異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
「アヤノ、16巻読んだか?」
「あ、ヨシロウさん、もうちょい待ってください! いま、すごく良いところなんです……っ!」
「ですよね~アヤノちゃん。16巻は主人公の覚醒シーンで激熱展開ですからじっくり読んじゃいますよねぇ! どのように激熱かというとですね~~」
「こらセウ、ネタバレすな」
俺はセウのおでこをツンと小突いて制止した。
結局アヤノは泊っていくことになった。
陽も落ちてきており、なによりも彼女自身がここにもう少しいたいというからだ。
先ほど豪快に響き渡ったレベルアップ音によって、俺の【銭湯】スキルはレベル4へと到達した。今回新たに追加された施設のひとつが、個室宿泊ルームだ。ふかふかのベッドと清潔な寝具が完備されており、これでもう畳の上で雑魚寝しなくてもしっかり熟睡できるようになったのである。
……のだが。
結局のところ俺たちは、その快適なベッドへ移動することもなくこうして夜遅くまでロビーの休憩コーナーでマンガ本を読み耽っていた。
アヤノが本棚に並んでいた古臭いバトルマンガにどっぷりハマってしまい、かくいう俺も懐かしくなって一緒になって読み始めてしまったのだ。
こういうのって、読み出すと止まらない時がある。
もう一巻もう一巻だけと言いつつ、結局最後まで止まらない。
「ふふっ、時間の区切りもなく、お風呂に入って美味しいご飯を食べて、畳の上でゴロゴロしながらマンガを読む……なんだか夢みたいです」
「ハハ、まあたまにはこういう銭湯ライフも悪くないだろ」
誰に遠慮することもなく、ただ欲望のままにぐだぐだと流れる時間。前世の社畜時代には逆立ちしても味わえなかった至福の贅沢に身を任せながら、俺たちの夜はゆっくりと更けて行った。
◇◇◇
翌朝。
個室のベッドで目を覚ました俺は、「ふあぁ~~」と大きくあくびをしながら身体を起こした。やっぱりフカフカのベッドで寝るのは気持ちいい。
そのまま脱衣所へと向かい、着ているものをバサッと脱いで浴室の扉を開ける。
朝の清々しい光が差し込む大浴場でシャワーをサッと浴びてから、なみなみと注がれた温かい湯船へと足を滑らせた。
「ああぁ~~極楽、ごくらくぅ……」
思わず声が漏れ出る。
朝一番の静かな銭湯で身体の芯から温まるこの快感。長湯はせず、じんわりと身体が温まったところでサッと切り上げ、タオルで頭を拭いながらロビーへと戻った。
すると、そこにはすでに先客がいた。
「あ、ヨシロウさん。おはようございます!」
食堂のテーブル席に座っていたアヤノが、ぱっと顔を輝かせて挨拶してくれた。朝風呂を楽しんだ後なのかその頬はほんのり桜色に火照っており、昨日までの痛々しい疲労感は綺麗さっぱり消え去っていた。
「ああ、おはよう。朝風呂楽しめたようだな」
「はい! もう、すっごく気持ちよかったです!」
朝から実に清々しい良い顔だ。おっさんまで元気が湧いてくる。
そこへ、厨房からセウがトレーを抱えてやってきた。トレードマークのハチマキからぴょこんと出たアホ毛が元気よく揺れている。朝一から朝食を仕込んでおいてくれたようだ。
「はいは~い。朝風呂上がりのお客さま~お待たせしました! 朝ごはんですよ~♪」
ことん、とテーブルに置かれたトレーの上には、香ばしく焼き目のついたソーセージにハム、鮮やかな黄色い卵焼きとツヤツヤの白ご飯と味噌汁、そしてパック味付け海苔がセットされていた。
「わぁ~~なんだか中学の修学旅行みたいです♪」
「そうだな。こりゃ絶対美味いヤツだ」
なんというか和風と洋風が微妙に混ざり合った、宿泊施設の朝食ド定番ラインナップ。もちろん朝食ビュッフェや、趣向を凝らした朝食も良いのだが、こういう飾らない素朴な朝飯が一番腹に染みたりする。
「「いただきます!」」
二人で声を揃え朝食を口へと運ぶ。パリッとした海苔をご飯に巻いてかきこみ、ジューシーなソーセージをかじる。
考えてみれば、異世界に転移してからご飯はほとんど一人で食べていた(厳密にはセウとだが)
誰かと一緒に囲む朝食ってのもいいな。
そんな穏やかな朝のひと時を満喫していると――
「あれ? お客さんですね」
セウがピクッとアホ毛を立たせ、厨房から玄関の方へと視線を向けた。
「こんな朝一番にか?」
ここは王都の近郊ではあるが、ふらりと寄るにはそこそこ遠い。しかも平原のど真ん中だ。王都へ向かう途中の行商人か誰かが、噂の移動銭湯に気づいて立ち寄ったのだろうか。
「ちょっと見てきま~~す」
セウがパタパタと足音を立てて玄関の方へと向かっていった。
すると……
「――あああぁあ!? 朝から、なんかいい匂いがするぞ!」
ロビー全体に響き渡る、めちゃくちゃ聞き覚えのある声が飛んできた。
白銀の鎧を鳴らし、燃えるような赤い髪をなびかせてお食事処へ突進してきたのは――
「お、リリシアじゃないか」
「じゃないかじゃない! なんだそれは!? ずるいぞヨシロウ、あたしにも同じのをくれ!」
「リリシア。朝から声が大きすぎますよ」
「あ、しまった……ついヨシロウのご飯が美味そうで……」
背後から聞こえた凛とした声に、リリシアがシュンと肩をすくめる。
呆れたように溜息をつきながら姿を現したのは、きらめく銀髪と落ち着いた青い瞳を持つ少女――聖女エリーナだった。