異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
ドズゥゥゥンッ!とダンジョンに響き渡る重低音と共に、そこへドカンとそびえ立った【銭湯】。
暖簾の奥からほのかに漂う温かい湯気の気配に、リアロッテが思わず息を呑む。
「ん……これが、せんとう」
リアロッテ王女――リアが、金色の瞳をこれ以上ないほどキラッキラに輝かせていた。相変わらず表情自体はほとんど動いていないのだが、建物全体に視線が動いた後、じーっと暖簾を見つめる熱視線から「ワクワク」という文字が透けて見えそうなほど興味津々だ。
「では、さっそく銭湯の周りに結界を張りますね」
エリーナが気を引き締めた様子で前に進み出でる。
「第一層とはいえ、ここがダンジョン内であることに変わりはありません。いつ魔物が出るか分かりませんし、先ほどのようなゴーレムといった緊急事態も想定して、警戒しておかないといけませんから」
「いや、ちょっと待てエリーナ。それだとお前が全然休めないじゃないか」
俺は慌てて制止した。結界を維持したまま一晩過ごすなんて、どれだけの魔力と精神力を消耗するか分かったもんじゃない。
「いいんです、ヨシロウさん。このくらいはパーティーの安全を守る者として、私がすべきことですから」
「だがなぁ……」
「もちろん、私も無理はしません。夜半に少しだけ横になりますので、その時だけ交代で見張りを立てて頂ければ」
相変わらずこの子は自己犠牲の精神が強すぎるな。もっとまわりの人を頼っていいんだが。
とはいえ安全の確保は第一。ここは全員で見張りを回していくってことになるかな。
「あ、エリーナさん。それ大丈夫ですよ。セキュリティーかけときますから~♪」
セウがハチマキから飛び出たアホ毛を揺らしながら、能天気に手を振った。
「せきゅりてぃ……? セウさん、なんですそれ?」
「セウ、なんかできるのか?」
「は~~い。ご主人様の銭湯レベルが4に上がりましたので「暖簾セキュリティー」が使えるようになりました~~」
「ええっ、それって警備システムか?」
「は~~い、防犯警備システムですねぇ~♪」
銭湯の側面に目をやると、入口の脇に何か見覚えのあるステッカーのようなものが貼られていた。まるで〇コムさんじゃないか。
みんなで暖簾をくぐってロビーへ入ると、セウが壁に増設されていた機械のボタンを「ポチッ」と押し込んだ。
すると――。
『警備ヲ、開始シマス――』
どこか機械的で無機質な合成音声が、ロビー全体に響く。
「ひぃあぁああっ! な、なんか建物が喋ったぁああ!?」
「うふふ~、またまたウブで新鮮な反応しちゃって~かわいいですねぇリリシアさんは~♪」
「くっ……だって急に建物が声を出すから……」
リリシアが顔を真っ赤にしてセウを睨む。まあ、異世界人からすれば建物が急に喋り出したらビックリするだろう。
「で、セウ。その警備システムってのは具体的にどういう仕組みなんだ?」
「無断で銭湯に侵入しようとする不届き者がいればですね、まず爆音で警備ブザーが鳴り響きますぅ~~」
ふむふむ。
「んで~、警報が鳴ると同時に『湯の人』がヌッと出てきて、一定時間不届き者をガッチリ止めてくれますので~その間にご主人様たちが駆けつけて、みんなでボコボコにしに行きま~す♪」
「『湯の人』ってなんだ?」
「湯の人ってのはですね、人型のお湯ですね♪」
いや、まったく意味が分からんのだが。
詳しくセウの説明を聞いてみると、どうやら侵入者を感知すると、温水で形成された人型の警備員が自動で生成されて、侵入者を抑え込んで足止めしてくれるらしい。
その隙に俺たちが対応するってことだ。なるほど、これならわざわざ見張りを立てなくてもいい。非常にありがたいシステムだ。
「これならエリーナも夜通し結界を張らずにすむだろ?」
「は、はい……! す、すごいです!」
エリーナが感心したように息を吐く。
「よし、じゃあみんな部屋に荷物を置いて……あれ? そういえばリアはどこ行った?」
ふと見回すと、さっきまで俺の隣にいたはずの王女様の姿が見当たらない。
その直後だった。
ウーッ! ウーッ! ウーッ!
『侵入者感知! 侵入者感知――』
けたたましい警報音がロビー内に鳴り響いた。
「な、なんだ! 魔物か!?」
慌てて全員で玄関の方へ駆け出すと……
ゆらゆらと立ち上る透明な湯気と温水によって作られた二メートルほどの巨大な湯の人(人型警備員)が、誰かを上からガッシリと抱え込んで地面に組み伏せているではないか。
湯の人にガッチリとホールドされているのは――他ならぬリアロッテ王女だった。
「……ん。でてきた!」
湯の人に腕を極められ、地面に押し付けられながらも、リアは黄金の目を輝かせてポツリと言い放つ。
「出てきたじゃないだろ…… セウ、早く警備を解除しろ」
セウが慌てて警備をオフにすると、湯の人はシューッと湯気となって空気中に消えていった。
「まったく、何やってんだ。怪我はなかったか?」
「ん……ゴメン。どんな仕組みで防衛されるのか、どうしても実際に見てみたくて。窓から侵入しようとしてみた」
「お前なぁ……好奇心旺盛なのは結構だが、もし怪我でもしたらどうするんだ」
「ん……でも、湯の人が見れた」
満足げに瞳をキラキラさせる王女様。
「はぁ……頼むから、今後は何か試したいことがあったら事前にちゃんと相談してくれよな」
「わかった。約束する」
リアは素直にコクリと頷いてくれた。反省はしてもらわんと困るが、結果的にシステムや湯の人が確認できた。まあ、お小言はこれぐらいにしてと。
「んじゃ入るぞ」
「ん……待望のせんとう。ワクワク」
暖簾をくぐってロビーに入ると、リアの好奇心メーターが再び爆発した。
無表情のままトコトコとロビー内を歩き回り、日本の家電製品に次々と吸い寄せられていく。
脱衣所の入口でパタパタと首を振っている「扇風機」の前で足を止め、リアが顔を近づける。
「ん……機械の羽が回って、冷たい風を起こしてる。魔道具……?」
今度はロビーの隅にあるリーチイン(ガラス張りの冷蔵庫)の前へ移動する。
「ん……このガラスの箱の中、氷もないのにどうやって冷えてる? 不思議」
いっけんクールな無表情なので分かりにくいが、目の輝きと動作の素早さから、未知の文明に対する好奇心がめちゃくちゃ強いことが伝わってくる。知的探求心の塊みたいな子だな。
「んじゃ、俺は男湯に行くからな。セウ、リアの案内を頼んだぞ」
俺はタオルを肩にかけ、男湯の暖簾へと向かった。
「ん……はやくいくセウ」
「はいはい~~可憐な美少女王女さまの初銭湯、セウがお手伝いしちゃいますね(グフフ)」
セウが八重歯をのぞかせ、ルンルンでリアの背中を押して女湯へと消えていく。
一抹の不安を覚えないでもないが、まあアヤノやエリーナも一緒だし大丈夫だろう。
「さて……頑張った身体えのご褒美タイムだ」
俺は男湯の暖簾をくぐり、脱衣所へと足を踏み入れたのだった。