異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
◇ガストール宰相視点◇
王都にある家敷の一室にて。
「どうだ、二人の勇者の状態は?」
部屋の片隅から進み出た黒衣の術師が、静かな声で報告を入れる。
「はい、ガストール宰相閣下。勇者コウヤ、勇者リンナともに「力の解放」は順調に進んでおります。洗脳の定着度も高く、薬の増量によって出力の調整も可能でございます」
「うむ。よしよし、ようやく駒が整ったか」
「ただ……度重なる強制解放と薬物投与により精神と身体への負荷が凄まじく、彼らの寿命は著しく縮まるやもしれません」
「かまわん」
俺は手に持つワイングラスを傾けた。
「魔王を討伐し、その後数年ほど生きながらえればそれで十分だ。その頃には、わしの権力は王国中に浸透しておる」
「ははっ、仰る通りでございます」
そういえば、魔王を討伐すれば勇者には帰還の途が開かれると言い伝えがあったか。
わしにとってどうでもいいことだがな。
このままいけば元の世界に戻ろうが、どのみち待っているのは死だ。
「それと……例の忌々しい小娘」
「は。聖女エリーナ隊はすでにダンジョンへと向かいました」
「よしよし、こちらも計画通りか」
聖女エリーナ。落ち目のくせに、教会内や国民の間での人望は未だに根強い。
聖女としての聖属性魔力も枯れ果てているというのに、我が娘ララリンを王国最高の聖女として祭り上げる計画の邪魔立てをしおって。
サイクロプスを討伐したという報告も届いてはいるが所詮は付け焼刃、最後の悪あがきに過ぎまい。あの小娘にもはやかつての力など残っておらんのだ。
くだらぬ持ち前の正義感からか、早急にダンジョン異変の探索隊組織を要求してきおったからな。だが、甘いわ。王国からのまともな戦力支援など一切与えん。まあ、ちょうどいいゴミ捨て場として、あの使えない出来損ないの勇者(アヤノ)をあてがってやったわ。
合わせて、わしを支持する教会内部の人間は要職に就いている者が多い。
聖騎士の支援もほとんど受けられないようにしてやった。
小娘が魔王復活に勘づいたことは想定外だったが……
この状況を最大限利用させてもらう。
「たいした成果もあげられずに逃げ帰ってくれば、それはそれでよし。もはやあの小娘の居場所など完全に失くしてくれよう。あるいは……そのバカげた使命感のためにダンジョン内で全滅するもよし。その時は葬儀のひつとつぐらいはあげてやろう。どちらに転ぼうと、わしの優位は一切揺るがん」
クハハハ、せいぜい死ぬまで我が娘のための露払いをしてもらうとしよう。
「宰相閣下。こちらの準備もあと少しで整いますぞ」
「うむ。我が娘ララリンを擁する、最強の聖女パーティーをダンジョンに送り込んでやる」
ん? そういえば……
「……あの召喚初日に追い出した、どうしようもない無能のおっさんもエリーナにつけたのだったな?」
「はい。ヨシロウという男ですな。一応、召喚された勇者として同行を命じる書状を聖女エリーナに持たせましたが」
ヨシロウ? そんな名前だったか、全く興味もない。
だが、クズにはクズなりの使い道がある。
「あの役立たずをつければ、ただでさえ貧弱なエリーナパーティーの足をもっと引っ張るだろう。それに召喚された勇者二人を同行させたということにもできる」
どこぞの道端で野垂れ死んでいるかもしれんが、仮に生き延びてエリーナに同行できたとしても……せいぜい荷物持ち程度しかできんだろうがな。
手元のワインを一気に喉に流し込んだ。
「グフフ……さあ、いよいよわしの時代が来る」
◇◇◇
◇ヨシロウ視点◇
「ヨシロウ、ちょっとこっちを手伝ってくれ」
「あいよ。ってか……けっこうな量の剣だな、リリシア」
「ああ、ダンジョン内ではいつ武器が損失するかわからんからな。予備は多すぎるということはない」
朝飯をたっぷり堪能した俺たちは、さっそくダンジョンへ向かう準備を始めていた。
馬車でこの近くまでやってきたエリーナたちだったが、ここからは魔の森に入りダンジョンへと向かうことになる。つまり徒歩移動ってことだ。
「にしても、かなりの大荷物だな」
地面の上に、どっさりと置かれた様々な探索物資。馬車の荷台から、リリシアとシスターのロイノさん、そしてエリーナが次々と荷物を降ろしていく。
「アヤノさん、こちらは王城からお預かりしてきたアヤノさんのお荷物ですよ」
エリーナが大きな布袋を抱えてアヤノへ渡した。
「わぁ~~エリーナさん、ありがとうございます!」
「いいえ、アヤノさん。お役に立てて良かったです」
昨日までお互いに「様」付けで呼び合っていた二人だが、朝飯を食べながら会話に花が咲いていたな。17歳と16歳で歳も近い、良い友人になりそうで何よりである。
「みなさま、大きなバックパックを全員分持ってきておりますので、手分けしてこちらに詰めましょう」
ロイノさんが巨大なリュックを広げてみせるが……うーむ、ここに展開されている荷物を詰めるとなると、一人当たりの重量は相当なものになるぞ。
異世界ファンタジーでお約束の何でも無制限に入る魔法のポーチみたいな便利なアイテムを期待したんだが……残念ながら、リリシアたちに聞いても「そんな都合の良い魔道具は存在しない」とのことだった。
待てよ……収納、か。
俺はふと思いつき、ハチマキを締めた番頭少女に確認を取る。
ふむふむ。
よし、俺の推測は当たっていた。これならもしかしたら。
「みんな、ちょっと手を止めてくれ。荷物を全部、温井の湯に運び込んでくれないか。とりあえずロビーにまとめて置いておこう。あとで個室宿泊ルームを各自に割り振るからさ」
「え? あの……ヨシロウさん、準備はしなくていいんですか?」
「そうだぞヨシロウ! もう出立するんだぞ、バックパックに詰めなくていいのか?」
「すまん、ちょっと試したいことがあってな。悪いがたのむ」
不思議そうに首をかしげるリリシアたちを余所に、すべての荷物が銭湯「温井の湯」に入ったことを確認すると、スキルを発動させた。
「よし――――【銭湯閉店】!!」
――――ズズズ
目の前にそびえ立っていた立派な和風銭湯が、光の粒子となって消え去った。
「ええぇええっ!? 建物が消えちゃいましたよ!?」
そういえばアヤノやエリーナは閉店を見たことがなかったか。
驚くアヤノたちを促し、俺たちは荷物を持たない超軽装のまましばらくテクテクと歩いた。
ある程度進んだところで、再びスキル発動。
「―――――【銭湯開店】!!」
――――――ドズゥゥゥンッ!!
地鳴りのような音と共に、再び目の前にドカンと出現する「温井の湯」。
「みんな、銭湯の中にさっきの荷物があるか確認してみてくれ」
アヤノとリリシアが恐る恐る暖簾をくぐり、ロビーへと駆け込んでいく。
「よ、ヨシロウさん、 荷物、全部そのままありますっ!」
「おおおっ!? あたしの予備の剣も一つ残らずそのままある!」
「ヨシロウさん、すごい……」
ロビーから歓声が聞こえてきた。
よしよし、実験成功だ。
つまりすぐには使わない予備の武器や着替えなんかは、全部銭湯の中に収容したまま「持ち運べる」ってことだ。
「よし、みんな。当面必要なものだけ身につけて、あとは全部銭湯に入れておこうぜ」
「はいっ!」
マジックポーチのように常時取り出し可能とまではいかないが、歩く巨大なストレージ(保管庫)を手に入れたようなものだ。これで重い荷物を背負ってヘロヘロになりながら歩く必要は一切なくなった。
「ふふ、さすがはヨシロウさんですね。まさか銭湯を運び屋(ポーター)として使うなんて、思いつきもしませんでした」
エリーナが感心したように微笑む。
「さあ、準備は完璧だ。みんな、ダンジョンへ向かって出発しようぜ!」
「「「「オーーッ!!」」」」
俺たちは軽い足取りで、いよいよ目的のダンジョンへと一歩を踏み出した。