異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
銭湯から上がってきたアヤノは、ロビーの一角にある休憩スペースのたたみの上にコテンと横になると、ものの数秒でスースーと心地よさそうな寝息を立て始めた。
「ハハ、よほど疲れてたんだな」
俺は脱衣所から持ってきた毛布をそっと肩までかけながら呟いた。
お風呂上がりでほんのり赤みを帯びた肌、きめ細やかなツヤを取り戻した長い黒髪にすやすやと揺れる長いまつ毛と華奢で小さな身体。勇者と祭り上げられてつらい日々を送ってたようだが、今の彼女は普通の可愛らしい高校生そのものだった。
畳の爽やかな草の匂いに、日本を思い出したのか心底安心したのだろう。
いまはゆっくり休んでくれればいい。
しばらくすると、パタパタと足音を立ててセウが奥から戻ってきた。
「ご、ご主人さまぁ! JKの服を洗濯機にいれてきましたよぉ(ハァハァっ)!」
「おい、なんで服を洗濯機に入れるだけでそこまで息を荒くして興奮してるんだよ」
「アヤノちゃんの装備って、なんか制服を基調としたデザインでぇ~~なんかなんか良かったですぅ」
いや、んなこと聞いてないけどな。相変わらずの変態番頭である。
「まあいいや。俺も畳の上でゆっくり横になるかな」
マンガ本でも読もうかとロビーの隅にある古い本棚に手を伸ばそうとすると、セウがニシシと怪しげな笑みを浮かべた。
「ご主人様~~セウが見てますから、もう一回お風呂に入ってきたらどうですか~?」
「え? マジで?」
「ええ、もちろんですよ~。アヤノちゃんは初銭湯でしたし、ご主人様も気を使って早めに上がって来たんでしょ? 実はまだまだ入り足りてない顔してるじゃないですかぁ~」
図星だった。アヤノに何かあっちゃいけないと思って軽く流して上がる程度に抑えていたんだが。
「んじゃ……お言葉に甘えて、俺はちょいとサウナセットでも行ってくるか」
「は~い。セウがアヤノちゃんをしっかり見てるから安心して行ってきてください~い……グフフ♪」
いや、なんか安心できないな……その「グフフ」って顔。
「念のため言っておくが、アヤノに変な悪戯しちゃダメだぞ」
「もう~~当り前じゃないですかぁ~なにかあったら念話で呼びますから、さっさと行ってきてください。ほらほら、はやくはやく~!」
まあ、セウも口は悪いし変態っぽい言動は多いが、なんだかんだで根は面倒見の良い奴だからな。一線を超えるような真似はしないだろう。
「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」
俺はタオルを肩にかけ、再び男湯へと向かった。
◇◇◇
「ふぅ~~」
サウナ、水風呂、外気浴をバッチリ3セットこなし、身体の奥からポカポカの状態でロビーへ戻ってきた俺。
だが、なぜかセウが両目をウルウルさせてベソをかいていた。
「ど、どうしたセウ! アヤノになんかあったのか!」
「ご、ご主人様ぁ……セウがぁ……アヤノちゃんのピチピチな身体を楽しもうと思ってたらぁ……グスッ」
「いや、楽しもうとするな」
「なんか~~よく分かんない結界みたいなのが自動でバチィンッて発動してぇ~~~全然楽しめなかったんですぅうう~~グスンっ」
「それ泣くところじゃないだろ……」
まったく、しょうがない奴だな。
だが、言われてアヤノの方を見てみると、確かに彼女の身体の周りに薄っすらと光る半透明の膜のようなものが展開されていた。以前見た聖女エリーナの結界とはまた違うようだ。
「ご主人様も試してみてくださいよぉ~~ワンチャンいけるかもしれませんよ~」
「いやいや、俺が女子高生を触るわけにはいかんだろ」
「バレませんって! 可憐なJKにおさわりできる神機会なんて、もう二度と来ないですよ」
「俺を犯罪者に仕立て上げたいのか? 馬鹿な事言うんじゃない」
「もう~~このいくじなしーーっ!」
そんなアホなやり取りでワチャワチャと騒いでいると、毛布の中から「んん……」と可愛らしい声が漏れた。
おっと、騒がしくしすぎたか。
「あ、私……いつの間にか寝ちゃって……えっ! セウちゃん、なんで泣いてるの? どうしたの!?」
起きたばかりのアヤノが、涙目のセウを見て目を丸くする。
するとセウは、即座に涙を拭ってアヤノにしがみついた。
「え~~ん、アヤノちゃんがこのままもう起きないんじゃないかと思ってぇ~~心配で涙が止まらなくてぇ~~グスン」
「ええっ、ご、ごめんね。ただぐっすり寝てただけだから、大丈夫だよ!」
必死にセウを宥めるアヤノの背後で、俺と目が合ったセウが「てへぺろ」と可愛く舌を出してみせた。たくましい奴である。
しかし、あの防衛シールドみたいなやつは何だったんだろうな。
「あ、これの効果なんです」
アヤノが胸元から小さなペンダントを取り出して見せてくれた。美しく透き通る青い魔石があしらわれた、どことなく気品あるアクセサリーだ。
「このペンダントに眠りの女神さまの加護が付与されているらしいんです」
「女神の加護?」
「はい、といってもそこまで大きな力はでないみたいですが、睡眠中に自動発動します」
ああ、それでセウはバチィンッなったのか。
「これは……第三王女様からいただいたんです」
アヤノの話によると、その第三王女様は王城の中で数少ないアヤノの友人らしく歳も16歳と同い年だそうだ。王城で孤独だったアヤノの相談にちょくちょく乗ってくれていたらしい。
「勇者でしかも年頃の女の子、よからぬ輩に気をつけなさい」といってペンダントをもらったようだ。結界程の防御力がある訳でもないが、無防備な睡眠中のお守りにと。
「良い友達を持ったな。大事にしなよ」
「はい!」
元気に返事をするアヤノ。
すっかり目も覚めたようだな。
「んじゃ~~セウがブローしてあげますよ~」」
「え、ほんと。ありがとセウちゃん」
セウがドライヤーを手に取り、アヤノの髪を手入れし始める。温かい風と丁寧な手つきによって長い黒髪が、見違えるほどサラツヤな美しい髪へと整えられていく。
「わぁ……私の髪じゃないみたい……!」
感動するアヤノ。と、その時。
くぅうう……
ロビーに、可愛らしくもはっきりとしたお腹の音が鳴り響いた。
「……っ」
アヤノが顔を真っ赤にして、両手で顔を覆う。
「ハハ、お腹減ったろ。んじゃ、飯にするか」
「えっ……! ご、ご飯もあるんですか!?」
「もちろんだ。奥のお食事処へ行こう」
お食事処のテーブルに着くと。
「わぁ~~ヨシロウさん、すごい。いっぱい種類がありますよ! カレー、ハンバーグ、ラーメン……わぁああ、どれにしようかなぁ~」
メニュー表を前にして、アヤノの目が爛々と輝いている。そりゃそうだよな。久々に故郷の料理メニューを見たのだ。テンションが上がるのも当然だ。
散々悩んだ挙句、アヤノが注文したのは意外なものだった。
「私……おにぎりと、お味噌汁にします!」
「ん? ガッツリしたハンバーグとか唐揚げじゃなくて、それでいいのか?」
「はい。今はとにかく、これが一番食べたいんです!」
嬉しそうに頷くアヤノ。
「はいは~い。ならセウが、愛情込めて握りますよ~~♪」
コック帽をかぶったセウが揉み手のポーズでニシシと八重歯を見せた。
しばらくして運ばれてきたのは、海苔がパリッと巻かれた三角の塩おにぎり、梅、鮭の3つ。そして湯気が立つオーソドックスな豆腐とワカメのお味噌汁に、黄色いたくあん。
おおぉ、これはこれで良いな。ビジュアルがめっちゃ安心感ある。
「いただきます……!」
アヤノは両手を合わせると、おにぎりを両手で大事そうに持ち、口へと運んだ。
パクリ。
「……」
一口かみしめた瞬間、アヤノの動きが止まった。 そしてじわっと涙を浮かべながら、満面の笑みを咲かせたのだ。
「美味しい……っ! ご飯がふっくらしててお塩と海苔の味がして……お味噌汁も、すごく温かくてお出汁の味がします……っ!」
一口一口を慈しむように、本当に美味しそうに食べるアヤノ。久々の日本の味覚に、心が芯から満たされていくのがこちらまで伝わってくるようだ。
「ハハ、良かったな」
俺はそんなアヤノの幸せそうな食べっぷりを眺めながら、枝豆をつまみ、キンキンの生ビールを喉へとくいっと流し込んだ。
満足感に浸り、アヤノの笑顔をつまみに飲んでいたその時……
ザバァァ~~ンッ!!
頭上からお湯が勢いよく溢れかえったかのような、清涼感あふれる豪快な大音響が響き渡った。
久々のレベルアップである。