異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
「ん……ううん……ここは……?」
「温井の湯」のロビーにあるレトロな長椅子の上で、女騎士がゆっくりと目を覚ました。
「お、気がついたか?」
俺が声をかけると彼女はガタッと体を起こし、警戒心を露わに周囲を鋭い目で見回す。
腰の剣を探しているであろう右手がむなしく宙をかいた。
「なっ……こ、ここはどこだ!? あたしは確か、森でブラックウルフの群れを倒して……それから……」
「俺の肩に盛大に倒れかかってきたんだよ。覚えてないのか?」
「あ……」
彼女は自分の手を眺め、それから思い出したように顔を赤くした。
「そ、そうだった……急激に意識が……。では、あんたがあたしをここまで運んでくれたのか?」
「俺とここにいるセウでな」
俺の隣で「えっへん!」と胸を張るスキルガイド番頭少女のセウ。
にしても……改めて間近で見ると、すっげえ美人さんということに気付かされる。
炎のように鮮やかな赤い髪に芯の強さを感じさせる真っ直ぐな黒い瞳。そして何より、鋼の胸当ての上からでも隠しきれない豊満でふくよかな胸元。まさに凛々しさと色気を兼ね備えた、映画に出てくきそうな女騎士様だ。
「あたしはグラシア王国聖騎士団所属の聖騎士リリシアだ」
騎士団……聖騎士ってか。
やはりここは剣と魔法のファンタジー世界なんだなと、再確認する。
「ここまで運んでくれたこと、礼を言う……えっと」
「俺はヨシロウだ。礼には及ばんさ、そのまま放置するのは寝覚めが悪いしな」
「ヨシロウ……か。で、ここはどこなんだ? あまり見慣れない建物だが……」
リリシアは脱衣所のロッカーや整然と並べられた籐のカゴ、ピカピカに磨かれた床を珍しそうに見渡している。
「ここは銭湯だよ」
「セントウ……?」
首をかしげるリリシアに、俺は分かりやすく言い換えた。
「まあ風呂屋だな。お風呂に入る場所だ」
「な、なるほど……風呂……」
直後リリシアの顔がにわかに固まり、引きつったような笑みを浮かべた。そしてなぜか決死の覚悟を決めたような目で俺を見つめてくる。
「た、助けた恩は、身体で返せということだな……。くっ……聖騎士たる者、受けた恩を返さぬわけにはいかない。す、好きにするがいい! ただし優しく頼む……」
「ちがう!! どういう思考回路してんだお前は!?」
俺は思わず大声でツッコミを入れてしまった。
「普通に温かいお風呂に入って、疲れを癒やしていってくれればいいんだよ。それに、ここはちゃんと男湯と女湯で男女別になってるから安心してくれ」
「そ、そうなのか……? なんだ、てっきりそういう怪しげな店かと……」
「違う。純粋に風呂を楽しんでくれたらいいんだ」
「これは失礼なことを言ってしまった。また早とちりをしてしまったか……だから聖騎士団でもあたしは選ばれない……」
ガックリと肩を落とし、若干へこんでいるリリシア。
んん? 選ばれない、とはなんだろうか? 何か事情がありそうだが、まあ本人がそれ以上話題を続ける気もないようだし野暮な突っ込みはやめておこう。
それよりも今、俺の頭の中はアレでいっぱいなのだ。
「まあ細かいことは気にすんな。さあさあ、ひとっぷろ入ろうぜ!」
「あ、ああ……では、お言葉に甘えさせてもらおう」
「は~い。じゃあリリシアさんはセウちゃんが女湯へご案内しますね~♪」
「ああ、すまないなセウ。にしても、お風呂に入れる施設があるとは……ここは貴族街の屋敷なのだろうか?」
「ふふ~~まあそれはのちほど。まずはお風呂を楽しみましょう♪」
俺は男湯と書かれた紺色の暖簾を、リリシアとセウは赤い暖簾をそれぞれくぐった。
ワクワク……
いやぁ~~~楽しみすぎる。
異世界で自分の作った銭湯に入れるなんて、銭湯マニア冥利に尽きるってもんだ。
服を脱ぎ、脱衣所からガラガラと引き戸を開けて浴室へ足を踏み入れる。
俺の視界に入って来たのは――
ふぉおお……
正面の壁にはドカンと描かれた雄大な富士山のペンキ絵。湯船からは白い湯気と、心地よいお湯の匂いが立ち上っている。
洗い場に目を移すと、等間隔に並んだ黄色のケロリン桶と使い込まれたプラスチック椅子。
昔ながらのプッシュ式カランを押し込むと、ゴボゴボと音を立てて熱いお湯と水が勢いよく飛び出してくるではないか。
「完璧だ……マジで俺の思い描いた銭湯そのままだ……」
感極まっていると、不意に頭の中でセウの声が響いた。
『ご主人様~~聞こえますか~~?』
「うおっ!? え、なに? セウなのか?」
『そうですよ~。なんとこのセウちゃんの超有能能力で、スキル保持者のご主人様とは「念話」ができるんですよ~♪』
ええぇ、それは凄いな。
なんかスマホのワイヤレス通話してるみたいだ。
『あとあと~~なんとなんと~』
セウがもったいぶった感じで念話を連発してくる。
『なんと~~【視覚共有】もできるんですよ~♪』
「え、ごめん。もう一回言って?」
『はいはい、何度でも言ってあげま~す。【視・覚・共・有】できちゃうんですぅ~~♪』
なにぃいいいい!?
まてまてまて……
「し、視覚共有って……おまっ……」
セウの見た映像が俺にも見えるってことか!?
いやいやいや……それは完全アウトだろ! 確実に牢屋行きだぞ! なに考えてんだ!
『もぅ~~冗談に決まってるじゃないですかぁ~♪ ドキドキしましたぁ?』
「ぐぬぅ……!」
ぬぅ……セウのやつめ。おっさんをからかうんじゃないよ。
俺は冷や汗を拭いながら女湯のある壁を睨みつける。
『ではではご主人様ぁ~念話を終了しま~す。あとは生のお声でお楽しみくださぁ~い♪』
すると、壁の向こう(女湯)から賑やかな声が漏れ聞こえてきた。
「グフフ~~さあさあ~その鎧を脱いでもらいましょうか~~♪」
「せ、セウっなんか目つきが怖いんだが……」
「わぁ~~リリシアさんのお胸、すごーい! おっきいですぅ~~」
「ちょ、セウ!? どこを触っているのだ……っ!」
おいおい……
「だ~め、逃がしませんよ~これも番頭さんのおしごとですから~」
「や……あ……」
「なるほどなるほど~~これが19歳の膨らみですか~~♪」
「なぜあたしの年齢がわか……る……って、ちょ……」
「セウちゃんは~触ればだいたいわかるんですよ~~♪」
「だから……やめっ……あん♡」
おいおいおいおい。
なにが起こっているんだ壁の向こう側で……
美人聖騎士のなんとも言い難い声が漏れてきて、おっさんの理性が試されているんだが!?
いや、もう気にするのはよそう。
俺は眼前の夢の光景だけに集中して、深呼吸する。
「……ふぅ。まあいい、そんなことよりも異世界初銭湯だぁ~~♪」
俺は洗い場で身を清め、熱々のお湯が満ちる大浴槽へと足を滑らせた。