異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
「は~~い、まずはリリシアさんのラーメンで~す♪」
「こ、これが……ラーメン」
リリシアが目を丸くして湯気の立ちあがる丼を覗き込む。
澄んだ褐色に輝くスープの上には、ツヤツヤと光る黄金色の中細ストーレート麺に柔らかそうなチャーシュー、メンマ、ナルト、そして刻みネギ。見事なまでにオーソドックスな醤油ラーメンだ。
サウナで汗を流し切った体には、この出汁と塩分の効いた熱々スープが一番のご馳走なんだよな。
「あったかいうちに食べてくれ。遠慮はいらんぞ」
俺の言葉に促され、フーフーと息を吹きかけてから豪快に口へと運ぶリリシア。
おお、豪快な食いっぷり。いいねぇ。
「――っ!?」
一口すすった瞬間、リリシアの体が硬直した。目をカッと見開き言葉を失っている。
「ど、どうしましたリリシア?」
心配そうに覗き込むエリーナを余所に、リリシアはものすごい勢いで噛み締めスープをレンゲですくってゴクリと飲んだ。
「んんんんっ旨い……! 何だこのコクのある温かなスープ。そしてこの黄色い麺とスープの塩気が弾けて……手が止まらない! ズルズル……ハフハフ……美味い、美味いぞヨシロウ!」
凛々しい聖騎士の面影はどこへやら、夢中で麺をすするリリシア。さすがはサウナ飯としての醤油ラーメン、異世界でも大正解だな。
「は~~い、お待たせしました~カレー(普通)で~す♪」
続いてセウが運んできたのは、深皿に盛られたツヤツヤの白米とスパイスの香りが鼻をくすぐるルー。ザ・カレーである。
「なんだか……とっても食欲をそそられる匂いです」
エリーナと二人の女性聖騎士の前にカレーが並べられる。スプーンを持った手が少し震えているのは、未知の料理への不安と期待が混在しているからだろう。
エリーナが小さくひと口分をすくい、パクリと口に含んだ。
「……! 最初のひと口はほろ甘く濃厚なのに、後から心地よい刺激が追いかけてきます。ちょっとピリッとするけれど、すごく美味しいです!」
「本当ですね、聖女様。このスパイスの風味がクセになる。なんだかいくらでも食べられそうです!」
聖騎士たちも大絶賛で、すっかりカレーの虜だ。
サウナ後の味覚が研ぎ澄まされた体に、カレースパイスの刺激が見事に刺さっている。
そう、サウナ飯ではカレーもラーメンと並んでド定番だ。俺も若干ヨダレたれそう。
そんな平和で至福な食卓に、異質な一皿が投下された。
「は~~い、カレー(地獄)お待たせしました~~♪」
ズンっと置かれたロイノさんのカレー。
その瞬間、卓上の空気が凍りついた。
「あ、あの……ロイノのカレーだけ、なんだか色が根本的に違います……」
「な、何だあれは……近寄るだけで目がちょっとチクチク痛むのだが……」
エリーナとリリシアが思わず引き気味に地獄カレーの様子を伺う。ルーの表面からは、もはや食べ物とは思えない赤黒い湯気と殺伐とした香辛料の蒸気が立ち上っていた。
2人の言う通り、たしかにこいつはヤバそうだ。
おっさんたぶんいけない。
だが当のシスター・ロイノさんは満面の笑みを浮かべ、スプーンで豪快にその赤い塊をすくい上げると、バクりと口に放り込んだ。
躊躇なし!? なんかカッコイイ……
「んん~~~いいですね、これですこれ! とっても美味しいです♪」
まったく顔色一つ変えず、実に嬉しそうにモグモグと味わっている。
「だ、大丈夫なのですか……ロイノ……?」
「はい、聖女様。刺激もほどよく最高ですよ。はい、ひと口どうぞ」
「えっ? あ、はい……そこまで仰るなら……」
「あたしも少し貰ってみよう」
ロイノさんがあまりにも平然と美味しく頂いている様を見て、少しだけ警戒心が緩んだのだろうか。
恐る恐るスプーンの先にちょこんと「地獄ルー」を付け、ペロリと舐めるエリーナとリリシア。
直後――。
「「――――――!?!?」」
二人は完全に硬直した。
そして次の瞬間、猛烈な勢いで手元のお冷を掴み、一気に飲み干すと。
「ひ、
「し、舌が……舌が焼き切れる、ゴホッ! の、喉が燃えるゴホゴホッ!!」
エリーナは必死に舌に回復魔法をかけまくり、リリシアは涙目になって激しく咳き込んでいる。とんでもない辛さであることが二人の必死なリアクションから痛いほど伝わってきた。
が……。
「うふふ、少し刺激が強すぎましたかしら?」
当のロイノさんは平然とした顔で地獄カレーをバクバクと口に入れていく。
すげぇ……
「やりますね、ロイノさん。スキルレベル2の段階ではこの「地獄」が辛さの最大値でしたが……ご主人様のレベルが上がった時に、再び相見えましょう。ムフフ」
「ええ、喜んで受けて立ちますよ、セウちゃん。ウフフ」
ムフフウフフと火花を散らすセウとロイノさん。
……え、何その謎のバトル。頼むからもっと楽しく普通に飯を食ってくれ。
と、まあ色々あったわけだが。
「さーて、最後は俺の分だな」
厨房からセウが持ってきたのは――
きつね色にカラッと揚がった鶏の唐揚げ定食、ツヤツヤの白米に味噌汁。そして、表面にビッシリと水滴を纏った、キンキンに冷えた生ビール。
きたぁあああ!
これぞサウナ飯の真骨頂。いただきま~す。
まずは、キンキンのジョッキを握り締め、ググっと喉に流し込む。
ゴクッ……ゴクッ……ゴクッ……プハァァアアアッ!!
「くぅうううううっ! たまらんっ! 身体中に染み渡る!!」
この喉越し、このキレ、まさに生きていて良かったと思える瞬間だ。
続いて、揚げたての唐揚げをガブリ。
ザクッ……ジュワァアアッ!
サクサクの衣を破ると、中からアツアツでジューシーな肉汁が溢れ出す。醤油とニンニクの下味が効いた肉の旨味が口いっぱいに広がり、そこへ間髪入れずに温かい白米をかきこむ!
「うっま……最高すぎるだろこれ……!」
あまりの美味さに感動していると、周りからの熱視線に気づいた。みんながジッと俺の唐揚げを見つめている。
「ハハ、食うか? ひとつずつお裾分けだ」
「「「いいのですか!?」」」
唐揚げを一口かじったエリーナたちは、「サクッ、ジュワッ……!?」と目を輝かせ、言葉を失うほどの激旨体験に目がトロンとなった。
料理をすべて平らげ、お腹も心も完全に満たされた俺たち。
「ここは……天国なのでしょうか……?」
エリーナが恍惚とした表情で天井を見上げる。
「もしかしてあたしたち実はサイクロプスに倒されていて、ここは死後の世界なのでは!?」
真顔で恐ろしいことを言い出すリリシアに、俺は呆れて笑った。
「なに言ってるんだ。ここは現実世界だよ」
さて、満腹になったところで、銭湯の真の締めといこうじゃないか。
俺はセウに合図を送り、キンキンに冷えたガラス瓶を持ってこさせた。
「さあ、仕上げのフルーツ牛乳だ」
「まあ! ほんのり甘くて、酸味が広がって最高です……!」
「あああ……きたぁあああ! フルーツぎゅうにゅうぅ! よ、ヨシロウぅうう」
サウナ、お風呂、サ飯、そして仕上げのフルーツ牛乳。完璧すぎる銭湯フルコースに、ロビー全体が至福の溜息で包まれた。
その時だった。
ザバァァ~~ンッ!!
頭上から、まるでお湯が勢いよく溢れかえったかのような、清涼感あふれる豪快な大音響が響き渡った。
この音……ってことは。
どうやら俺の【銭湯】スキルは再びレベルアップしたらしい。