異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
「ご無沙汰しております、ヨシロウさん」
「ああ、久しぶりだなエリーナ。元気そうで何よりだ」
暖簾をくぐって現れた聖女エリーナは、以前会った時よりもずっと顔色が良く、おだやかな微笑みを浮かべていた。その傍には聖騎士のリリシアと、シスターのロイノさんが控えている。
「あなたが……勇者アヤノさまですね」
エリーナは、俺の背中に隠れるようにして様子を伺っていたアヤノへと優しく視線を向けた。
「ひゃいっ!?」
急に振られたアヤノが、すっとんきょうな声をあげる。まさか、聖女様から直接名前を呼ばれるとは思っていなかったのだろう。
というか……なんでエリーナは、初対面のはずのアヤノが勇者だと知っているんだ?
エリーナの表情を見ると、何か込み入った事情がありそうな雰囲気だ。
……これは長くなりそうだな。
「ま、立ち話もなんだ。朝飯でも食っていくか?」
横を見ると、リリシアの口角から今にも涎が垂れそうになっていることだし。なにより俺たちも飯の途中だ。
「はいは~い、ではでは追加注文たまわりました~~♪」
セウが元気よく腕まくりをして、厨房の方へと入っていく。
「せ、セウ! あたしのはご飯を大盛りに……いや、特盛りにしておいて欲しいのだが……!」
「は~~い、食べ盛りの聖騎士さまですねぇ~~♪」
「そ、そんな食いしん坊みたいに言わなくても……っ!」
照れくさそうに顔を赤くしたリリシアが、厨房へ向かうセウの背中を恨めしそうに見つめた。いや、店内に入るやいなや「朝からいい匂いがする、あたしにもくれ!」と叫んでいた時点で、セウにいじられるのは目に見えていたんだがな。
「くっ……いや、最近どうにも食欲が止まらなくてな。身体の底から力が湧いてくるというか……」
「まあ、飯を美味しく食えるのは良いことだろ」
「ああ、聖女様の聖騎士たるもの、もっと鍛錬が必要だからな。そのためにはたくさん食べねば!」
「おお、リリシア。護衛聖騎士の試験、無事に合格したんだな」
「ああ、これもヨシロウのおかげだ! 銭湯に入って以来、ずっと体調も最高だし身体のキレが見違えるほど良くなったんだ!」
どうやらリリシアは俺たちと別れた後、目標だった聖女専属聖騎士の試験を受けて見事に合格を勝ち取ったらしい。
「よかったな、リリシア。おめでとう」
「ああ……ありがとう、ヨシロウ」
ずっと目標にしていた夢を叶えたんだな。知った顔が報われるのは俺も純粋に嬉しい。
「むぅ~~リリシアさ~ん、一人忘れてませんかぁ~? この万能番頭美少女セウにも感謝の言葉があっても良いのでは~?」
厨房からひょっこり顔を出したセウが口を尖らせる。
「もちろんだ。セウの美味い飯とシャンプーにも感謝している」
「でしょでしょ~~じゃあ今日の夕食はお祝いですねぇ~!セウが腕に寄りをかけてご馳走つくっちゃいますよ~♪」
「おおぉっ、本当かセウ!」
「……コホン」
盛り上がる俺たちの間に、聖女エリーナの小さく控えめな咳払いが挟まった。
リリシアがハッとして背筋を伸ばし、急に口をつぐむ。どうやら、ここからが本題のようだ。
「勇者アヤノ様、まずは……これをお納めください」
「は、はいっ」
エリーナの手から、アヤノへ通達のような書状が手渡された。羊皮紙の端に金箔の装飾が施された、やけに豪華で重々しい書状だ。
封を切り、中に目を通したアヤノの顔がみるみるうちに強張っていく。
「えっ……これって……っ!?」
「はい。突然のことで戸惑うお気持ちはよく分かります。ですが……そこに記載されていることは全て事実です」
「んん? どういうことだ、アヤノ。何が書いてあるんだ?」
俺が尋ねると、アヤノは青ざめた顔で俺を見上げた。
「はい、ヨシロウさん……私……ダンジョンに行くことになりました」
「ダンジョン? アヤノがか?」
「はい。アヤノ様には、私たち聖女エリーナパーティーの一員として、ダンジョン探索に向かうよう、王国より正式な命令が出ております」
エリーナがアヤノの代わりに言葉を補う。
話を聞くと、王国より教会本部へ「ダンジョン内部の異変調査」という名目で探索要請があったそうだ。しかも、聖女エリーナを名指しで「即刻出立せよ」という、嫌がらせのような無茶振り。さらに「同行させる勇者としてアヤノを指名する」という追加条件まで付いていたらしい。
「おそらくは……ガストール宰相の手回しかと思われます」
宰相……ああ、あの俺を王城からほっぽり出したおっさんか。俺もおっさんだけど。
「にしても大変なことになったな」
アヤノは事態がすぐにはのみこめない様子で、持ってたお茶をこぼしかけている。
そりゃいきなりダンジョン行けと言われたら、テンパるだろ。
「ところで、エリーナパーティーのメンバーは全員揃っているのか? もし外で待っているなら呼んで朝飯でも食わせてやれよ。ダンジョンに行くにしても腹が減っては戦えんからな」
「いえ……メンバーはこちらで全員です」
「……えぇ?」
どういうこと?
「いや、ダンジョンに潜るんだろ?」
「はい」
「異変調査ってことは、下手をすれば強力な魔物や最悪魔王と戦うかもしれないんだろ?」
「……はい」
それなのに、メンツはリリシア、アヤノ、サポーターとしてシスターのロイノさん、そして聖女エリーナ……たったの4人。
「そんな無茶苦茶な編成で、ダンジョンを探索してこいと?」
「…………はい」
なんじゃそりゃ……無茶苦茶すぎるだろ。
「くそっ……あの性悪宰相め!」
リリシアがテーブルを強く叩き、苛立ちの声をあげた。
「あたしたち先遣隊をろくな準備もさせずに送り込んで失敗させ、その後に勇者2人と自分の娘である聖女ララリンを中心としたパーティーを派遣して、満を持してダンジョンの魔王を討伐し手柄を総取りする魂胆なんだろう!」
ああ、そういえば宰相の娘も聖女だったな。 期待の聖女エリーナが失敗した難攻不落のダンジョンを自分の娘が鮮やかに攻略してみせる……国民や貴族に向けた、分かりやすい敵の失脚&自身の自画自賛のストーリーを描いているってわけか。
「だが、それならアヤノも宰相側の聖女パーティーにつけた方が都合が良くないか? 勇者は全員手元に置いておいた方が、計画の成功率は上がるだろ」
「大変言いにくいのですが……」
エリーナが言葉を濁すと、アヤノが自信なさげに言葉を重ねてきた。
「私……勇者の訓練でも一番遅れてましたし……それに、聖女ララリンさんにも嫌われてたから……」
なるほどな。
向こうはアヤノを戦力としてカウントしていないどころか、「いらない荷物」として処分したがっているってことか。だから失敗前提のエリーナ側へ押し付けた。
しかも、「勇者も同行していたのに失敗した」となれば、エリーナの無能さをアピールする格好の材料になる。腹黒い宰相の考えそうなことだ。
「ですが……宰相様も見誤っている情報がいくつかあります」
エリーナが毅然とした眼差しで俺たちを見つめた。
「まず第一に、わたくしの魔力はすでに全盛期以上に回復していること。そして……それは勇者アヤノ様も同じではないでしょうか?」
「あ……えっと、私……」
「ヨシロウさんの銭湯に入られたのでしょう? であれば、わたくしやリリシアのように、身体の不調や疲労などが取り払われ、潜在能力が引き出されている可能性はあります」
そういえば、エリーナもリリシアも【銭湯】に入ってから劇的に調子が上がっていたな。アヤノの疲労も銭湯できれいさっぱり流し落とされたし、戦力としては十分すぎるほどの伸び代があるってことか。
「それに、第三王女殿下リアロッテ様がのちほど陰ながら援軍を送ってくださるとのことです」
「えっ!? リアロッテさんとお知り合いなんですか」
アヤノが驚きで目を丸くする。
「はい、アヤノ様。あなたのことについては、姫様より情報を共有させて頂きました」
「あ……そういえば私、リアロッテさんにはヨシロウさんを探しに行くって話したことがあります」
「はい。昨日姫様にお会いした際、「アヤノはヨシロウさんを探すため、王都の北へ向かった」とお聞きしました。もしやと思い、以前私たちがヨシロウさんにお会いした北の丘へ向かってみたのですが……運良くこうして合流できました」
ああ、なるほど。アヤノが相談していた数少ない友人である「第三王女様(リアロッテ)」が2人を引き合わせてくれたってわけか。
「エリーナ様は人望が厚いお方だからな。教会にもある程度味方はいるし、王城だって宰相派ばかりではない。第三王女殿下とも以前から懇意にされているのだ」
リリシアが自分のことのように胸を張ってドヤ顔で補足してくれた。ふむ、援軍のあてがあるなら完全に孤立無援の絶望的状況というわけでもなさそうだ。
「さて……ここへ来た第一の目的は勇者アヤノ様と合流することでした。ですが、もう一つ本題が残っております」
「もう一つ?」
いや、もう十分すぎるほど盛りだくさんだったろ。あるとすれば、目の前に運ばれてきた朝飯を食うことくらいだ。
するとエリーナは、またしても懐から別の書状を取り出した。
え……何これ。
「こちらは、ガストール宰相様より直々に下された命令です」
宰相直々の指示……嫌な予感しかしない。
俺は差し出された紙面を覗き込み、そこに書かれた文字を音読した。
『勇者ヨシロウは、聖女エリーナパーティーに同行すること』
「……」
いや、俺は勇者じゃないんだが?