そのものを切り裂く現断の猛撃を受け、肉体を抉られながらも、ルーミアの瞳には恐怖の色など微塵も存在しなかった。
むしろ、その肉体の損傷すらも自身の狂気的な歓喜の薪とし、彼女の背後に渦巻く闇は、さらにドロドロとした、星の光すら貪り尽くさんばかりの漆黒へと膨れ上がっていく。
「これなら……これなら、私の全てをぶつけても、壊れずに受け止めてくれるよね?」
ルーミアが両腕を天へと掲げた瞬間、戦場全体の色彩が、文字通り漆黒のインクで塗り潰されるように消失した。常闇の概念の完全解放。
それは第八位階までの魔法分解という生温かいものではない。都市の建築物、大妖怪たちの死体、そして周囲の空間そのものを、光の届かない完全な無へと還そうとする、世界の崩壊現象そのものだった。
(チッ、何というイカれた攻撃だ。ユグドラシルのワールドボスの、広域の空間消滅魔法の互換たりえるぞ! 近接戦でこの常闇に呑み込まれれば、レベル100の私の肉体であっても死を覚悟しなければならん!)
アインズの脳内に、管制センターの八意から悲鳴のような通信魔術が割り込んできた。
「アインズさん、逃げて! 彼女の周囲の空間そのものの結合が消滅していくわ! 私たちの防衛結界でも、あの無の拡張は絶対に止められない……!」
「気にするな、八意。この程度の想定外、長年境界を歩いてきた私にとっては日常茶飯事だ。君は自身の任務に集中しろ」
アインズは重厚な声音で八意の動揺を退けた。内心では凄まじい焦燥を抱いていたが、彼女への気遣いからか、自身の思考を冷徹に研ぎ澄ます。
他者の力に頼る必要はない。アインズ・ウール・ゴウンの魔法の深淵は、このような者の理に屈するほど安価ではないのだ。
(あの常闇の侵食速度は毎秒数メートル。まともに高階位の防御魔法を張っても、触れた瞬間に分解されるだけだ。ならば……世界の法則を書き換える超位魔法を発動する。だが、発動までの十数秒間、いかにしてあの無の拡張から身を隠し、時間を稼ぐか……。ここからは搦め手で行こうか)
突撃してくるルーミアに対し、アインズはスタッフを引くように一閃した。
「――『完全不可視化』。さらに、――『幻影創造』」
アインズの巨躯が空間から完全に消失すると同時に、戦場の異なる座標に、まったく同じ魔力波動を放つアインズの幻影が十数体、一斉に生み出された。
どれほど狂暴な野生の知性であっても、アンデッドの負のエネルギーそのものを本物と寸分違わず模倣した幻影の群れを前にすれば、その攻撃対象の優先順位は必ず分散する。
「アハハ! どこに隠れたの、骨の人! こっちかな、それともこっちかなぁ!?」
ルーミアは狂喜しながら、手当たり次第にアインズの幻影を常闇の爪で引き裂いていく。だが、彼女が幻影を一つ消滅させるたび、アインズは完全に気配を絶った状態のまま、さらなる低階位魔法を戦場に仕掛けていた。
「――『泥濘の地』。さらに、――『空間歪曲』」
ルーミアの足元のマグマと化した大地が、魔法の効果によって底なしの沼地へと変貌し、彼女の突進のベクトルを物理的に狂わせる。さらに空間歪曲の術式が、彼女の進む直線の距離を視覚的には気付かれぬまま数倍へと引き延ばし、アインズの本体へと到達する時間を精神的な錯覚も含めて徹底的に遅延させていく。
(よし、引っかかったな。高階位の攻撃が分解されるならば、地形や空間の法則そのものを変化させる低・中階位の補助魔法を網の目のように組み合わせればいい。これなら、彼女の常闇の分解を直接刺激することなく、その足を確実に鈍らせることができる)
これこそが、かつてユグドラシルの数多の対人戦を制してきた、アインズ・ウール・ゴウンの頭脳戦の真髄だった。相手がどれほど理不尽な絶対防御や無効化能力を持っていようとも、世界のシステムそのものを利用した魔道のコンビネーションの前には、ただの木偶の坊に過ぎない。
アインズは完全にルーミアの死角となる上空の座標へと音もなく転移し、スタッフを高々と天へと掲げた。
発動に必要な時間はあとわずか。
(私の張った欺瞞のチェス盤の上で、存分に踊るがいい、お嬢ちゃん。……これより、このの戦いに至高の終止符を打つ!)
絶対的な魔法使いの工夫がもたらした、完璧なる時間の搾取の完成だった。
◇
アインズが張り巡らせた泥濘の地と空間歪曲の網のなかで、十数体の幻影を貪り喰らっていたルーミアの動きが、不自然にピタリと止まった。
彼女は自分の足元が泥沼に変わり、どれほど前に進んでもアインズとの物理的な距離が縮まらないという空間の矛盾を、その卓越した野生の直感で正確に察知したのだ。
「……あは。あはははは! 面白い、面白いねぇ! 姿を隠して、世界を歪めて、私をここで足止めするつもりなんだ!」
ルーミアのルビーのような瞳の奥で、ドロドロとした暗い光が爆発的に弾けた。
それは生存の執念などではなく、ただ目の前の強者を捩じ伏せ、自らの飢えを満たしたいという純粋な狂気の奔流だった。彼女が小さな両拳を握りしめ、その細い身体から文字通りの常闇を大噴火の如く全方位へと解き放つ。
ドバァァァァァァァンッッッッ!!!!
彼女を中心に炸裂した漆黒の波動は、アインズが設置した空間歪曲の座標そのものを物理的に腐食させ、泥濘の地の術式ごと、周囲の地盤を数千メートルにわたって完全に無へと還した。
システム的な相殺や相性の分解ではない。圧倒的な魔力量による、世界そのものの連続性の力づくでの破壊。
(チッ、術式が空間ごと力づくで消し飛ばされたか……! 低階位の時間稼ぎが通用する時間など、やはり数十秒が限界だったな。だが……)
上空で完全不可視化を維持していたアインズの眼窩の赤光が、冷徹に光る。
すでに、彼が仕掛けた欺瞞のチェスによって、最も重要である時間は十分に稼ぎ出されていた。
「見つけたぁぁぁぁ、骨のあなたァ!!」
空間の檻を食い破ったルーミアが、完全不可視化を見破って上空のアインズへと真っ直ぐに跳躍してきた。彼女の周囲を渦巻く常闇の刃が、大気を引き裂きながらアインズのローブの裾へと迫る。
(泥沼の近接戦に付き合うのは、マジックアイテムの耐久値やHPの無駄な消耗に繋がるだけだ。……ならば、この勝負、ここで最高の一撃をもって即座に決着をつける!)
アインズは、右手の指に嵌められた数ある指輪の中から、特定の魔力を放つ一つをパキリと小さな音を立てて起動した。
ユグドラシル時代、強力な効果を誇っていた課金アイテム。超位魔法の持つ最大のリスク――十数秒におよぶ長い発動準備時間を完全にゼロに短縮し、即時発動を可能にする奇跡の棒切れを破壊する機能を持つ指輪の輝き。
同時に、アインズはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをルーミアの突撃ルートに向けて真っ直ぐに突き出した。
「思い知るがいい。これが、魔術の極みだ。
――超位魔法、『失墜する天空』!!」
アインズの重厚な声が戦場に響き渡った、まさにその瞬間だった。
ゴォォォォォォォォォッッッッ!!!!
ルーミアが全身から広げていた完全な闇の結界の、さらに遥か上空――夜空そのものが、鏡のようにパリパリと白くひび割れた。
そこから降り注いだのは、夜の闇を昼へと強制的に反転させる、圧倒的な、暴力的なまでの純白の光の柱だった。それはまさに、太陽そのものを地表に顕現させたかのような、圧倒的な高熱と正のエネルギーの濁流。
「……あ、あはっ……凄い、まぶし……っ!」
アインズの目の前にまで迫っていたルーミアの狂気的な歓喜の声が、光の爆音によって完全にかき消される。
彼女の操る常闇の闇が、超位魔法という、圧倒的な大魔術の圧倒的な出力の前に、塵のように急速に蒸発していく。光の柱は容赦なくルーミアの小さな肉体を呑み込み、戦場の大地を数千メートルにわたってドロドロのマグマへと変えていった。
ドガァァァァァァァンッッッッ!!!!!
天地を揺るがす地響きが収まり、ゆっくりと純白の光が収束していく。あれほど夜空を埋め尽くしていた名もなき妖怪たちの軍勢は、超位魔法の余波によって文字通り一瞬で蒸発し、影すら残らなかった。
光の柱の跡地――直径数百メートルの巨大なクレーターの広がる中心で、ルーミアは、全身の衣服をボロボロに灼かれ、肌を黒く焦がしながらも、辛うじてその場に膝をついていた。
その顔には、血を流しながらも、心底満足したような、どこか呆れたような苦笑が浮かんでいる。
「……あはは。流石にしんどいかな~。骨の人、あなた、本当にめちゃくちゃだね……」
彼女はフラフラと立ち上がった。だが、その傷口からは、地上の恐怖の概念そのものがドロドロと溢れ出し、彼女の肉体をなおも強制的に立ち上がらせようとしている。驚異的な不死性と執念。その瞳には、アインズの圧倒的な火力への執着がまだドロドロと燃え盛っていた。
アインズはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを静かに下ろし、両腕を大きく広げた。
世界のシステムそのものを捻じ曲げてでも、この戦闘狂の再生能力を完全に終わらせるための、最高位の特殊スキル。
(……やはり、超位魔法だけで彼女に勝つのは不可能か。ならば、これを使うしかあるまい。確実に勝利をもぎ取るための、私の最終手段だ)
アインズの背後に、巨大な、夜空をも覆い尽くさんばかりの、漆黒の時計の文字盤が出現した。すべての存在へ、平等かつ絶対の死を約束する、最高位の特殊スキルの顕現。
「我が真なる深淵を見せてやろう。
――『The goal of all life is death』」
カチリ、と背後の巨大な時計の針が動き始めた。
その瞬間、戦場に漂う風、流れるマグマ、大気、そしてルーミアの肉体に宿る妖怪としての核そのものに、絶対的な死のカウントダウンが刻まれる。このスキルの前には、いかなる即死耐性も、いかなる無効化能力も意味を成さない。世界そのものが、12秒後に強制的に死へと至る。
12秒の針が頂点を打った瞬間、ルーミアの周囲の空間そのものが真っ黒に立ち枯れ、彼女の身体を維持していた膨大な妖気の核が、音もなく完全に崩壊した。
「……あはは。本当に……凄いや……」
彼女は血を流しながらも、心底満足したような苦笑を浮かべ、自らの消えゆく闇の残滓に溶けるようにして、戦場から静かに後退していった。これで、大妖怪ルーミアの撃退に成功となる。アインズ・ウール・ゴウンというたった一人の魔王の力が、神代の生存競争を力づくで終結させたのだ.