異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
「ええっ、聖女様って……!?」
リリシアの絶叫に俺は思わず声を上げた。
「ああ、間違いない……あれは聖女エリーナ様だ!」
リリシアの視線を追うと、森の開けた空間に悲惨な光景が広がっていた。横倒しになってバキバキに砕けた馬車の残骸。その周囲には二人の女性聖騎士と、地面にへたり込むシスターの姿。そして彼女たちを護るように淡い光を放つ少女がいた。おそらくはこの子が聖女だろう。
だがそれ以上に凄まじい存在感を放つやつがいる。それが、彼女たちを見下ろす巨獣だった。
人の数倍はある巨体。全身が岩のような筋骨で覆われた一ツ目の巨人――上位魔物サイクロプス。 顔面の中央に鎮座する巨大な単眼が不気味にギラギラと光り、丸太どころか巨木をそのまま削り出したような巨大なこん棒を手に持ち、圧倒的な威圧感を放っている。
「グヌゥウウウウゥ―――――!!」
再び、耳孔を突き破らんばかりの凄まじい咆哮が森に轟いた。
その音圧だけで、胸の奥がギュッと締め付けられるような恐怖が走る。
「ヨシロウ、セウ。お前たちは逃げろ」
「いや、俺も行くぞ」
「セウも行きますよ~~」
「何を言っているんだ!? あれは恐ろしい魔物なんだぞ! ブラックウルフとはわけが違うんだ!」
「だが、リリシアもほとんど体力は残ってないんだろ?」
「そ、そうだが……だが、戦闘力のないヨシロウたちを巻き込むわけには――」
「なにも正面から殴り合いに参加するわけじゃない。怪我人を運んだり、現場から遠ざけたりするくらいなら俺にもできる。それに……」
俺は生唾をゴクリと飲み込んだ。 ぶっちゃけ、めちゃくちゃ怖い。足がガクガク震えているし、今すぐ背を向けて逃げ出したいのが本音だ。だが。
「知り合ったのもなにかの縁だ。俺のやれることをしたい」
ここでリリシアたちを見捨てて逃げたら、一生美味い風呂なんて入れなくなる気がする。
せっかく異世界にきて出来た、初めての知り合いなのだからな。
「……わかった。無茶はするなよ、ヨシロウ」
「まったく、どの口が言ってるんだか」
「くっ、そ、それは……」
「んじゃ、聖女様の助太刀といくか」
「ああ!」
少しばかり軽口を叩いて緊張をほぐすと、俺たちは意を決して現場へと駆け出した。
現場に近づくにつれて、状況がより鮮明に視界飛び込んでくる。
「リリシア、あの光の膜みたいなのはなんだ?」
「あれはエリーナ様の【結界】だ……まずいっ、崩壊しかけている!」
サイクロプスがドデカイこん棒を激しく振り下ろすたびに、ズドン! とお腹に響く衝撃音が走り、光の膜にビキビキと亀裂が入っていく。ガラスが割れるような不吉な音が森に響き渡っていた。
「エリーナ様ぁあ!」
リリシアの叫びに少女の視線が一瞬だけこちらを向いた。あの子が聖女様か。
結界の中には聖女とシスター。結界の外では女性聖騎士二人が必死に剣を振るってサイクロプスに斬りかかっているが、皮膚が硬すぎるのかほとんど攻撃が届いていない。
「ヨシロウたちは結界の中へ! エリーナ様!」
聖女が頷くと、俺とセウは光の膜を通過することができた。
「リリシアのお仲間ですか?」
「ええ、そうです。一般人ではありますが、加勢にきましたよ聖女さま」
「一般人……無茶すぎます……! ですが、助かりました! そこにいるロイノを連れてここを脱出してください!」
「え、エリーナさま!? わたくしも最後まで……っ」
ロイノと呼ばれたシスターは拒絶の声をあげたが、すぐにその身をかがめて左足をかばうように身を縮ませる。
こりゃ骨が折れているのか、自力では歩けそうにないな。
「私は結界の維持に全力を注いでいるので、同時に
聖女の整った美しい顔が、苦痛に歪む。
結界を維持するのが辛そうだ。そういえばリリシアの話では、彼女は連勤しすぎて力が弱まっているとか言っていたな。
「グヌゥウウウウゥ―――――!!」
サイクロプスが再びこん棒を振り上げる。
「二人とも、闘技はまだ使えるか!」
リリシアが苦戦している二人の女性聖騎士に大声で問いかけた。
「あ、ああ、使える! だが、サイクロプスの猛攻で溜めを作る隙がないんだ!」
「よし、あたしがサイクロプスの注意をなんとか引いて隙を作る! そこへ渾身の闘技をぶち込め!」
二人が力強く頷くと同時に、リリシアが地を蹴った。
「はぁあああっ!」
鋭い踏み込みから、通常斬撃をガンガン繰り出すリリシア。体力は底をついているはずなのに、鬼気迫る勢いでサイクロプスへ攻撃を仕掛ける。
しかし、サイクロプスの岩のような皮膚には浅い傷が入る程度だ。ブラックウルフなら瞬殺する斬撃のはずなのに、さすが上位魔物。桁違いの頑丈さだ。
だが、リリシアは焦らず根気強く攻撃を重ねていく。自分の残りの体力を冷静に計算し、無駄な力みを削ぎ落とした滑らかな立ち回り。
……おお、やればできるじゃないか。
俺が感心していると、鬱陶しい手数を叩き込んでくるリリシアにサイクロプスが苛立ちの視線を向けはじめた。
結界への攻撃をやめて、リリシアへその巨大なこん棒を振り下ろすサイクロプス。
が、リリシアはその切り替えの隙をついて魔物の懐に飛び込んだ。
「グモォオ!?」
「はぁあああっ!」
リリシアの渾身の払いがサイクロプスの足首に決まり、巨体がグラリと揺れて体勢を崩す。
「今だ! 攻撃しろぉおおおっ!」
「――――聖光剣鋭突《セイクリッド・スラスト》!!」
「――――聖光剣正眼《セイクリッド・エッジ》!!」
二人の聖騎士が叫び、眩い光を纏った剣を同時にサイクロプスの胴体へと突き立てた。
ズドンッ! と激しい光と衝撃が弾ける。 これなら決まったか――!?
「グヌゥウウゥ……っ!」
サイクロプスは数歩後退したが……その巨体を地に堕とすことなく仁王立ちし、不気味な単眼を怒りで真っ赤に染めた。
「な……!? 効いて、いないだと……!?」
聖騎士たちが絶望の声を漏らす。なんちゅうタフな奴だ。
それに素人目ではあるが、ぶっちゃけリリシアが放っていた闘技に比べると、光の密度も威力も劣っているように見える。二人が必死なのは重々伝わってくるんだが、聖騎士のなかでも技量の差はあるってことか。
「くっ……同時に叩き込んだというのに……っ!」
「化け物めぇえ!」
「グヌゥウウゥオオオオ!!」
頭に血が上ったサイクロプスは、自分に攻撃してきた聖騎士たちを無視し何を思ったのか再び結界の方へと向き直った。
そして、バカでかいこん棒を両手で構え直す。
「な……!? 貴様、こっちを見ろ!」
リリシアの制止の声など耳に入らないとばかりに、重力と巨体を乗せたこん棒が無慈悲に結界へと叩きつけられた。
ドッゴォオオオン!!
「くぅっ……!!」
結界の中心で、聖女エリーナが地に膝をついた。
光の膜に、クモの巣状の巨大な亀裂が走る。あと一撃。次の一撃が振り下ろされたら、結界は粉々に砕け散るかもしれん!
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!
ロイノさんを連れて逃げるとか、そういう次元の状況じゃない!
「うぉおおお、セウ! なんかないんか!?」
俺は隣のセウに叫ぶと、なんか黒目が無くなって放心状態の番頭美少女が突っ立っているじゃないか。
気絶してんのかよぉ……どおりでずっと無言だなと思ってたわ。
俺はセウの肩を揺さぶり、再度問いかける。
「おい、セウ! しっかりしろ!」
「ふぁ、なに。ご主人さま、もう朝ですか?」
「寝ぼけるな。このまま一生起きれなくなるぞ! なんかないんか!」
「ええぇ、そんなに寝れるかなぁ……って! 化け物こっち見てるぅううう!!」
サイクロプスがこん棒振りかぶっているのを見て、ようやく状況を理解したようだ。
が、俺のスキルは【戦闘】スキルではなく、【銭湯】スキルだ。
この子に無茶振りしてもしょうがない。こうなったら、聖女とシスター抱えて一か八かの逃亡劇に賭けるか……
「あ、ありますよ! ご主人様!」
そうだよな。んなもんある訳ねぇ~よな……って、んんん??
「えっ!? あるの!?」
「はいっ、ご主人様、昨日【銭湯レベル2】になりましたよね! なら――お湯が出せます!」
「へぇ? お湯ううぅ!?」
思わず素で間抜けな声を上げてしまった。こんな巨大なモンスターにお湯をかけてどうすんだ!?
だが、セウは至って真剣に、ニシシと笑いながら指示を出してきた。
「いいですかご主人様! 銭湯のカランのイメージです! 手の平をサイクロプスに向けて、意識を集中させてグイっとボタンを押し込むんです!」
「プッシュ式のカランってことだな?」
「そうです! セウが設定温度をリミッター解除して上限まで引きあげます!」
「よっしゃ! こうならヤケだ、やるだけやってやる!!」
俺は意を決して、結界のそばに歩き出す。
「ヨシロウさん!?」
膝をついた聖女エリーナが声をあげる。
「私の持てる聖属性魔力をすべて一気に放出して、一時的に結界を限界まで膨らます! その隙にみなさんは脱出を――って、なぜ結界を出たのですか!? 危ないです!!」
聖女様が何か叫んでいるが、今の俺には耳に入らない。
イメージ、イメージ、集中集中……
俺はサイクロプスの巨体に向かって両手を突き出し、脳内で銭湯のカランを全力で捻り上げるイメージを叩き込んだ。
頼むぞ、俺の銭湯スキル!!
「――――――銭湯スキル【熱湯(100℃)】!!」
次の瞬間。
ザバザバザバァアアアアアアッッ!!!!
俺の両手の平からグラグラと沸き立つ100℃の激熱湯が、爆発的な勢いで発射された。
ドバドバドババババッ~~と空を切り裂いて放たれた大量の熱湯が、結界を叩き潰そうとしていたサイクロプスに直撃する。
ジュワアアアアッッ!!
「ブ!? ブモモモォオオオオッッ!?☆*$!!」
凄まじい水蒸気が爆発的にあたりに充満して、サイクロプスが狂ったようにのたうち回りはじめた。
「おお、効いとる効いとる! サイクロプスが痛みと驚きで大混乱してるぞ!」
よっしゃ、これで攻撃するなり退却するなりの隙ができたぞ!
「よし、みんな……」
おれがみんなに声をかけようとした瞬間、湯気の中から呆然とした女性たちの声が響いてきた。
「なんだあのおっさん、湯気が出てる!?」
「ええぇ、おっさん漏らしたの!?」
「せ、聖女様のまえで何を見せる気なの!」
女性聖騎士二人と怪我をしていたシスターのロイノから、ドン引きの悲鳴が上がった。
いやいやいやいや……
「俺は39歳のええ大人やぞ! こんなところで、しかも水害レベルの量で盛大に漏らすかい! これはスキルだ、スキルッ!!」
熱湯の不意打ちにより、サイクロプスだけでなく、味方の女性陣まで大混乱に陥ってしまったのだった。