異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
魔の森をしばらく進むと、巨大な大樹の根元に埋もれるようにして古代遺跡のような重厚な石造りの建物が目の前に現れた。
「おおぉ……これがダンジョンか」
「はい、ヨシロウさん。正面にあるあの巨大な石扉が、ダンジョンへの入り口ですよ」
エリーナが指さした先には、歴史を感じさせる古代のものであろう文字が刻まれた重々しい大扉がズーンと鎮座していた。
俺たちは武器や装備の最終チェックを行い、意を決してその重厚な扉を押し開け中へと足を踏み入れる。
内部に一歩入ると、空気はわずかにひんやりとしている。だが驚いたことに、松明やランプの明かりもないというのに、視界は驚くほど明るかった。
「カンテラもないのに、なんでこんなに明るいんだ?」
「フフ、やっぱり驚きますよね。このダンジョンはなぜか外の世界の昼夜を連動して明るさが変化するんです」
俺の疑問に、隣を歩くエリーナがクスッと微笑みながら答えてくれた。
「へえぇ、なんだそりゃ。すごいな……」
「ですが、なぜこのような現象が起こっているのかは未だ解明されておりません。一説には、天井の特殊な岩石自らが光を放っているとも言われていますが」
ほぇ~~、異世界のダンジョンってやつは実に不思議で面白い。そういう未知のシステムを聞くと、おっさんでもちょっと冒険心がくすぐられてワクワクしてくるな。
「ちなみに、このダンジョンは全部で20の階層で構成されていると言われています」
「言われているってことは、はっきり分かってないのか?」
「はい。実際にこの100年間は誰も最下層の第20層まで行っておりません。最も新しい記録も、100年前にこの深部で復活した魔王を討ち果たしたとされる、当時の勇者様と聖女様の手記に残されているのみです」
あ、そういえばガストール宰相のやつも「100年ぶりの魔王復活」とか何とか言っていたな。歴史は繰り返すってやつか。
魔王討伐しなきゃならん状況でもなければ、わざわざ最深部まで行こうとする奴もほとんどいないだろうし。
「とりあえず今日は、第一層の終わりまで目指しましょう。そのあたりは空間が大きく開けているはずですので」
「了解だ」
俺は力強く頷いた。この探索が怖くないと言えば嘘になるが、せっかく来たのだから楽しめるところは楽しむとしよう。
そんな話をしながら石造りの通路をしばらく歩いていると――。
「――エリーナ様、魔物です」
先頭を歩いていたリリシアの足が、ピタリと止まった。
前方の曲がり角から姿を現したのは、薄汚い緑色の肌に曲がった背中、手には粗末なこん棒やナイフを握りしめた小柄な魔物の群れだった。
「グゲゲ……ッ」
「ギャゲェ~!」
「ひぃ~~ッ!? なんですかあの声、生理的にキモいですぅうう……っ!」
気味の悪い鳴き声をあげる緑色の人型魔物を見て、セウが俺の背中にサッと隠れて怯えている。
「ゴブリンだな……」
リリシアがスッと鞘から剣を抜きつつ、短く呟いた。
ゴブリン……おおぉ、ファンタジーの定番中の定番モンスターじゃないか。実物を見るとやっぱり不気味だが。
「みなさん聞いてください。アヤノさんとわたしで遠距離攻撃を仕掛けます。リリシアは潜り抜けて接近してきた個体を確実に撃破しなさい。ロイノとセウは後方待機。ヨシロウさんも援護をお願いします」
素早く、かつ的確に指示を飛ばす聖女エリーナ。
さきほどまでの柔和な表情とは一変し凛とした戦士の顔になっている。さすがは幼少期から修羅場をくぐってきた歴戦の聖女だ。
「それから……ゴブリンは一匹一匹はそれほど強くありませんが、非常に狡猾な一面を持っています。くれぐれも油断なきよう」
エリーナが魔法の詠唱を開始する。と同時に、アヤノも覚悟を決めたように眩い光の弓を構え――引き絞る。
「――――
ズバッと空中に放たれた一本の光の矢は、飛翔しながら無数の光の矢へと分裂し襲いかかろうとしていたゴブリンたちの群れへと豪快に降り注いだ。
ダンジョンの通路がそれほど広くなかったため、半数以上の光矢は天井や側面などの壁に当たって弾けてしまったが、それでも――。
「グギャァ~~ッ!」
「ハグッ……ギャアッ!?」
最前線にいたゴブリンたちに、かなりの広域ダメージを与えている。
「おお、さすがアヤノ殿!」
リリシアが称賛の声をあげる。見ると、言われたアヤノの弓を持つ手はわずかに震えている。
生きている魔物と対峙して攻撃を放つのだ、恐怖がないわけがない。だが彼女は怖いなりに前を向き、自分にできる最大限のことをやろうとしていた。
ま、つかれた時には俺の銭湯で休んでくれればいい。俺が同行する最も大きな理由はそこだからな。
そして間髪入れず、エリーナの魔法が発動する。
「聖なる光よ、不浄の敵を撃て――――
複数の青白い光弾が連射され、正確無比にゴブリンたちの頭部や胸部へ直撃した。
これはすごい。アヤノの光矢ほどの広範囲の派手さはないが、一発一発の精度が高く無駄弾がほとんどない。さすが聖女エリーナ、伊達に修羅場をくぐってきていないな。
「グギャギャァッ!」
だが、アヤノとエリーナの弾幕の隙間を潜り抜けた数匹のゴブリンが、ニタリと下品な笑みを浮かべて突っ込んできた。
「――――はぁああッ!!」
ヒュンッと空気を引き裂く高速の刃が閃き、迫りくるゴブリンたちの首を一瞬で跳ね飛ばした。
リリシアだ。銭湯でデトックスされたおかげか、以前見た時よりも動きのキレと踏み込みの鋭さが格段に増している。
それにいつもの長剣を抜かずに、もう一本の短めの剣を使用していた。通路内ではそのほうが良いという合理的な判断だろう。
以前のがむしゃらに突き進むだけのリリシアじゃない。頭のキレもしっかりととのっているじゅあないか。
「みんなすげぇな……こりゃ、おっさんの出番はなさそうだぞ」
「ええ、本当に頼もしい限りですね」
そんな会話を、後方でシスターのロイノさんと交わした直後のことだった。
「――ギュギィッ!」
「!?」
激しい戦闘のどさくさに紛れて、側面の物陰からこっそりと回り込んできたのか、数匹のゴブリンが俺たちの目と鼻の前に突如姿を現したのだ。
「ギッシシシ……ッ!」
前方の主戦場に集中しているエリーナたちが気づいていないことを確認し、勝ち誇ったような醜悪な笑みを浮かべるゴブリン3体。
なるほどな。後ろにいる弱そうな奴から順番に狩ろうという魂胆か。
まあ、その判断自体は悪くないと思う。だが――相手が悪かったな。
「――――銭湯スキル【熱湯(100℃)】!!」
ドバババシャアアアッッ!!
「「「ギャギャァアアッ!?」」」
超高温の沸騰した100℃の熱湯が、ゴブリンたちへと炸裂した。
一瞬にして皮膚と肉が焼け落ち、あまりの激痛と熱さにショック死するゴブリンたち。
おっさんだって、ただの荷物持ちじゃないんだ。
こうして俺たちのダンジョン初戦は、傷一つない完勝で幕を閉じた。
やはりエリーナたちの基礎スペックは普通に高い。これは余計な援軍で大所帯になるよりも少数精鋭の方が動きやすいし、けっこういけるのではとも思えてしまうような戦いぶりだ。
「ふぅ、みんなお疲れ……ん?」
息を整えながら、俺はふと通路の隅に置かれている「あるもの」を見つけてしまった。
「な、なあエリーナ。あれって……」
俺が指さした先を見たエリーナが、ぽんっと手を叩く。
「ああ……あれは「宝箱」ですね」
マジかよ……! 宝箱きたぁあああ~~!!