異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
長剣に凝縮された銀色の光が、眩いばかりの密度で輝きを増していく。
次の瞬間、空気がスン……と一瞬だけ静まり返った。
俺が気づいた時には、すでにリリシアの姿はサイクロプスの眼前にまで移動している。踏み込みの足音すら置き去りにする超絶的な神速。
「―――――聖光剣一閃《セイクリッド・スラッシュ》!!」
一筋の閃光が巨体の胴体を一閃した。
一秒遅れて、ズザァアアアッ! と空気を引き裂く衝撃波が弾け、サイクロプスの巨大な胴体が真っ二つにズレ落ちる。巨獣は悲鳴をあげる暇もなく地に倒れ伏し、激しい地響きと共に動かなくなった。
「ふぅ……」
リリシアが剣を収め、息を吐き出す。
その瞬間に全身の糸が切れたように、彼女の膝がガクリと崩れた。全闘気を放出した反動で意識を失いかけている。
「うおっ、リリシア!?」
俺は慌てて彼女を抱き留めようと手を伸ばした――のだが。
ポスンッ。
俺の手が届くより一瞬早く、何とも可哀らしい音が響いた。
結界を解除し、足早に駆け寄っていた聖女エリーナ様の腕の中にリリシアがすっぽりと収まっていたのだ。
「よく頑張りましたね、リリシア」
聖女様は優しく微笑みながら、自分より一回り大きいリリシアの背中を温かく抱きしめる。
「ううぅ……エリーナざまぁ……っ」
リリシアは聖女様の胸に顔を埋め、涙声で甘えるように小さく鼻を鳴らした。普段は強がりで男勝りなリリシアだが、聖女の前では今まで積もっていた感情が溢れでたのだろう。
いずれにせよ……これで窮地は脱した。
一泊置いて、まわりから歓声が響くのであった。
◇◇◇
「――――
サイクロプスの恐怖が去り、落ち着きを取り戻した現場で聖女様が膝をついてシスターのロイノさんに手をかざしていた。 柔らかい緑色の光が足を包み込むと、みるみるうちに痛々しい腫れと傷が塞がり、足が元通りになっていく。
おお……すごいな。魔法ってのは本当に奇跡みたいだ。
「あ、ありがとうございます……! 聖女様」
「大事に至らず良かったです。ですが外傷は治っても、疲労や痛みは完全に消えていませんからね。無理は禁物ですよ」
「はいっ!」
聖女様の手をギュッと握り、元気よく返事をするロイノさん。リリシアの時といい、この聖女様は本当に周りの人たちから慕われているのが伝わってくる。
「にしても……とんでもない魔物だったなぁ。思い出すだけで背筋が寒くなるぞ」
俺は真っ二つに裂けたサイクロプスの巨体に視線を落としながら、身震いした。
「そうですね……私たちもまさかこの森にサイクロプスが出るなど、正直想定外でした」
聖女エリーナが少し表情を曇らせる。
話を聞くと、聖女一行は中央教会の指示でこの森の定期調査に来ていたらしい。本来なら危険な魔物も出ない簡易的な調査のはずだったのに、いきなりサイクロプスに襲われたのだ。
「聖女様……これはもしかして、ダンジョンに異変が起きているのでは……?」
側にいた女性聖騎士の一人が、深刻な顔で呟いた。
「ええ……魔王復活の予兆でなければいいのですが」
「んん? 魔王が復活すると、ダンジョンに異変が起こるのか?」
俺が首をかしげると、聖女様が丁寧に説明してくれた。
「はい、ヨシロウさん。魔王が復活する場所はダンジョンの最深部と言われています。魔王が目覚めるとその魔力に引き寄せられるようにダンジョンが活発化し、魔物が増えていくのです」
むろん速攻で魔物が地上へ溢れ出すわけではなく、最初はダンジョンの奥底でじっくりと力を蓄えていくらしい。
「それが最終段階になってしまうと……」
「なると?」
「ダンジョンから魔物が溢れ出します」
つまり
なるほど、魔王とダンジョンってのはそういう関係だったのか。
「あ……待てよ。そういえば「魔王が復活した」がどうのって、誰かが言ってたな……」
「え……っ!? ヨシロウさん、そ、それは一体、誰が言っていたのですか!?」
聖女様がビクッとするほどの勢いで食いついてきた。綺麗な顔が迫ってきてちょっと緊張する。
「えっと……なんちゃら宰相」
「ガストール様……でしょうか!?」
「そうそう、そのガストールって人」
するとリリシアが、横からガバっとその顔面を近づけてきた。
連発の美顔急接近である。
「ちょっと待てヨシロウ。なんでお前が宰相閣下と面識があるんだ?」
「いや、俺はなんか足元に光る魔法陣みたいなのが出て、そのままこの世界に呼び寄せられたんだよ。王宮の広場みたいなところで、その宰相のおっさんに説明を受けたんだ」
「もしかして……ヨシロウさんは『召喚の儀』によって、異世界より来られた方なのですか?」
聖女様がそのかわいらしい目を見開き、その場にいた全員の視線が俺に集中する。
え、なになに。怖いんですけど……
「てことは……」
「「「「「ヨシロウ(さん)は……勇者様ぁあああ!?」」」」」
全員の声がぴったりと重なった。
「召喚の儀といえば、古来より魔王討伐の為に勇者様を召喚する儀式ですよ!」
「勇者って、おっさんだったのね!」
「あの不思議なスキル……勇者って湯気が出るのかしら!」
あ、なんか色々誤解が発生しだしたぞ。
「ヨシロウ、なんで早く言ってくれなかったんだ!」
「違う違う! 俺はただの39歳の銭湯好きのおっさんだ!!」
俺はぶんぶんと手を振って全力で否定した。本物の勇者は俺と一緒に召喚されたキラキラした高校生たちだ。俺はただ巻き込まれて、用済みとして追放されたおっさんである。
ってことをかいつまんで説明した。
すると、事情を聞いたみんなは速攻で納得してくれた。さすがおっさん属性。勇者とは無縁の証明が容易いぜ。
「いずれにせよ勇者様たちが召喚されたと言う事は、魔王も復活したと言う事。そして、ダンジョン深部へ魔王が完全に力をつける前に討伐に行くということです」
1000年前の
ちなみに聖女エリーナは、王国で『勇者召喚の儀』が行われたこと自体を一切知らされていなかったそうだ。
「召喚の儀に、国王陛下はいらっしゃいましたか?」
「いや、王様の姿はなかったな。全部ガストールって宰相が仕切ってたぞ」
「くっ……ガストール宰相め! この機に乗じて一気に自分の娘を押し出すつもりだな……っ!」
女性聖騎士の1人が怒りに拳を握りしめた。
話を聞くに、実はガストール宰相の娘も「聖女」の適性である聖属性魔力を発現させており、エリーナを勝手にライバル視しているらしい。
宰相は自分の娘に勇者たちとパーティを組ませて魔王討伐の手柄を立てさせ、将来的に王国への影響力を強めようと画策しているのだとか。
だからこそ、国民からの人気が高いエリーナには勇者召喚の事実すら伏せられていたというわけだ。
「そんな……! エリーナ様は連日、寝る間も惜しんで聖女の務めを果たしているというのに! 宰相の奴、国の有事にこのようなことをするとは……!」
リリシアが憤怒の形相で声を荒げる。
「リリシア、言葉が過ぎますよ。それに……わたくしも、今後いつまで聖女のお役目を果たせるか分かりませんし……」
エリーナはどこか陰のある表情で伏し目になり、自身の胸元をギュッと握りしめた。
噂通り、聖女様の聖なる力が弱まっているという話は本当なのかもしれない。
にしても……
政治のドロドロした思惑と、少女が抱える純粋な苦悩。
……まあ、社畜時代にも派閥争いや上司の嫌がらせ、足の引っ張り合いなんて腐るほど見てきたが、異世界でもやってることは変わらんな。
空を見上げるといつの間にか陽は落ちかけ、森全体が暗い赤紫色に染まり始めていた。
よっしゃ、頃合いだな。
「よし、積もる話もあるだろうが……まずは入ろうぜ」
「え……? 「入る」とは……ヨシロウ様?」
聖女エリーナが首を傾げる。
どのみち日も落ちてきたし、全員怪我やら体力・魔力切れやらで満身創痍だ。
入る、と言えば……これしかないだろ。
「セウ……やるか!」
「はいで~~す、ご主人様~ワクワクタイムのはじまり~♪」
俺は胸を張り、森の開けた空間に向かって一気にスキルを発動させた。
「―――――【銭湯(通常)開店】!!」
――――――ドズゥゥゥンッ!!
「「「「「ええぇええええ!!」」」」」
夕闇の迫る鬱蒼とした森の中に、突如として地鳴りのような重低音が響き渡る。
空間が歪んだかと思うと、そこには煙突を誇らしげにそびえ立たせた、立派なレトロ銭湯がドカンと出現した。入口には風情ある「ゆ」と書かれた暖簾がパタパタと揺れている。
「な、ななな、なんですかぁ! 森の中に建物が生えましたよ!?」
冷静な聖女様の目が極限まで開かれる。
「よし……みんな行くぞ!」
「はいは~い「温井の湯」開店で~~す♪」
呆然と立ち尽くす彼女たちを横目に、俺はニッコリと笑って銭湯の暖簾をくぐったのだった。