異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
「鎧を洗濯機に入れただと……!?」
俺は思わず大声で突っ込んでしまった。いくらなんでも洗濯機が壊れるし、鎧もボコボコになるだろ!
しかし、そんな俺の思考を嘲笑うかのうようにセウはニマっと口角をあげた。
「ムフフ~~ご主人様、【銭湯】スキルを舐めてもらっては困りますよぉ~~~この銭湯に備え付けられている家電は、従来の洗濯機から大幅にファンタジーパワーアップしているので問題ありませんから♪」
そう言ってセウが胸を張ると同時に、洗濯機から「ピーヒャララ~♪」と可愛らしい完了音が響く。
乾燥機付き全自動洗濯機から、セウが誇らしげに取り出してきたのは――。
「な……なぁあああ!?」
リリシアが絶句した。
セウの手にあったのは、新品同様……いや、新品以上にピカピカと銀色に輝く鎧だった。返り血も泥汚れも完全に落ちており、まるで鏡のように光を反射している。そして鎧からは、どこか爽やかな柑橘系柔軟剤の香りが漂っていた。
「こ、これがあたしの鎧!? まるで伝説の武具のような輝きを放っている……! しかも、なんだかすごく良い匂いがするぞ!」
鎧をさわって、ふわぁ~~っと爽やかな顔をしはじめる聖騎士さま。
いやいや、柔軟剤のCMかよ……
「ふふんっ、当然です! セウの全自動洗濯燥機は優秀ですから~~普段のお洋服から、金属製品も革製品も剣も魔法の杖もボタン一つでピカピカですよ~!」
むふんっ!と、ドヤ顔を決めるセウ。
すげぇ……恐るべし【銭湯】スキルだ。もはやコインランドリーの領分を超越している。
「な、なあセウ。さっき「現状ご主人様が使用できるのは銭湯(通常)のみ」って言ったよな……ってことは、レベルが上がればいろんな種類の銭湯が出せるようになるのか?」
俺が尋ねると、セウはハチマキから飛びて出たアホ毛をぴょこんと揺らした。
「当たり前ですよ~~【銭湯】スキルはお風呂系スキルの頂点に立つスキルなんですから!」
いや、そもそもお風呂系スキルってそんなにバリエーションあるんかよ。と、突っ込むのは置いておいて。
「ということはだ!」
俺はワクワクを抑えきれずにセウに詰め寄った。
「これからレベルを上げれば、様々な種類の銭湯を楽しめるんだよな!」
「もちろんですよ~~ただし……」
「ん? なんだ?」
「銭湯を使ったお客さんが心から満足して、満足度ポイントをくれればのお話ですけどね~」
満足度ポイントか……
なるほど、つまり俺の出した銭湯に満足してくれればポイントが入り、それが積み重なればレベルが上がるってことか。
それは俺も望むところだ。一人で楽しむより、みんなで楽しんだ方がいいしな。
「じゃあ、サウナやジャグジー、さらにはスーパー銭湯とかも作れちゃうってことか!?」
「チッチッチッ! ご主人様、甘いですよ~~日本にあるものは当然のごとく、それにとどまらないんですからぁ~~♪」
セウは人差し指をチチチと振ると、ニンマリと不敵な笑みを浮かべた。
「【銭湯】スキルの真の恐ろしさはここからです! ご主人様のレベルと発想次第で、日本にもこの異世界にも存在しない「未知の異世界銭湯」すらも生み出す力があるんですよ~♪」
「未知の異世界銭湯……!?」
つまり、日本のレトロ銭湯やスーパー銭湯だけでなく、この剣と魔法の世界ならではのファンタジー成分と融合した、誰も見たことがないような凄い銭湯まで作れるってことか!?
「マジかよぁお……最高すぎるやん……!!」
俺は興奮のあまり拳を握りしめた。
要するにだ。俺がこのスキルを使っていろんな人を銭湯でもてなし、楽しませて満足させればさせるほど、俺自身も未だ見ぬ最高の銭湯を開放して堪能し尽くせるってことだろ。
なにこの夢のシステム。
こりゃたまらんな。
俺が勝手にワクワクしていると、空になったフルーツ牛乳の瓶を置き、ふぅと吐息をついたリリシアが噛み締めるように口を開いた。
「ヨシロウ……本当に感謝する。お風呂、すっごく良かった。身も心も洗い流されて、生き返ったような気分だ。そして、その後にいただいたこの「フルーツ牛乳」も……あ、あたしの人生の中で間違いなく最高の絶品だったぞ」
リリシアの顔には、心からの満足感と晴れやかな笑みが浮かんでいた。
「ああ、満足してくれたなら良かったよ」
俺が優しく微笑み返した、その直後だった。
ザバァァ~~ンッ!!
頭上から、まるでお湯が溢れかえったような、清涼感あふれる大音響が響き渡った。
「なんの音!?」
驚いて周囲を見回す俺の隣で、セウがパッと両手を叩いて拍手をはじめる。
「ご主人様、おめでとうございまぁ~~す♪」
「え、なに今の音? どこかで湯船が決壊したのか!?」
「違いますよ~~レベルアップ音です~。リリシアさんが「最高に満足」してくれたおかげで、大量の満足度ポイントを獲得して【銭湯】スキルのレベルが上がりました~!」
「おおおっ! 【銭湯】スキルのレベルが上がったのか!?」
「【銭湯レベル2】になりましたよ~~」
「す、すげぇ! で、何が解放されたんだ!? 新しいお風呂か? それともサウナか!」
興奮してセウの肩を揺さぶる俺に、セウはウインクをして人差し指を口元に当てた。
「ふふ~ん♪ 具体的な追加機能や解放されたメニューは、次にスキルを使用した時のお楽しみで~す!」
ええぇ、滅茶苦茶気になるんだが。
だが……ま、時間に追われるリーマン時代ではないのだ。なら楽しみは後にとっておこう。これからどんな異世界銭湯ライフが待っているのか、ゆっくり想像して楽しむのもアリだな。
◇セウ視点◇
「ふぅ……」
ご主人様とリリシアさんが、ピカピカに洗い上がった鎧の確認で盛り上がっているのを横目に、ワタシは頭の手ぬぐいをキュッと締め直して小さな吐息をついた。
まさか初めてのお客さんでいきなりスキルレベルが上がっちゃうなんて……こんなこと、ワタシのスキル史上でも初めてですよ~
ワタシは、はしゃいでいる新しいご主人様――ヨシロウの背中をじーっと見つめる。
【銭湯】スキル。 一見すると、異世界では「ハズレ」と笑われがちなスキル。
でも、このスキルの本当の価値は、使用者の「銭湯への愛」と「解像度の高さ」によって何倍にも跳ね上がる特殊なスキルだ。
今までのご主人様は、せいぜい薪で沸かす五右衛門風呂を一つ出すのが限界。それなのに、このヨシロウというおっさんは……。
初手で完璧な建築美を誇る「レトロ銭湯」を一棟丸ごと、寸分の狂いもなくイメージして具現化しちゃいましたからね……。あの時のワタシの驚きといったら、トレードマークのアホ毛が抜け落ちるかと思いましたよ。
しかも、ただお風呂を召喚しただけじゃない。お湯の温度、清掃の行き届いた脱衣所、雰囲気を盛り上げる富士山のペンキ絵、そして風呂上がりの冷たい飲み物まで……。お客さんを「いかにお風呂で感動させるか」という情熱が溢れ出している。
だからこそ聖騎士のリリシアさんも、一発で骨抜きにされて最高度の満足度ポイントを叩き出した。
ふふふ……これは久々に、とっても楽しみなご主人様に出会えましたね~~♪
ただのレトロ銭湯で終わるか、それとも世界中を驚かせる至高の異世界スパリゾートを作り上げちゃうのか。まったく予想がつきません。
でも……なんかこの人ならやりそうな気がする。それにすごく後押ししたくなる不思議な人です。
さあ、こうなったらセウも出し惜しみしませんからね~~。
「ご主人様~! セウもお話に混ぜてくださ~~い」
ワタシは可愛らしく声を張り上げワクワクで胸を躍らせながら、愛しいご主人様のもとへと駆け寄っていった。