異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
「ふはぁ(ビリッ)……はわっ(ビリッ)!?」
身体の芯まで突き抜ける、ピリッとした心地よい刺激の波。セウが(ビリッ)わ、私には効くっていってたけど(ビッ)……で、でんきぶろすごい……
湯船の中でトロトロに溶けかかっていると、上からパタパタと手招きする気配がした。
「はぁ~い、王女さまぁ~一度出ましょうねぇ~電気風呂の長湯は良くないですからぁ~」
セウが湯船の縁から手を伸ばし、わたしを優しく引き上げてくれる。
「ん……ふあぁ……す、すごかった……」
湯船から這い上がると身体全体がポカポカと温まっており、心地よい刺激感がまだ残っている。その場で肩を揺らしすこしばかり荒くなった息を整えていると、セウがニシシと八重歯を見せながら別の小さな浴槽へとわたしを案内した。
「さあさあ~温まったら次は水風呂ですよ~~♪」
「ん……みず、ぶろ……?」
目の前にあるのは小さな浴槽。さっき電気風呂で熱々に火照ったばかりの身体で、恐る恐る足先を入れてみる。
んんっ……!?
「ん……ふほぉ……冷たい……けど、気持ちいいぃ……なにこれ」
最初は冷たさに身体がキュッと強張ったけれど、浸かってみるとなんだか不思議な感覚に包まれた。
ビキビキに刺激されしていた身体が、冷たい水によって一気にキュッと締まった感じ。その温度差の衝撃のあと、全身の毛穴が一気に引き締まりボーッとしていた頭がシャキッとクリアに冴え渡っていく。温と冷の落差が、こんなにも心地よいなんて知らなかった。
水風呂を楽しんだ後は、セウに促されて小休憩。
「焦らずゆっくりいきましょ~~自分の身体の声を聞くのがコツですからねぇ~」
「ん……」
なんだか、最初からセウの手のひらの上でコロコロと転がされているような気がする。けれど、その居心地の良さに嫌な感じはまったくなかった。
ふと周りを見回すと、湯から上がったみんながそれぞれの場所へ向かって歩き出しているのが見えた。 エリーナとリリシアは木製の小部屋へと吸い込まれていき、アヤノは別室へと向かっていく。どの顔もワクワクとした高揚感を隠し切れていない。
「ん……みんなどこ行く?」
わたしが首をかしげると、隣で手ぬぐいを絞っていたセウが誇らしげに胸を張った。
「んふ~♪ みなさん、お好みのルーティンに入ったんですよ~」
「ん……つまり、お気に入りの場所に行ったってこと?」
「そうです~エリーナさんとリリシアさんはサウナ、アヤノさんは岩盤浴ですねぇ~♪」
「すごい……みんな手慣れてる」
「大丈夫ですよ~王女さまもこれから色々試していけば、自分だけの最高のルーティンが見つかりますからぁ~♪」
なるほど……。
ただお湯に浸かって身体を洗うだけじゃないんだ。自分の好みやその日の体調に合わせて、いろんな施設を組み合わせて楽しむ。探す過程そのものにも、ワクワクする楽しみ要素があるなんて。
「ん……銭湯、奥が深い」
私は深く感心しながら、吐く息とともに身体の力を抜いた。
少しばかりの心地よい小休憩を終え、身体の火照りが適度におさまったところでセウがニッコリと微笑んだ。
「それじゃあ2回目、行ってみましょうかぁ~♪」
わたしはコクリと頷き、再び例の電気風呂の前へと足を進めた。
湯船の縁に手をかけ、そっと足を滑らせる。
「ん……(ビリッ)……ん……すごぉ……」
1回目と同じように、身体の奥へと電流が駆け抜ける。けれど……
ん……一回目と、ちょっと違う
不思議なことに、1回目の時のような強烈な唐突感や驚きはなかった。身体が電気のピリピリとした刺激にじんわりと順応し、波を受け入れる準備が整ってきたのだろうか。
ビリッがただ痛快なだけではなく、内部からじわじわと温かく解きほぐしていくのが目に見えるようだった。頭の中の雑念が消え去り、視界の端で湯気が揺れる様子がなんだかとても神秘的で美しく見えてくる。
一回目とは違う、新しい風景が見えた気がした。
ん……すごい。二回目の楽しみ方を見つけてしまった……。
電気風呂で腰を癒やした後は、さっき教わった通りに水風呂へ。スッと浸かれば、再び頭がクリアに冴え渡り皮膚の表面が心地よい浮遊感に包まれる。そして再び椅子に座っての小休憩。
セウが言うにはこのように電気風呂と冷たい水風呂、そして休憩を交互に繰り返す入浴法を電冷浴と呼ぶらしい。
「ふふふ~、順調ですねぇ~それじゃあ、お待ちかねの3回目……行っちゃいますかぁ~?」
「ん……ワクワク」
同じ作業を繰り返しているだけなのに、回数を重ねるごとに胸の鼓動が高まっていく。次はどんな感覚が待っているんだろう。
そう思って電気風呂へ向かおうとした時。
「あひゃぁああん!?」
「んほぉおおおおっ!?」
浴室中にものすごい声が響き渡った。
驚いて振り返ると、サウナ室というところからフラフラと出てきたエリーナとリリシアが、水風呂に浸かりながら、見たこともないような顔で悶絶していた。
普段の清楚で控えめな聖女様の面影はどこにもなく、エリーナは目をトロ~ンとさせて頬を真っ赤に染め、開いた口からはふぅ~~と息を漏らしている。凛々しい聖騎士であるはずのリリシアに至っては、「くっ……殺せぇえん」と意味不明な敗北宣言を呟いていた。
二人とも、気持ち良さの過剰摂取によって感情の許容範囲を完全に突破してしまい、尊厳という尊厳がトロトロの液体となって溶け出しているみたいだ。
ん、おそるべし……銭湯。
聖女と聖騎士を、たった一回のお風呂でここまでにしてしまうなんて。
ん……でも、わたしは仮にもグリアルド王国の第三王女。この国の王族だ。いくら気持ちいいからって、あそこまでにはならない。
……ならない、はず。
自らに言い聞かせるように、こっそりと胸を張る。けっこう自由勝手しているが、王族としてのプライドと品位は、最後の砦として死守しなければならないのだ。
「んじゃ~そろそろ3回目の電気風呂、いってみましょうかぁ~? リア王女様?」
「ん……いく」
セウの案内で私は三度、電気風呂の前に立った。緊張と期待で胸が跳ねる。三回目はどんな感じだろうか、二回目の快感を超えるなんてこと、本当にあるんだろうか――。
お風呂の縁に手をかけ、そっと全身を沈めた。
ビリッ!
「んっ……!?」
瞬間、今までと同じ電撃が全身の神経を一気に駆け巡った。
たしかに前回と同じビリッ……だが。
一回目、二回目の入浴によって極限までほぐれ開放されていた全身の細胞が、電気の波をダイレクトに吸収していく。腰どころか全身の関節、手足の先、すべてにじんわりとした極上の快感が津波のように押し寄せてきた。
王族としてのプライド? 品位? そんなものは、この圧倒的な快楽の濁流の前には一瞬で消し飛んだ。
さ、三回目……しゅごい。
抵抗なんて、最初からできるはずもなかったのだ。
体の奥から、甘くて熱い溜息が抑えきれずに溢れ出してくる。
「ん……いいぃ……っ♡」
「は~い、王女様の『♡』頂きましたぁ~~♪」
セウがポンッと手を叩き、八重歯を見せて無邪気に笑った。
「くふふ~とってもいいお顔してますよぉ~見事にととのいましたねぇ、リア王女♪」
声が漏れてしまった。でも……声を漏らすぐらい気持ちいいんだから、もうしょうがないじゃない。
電気風呂から上がり、締めの水風呂へ。冷たい水に全身を浸すと、さっきまでの溶けそうな快感がサッと引いていき、代わりに圧倒的な多幸感とどこまでも澄み切った覚醒感が全身を駆け巡る。
頭が軽い。身体が軽い。
ん……これが……セウの言っていた『ととのう』か。
こうして、第三王女リアロッテ人生初の銭湯体験は、言葉にできないほどの大満足とともに幕を閉じたのだった。
「ふぅ……すごかった」
脱衣所へ戻ると、そこには同じようにサウナや岩盤浴で『ととのう』を完了させたエリーナやリリシア、アヤノが、スッキリとした笑顔で寛いでいた。
さっきまでのあられもない姿が嘘のように、みんなとても綺麗な顔をしている。
私は脱衣所の姿見鏡の前に立ち、自分の顔を覗き込んでみた。そこに映っていたのはいつもの無表情なわたし……けれど、どこか頬がほんのりと桜色に染まり、金色の瞳が今までになく活き活きと輝いている少女の姿がある。
腰に手を当てて軽く捻ってみる。あれほど長年わたしを苦しめていた重い痛みが、まるで嘘みたいに消え去っていた。
「ん……ふふっ」
思わず、小さな吐息のような笑みが口元からこぼれた。
わたし、今……笑ってた……?
みんなが入ったサウナや、アヤノが気持ち良いって言ってた岩盤浴……次はいってみたい。この銭湯という不思議な施設は、私にまだまだ知らない新たな扉を開いてくれそう。
私は脱衣所の暖簾をそっとくぐり、待ってくれているであろうヨシロウの元へ軽やかな足取りで向かったのだった。