異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
◇リリシア視点◇
「な、なんだここは……!?」
脱衣所で鎧と下着を脱ぎ(いや、セウという少女に半ば強引に剥ぎ取られ)、女湯の浴室へと足を踏み入れたあたしは、目の前の光景に言葉を失っていた。
高い天井、磨き抜かれたタイル張りの床。そして壁一面に描かれた、見たこともない雄大な山の絵。
そもそもお風呂は貴族の館や裕福な商人の家にあって、一般人は布で拭くのが大半だ。しかもここまで大きな湯船はみたことがない。ヨシロウは貴族のようには見えないんだが、実はとんでもない家柄とかだったりするのだろうか。
だが、あたしを最も驚かせたのは洗い場の設備だった。
「温かいお湯が勢いよく飛び出てくる……!?」
信じられない。銀色の金具を押すだけで、湯気の立つきれいなお湯がドバドバ湧き出てくるなんて……どんな高等魔法道具なんだ!?
「さあさあリリシアさん、座って座って~! 髪と身体を洗いますよ~!」
小さな腰掛けに座らされるあたし。この椅子……木製ではない? なんでできてるんだ……?
そんなあたしの驚きなどに構いもせず、なにか怪しげな筒からドロッとしたものを絞り出している。
セウが手にしているのは、いい香りのする不思議な泡とトロリとした液体だった。
「い、いったい何をするつもりなんだ……セウ」
「これはシャンプーとボディーソープですよ~! 髪もお肌もツルツルになっちゃいま~す!」
しゃんぷ? ぼでーなんちゃら? そ、そんな液体であたしをどうするつも……!?
「な、なんだこの芳醇な香りは……!? 高貴な花園にいるような……くっ、何をするセウ!?」
セウの手が、するりとあたしの体に泡を滑らせていく。
泡で優しく肌を撫で回される感覚に、思わず背筋をゾクゾクと震わせたのだが……
ふぁ……な、なにこれ……
魔物との戦闘で全身泥と血と汗で汚れていたあたしの体が、みるみるうちに清められていく。
綺麗になっていくだけではない。なんだか心地の良い香りが、ふんわりとあたしの身体を包んでいく。
こ、これは気持ちがいい。
こんな経験したことがないぃい。
セウによるとシャンプーとボディーソープは温井の湯には常設してあるらしい。こんなものが常に使えるだとぉ……
「ふふふ、頑固な汚れも一網打尽ですねぇ~。さあさあリリシアさ~ん、洗い流したら次は湯船ですよ~お風呂はもっとすごいんですから~♪」
「な……これ以上に凄いことをされるというのか……!?」
あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。あたしは誇り高き聖騎士だ。こんな風呂ごときに心を屈するわけには……!
くっ……殺せ! あたしの誇りを奪えるものなら奪ってみろ!
心の中でそう叫びながらあたしはセウに促されるままに、なみなみとお湯が注がれた巨大な浴槽へと足を滑り込ませた。
「――――――ッ!?」
お湯が全身を包み込んだ瞬間。
あたしの思考は、完全に停止した。
「ふぁああぁあああ……ッ………………♡」
情けない声が、口から勝手に漏れ出てしまう。
なに……これ……!?
熱い……けれど痛くはない。そして徐々にじんわりと身体がお湯に慣れてくる感覚。それとともに疲弊した筋肉を酷使した皮膚をゆっくり優しく解きほぐしていくような、不思議な気分。
全身から溜まった毒素と疲労がス~っと抜け出ていくような感覚。 日々重い鎧を着込み、厳しい訓練と実戦に張り詰めていたあたしの神経が――ふにゃりふにゃりと溶けていく。
「あふぅ~なにこれぇ~~体がフワフワするぅ……っ」
湯船の縁に頭をのせ、あたしは完全に脱力した。浮遊感と圧倒的な開放感が同時に包み込んでくる。
騎士にあるまじき、無防備の極みのような感覚にどっぷりと浸っていく。
「ふふふ、リリシアさん。お湯に溶けちゃいそうですね~♪」
「セ、セウ。あたしは……あたしは今まで、本当の癒しを知らずに生きてきたのかもしれない。これは……これは悪魔の所業だ……気持ちよすぎて抵抗できないっ……♡」
あたしはただただ、うっとりと目を閉じ至福の快楽に身を委ね続けたのだった。
◇ヨシロウ視点◇
「はぁ~~ええ湯やった~~~極楽、極楽~~♪」
男湯から上がり、脱衣所でふはぁっと至福の息を吐く俺。
やっぱり銭湯は最高だな。広いお風呂につかって足を伸ばすだけで、日常のストレスも旅の疲労も綺麗さっぱり流されていく。
俺は服を着てロビーの長椅子で寛いでいると、ガラリと女湯の扉が開き暖簾をくぐって二人が出てきた。
「ご主人様ぁ~さっぱりしましたよ~!」
「おう、セウ。リリシアは……って、おお!」
暖簾の奥から現れたリリシアを見て、俺は思わず声をあげた。
濡れた赤い髪を後ろでまとめて、すっきりとした表情の彼女。銭湯備品の浴衣を身に纏っているのだが、お風呂上がりで蒸気を含んだ肌はほんのりと桜色に染まり、黒い瞳はどこかトロんと潤んでいる。
「あ、あまりジロジロ見るな……恥ずかしい」
リリシアは頬を染めて視線を泳がせたが、ゆっくりと俺に歩み寄ると深々と頭を下げた。
「ヨシロウ……そ、その……とても、良かった」
「ハハッ、そうかそうか。喜んでもらえて何よりだ」
俺が満足げに頷くと、彼女は感慨深そうに自分の掌を見つめた。
「凄いな、このセントウというのは……全身の体力が溢れ出るようで、疲労も残っていない。さらに心までが不思議と穏やかで、澄み渡っている感覚だ……」
リリシアの瞳に明るい光が灯ともっている。森で出会った時の、悲壮感漂う死にたがりのような目とは大違いだ。やっぱりご褒美の風呂は大事なんだよな。
どうやらこの異世界では、銭湯のお楽しみを知らない人が多いようだ。
そもそもそういった文化がないのかもしれんが、これは是非とも色んな人に楽しんでもらいたいな。
とまあ、今後の事は置いといて。さてさて。
ひとっ風呂浴びた後といえば――
俺はロビーの隅にあるガラス張りの冷蔵庫(リーチイン冷蔵庫)に目を向けた。
そこには冷やされたガラス瓶がズラリと並んでいる。
「おお……こいつだよぉ」
俺は宝物を見つけた子供のように目を輝かせ、茶色いガラス瓶を掲げた。
銭湯上がりの絶対王者―――コーヒー牛乳だ。