異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
ふあぁ~~なにこれ……。
浴室の鏡に映る自分の髪に手ぐしを通した瞬間、私は思わず声を漏らしてしまった。
日本にいた頃、美容院でトリートメントをしてもらった時ですら、こんな感覚にはなったことなかった。髪の一本一本がふわっふわでサラサラ。おまけに頭皮が刺激されて、ずっとこびりついてた疲労が嘘みたいに消え去り頭全体が驚くほど軽くなっている。
連日の地獄のような訓練でドロドロに汚れていた髪の傷みも、綺麗さっぱり洗い流されていた。
「ムフフ~~どうですかアヤノちゃん~? セウの極上シャンプー技術は」
「うん、すっごく気持ち良かったよ、セウちゃん」
私の言葉を聞いて、ハチマキをきゅっと締め直したセウちゃんが、胸を張ってドヤ顔を決めています。ちょっと強引で言動がおっさんくさいところはあるけれど、私の身体をすごく丁寧にケアしてくれたのは間違いない。
あんなに重かった頭の中がスッキリして、久しぶりに視界が明るくなった気がする。
「セウちゃん。私ね、この世界に来てからずっと、頭の中にモヤがかかってるみたいな感じがしてて……」
「そうですね~~アヤノちゃんの頭~~なんかプンプンしてましたからね~」
「ええぇ!? それって……っ!」
え、どうしよう、私……臭かったの……!?
いくら勇者として過酷な訓練をさせられていたとはいえ、お風呂には毎日ちゃんと入っていたし、王城の上流階級が使う最高級の石鹸だって使っていたのに!
「どうしよ……ヨシロウさん、私のこと黙っててくれたのかな……っ!?」
たしかに面と向かってくさいとか言えないよね。私ってなんにも気付かずに、ヨシロウさんに気を使わせてたんだ……
血の気が引いていく私を見て、セウちゃんは慌てて手を振る。
「あ、プンプンって言っても普通の匂いじゃなくて、セウにしか分からない特殊なやつですよ~」
「え? どういうこと……? セウちゃんって、特殊な匂いフェチなの?」
「いやいや、何言ってるんですか~~セウは美少女フェチですよ~~! ピチピチで可憐な美少女のすべてを愛する番頭少女ですぅ♪」
「えっと、そういうのは今いいから……」
おっさんモードに入ろうとするセウちゃんをグッと引き留める。
「もう~、せっかちJKさんなんだからぁ~~。えーっとですね、なんか変なものがアヤノちゃんの頭に染みついてたんですよ。精神に悪影響を及ぼす不快な異物ぅ? う~ん、呪いって言った方がしっくり来るかなぁ~~」
「えっ……?」
なんかテンション軽めでサラッと怖い事言った……
呪い……? 精神に影響……?
「なのかはセウにも分かんないですけど~~セウの特製シャンプーで綺麗サッパリ洗い流したから、もう何の影響も残ってませんよぉ~~♪」
「せ、セウちゃんのシャンプーって、そんなことまでできちゃうんだ……」
「あったり前です! セウは全お風呂系スキルの頂点に立つスキルガイドですよ~! 見つけられない汚れや、落とせない汚れなんてありませんからね~~」
すごい……。ヨシロウさんの【銭湯】スキルから生まれたセウちゃん、凄すぎる。
あとお風呂ってスキルそんなにいっぱい存在するんだ……
だけどセウちゃんの言葉を聞いて、私がずっと感じていたあの気味の悪いモヤモヤの原因が、洗脳や精神干渉のような異物だったとしたら。
コウヤ君やリンナちゃんも。
あんな急に人が変わったみたいに狂気じみてしまった二人。その原因がわかるかもしれない。
「はいはい~~神妙な顔をした美少女の表情も大変そそられますけど、今はぜ~んぶ忘れてリラックスの時間ですよ~~さあ、まずは湯船に入りましょ~♪」
「あ、うん……っ!」
深く考え込みそうになった私を、セウちゃんが優しくお湯へと誘導してくれた。
パチャっとゆっくりと音を立てて、広々とした湯船の中に身体を沈めると。
「ふあぁあああ~~~っ」
思わず口から変な声が漏れてしまった。温かいお湯が全身を包み込んでいく感覚。王城にあった豪華だけど落ち着かなかった大理石のお風呂とはまるで違う、どこか懐かしくて、全身の力を根こそぎ抜いていくような至高の温もりが身体の芯まで染み渡っていく。
なにこれ……幸せすぎる……!
「ふふふ、良い顔しますねぇ~~。さあさあ、準備運動はこのくらいにして~~いよいよ本番いきますよ~~♪」
「ええぇっ! い、今までのは準備運動!?」
ちょっとまって、いったん休憩しないとこれ以上気持ち良くなったら、私おかしくなっちゃう!
という私の抗議は聞き入れられず、セウちゃんが顎にて当ててう~むと唸っている。
「サウナで汗を流すのも良いですが、今日のアヤノちゃんの体調と心の疲労を考えると……岩盤浴にしましょう~♪」
「私の体調まで分かるの?」
「そりゃあ、さっきJKの柔らかいお肌と身体を存分に堪能しましたからねぇ~グフフ♪」
あれって本当にセウちゃん能力なんだ、ふつうにセクハラされているようにしか思えなかったけど……
私はセウちゃんが用意した岩盤浴着を受け取り、大浴場の奥にある静かな別エリアへと向かう。
扉を開けると、そこには落ち着いたアロマの香りが漂うゆったりした空間があった。室内には、平らで美しい石のタイルがズラリと敷き詰められている。
「ここに横になれば良いのかな……?」
大判のタオルを敷き、その上に仰向けになってゴロリと身体を預けてみた。
「ふ、ふはぁ……」
背中から、じんわりと温もりが押し寄せてくるぅ。
お湯に浸かるのとはまた違う暖かさ。温められた鉱石から放たれる熱が皮膚だけでなく、身体の奥深くにまでじんわりと染み込んでく感覚。
「はぁ……気持ちいい」
「は~い、これで体に溜まった疲れも心の重苦しいモヤモヤも、全部汗と一緒に流れ落ちますよ~♪」
セウちゃんの言葉通り、数分も経たないうちに全身から玉のような汗がポタポタと溢れ出してきた。
あ……これ。
嫌な汗じゃない。
汗が湧き出せば湧き出すほど、異世界に来てからずっと私を苛んでいた「恐怖」「孤独」「プレッシャー」「不安」といった泥のような感情が、汗と一緒にドクドクと体外へ吐き出されていくような不思議な感じがする。
そして、普通に気持ちいい。
うんん、普通じゃない。
なに……これ……っ。時間がたつほど気持ち良さがあがってくぅうう!
身体が信じられないくらい軽くなっていく。
まるで重力から解放されて、温かい雲の上にプカプカと浮いているような究極の浮遊感。
汗をかいた後は一度外に出て、冷たいお水をゴクゴクと飲み干し、再び岩盤浴へ――。
じわじわと温まる鉱石の上で、身体の底から生まれ変わっていくようなデトックスの快感。これを贅沢にも3セット繰り返した頃には、私の心身は完全に解きほぐされていた。
最後にもう一度温かい湯船に浸かって、脱衣所へ戻り外の空気にあてらえた瞬間――
「フハぁああぁぁああ…………♡」
「は~い、JKの♡頂きました~~これで完全にととのいましたね~♪」
セウちゃんがニッコリと微笑みながら言う。
ととのう、あ、それ聞いたことがある。
これが……これが「ととのう」ってことなんだ!?
頭の中を覆っていたモヤが嘘みたいに吹き飛んで、視界が一気に鮮やかになり完全に目覚めた感じ。
ああ……私、知ってしまった……。
こんなの……こんなの、もう絶対に病みつきになっちゃうよぉおお~~~っ!
こうして異世界の女子高生勇者は「ととのう」に目覚めるのだった。