異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
「よ、ヨシロウ……お、お前……」
「漏らしてねぇよ! これはスキルだからな!」
引き気味の目でこちらを見てくるリリシアに、俺は間髪入れず怒声のツッコミを叩き込んだ。
リリシアまで勘違いしてんじゃないよ。いい歳こいたおっさんが、いくら恐怖したからってこんなに漏らせるわけないだろ!
「ググ……グヌゥウウ……!」
などと盛大な誤解と冤罪を解いている最中、熱湯の不意打ちで転がっていたサイクロプスが、巨体を揺らして再び立ち上がり始めた。
「ほらぁ~~おっさんをディスってるから、千載一遇のチャンスを逃したじゃないかぁ」
「す、すまないヨシロウ……! あまりに予想外すぎて……」
リリシアが気まずそうに声を漏らした。
「よ、ヨシロウさん。部下たちが大変な無礼を……それにしても【スキル】をお持ちなのですか?」
結界の中で膝をついていた聖女エリーナ様が、おずおずと尋ねてくる。
「ええ【銭湯】スキルです。お風呂の」
「戦闘スキルなのに……お風呂、ですか……?」
聖女様が思わず首を傾げた。へぇ……年相応の可愛らしい仕草もできるじゃないか。だが、のんきに感心している場合じゃない。
「ググヌゥウウォオオオッッ!!」
怒り狂ったサイクロプスが、剥き出しの単眼を血走らせて咆哮した。さすが上位魔物、100℃の熱湯を食らっても立ちあがるか。
だが全身から湯気を上がらせ、皮膚は赤く腫れ上がって明らかに大きなダメージを負っている。
「ヨシロウさん。引き続きご助力をお願します!」
「ああ、やれるだけはやってみる」
再び始まるサイクロプス戦。
もう一度、プッシュボタン式のカランをイメージして……
「ブヌゥウウウンンッ!!」
「うおっ! あぶねぇっ!?」
空を切る重低音と共にドデカイこん棒が横合いから迫ってきた。
俺はとっさに身を翻し、地面を転がって回避する。紙一重で頭上を通り過ぎたこん棒の風圧だけで、顔の皮膚がビリビリと鳴った。うぉ~~ヤバかった。
外回りの営業で鍛え上げた足腰がなかったら即死だったぞ!
タクシーなんて贅沢な経費は一切使わず入社以来17年間、猛暑の日も大雨の日も、ずっと自分の二本の足で稼いできた社畜の脚力を舐めるなよ!
しかし……なんとか回避はできるんだが。
「グヌ! グヌ! グヌゥウウ!」
「くっ……全然、熱湯を発射できん!」
サイクロプスが狂ったようにこん棒を振り回して追撃してくるため、じっくり両手をかざして熱湯を噴射する余裕がない。さっきのような大量の熱湯を叩き出すには、脳内でカランを押し込む溜め時間が必要だからだ。
「ご主人様~~形状変化もできますよ~~!」
頭上でハチマキから出たアホ毛をピンっと立たせて、セウが声を張り上げた。
「形状変化……!?」
「武器をイメ~ジしてください~い」
と、とにかくやってみるか……!
俺はサイクロプスのこん棒を必死に避けながら、脳内のイメージをフル稼働させた。
取り敢えずすぐに浮かんだ武器は……
「――――――銭湯スキル【形状変化】!!」
俺の手の平から放たれた熱湯が空中でキュキュッと凝縮され、眩い湯気を放ちながら一本の刃へと形を変えていく。
おおおぉ! 熱湯でできた日本刀――熱刀だ!
「ブモォオ!」
「うぉっと!?」
俺は襲い来るこん棒を身をよじるようにして避け、偶然にも勢いで振った熱刀がサイクロプスの腕に当たった。
「ブモォオオ!」
おお、効いているぞ!
斬撃の傷跡から熱湯が染みこんで、二重攻撃みたいになっている。
これはいけるか!
今度は熱刀を振りかざしてサイクロプスの足元へ飛び込もうとした――が。
「……うぉっ!」
全然入り込めん……
そりゃそうだ……俺は39歳のただの元営業マンだぞ。刀の振り方も素人だし、間合いの詰め方も分からん。リリシアみたいに魔物の攻撃をかい潜って懐に飛び込むなんて、素人にできる芸当じゃないってことが良く分かった。
初撃がたまたま当たっただけなんだ。
ヤバイ、こりゃイメージの選択ミスったか。訓練すりゃ熱刀も使えるようになるかもしれんが。もっと別なモノを……槍か?それとも弓か。
待てよ? なんでファンタジー世界だからって、刀や剣にこだわる必要があるんだ? 俺は現代から来た日本人だぞ!?
ならば――
「――――――銭湯スキル【形状変化】!!」
脳裏に思い浮かべるのは、映画やゲーム・アニメで何度も目にした黒鉄のシルエット。
俺の手の中で熱湯が組み替わり、二本の頑丈なグリップと銃身を持つ物々しいフォルムへと変貌を遂げる。
熱湯短機関銃――サブマシンガン型!!
「そこの二人! サイクロプスから距離を取ってくれ!」
俺の叫びに、直前まで交戦していた二人の女性聖騎士が後ろへ跳び退いた。
狙いをサイクロプスの胴体に定め、俺はトリガーを全力で引き絞る!
――――――ダダダダダダダダダダダッッ!!
「ブ、ブブモオオオオッ!?」
けたたましい水撃音と共に、100℃の熱湯弾丸が怒涛の勢いで連射された。
一粒一粒が凄まじい水圧と100℃の熱量を秘めた熱湯弾丸の嵐が、サイクロプスの巨体をボコボコと穿っていく。
「ブモッ!? ガ、ガハッ……!?」
「よっしゃあ! こいつは効いてるぞ!!」
胸元、関節、さらにはこん棒を握る極太の腕へ、容赦なく叩き込まれる熱湯弾丸の連射。直撃を受けた部位から湯気が立ち上り、サイクロプスの岩のような皮膚が次第に崩れていく。
絶大な威力を発揮する熱湯マシンガンの猛攻に、結界の中の聖女様も周りの聖騎士たちも開いた口が塞がらない様子だった。
「す、凄いです……ヨシロウさん……!」
「こ、これは水魔法なのか……!?」
「いや、水魔法でこれほどの威力は見たことがないぞ! しかも熱湯だと!?」
「ブハッ……グモォオオ……」
驚愕の悲鳴が飛び交う中、ついに耐えかねたサイクロプスが、手にしていた巨大なこん棒をドスンと地面に落とした。激痛と熱ダメージで両腕がだらんと下がり、巨体が大きくよろめく。
「よし……出番だぞ!」
俺が熱湯機関銃の連射を止め、後方へ叫んだ。
「ああ……ヨシロウ」
湯気の中から進み出てきたのは、長剣を凛と構えたリリシアだった。その瞳からは静かながら極度に練り込まれた闘志が感じられる。
「闘気の集中は終わったか?」
「当然だ、この時の為にずっと溜めていたのだらな……」
彼女は深く息を吐き出し、残された全闘気をその銀色の刃へと集約させていった――