異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
勇者ヨシロウ……だと?
なんだそりゃ。俺は勇者じゃねぇし、どこからどう見てもおっさんだ。
そもそも、俺を役立たずのクソ扱いして王城からたたき出したのは、他ならぬあのガストール宰相だろうが。
追放しておいて急に勇者扱いで危険なダンジョンへ駆り出すのか? それとも、この機に乗じて余計な異世界人を、ダンジョンの魔物を使って闇に葬り去ろうとでもいうのだろうか。
まったくもって人を馬鹿にした話だ。
あまりの腹立たしさと呆れに、スキルから漏れ出た熱気と湿気で、俺の手に握られた宰相の書状がじんわりと湿り気を帯びてフニャフニャになっていく。
「……ヨシロウさんが王城でどのような扱いを受けたのかは、わたくしも聞き及んでおります」
そんな俺の胸中を察したのか、様子を伺っていた聖女エリーナが再びゆっくりと口を開いた。
「正直なところを申し上げれば、宰相様のこの指示はあまりにも理不尽で身勝手なものです。ですからヨシロウさんは探したが見つからなかったとして、この命令を無視していただくこともできます。ですが……それでも、敢えて言わせていただけるのであれば」
エリーナの透き通るような青い瞳が、まっすぐに俺の目を射抜いた。
「ヨシロウさんにパーティーの一員としてついて来ていただけると、とても心強いです」
一瞬、静かな時間が食卓を包み込んだ。俺は一呼吸置いてから、静かに彼女に尋ねる。
「……それは、宰相の指示としてではなく、エリーナ自身としてのお願いか?」
「はい、そうです。聖女エリーナとして、ヨシロウさんにお願いしています」
エリーナは一瞬の迷いもなく、即答した。
「ちなみに、俺に同行してほしい具体的な理由を聞いてもいいか?」
「はい。今回の探索は長丁場になりますので、当然ながらダンジョン内で何度も野営をすることになります」
「なるほどな。そこで俺の【銭湯】の出番ってわけか」
エリーナの話によると、ダンジョンは狭い通路ばかりではなく要所要所に広大な空間が存在するらしい。それだけの広さがあれば、俺の移動銭湯をドカンと設置することは十分に可能だ。
本来冷たくて薄暗いダンジョン内での野営は、心身ともにろくに休まらない。だが、そこに湯気の立つ温かい銭湯とふかふかのベッドがあれば話は別だ。疲労の回復度や士気の向上は探索の安全性に直結する。
「それに、ヨシロウさんは戦闘面でも非常に頼もしいですし……なによりも、ヨシロウさんが居てくださるだけで、わたくしたちはとても安心できるのです」
へぇ……おっさんのことを、そこまで評価してくれてたのか。彼女たちにとって俺を同行させるメリットは十分すぎるほどあるということだ。
「それから、危険すぎると判断した場合は躊躇なく即時撤退いたします。聖女エリーナの名にかけて、無謀な指揮でヨシロウさん、アヤノ様の命を危険に晒すような真似はいたしません。また……同行していただいたヨシロウさんには、きっちりお給金をお支払いいたします。これについては第三王女のリアロッテ様もご承諾済みです」
働かせる以上は、然るべき対価をきっちりと支払うということか。
もしこれが宰相からの依頼だったら、いくら金を積まれても蹴飛ばしていただろう。
だが、目の前で真摯に頭を下げるエリーナたちの願いなら――話は変わってくる。
「あと……なによりも、ヨシロウさんのお風呂は最高の癒やしです。間違いなくパーティー全体の士気が上がりますし、……その、かくいうわたくし自身も、また銭湯に入れるのをとても楽しみに思っております」
ふっと表情を緩めて本音を漏らしたエリーナを見て、俺の腹は決まった。
事情はどうあれ、この子たちは自分たちに課せられた過酷な運命から逃げず、大切なものを守るためにやれることを必死にやろうとしているのだ。
「最後に……万が一の事態が起きた場合は、わたくしが命を賭してでも、アヤノ様とヨシロウさんだけは必ず逃がしてみせます……っ」
「よし、その命を賭してってのはナシだ」
「え? ヨシロウさん……?」
気負いすぎるエリーナの言葉を、俺は手のひらを向けて優しく遮った。
「俺が同行する条件はふたつだ。ひとつは、全員無事に帰ってくること。もうひとつは……ダンジョンの中でもちゃんと銭湯を楽しめ。以上だ」
「ええぇ……ってことは、ヨシロウさん……!」
「ああ。俺も聖女パーティーの一員として、ダンジョンに同行させてもらうよ」
俺がそう宣言すると、エリーナの肩からスッと力が抜け安堵の大きな息が漏れた。その横でリリシアとシスターのロイノさんの顔にも笑みが浮かぶ。そして伏せ目がちだったアヤノも、ゆっくりと顔を上げて目元を緩めた。
「ってことだ、セウ。悪いが俺たちもダンジョン探索とやらに行くぞ」
「は~~い、セウはご主人様の決めたことにどこまでも従うまですぅ~~♪ っていうか、魔王なんてサクッと倒して、ご主人様を追放したあの宰相をギャフンと言わせてやるんです~~銭湯スキルが世界最強だってことを、思い知らされてやるんですぅ♪」
「ハハッそうだな。そりゃいい」
ハチマキから飛び出たアホ毛をブンブン揺らすセウを見て、なんだか怒りもスッキリ消えた。
「……よし。依頼を引き受けた以上、もう愚痴愚痴言うのはおしまいだ。ってことで堅苦しい話はこれで終わり。リリシア、いつも通りに戻っていいぞ」
「やったーー! これでダンジョン内でも毎日お風呂に入れるぞーー!」
リリシアが両手を挙げて歓声を上げた……が、すぐに目の前にいるアヤノの姿に反応してピクリと眉を跳ね上げた。
「あっと、これはちょとテンションが上がってしまっただけで……い、いつも通りのあたしは常に冷静なんだが!?」
「……フフッ」
さっきまで不安そうにしていたアヤノの口から、小さな笑い声が漏れ出た。
「くっ……ほら見ろヨシロウ! 勇者殿に変な誤解を受けたじゃないか……!」
「ハハ、良いことじゃないか」
ピリピリとした緊迫感は消え去り、お食事処にはいつもの温かく賑やかな空気が戻ってきた。
「よしよし、おっさんに出来るサポートなら何でもしてやるからな。みんな覚悟しておけよ」
こうして俺は聖女パーティーのお風呂要員として、彼女たちと共にダンジョンへ挑むことになったのだった。