異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
ふぅ……。
体内に宿る聖なる力の源泉が微かに軋むのを感じる。
間違いなく私の力は落ちています。
私は小さな田舎領主の娘に過ぎませんでした。特別な才能があったわけでもありませんが、魔法が大好きな女の子でした。
屋敷には大した蔵書もありませんでしたが、それでも小さな書庫があり私は毎日のようにそこに入り浸って魔法関連の本を読み漁っていました。
ですが残念なことに、私には生まれつき魔力がほとんどありませんでした。ですからどれだけ本を読んでも、それらはすべて私の妄想の中だけの「魔法」だったのです。
ある日のこと、私は心に大きな傷を負うことになります。隣町へ向かったお母様が森で魔物に襲われたのです。無数の毒針を飛ばす恐ろしい魔物でした。一命は取り留めたものの傷口から入った毒と痛みに何日も苦しむお母様の姿を見て、私は自分の無力さを心から呪いました。
田舎領主町にある解毒剤や、解毒魔法はほとんど効果を発揮しない日々が続ます。
本で読んだ聖女様の聖解毒魔法ならば、何とかなるかもしれない……でも私は使えない。
なんとか聖女様をお呼びできないかと正教会に使いの者を送っている最中に、母はこの世を去った。
それからしばらく経って、転機が訪れたのは、私が十歳の時でした。
突如としてあふれ出てきた光。それは、聖女にしか扱えない魔力、「聖属性魔力」。
私はその日、聖女になりました。
凄く嬉しかった。本の中でしか想像できなかった奇跡の魔法で、人々を救うことが出来る。
そして……
お母様を失うような悲しい思いをする人を、この世界から一人でも減らしたい。
その強い憧れと誓いが、私を今日まで突き動かしてきました。教会の要請はすべて受け入れ、追加で自分に何ができるのかを問い続けながら、この7年間ただひたすらに走り続けてきたのです。
ですが私はもう聖女としては……
思えば、自分の限界を無視して焦りすぎていたのかもしれません。
それを何よりも残酷に思い知らされたのが、今日という日でした。 本来、このような場所に出現するはずのない上位魔物サイクロプス。その巨大なこん棒から繰り出される容赦のない一撃を受け止めるには、私の疲弊しきった結界はあまりにも脆く弱り切っていました。
もしもリリシアや、あの不思議な力を持つヨシロウさんたちが駆けつけてくれなければ……私はロイノたちの命までも、この森で散らせてしまうところだったのです。
私は……もう、聖女失格です……
今まで成してきたことへの後悔はありません。
王都の教会本部に戻ったら、隠すことなく私の現在の状態を報告しなければなりません。
きっと……もう二度と、聖女として誰かの役に立つことはできないのでしょうね……。
そんな陰鬱な思考の渦に沈んでいた、その時でした。
「え、エリーナ様! はやく、はやく!」
「んふふ~~いいこと沢山教えてあげますから、はやく入りましょうね~♪」
「きゃっ!?」
不意に両手をグイッと力強く引っ張られました。鼻息を荒くしたリリシアと、怪しい笑みを浮かべたセウさんです。
ふふっ……ちょっと肩の力が抜けました。
そうですね。とりあえず今は難しいことは忘れて楽しみましょうか。
「あ、みなさ~~ん。中に入る前に、まずこれを飲んでくださ~い♪」
脱衣所でセウさんから手渡されたのは、ペットボトル?という透明な不思議な筒に入った冷たいお水でした。そのお水を飲み干して、ガラガラと引き戸を開けて浴室へ足を踏み入れると――
「まあ……とっても大きなお風呂ですね!」
湯気がふんわりと立ち込める広々とした空間に、私は思わず歓声を上げてしまいました。
「んふふ~~でしょでしょ~でも、お風呂に浸かるのは最後ですよ~~まずはこちらで身体を洗いますね~」
「ここで身体を洗うのですね……って、ひゃあ!? か、軽い……!?」
差し出されたツルツルとした黄色の小さな椅子を受け取った瞬間、私はその軽さに目を丸くしました。 不思議な素材でできた椅子ですね……木でも金属でも石でもない。一体何でできているのでしょう?
他の聖騎士たちやロイノも、セウさんの指示に従って椅子に腰掛け身体を洗い始めました。リリシアに至っては一度経験しているからか、手慣れた様子で身体を洗い始めています。なぜか顔が緩み始めているような。
しかし驚きはまだまだ続きます。
「ひゃっ! こ、これ、この銀の突起を押しただけで温かいお湯が出てきますよ!?」
「はいはい、そんなことで驚いてたらあとが持ちませんよ~」
ええぇ、これも十分驚きなんですが……
私の疑問など一蹴し、セウさんが当然のような顔で私の背後に回ってきました。
「は~い、まずはボディーソープからいきますね~♪」
「ちょ、ちょっと! 自分で洗えますから大丈夫です!」
「ダメで~す。セウが的確に洗わないと~疲労回復の効率が落ちちゃいますからね~」
ええぇ……どういうことですか?
「というか、なぜ私だけセウさんがべったりついているのですか!?」
「そりゃあ清楚な美少女聖女の身体をグフフして……じゃなくて、エリーナさんが一番全身に疲労が溜まってるからに決まってま~す。番頭少女としては見逃せませんからね~♪」
……なんか、言動がものすごく怪しいです!
本当にこの子を信じてもいいのでしょうか……っ!?
「ひゃんっ!?」
変な声でちゃった!
そして、背中に柔らかい泡が滑り込んできました。
ふあぁ……なに、これ……!?
このボディーソープとかいう泡、信じられないくらい気持ちいいです。王都の最高級石鹸をどれだけ泡立てても、こんなに優しく包み込まれるような感覚にはなりませんよ!?
それにセウさんの絶妙な手の動きが……す、すごいぃいいい。
はっ……いけない!
こんなことで取り乱しては……私は聖女なのですから!
「は~い、次はシャンプーいきま~す♪」
頭皮が絶妙な力加減でもみほぐされていきます。そして頭も徐々に泡立ってきて……
これ、頭の芯まで響くくらい気持ちいいぃ……!
しかも、野の花のようなとってもいい香りがします~♪
「うわ~~出るわ出るわ~~エリーナさん、身体も頭皮もバキバキに凝り固まってますね~働きすぎですね~以前のご主人様と同じ社畜ですか~?」
で、出るってなにがですか!?
そこまで不潔にしていたわけではありませんからね! 清潔さを保つことも聖女の必須項目なのですから!
という私の心の声にもお構いなしにどんどん進めていくセウさん。
「は~い、続けてリンスですぅ~~髪を綺麗に滑らかにしましょうねぇ~♪ にしてもこの銀髪グフフ~~」
な、何なのですか、この髪の一本一本にもみ込まれていくような濃密な快感は……!
セウさんの時折グフフ発言を気にする余裕もないぐらい気持ちいい。
頭の重みがスッと抜けていくような……ああぁ~す、すごいですこれ~~
って、いけない! 平常心を忘れるところでした!
こんなだらしない姿をリリシアに見られたら示しがつきません……って、ええ!
り、リリシア……!?
となりの席に目を向けると、リリシアが口を半開きにして「はひぃ~……」と完全にだらしない顔でデロデロに溶けていました。あの凛々しく情熱的な赤い聖騎士はどこへ行ってしまったのですか……!?
他の者たちも……なんかトロンとした目つきになってます。これがヨシロウさんの【銭湯】の力なのでしょうか。
「さ、洗い流しま~す。目をつぶってくださ~い。ざば~~ん♪」
温かいお湯が頭上から惜しみなく注がれ、泡と共にすべての汚れが洗い流されていきます。
あぁ……頭も身体も、驚くほど軽くてスッキリしますぅうう……。
「はいっ、お身体洗いはおしまいです~♪」
「はぁ……はぁ……す、すごい……。でも、私はなんとか耐え切りましたよ……っ!」
肩で息を吐きながら私が胸を張ると、セウさんはニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべました。
「なんですかエリーナさ~~ん。もう今にも堕ちそうなお顔をしてますよ~ 聖女さまなのに~♪」
ええぇ、そんな顔になっているのですか?
い、いえ、これはセウさんの揺さぶりです。
「くっ……私は平常心です! 聖女ですから、この程度の刺激で屈したりはしません!」
「グフフ~~やはり聖女いいですね~~それでこそ堕としがいがあります~~。では、いよいよ本番いってみよ~♪」
「ええぇ!! い、いまのが……準備運動なのですか!?」
一体これから何をされるというのですか……
狼狽える私を余所に、セウさんは私たちを連れて浴室の片隅へと歩を進めました。
「な、何ですか……この小部屋は……?」
そこには浴室の中だというのに、木組みでできた小さな部屋がポツンと佇んでいました。木製ドアの横には【ドライサウナ(乾式)】と書かれた看板が掲げられています。
見るからに怪しいです……!
そもそも、お風呂場の中にさらに部屋があるなんて意味が分かりません!
「むふふ~覚悟はいいですか~エリーナさん?」
「わ、私は聖女です。な、なにが起ころうが平常心でしゅ……っ」
ううぅ……土壇場で噛んでしまいました……!
なんだかこの浴室に入ってからというもの、すっごく調子が狂います。心の奥底に隠していた弱音や素の自分が、ポロポロと表に出てきてしまうような気がして……。
「んじゃ、扉をあけてくださ~い♪」
ですが私は聖女。
きなさい、未知なる快楽! 私は絶対に負けませんよっ……!
私は意を決して、その怪しげな小部屋の扉を力いっぱい押し開けるのだった。