異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
「うそぉ……ご主人様、またレベルアップしちゃった」
いつの間にかいつものハチマキ姿に戻っていたセウが、ポカンと口を開けて「ええぇえ、ウソでしょ」みたいな顔をしていた。
「たしか、客の満足度がたまればレベルアップする仕組みだったろ? どう見てもみんな最高に満足してたじゃないか」
「いやいやいや~! そんな簡単にポンポン上がるわけないんですよぉ~~スキルの成長速度ってものがあるんですから!」
「そんなこと言われてもなぁ。あんなにトロトロに溶けて「天国だ~」なんて言ってるのを見たら、そりゃ満足度メーターも振り切れるさ」
「はぁ……ご主人様の妄想力とお風呂愛が凄すぎて、リアルな銭湯を遥かに上回る力を引き出しまくってるんですね……」
呆れたように溜息をつくセウ。
まあ俺にも詳しい原理は分からんが、聖女様という見るからにご利益のありそうな人が心の底から感動してくれたのが効いたのかもしれない。知らんけど。
とりあえず夜も遅いことだし、今夜は銭湯で一泊していくことになった。
翌朝。
「ではヨシロウさん、私たちは教会本部へと戻りますね。大変お世話になりました」
「ヨシロウ、また来るからな。絶対だぞ!」
聖女エリーナは今回サイクロプスの件を本部に報告するとのこと。
そして、名残惜しそうにしつつも引き締まった顔に戻るリリシア。
彼女は、正式に聖女エリーナの専属護衛聖騎士になるための試験を再チャレンジするとのことだ。
今回の件で成長を遂げたし、いい結果がでることを祈るよ。
「あ、そうだ。ヨシロウさんたちはこれから、王都近郊でお仕事をされるんですよね?」
「ああ、そのつもりだ」
そう、俺は今後について考えた。せっかく手に入れたこの素晴らしい銭湯スキルだが、ただ自分たちだけで楽しむのも勿体ないし、何より無収入のままではお金が尽きてしまう。
むろん銭湯スキルで飯食ったり寝泊りはできるが、それ以外にも貨幣は必要だ。
そこで俺とセウが思いついたのが――移動銭湯「温井の湯」としての営業だった。
さすがに土地を買う金はない。
だが俺のスキルはどこにでもドカンと銭湯を召喚できるので、王都の近郊を気ままに巡りながら商売をしてみようということだ。まあうまくいくかは未知数だが、とりあえずやってみる。
「では、町のお知り合いや仲の良いシスターたちにも宣伝しておきますね」
「おお……それはありがたい。たのむよ」
「はい! 私も必ずまた入りに来ますからね」
聖女エリーナのその天使のような微笑みに、おっさんの心は洗われるようだった。
そして――それから一ヶ月後。
「ありがとうございました~~またのお越しをお待ちしてま~す!」
暖簾の前で、元気に手振ってお客を見送るセウ。
あの後、聖女エリーナが本当に色々なところで口コミを広めてくれたおかげで、移動銭湯「温井の湯」の存在を知る人が少しずつ増えていた。疲れたシスターや、噂を聞きつけた近隣の町人がたまに暖簾をくぐってくれるようになったのだ。
ちなみに、王都の商業ギルドで営業許可も無事に取得済みである。 最初は「建物を移動させる商売!?」とギルド職員に不審がられたが、エリーナがわざわざ一緒にギルドまでついて来てくれたおかげで、何のもめ事もなく超スムーズに許可が下りた。聖女様の信用、マジで半端ない。
とはいえ……ぶっちゃけ客数はまだまだ少ない。
それに、俺たちが気まぐれに営業場所を変えるものだから、人々の間では「神出鬼没、幻のセントウ」として、都市伝説じみた噂が密かに広まりつつあるのだった。
◇◇◇
◇女子高生勇者アヤノ視点◇
「ハァ……ハァ……くっ……!」
聖弓から手をはなし、私は王城の訓練場の砂埃の上に膝をついた。
全身の筋肉が悲鳴を上げ、汗が目に入って激しく沁みる。足腰はガタガタで、もう指一本動かすのも辛いほどの疲労感だった。
異世界に無理やり召喚されてからというもの、私たち勇者候補は毎日朝から晩まで魔王討伐のための猛訓練を受けている。
ふと横を見ると、一緒に召喚されたクラスメイトのコウヤ君とリンナちゃんが訓練を続けていた。
二人とも肩で激しく息を荒げながらも、異様な眼差しで訓練用のかかしに聖剣と聖槍を叩き込んでいる。
……なにこれ
ここ最近、二人の様子が変だ。
以前のような冗談を言い合う余裕なんて欠片もなく、目の色を変えて鬼気迫る表情で訓練だけに没頭している。会話もほとんどが訓練の話。
「何をだらだらやってますの~~、アヤノ、立ち上がりなさ~い!」
耳を突く甲高い声が訓練場に響き渡った。
振り向くと、ピンク色のツインテールを激しく揺らしながら一人の少女が私に歩み寄ってきた。
ガストール宰相の娘であり、聖女であるララリンさんだ。歳は私と同じ16歳。
ズキっ……!
なんともいえない異様な雰囲気によって、私の身体と心に痛みが走る。
「そんな軟弱なことで魔王が倒せますこと~!? ほら、コウヤもリンナもあんなに励んでいますわよ!」
「ああ……わかってるよ、ララリン! 俺はもっと強くなって、魔王を……!」
「ええ、もっと……もっと鍛錬して強くなってみせるわ……!」
コウヤ君とリンナちゃんが、焦点の定まらない虚ろな瞳のまま呟く。
本当に二人ともどうしちゃったの?
こんなの、私の知ってる二人じゃないよ……
胸がキュッと締め付けられるような恐怖と孤独感が私を襲う。私達がいた世界、日本に帰るためには魔王を討伐しなきゃいけないのは分かってる。だけど、こんな風になるなんて絶対におかしい。
「オホホホ! ワタクシたち「ララリン聖女パーティー」が魔王を討伐して、今度こそあの忌々しい聖女エリーナよりワタクシの方が遥かに優れていることを王国中に見せつけてやるのですわ~~!」
ララリンさんは腰に手を当てて高笑いすると、ニヤリと怖い笑みを私に向けた。
「アヤノ、あなたも召喚された勇者でしょ」
「そうだなアヤノ、どうしたんだ? 早く聖弓を構えろよ」
「そうよ、どうしちゃったのよアヤノ? あなたらしくないわよ」
違うよ……
らしくないのは……
「……っ」
寒気がした。
「さあ~~どんどんいきますわよ~~アヤノも立ち上がりなさ~い!」
……その後も終わりの見えない地獄のような訓練が続き、すっかり日が暮れた頃。私はボロボロの身体を引きずるようにして、暗い王城の廊下を一人で歩いていた。身体中の関節が痛み、精神的にも限界は近い。
その時、二人組の城の兵士たちの話し声が耳に飛び込んできた。
『――そういえばお前、例の「幻のセントウ」って噂、知ってるか?』
『ああ、聞いたことあるぞ。シスターをやってる妹が興奮気味に話してたな』
『なんでも、信じられないくらい気持ちいい魔法みたいな風呂に入れるらしいぜ』
『俺も行ってみてぇ。一体どんな凄い大魔導士様がやってるんだ? そのお店』
『いや……なんでも店主は、冴えないおっさんらしいんだがな』
――――え?
私の足がピタリと止まった。
私は無意識のうちに、兵士たちの前へと飛び出していた。
「あ、あのっ……その話、詳しく聞かせてもらえますか」