異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
「ええぇ……っ!? こ、これ、完全に日本の建物じゃないですか……!」
暖簾をくぐって一歩足を踏み入れたアヤノは、受付のレジに壁に掛かった丸時計やブンブン風をふりまく扇風機を目にして、目を丸くしながら興味津々であたりを見回している。
「俺の【銭湯】スキルは、銭湯の建物そのものを召喚できるスキルなんだ」
「建物自体を召喚って……す、すごすぎます……」
「アヤノさんは銭湯に行ったことはあるのか?」
「いえ、銭湯に入るのはこれが初めてです。でも……日本の設備ってなんだか懐かしくて、すごく安心します」
異世界に召喚されてからまだ数ヶ月しか経っていないはずだが、もう何年も経ったのかのような言葉をもらすアヤノ。連日の地獄のような訓練と精神的プレッシャーのせいもあるのだろう。
「そっか。まあ、今日は嫌なことを全部忘れて、ゆっくり楽しんでいってくれ。アヤノさん」
「はい! ありがとうございます。あと……さん付け、いらないです」
「え?」
「ヨシロウさん、私より普通に年上ですし……気楽にアヤノって呼んでください」
「分かったよ、アヤノ」
名前を呼び直すと、アヤノは嬉しそうに「はい」と笑った。うむ、素直に楽しんでくれそうだ。
そこへ、ニシシと不穏な笑みを浮かべたセウがアヤノのそばにピタリとつく。
「セウ、アヤノは日本人だし案内は不要なんじゃないか」
「なに言ってるんですご主人様、アヤノさんは銭湯初心者なんですよ」
「お、おう……」
「最高の銭湯タイムを過ごしてもらうためには、この番頭美少女セウは必要不可欠なんです」
「いや、まあそうかもしれんが……」
「それともご主人様がアヤノさんについていきますか?」
「はあぁ? んなこと出来るか!」
「ほらぁ~~なら異論はないですよね~♪」
ぬぅう……まあセウの言う事も一理あるか……
口のたつ番頭だな。
「大丈夫ですよヨシロウさん、一人で入るのは心細いですし。あ、セウちゃんって呼んでいいかな?」
「もちろんです~~ワタシもアヤノちゃんってよびますね~(……グフフ)」
なんか嫌な予感がすごくするが……たしかに、今のアヤノは一人よりセウがいた方がいいか。
「くれぐれも羽目を外しすぎるなよ」
俺はセウに釘をさしてから、男湯の暖簾をくぐった。
ちなみに、あれから【銭湯】スキルのレベルは上がっておらず、レベル3のままだ。やっぱりレベルが上がるにつれて、次に必要な「満足度」の要求値が増えているのだろうか。それとも満足度の「質」みたいなものが関係しているのか……。
ま、いいか。
レベルアップの詳細はよく分からんが、時間はたっぷりあるし焦る必要もない。たまにレベルが上がって、少しずつ施設が拡張されていくのを楽しむくらいがちょうどいい。
さて……今日も銭湯をたっぷり楽しむとするか。
毎日入れるって環境が最高すぎる。
鼻歌まじりに男湯の脱衣所で服をかごに入れていると――脳内に直接、あの能天気な声が響いてきた。
『もしもし~~ご主人様~♪』
ほらきた。いつもの念話だ。
俺が無言でスルーを決め込もうとすると、さらに念話を続けるセウ。
『もう~~なに照れてるんですかぁ~? あ、もししかして想像しちゃってます? JKですよ、女子高生! 清楚で可憐な美少女JKが今からお風呂に入るんですよ~♪』
セウの煽るようなニヤニヤ顔が目に浮かぶ。
『セウ、アヤノに変なことするなよ。彼女、ただでさえ心身共にまいってるんだからな』
『もちろん分かってますよ~~! 疲れたお客様を極上に癒すのが番美少少女のお仕事ですからね~んじゃ通信切りますね~グフフ……』
……まったく、セウのやつはおっさんをからかうのが好きだな。
俺は苦笑いしながらも思考を切り替え、無心で浴室の扉を開けた。
さあ、こっからは至高の銭湯タイムだ。
洗い場で桶と椅子を用意し、カランのお湯で身体を流し始めると……さっそく壁の向こうの女湯から、セウとアヤノの賑やかな声が聞こえてくる。
「ではでは~~さっそく、いっただきまーす♪」
「ひゃんっ! な、何するのセウちゃん!?」
「何って、触診ですよ~~番頭少女たるもの、直接お肌に触れて相手の疲労の状態を確認するのです~それぇ~~♪」
「やんっ! そ……そんなところまで揉まないで~っ!」
「あらあら……せっかくの綺麗な黒髪が、連日のストレスと乾燥でバサバサに傷んじゃって~こっちもセウにお任せあれ~~♪」
「ちょ……だからそこ、ダメだってばぁ……っ!」
「最高級のシャンプーにリンスを贅沢にもみ込んで~~グフフ、ピチピチJKの黒髪ぃ~~♪」
「ふぁあああ……っ……なにこれ……気持ちいい……っ」
…………。
俺は自身の耳をミュートにした。
よし。もう余計な声は聞こえない、聞こえない。俺は自分の銭湯タイムに集中するとしよう。
しっかりと全身を洗い軽く湯船に浸かった俺は、湯船を出て新たなエリアへと向かう。
途中、用意された館内着を着用して、扉をあける。
そこは湯気が立ち込める大浴場とは一変して、ほの暗く静寂に包まれた落ち着いた空間。ほのかに心地よい香りが漂っている。
室内には温められた天然鉱石のタイルがズラリと並んでおり、その温かい石の上にゴロリと寝そべる仕組みになっていた。
そう、これがレベル3で追加された新施設。
岩盤浴である。
温かい石板の上にタオルを敷き、仰向けになって身体を預けてみる。
「ふぅ……こりゃいい……」
お湯に浸かるのとはまた違い、下からじわじわと滑らかな熱が背中を通して全身へと伝わってくる。骨の髄までじんわりと温まり、じっとりとした心地よい汗が全身の毛穴から吹き出してくるようだ。
マジでたまらんな……
俺は至高の温もりに包まれながら、深い脱力感の中へと沈み込んでいくのであった。