異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
「水圧が調整可能ってか」
水圧の調整……つまり、家庭用のシャワー程度から工業用の高圧洗浄機レベルまで自由に圧力を上げられるってことか。
真っ先にイメージが浮かんだのはテレビや動画で流れる金属の切断だが、さすがにこれは超接近しないと難しいだろう。
ってなると……純粋に押す力だけど。
「セウ、これってどんぐらいまで圧力維持できるんだ?」
「え、えぇ? レベル4なら10メートルまでは射程距離ですぅ~てか、はやくぅ~死んじゃう~」
よっしゃ。流石スキル設定だ。ファンタジーで最高だぜ。
俺は前方に踏み出し、ゴーレムに向けて右手を強く突き出した。
「――――――銭湯スキル【熱湯(100℃)高圧ジェット噴射】!!」
――――――シャバアアアアッッッッ!!
「ギギッ……!?」
凄まじい水音と共に、俺の手のひらから放たれた沸騰熱湯が一筋の閃光となってゴーレムの巨体へと直撃した。
今まで通り熱湯はゴーレム相手にそれほど効果をあげなかったが……
「ギギ……ガガガッ」
超高圧の衝撃と水圧によりゴーレムの巨体が、まるで大型トラックに追突されたかのようにドシーンッと勢いよく仰向けにひっくり返った。
「よっしゃ、あとは任せた!」
「――――
胸部を上に向けて転倒し、完全に無防備となったゴーレムにアヤノの矢が襲い掛かる。
一点集中の光矢が倒れたゴーレムの胸部を正確に穿ち、岩の装甲を粉砕して内部の核を露わにした。
「これで終わりだぁああっ! ――――
そこへ、一気に間合いを詰めたリリシアの一閃が振り下ろされる。
眩い光と共に核が完璧に二つに分断され、朽ち果てるように消滅する。その後ゴーレムはガラガラと崩れ落ち、ただの動かない岩石の山へと変わった。
「ふぅっ!」
「た、倒した……っ」
リリシアとアヤノが額の汗を拭い、安堵の息をもらす。
「なんとかなったな……」
俺はぐったりと脱力した。
何はともあれ、俺たちは一階層に現れた強敵ゴーレムの群れを完璧に粉砕することができたのだった。
「ふぅ……セウ大丈夫か?」
「ご主人様ぁあ~~セウちょっとちびったかも……」
「せ、セウちゃん。ちょっとこっちきて!」
バックパックを片手にアヤノがセウを岩陰に連れていく。
うん、まあ女子の大事な事は女子に任せよう……ってかマジでチビったのかよ。
だが俺も偉そうなことは言えん。ぶっちゃけそこそこビビった。
十八番の熱湯もそこまで効果なかったし、俺一人であの場に放り出されたら、詰んでただろうな。
そんなしみじみしたおっさん臭をだしていたら、後ろからトコトコと小さな足音が近づいてきた。
腰をさすりながら歩いてきたリアロッテが、俺の目の前でぴたりと足を止めてくりくりとした金色の瞳で、じっと俺の顔を見つめてくる。
「ん……。あなたが、アヤノの言っていたヨシロウ?」
「え、ええ。ヨシロウです。えっと……リアロッテ第三王女様」
相手は一国の王女様だ。一応、失礼のないように丁寧な口調で接しようと身構えたのだが――。
「ん……リアでいい。アヤノもそう呼んでいる」
リアロッテは無表情のまま、俺の横へちょこんと座った。
「ええっと……いいのか?」
「いい。王国の都合で無理やり召喚した。だからわたしに遠慮はいらない」
意外にも、彼女の口から出たのはストレートで真摯な言葉だった。見た目はゆるくて不愛想に見えるが、根は誠実で思慮深い少女なのかもしれん。
いや……ドレスで単身ダンジョンアタックは思慮深いとはいわんか。
いずれにせよ、アヤノが信頼するだけあって嫌な感じはしない。
「わかった。んじゃリアと呼ばせてもらうぞ」
「ん……オケ」
リアロッテは満足そうに小さく頷いた。
「しかし本当にすごい力だな、リア。あの巨大なゴーレムを素手で粉砕しちゃうんだから驚いたよ」
俺が素直に感心を口にすると、リアは少しだけ誇らしげに胸を張った……が、すぐに「うっ」と顔を顰めて再び腰を押さえる。
「でも張り切りすぎると腰をやる」
「ハハ……まあ、その身体であれだけのパワーを出せば、反動も凄まじいだろうからな。無理は禁物だぞ」
「ん……ちなみに、ヨシロウもたいがい変」
「え? 俺が?」
思わぬ飛び火に首を傾げると、リアはジト目で俺を指さした。
「ダンジョンでお湯出してるおっさんとかいない」
「うぐっ……それを言われるとぐうの音も出ないな」
確かにおっしゃる通りである。ダンジョンでお湯をぶち撒けて戦うおっさんなんて、たぶんそんなにいないだろう。ていうか俺しかいない気がする。
そんな会話を交わしていると、突然リアがもじもじとドレスの裾を弄り始めた。金色の瞳を上目遣いにして、何やらそわそわと落ち着きなく身体を揺らしている。
「ん……早く」
「え? 早くって何をだ?」
俺がポカンとしていると、岩陰から戻って来たセウがニシシと怪しげな八重歯を見せながら割り込んできた。
「ご主人様ぁ~~リアロッテ王女様はアヤノちゃんから噂を聞かされて、アレをご所望なんじゃないですか~♪」
「アレって……ああ!」
俺は苦笑しつつ、エリーナの方を振り向いた。
「エリーナ、第一層の探索も一段落したし、ここで野営にしても大丈夫か?」
「はい、ヨシロウさん。ここを抜けた目と鼻の先に第二層へと続く階段があります。ここで野営しましょう」
「よし、決まりだな」
「ん……ワクワク」
リアの金色の瞳が、まるで宝物を見つけた子供のようにキラキラと輝き出した。無表情だった彼女の頬が、ほんのりと期待で桜色に染まっている。
「それじゃあ、おっさんの本業と行きますか」
俺は深呼吸をしてから力強く叫んだ。
「――――――【銭湯(レベル4)開店】!」
ドズゥゥゥンッ!!
ダンジョンの殺風景な空間に、突如として地鳴りのような重低音が響き渡った。
眩い光の粒子と共に現れたのは――暖簾が風にたなびき、和の趣を感じさせる木造の立派な銭湯「温井の湯」
ほんじゃま、銭湯タイムといきますか。