異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
移動銭湯「温井の湯」を開業してからというもの、俺は適度に働き美味しいご飯を食べ、毎日風呂に浸かるという日々を送っていた。
「おお、久々に来たな。この丘……」
やってきたのは王都の郊外、北に位置する見晴らしの良い丘だ。ここは召喚された王城から速攻で追放された日に、不安とちょっぴりの期待を抱いて王都を見下ろした思い出の場所でもある。
眼下に見えるドデカイ王都もそこそこ歩き回り、ある程度のおっさんマップは出来上がった。
馴染みの飲み屋もできたし、異世界の飯もちょくちょく食っている。俺なりに充実した日々といえよう。
そして王都とは反対側を向くと。
青々とした草原を風が吹き抜け、ゆったりとした空気が流れている。
「ふあぁ~~なんか今日は、商売抜きでまったりしたい気分だな」
俺がのびをしながら呟くと、隣にいたセウがジト目を向けてきた。
「もう~~ご主人様はまったく商売っ気がないですね~ぜんぜんギラギラしてないですよ~!」
「ギラギラねぇ……」
俺もサラリーマンの若い頃は、同期に負けまいとギラギラ営業成績を競い合っていた時期もあったっけ。だが、いつの間にかサービス残業と休日出勤の波に呑まれ、仕事のしすぎで心も体もすり減ってしまった。疲れ切った挙句、休日も仕事をする日々。
まあ、だからと言って休めるような職場環境ではまったくなかったんだが。
だが、今の俺には【銭湯】スキルがある。ぶっちゃけ食うと寝るには困らないし、好きな時にお風呂に入れる。だから、もう前の世界みたいに胃を痛めながらがむしゃらに働く必要はない。
「よし、決めた。今日はお休みにしよう」
「は~~い、ご主人様~」
「セウ、お前にも『休暇』を与える。今日はもう好きにしてくれ」
「ではセウはスキル空間に戻って、お菓子食べながらゴロゴロしま~す♪」
そう言うと、セウは光の粒子になってパンッとはじけるように消えていった。
さてと……俺もぶらぶら散歩でも楽しむかな。
いや、この静かな場所で銭湯を設置して、昼間から一人で贅沢にまったり長湯を決めるのも捨てがたい。
ひと汗かいてから入るか、今すぐ入るか。
前世では隙間時間をなんとか捻出して銭湯に駆け込んでいた俺にとって、これは究極に贅沢な悩みだ。
だが、二度目の人生はこれでいい。好きなことを出来る限り優先して、自分のペースで生きていく。
「とりあえず丘を降りて、銭湯を設置しやすそうな平地へ移動するかな」
気ままに足を動かし、鼻歌交じりで丘を下り始めた――その時だった。
んん……? この唸り声は……
低く、獲物を威嚇するような野獣の唸り声が風に乗って俺の耳に届いた。
ブラックウルフのようだな。
俺は足を速めて、丘を駆け下りる。
王都とは反対側に広がる平原が視界に入ってくると、予想通りの光景が広がっていた。
「「「グルゥウウ……」」」
やっぱりブラックウルフだ。それも10匹近い群れ。視線を巡らせるとその群れに囲まれて、小柄な人影がひとつ孤立していた。
ここからじゃ良く見えないが、なんか見た覚えのあるような……
その人影がスッと足を開いて構えを取った瞬間、眩い光が収束し美しい光の弓が姿を現した。
「―――――月華散弾矢《ルナ・クラスター・アロー》!!」
光の矢が放たれる。
空中で放たれた一本の矢は、まるで大輪の花が咲くように無数の光の矢へと分裂し、襲いかかろうとしていたブラックウルフたちの群れへと降り注いだ。
「「「ギャウンッ!?」」」
ブラックウルフ数匹が光の矢によって、地に崩れ落ちる。
おおぉ……すげぇ。なにあれ、魔法か? それともリリシアが使ってた【闘技】ってやつか?
いずれにせよ、こりゃ助太刀なんて不要っぽいな。
実を言うとおっさんもこの数か月で、魔物をちょくちょく討伐していた。ブラックウルフ数匹程度なら自力で対処できるくらいの自信はついている。
だが、目の前の少女の技は段違いだ。俺が立ち入る隙なんて――と思った、次の瞬間。
「ううっ……」
人影は再び弓を構えることができず、その場にぺたんと膝から崩れ落ちてしまった。弓が光の粒子となって消えていく。疲労かあるいは魔力切れなのか原因はわからんが、その人影がふるえているように見える。
「「「グルウウウウッ!!」」」
好機と見た残りのブラックウルフたちが、凶暴な眼光をギラつかせてジリジリと距離を詰め始めた。
こりゃマズイ。
「―――――銭湯スキル【形状変化】!」
俺の手から出した水が凝縮し、長銃身のシルエット――ライフル型の熱湯銃が組み上がる。
すぐさま狙いを定め、トリガーを引くと。
―――バシュッ!!
「グルァアア!?」
弾丸状に圧縮された100℃の熱湯が、先頭のブラックウルフを撃ち抜いた。高圧と熱傷のダブルパンチを受け、魔物が横転する。
「グルゥ!」
「グロルゥ!」
突如横やりを入れてきた俺に対し残りのブラックウルフたちが狙いを切り替え、一斉にこちらに向かって突進してきた。さすがは狼型の魔物、足が速い。一瞬で間合いを詰めてくる。
だが、俺に接近したのは得策じゃないな。
「―――――銭湯スキル【熱湯(100℃)】!!」
俺は熱湯ライフルを解除すると同時に、カランを全開で押し込むイメージを脳内に叩き込んだ。
ドバババシャアアッッ!!
「「「ギャワァアアアン!?」」」
押し寄せたブラックウルフたちの頭上へ、滝のような大量の高温熱湯が豪快にぶちまけられた。直撃を受けた数匹が悲鳴を上げて絶命し、残りの個体は尻尾を巻いて一目散に逃げ出していった。
よし、おっさん魔物狩り、これにて無事終了だ。
熱湯の湯気が立ち上る中、俺はふぅと息を吐いて人影の元へと向かった。
「大丈夫か?」
ぺたんと地面に座り込んでいた少女に手を差し伸べる。
「そ、その声……もしかして、ヨシロウさん……?」
差し出された俺の手を見つめ、ゆっくりとこちらに顔を向けた少女。その顔と声には、見覚えがありすぎた。
そう、俺と共にこの異世界に転移してきた、女子高生勇者の