異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
「はいは~い、お待たせしました~~塩ラーメンで~す」
「おお、セウ。それあたしだ」
調理服に身を包み、ハチマキから飛び出たアホ毛を元気に揺らしながら、万能番頭少女のセウがラーメンどんぶりを聖騎士の前に置いた。
「それから、こちらはアヤノさんですね~♪」
「セウちゃん、ありがとう」
リリシアはどうやら本格的にラーメンの魅力に取り憑かれたらしい。前回食べた醤油ラーメンに引き続き、今回はすっきりと澄んだスープが美しい塩ラーメンをチョイスしていた。どんぶりからは芳醇な鶏ガラと昆布出汁のあっさりとした湯気が立ち上り、俺たちの鼻腔を心地よくくすぐっている。
そして高校生勇者のアヤノの前には、漆の板皿に綺麗に並べられた巻き寿司と稲荷寿司――いわゆる助六が運ばれてきた。
うん、この子は前回もおにぎりと味噌汁だったし、こういう素朴でホッとする日本の和食が好きなのだろう。本人が心から大満足そうな笑みを浮かべているのだから、おっさんとしては微笑ましく見守るばかりだ。
セウは一度厨房へと戻ると、再び慣れた手つきで料理の乗ったトレーを抱えて戻って来る。
「は~い、ご主人さまとリア王女のお食事で~す」
「おお、きたきた」
俺の目の前に運ばれてきたのは、香ばしくてよだれが垂れそうな匂いを豪快にまき散らす生姜焼き定食だ。
厚切りの豚ロース肉が、醤油と生姜のタレがたっぷりとかかってツヤツヤに輝いている。その横には、旨味の詰まったタレを吸い込んでしんなりし始めたシャキシャキの千切りキャベツ。さらには炊き立ての白ご飯と、豆腐とワカメの味噌汁にたくあんの黄色いお漬物。
ちなみに、第三王女のリアも俺とまったく同じ生姜焼き定食を頼んでいる。
すっかりお腹が空いた様子のリアが、目の前に置かれたトレーをくりくりの金色の瞳でじっと見つめていた。
「さあ、リア。食べようぜ」
「ん……なんだか、すごくそそるにおい」
リアが小さな鼻をクンクンと鳴らす。
この異世界におそらく生姜焼きは存在しないだろう。醤油と生姜の焦げた香ばしい匂い、彼女の16年の人生で一度も遭遇したことのない未知の「食」なのだ。
リアは生姜焼きの一片を挟み上げ、タレが滴る肉をフーフーと軽く吹き、小さな口を大きく開けてパクリと食らいつく。
モグ……モグモグ……。
一瞬、リアの動きが完全に止まった。
「どうだ?」
俺が声をかけると、リアの金色の瞳がこれでもかというほど大きく見開かれた。無表情だった彼女の頬がみるみるうちに赤く染まり、口元が幸せそうに緩んでいく。
「ん……なに、これ……!?」
「うまいだろ? そんでな、すかさずこの白飯を一緒に口へ放り込むんだよ」
俺がお手本とばかりに生姜焼きを一口かじり、間髪入れずに白飯をかきこんで見せると、リアも同じくパクリと白飯を口にいれた。
肉とタレの旨味が広がる口の中へ、お茶碗からツヤツヤの白米をポンと放り込む。
モグモグ、ゴクン。
「んふぁ……いくらでも食べられそう……」
リアは生姜焼きと白米を交互に口へ運び始めた 千切りキャベツに肉の旨味を含んだ甘辛いタレを絡めてパクリと食べ、「ん……これも合間にたべるといい」と瞳をキラキラさせている。実に気持ちの良いガツガツとした食べっぷりだ。
「ん……ヨシロウ、それなに?」
リアが俺の手元を指さした。俺が握っているのは表面にびっシリと冷たい水滴をまとわせた、キンキンに冷えた生ビールのジョッキだ。
「これは大人のジュース、生ビールだ」
俺は豪快にジョッキを傾け、喉へと一気に流し込む。
ゴクッ……ゴクッ……プハァアアッ!
「くぅぅううっ! これこれ、生姜焼きの濃厚なタレとこのキレのある苦味と喉越し……やっぱり銭湯上がりの生ビールと生姜焼きは最強の組み合わせだな」
俺が至福の吐息をつくと、リアは心底うらやましそうに「ん……ズルい」と呟き、冷たいお茶をゴクゴクと飲んで俺を真似て見せた。
この国の飲酒可能年齢は分らんが、王族貴族はすでに社交界デビューをしていれば酒をたしのむことは普通であるらしい。ただ、リア自身はあまりお酒を好きではないようだ。
と、ここでリアが隣で塩ラーメンを美味しそうにすすっているリリシアと、助六を幸せそうに頬張っているアヤノの方へ、じーっと熱い視線を送り始めた。
「ん……リリシア、それ一口ちょうだい」
「おお、姫様。この塩ラーメンというもの、スープが信じられないほど深い味わいですよ」
リリシアが嬉しそうにレンゲで透き通った塩スープをすくい、麺を少し乗せてリア差し出す。リアが口を寄せてズルッとすすると。
「ん……さっぱり。おいしい」
まあ王城などでは流石にできないんだろうが、ここは俺の銭湯だ。きほん無礼講な旨は全員が理解している。
そして今度はアヤノの方へ視線を向けるリア。
「ん……アヤノ、その黄色いのも気になる」
「リアちゃん、これはお稲荷さんだよ。甘じょっぱいお揚げの中に、酢飯が入っててすごく美味しいよ」
「ん……もらう」
アヤノからお稲荷さんをひとつ受け取り、パクリと口に含んだリア。
「んんっ……甘くてすっぱい……不思議」
さらに、調理場から漂ってくる甘くスパイシーな香りに鼻をヒクヒクさせるリア。
「は~い、聖女さまのカレーうどんで~す」
「セウさん。ありがとうございます」
セウが運んできたのは、黄色くドロッとしたカレールーからモチモチの太麺が覗く、熱々のカレーうどんだ。どうやらエリーナは前回のカレーライスですっかりカレースパイスの虜になったらしく、今回はカレーうどんを選んだようだ。
ハフハフと白い湯気を吹きかけ、うどんを美味しそうに口へ運ぶエリーナ。
「んふふ♪」
あまりの美味しさに、聖女様の口元から思わず笑みがこぼれ出る。
「ん……エリーナ」
うどんを美味そうに食べる聖女さまに、案の定ひと口欲しがる王女。
「ふふ、いいですよリアロッテ様。お召し物が汚れないように気をつけてくださいね」
エリーナが小皿にカレーうどんを取り分けて、リアがそれをパクッと口に含むと。
「んんっ……刺激とべつの出汁がからんで……これもおいしい」
みんなサウナや電気風呂で完全にととのった後だからか、お腹も空いていてすこぶる楽しそうだ。やっぱお風呂上がりの飯はこうでなくっちゃな。
俺はその微笑ましい光景を眺めながら、生姜焼きを再び口に放り込み、生ビールをぐっと喉へ流し込んだ。至福という言葉以外に見当たらない。
だが――そんな平和で温かなお食事処の空気を一瞬で凍りつかせる存在が現れた。
厨房の奥から、セウが今までにないほどの凄まじい気迫と禍々しいオーラを全身から放ちながら、一皿の料理を運んできたのだ。
「は~い、カレー(超地獄)お待たせしました~~♪」
「セウさん、待ちかねましたよ♪」
シスターのロイノさんが、聖母のような穏やかな笑みを浮かべて手を合わせた。
「ふっふ~ん、言っておきますが超地獄は前回の地獄とは辛さの桁がちがいますからね~」
セウが腕を組み、挑発するように鼻を鳴らす。
厨房に戻る気は一切なく、ここで決着をつけるといわんばかりだ。
ドンッとテーブルに置かれたその皿を見て、俺たちは言葉を失った。
皿の上に広がっているのは、もはやルーというよりはドロリとした溶岩のような赤黒い物質。その表面からはボコボコと不吉な気泡が浮かび上がっては消え、立ち上る湯気だけで目がチクチクと痛むほどの狂暴な辛味成分が充満している。
「ん……ロイノ、それやばい」
リアがドン引きした顔でボソリと呟いた。
「いえいえ、これこそ至宝の食ですよ。リアロッテ王女様もひと口いかがですか?」
ロイノさんが極上の笑みで地獄の溶岩を差し出してくる。
「ん……無理」
リアは一瞬の迷いもなく即答で拒絶した。賢明な判断だ。
周りのドン引きした視線などお構いなく、ロイノさんはスプーンでその真っ赤な塊を豪快にすくい上げると、バクっと口の中に放り込んだ。
「……!?」
直後、ロイノさんの動きがピタリと止まった。 瞳の焦点が定まらず、体全体が微かに震えている。
お、さすがの激辛マニアのロイノさんでも、今回は辛すぎて無理だったか? 俺たちが固唾をのんで見守っていると。
「いい……」
「え?」
「いいぃいですよぉ~~♪」
「ええぇ……!?」
次の瞬間、ロイノさんの目がカッと見開かれた。まるで何かに取り憑かれたかのような凄まじい鬼気迫る表情でスプーンを激しい速度で動かし、超地獄カレーを猛然と貪り始めたのだ。
「ん……ロイノこわい……」
隣に座っていたリアが、恐怖のあまり椅子を俺の方へガタガタッと引っ付けて寄せ、俺のワイシャツの袖をぎゅっと力いっぱいに掴んできた。
いや、俺だって怖いわ!
このシスター、激辛を食べるために生まれてきたのだろうか。
ま、本人が無理せず楽しんでいるならいいんだが。
「むす~~なるほど今回はこれで引き下がりましょう……(銭湯レベルをもっとあげて、絶対に参らせる最高の激辛カレーを作ってあげますよ)」
一瞬で完食に向かうロイノさんを見て、セウがむすっと不満そうな顔をする。
「まあまあ~もっと凄いのがくるなんて、また楽しみが増えました~」
「ふふ、美味しく食べてくれるロイノさん大好きですよ~~まだまだこの戦いは続きます~♪」
この二人、なんだかんだでうまが合うのかな。
ただこれ以上辛くなると、まわりの俺たちが耐えれなくなりそうだが。
一部の狂気的な激辛バトルはあったものの、俺たちは大満足で風呂上がりの飯を堪能したのだった。