異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
爽やかな朝の光が、木漏れ日となって森の樹々を照らしていた。
「ふあぁ……朝か」
昨日は風呂上がったらすでに夜も更けていたので、銭湯の一角にある仮眠スペースでひと晩を過ごすことにした俺たち。
まあ所詮は仮眠スペース、たたみ一畳のうえに雑魚寝だからそこまで快適感はない。むろんリリシアとセウと同じ部屋で寝るのは色々マズいので、彼女たちはロビーに。俺は男子脱衣室へ畳を一枚持って行って寝た。
まあここら辺も俺の【銭湯】スキルのレベルが上がって行けば、快適なものになるだろう。
そう考えれば、いまの雑魚寝も悪いもんじゃない。
今日はどんな一日を過ごそうか。などと自然に鼻歌が出てきそうになった俺。よく考えたらこんな感覚になったのは久しぶりだな。
そうこうするうちに、リリシアとセウの起きる気配がした。
とりあえず2人に「おはよう」して、俺たちは温井の湯を出る。
俺は振りかえって、改めてこのレトロ銭湯の全容をまじまじと見た。銭湯自体は何の問題もないんだが、完全に草原にポツンと一軒である。
人っ子ひとりいない……猛烈な不安が押し寄せてきた。
「なあ、セウ。これって出しっぱなしなのか?」
どうしよう、勢いで建てたとはいえここの立地は最悪だぞ。今後銭湯経営で食っていくにせよ、さすがにこんなところにお客さんはこないだろう。
俺の疑問にハチマキを締めたスキルガイドのセウが、ニシシと八重歯をのぞかせて笑った。
「大丈夫ですよ~~ご主人様が「閉店コール」をかければ、一瞬でスキル空間に格納されますからね~♪」
「おお、やっぱり格納機能はあるんだな! じゃあ早速――閉店!」
俺がパチンと指を鳴らして宣言した、次の瞬間。
ズズズ……と空間が歪んだかと思うと、ついさっきまでそこにドッシリと鎮座していたレトロ銭湯が、まるで最初から存在しなかったかのように跡形もなく消失した。あとに残されたのは、なにもなかったかのように草の生える地面と、朝の清々しい森の空気だけだ。
「うんうん、これでよしと」
「あああぁ……っ!?」
俺が良かった良かったと胸を撫でおろした直後、背後から身を切り裂かれるような悲痛極まりない絶望に近い悲鳴が聞こえてきた。
振り返ると、そこには昨日の汚れが全自動洗濯機で綺麗サッパリ落ち、新品以上にピカピカに輝く白銀の鎧を身にまとったリリシアがいた。 彼女は銭湯があった空間に向かって両手を伸ばし、ガクッと膝をついている。
「消えた……!? あの至高の空間が、天国のお湯が……あたしの癒やしの聖地が消えてしまった……っ! そんな、ウソだと言ってくれヨシロウ……っ!」
そこにあったはずの銭湯を探すべく、宙をかくリリシアの両手。
リリシアのショックを受けすぎた顔と仕草があまりにも不憫で、俺は思わず苦笑しながらツッコミを入れた。
「いや、どんだけ絶望するんだ。消したんじゃない、俺のスキルの中に仕舞っただけだから!」
「し、仕舞っただけ……? ということは、また出すことができるのだな!?」
「出せるぞ。ただ、こんな草原で一日中営業するわけにもいかないだろ。とりあえず人がいる場所を目指して移動しようと思うんだが――」
俺が今後の予定を話そうとした、その時だった。
リリシアが素早い動きでガバッと立ち上がると、俺の前に立ちはだかり真剣な眼差しでガシッと俺の両肩を掴んできた。
うぉ、凛々しい顔面が近いんだが!?
「な、なあヨシロウ。ちょっとあたしの魔物狩りについてこないか!」
「……は?」
唐突な提案に、俺は素で間抜けな声を上げてしまった。
「いやいや、なんで? すご腕の聖騎士様が、戦闘力ゼロのただのおっさんを連れて魔物狩りに行ってどうする? 意味が分からんぞ」
「い、いや、深い意味はない! ただその……あたしの戦いぶりを見てもらおうと思ってな」
「見てもらってどうするんだよ。ていうか、リリシアって聖騎士なんだろ? 教会での任務とかあるんじゃないのか?」
「う……実は、そのだな。少しばかり休暇をもらっているのだ。自分の剣技を見つめ直し、さらなる実戦を積むためにな! だから……そう、だからだ!」
リリシアは必死な顔でぐいぐいと距離を詰めてくる。整った美しい顔が至近距離に迫り、柑橘系の柔軟剤の良い香りが鼻腔をくすぐる。
かつての俺の社畜人生にこのような場面があっただろうか? いや、ねぇーよ。
「だったら余計に、俺みたいな素人と行動しても得られるものなんて何もないと思うぞ?」
「い、いや! もちろんヨシロウは安全な後ろで見ていてくれたら良い! 戦うのはあたし一人で十分だ! な、良いだろ? な!」
「え、なにその必死さ……?」
いやに強引というか、何が何でも俺を逃がすまいとする執念すら感じる。
(だって、ここでヨシロウと別れたら、二度とあの「銭湯」に入れなくなってしまう……ヨシロウと一緒にいれば、またアレを……味わえる。それにヨシロウは気を許せる男だし……)
「んん? リリシア、なんか言ったか?」
顔を真っ赤にして口の中でモゴモゴと呟いていたリリシアに尋ねると、彼女は跳ね上がるように姿勢を正した。
「い、いや、なんでもない! とにかくあたしのお風呂……じゃなくて、ちょっとついてきてほしいだけなんだ!」
……なるほどな。
要するに、また銭湯に入りたいから俺をキープしておきたいようだ。そりゃこんなくたびれたおっさんと一緒にいたいなんて、変だと思ったよ。だが美人聖騎士にそこまで執着されるのは、男として決して悪い気はしない。それに銭湯好きは俺も歓迎したいところだし。
あと、ちょっとこの子の戦い方って無理やりねじ込んでるみたいな感があって、気にはなってたんだよな。
戦闘素人の俺が出しゃばる領域でもないんだが、折角の縁があって知りあったんだ。また力を使い果たしてバタンきゅうされても困るし。
「ふふ~~ご主人様モテモテですねぇ~♪」
アホ毛を揺らしてニヤニヤと絡んでくるセウ。
そんな番頭少女を見て、ふと別の疑問が頭をよぎった。
「ところで……セウは消えないんだな?」
閉店コールにより銭湯は跡形もなく消え去ったというのに、俺の隣には相変わらず頭に手ぬぐいを巻いたセウが当然のごとくいる。
俺の言葉を聞いた瞬間、セウは「はっ」と息を呑み、大げさに目を見開く。
「ええぇえ!? ごごご、ご主人様……
セウはちっこい顔を両手で覆い、わざとらしい嘘泣きを始めた。
「よ、ヨシロウ……お前、セウのことをそんな不純な目で見ていたのか……いくら命の恩人とはいえ、それはさすがに……」
リリシアがドン引きの眼差しを俺に向けてきた。
「いやいやいや、違うから! 完全に冤罪だから!!」
俺は両手を激しく振って否定する。
「こら、このいたずら番頭め。俺をどんだけ悪徳経営者&変態オヤジに仕立て上げたら気が済むんだよ。あとリリシア、お前もセウの分かりやすい茶番に速攻で流されるんじゃない」
「ち、茶番……なのか?」
「当たり前だ。俺がセウに手を出すわけがないだろ」
「まったくしようのない奴だと」ため息をつくと、セウは覆っていた手をチラッと開けて、その隙間からニヤっと笑った。
「むふふ~もちろんご主人様が望めば消えますけどね~♪ ワタシはスキルガイドですから、ご主人様が「休暇」を与えてくれれば、スキル空間に戻って休むことができるのですよ~」
それを早く言ってくれよ……
「……お前、絶対にわざとやったろ」
ぐぬぬ……と唸る俺に、セウは可愛らしく舌をペロッと出した。
「えへへへぇ~♪ やっぱりからかい甲斐のあるご主人様、すきぃ~♪」
そう言うやいなや、セウは俺の右腕に抱きついてすりすりと頬を寄せてきた。柔らかい感触と甘い香りが伝わってくる。が……おっさん可愛い見た目には騙されんぞ。この子は小悪魔ガイドなのだ。
「……たく、遊ばれてる気がしてならん」
俺はため息をつきつつも、腕にまとわりつくセウを振り払うことはしなかった。
「まあ、俺もまだここの地理を完全把握はしてないし、特にやることもないからな。リリシアの狩りについて行くくらいならいいぞ」
「ほ、本当かヨシロウ!!」
リリシアの顔がパッと華やいだ。
俺としてもメリットのある提案ではある。この世界の魔物のことはある程度知っておいた方がいいからだ。
情報収集は大事である。
「よし、それじゃあ出発……の前に。セウ、お前には「休暇」を与える。スキル空間に戻って休んでいいぞ」
俺がそう告げると、セウはパぁっと笑顔を輝かせた。
「わぁ~い、ありがとうございますぅご主人様ぁ~♪」
俺も銭湯経営者となったんだ。ちゃんと休みを取ってもらわんとな。以前の休日出勤まみれの社畜人生をセウにやらせる気は毛頭ない。
と思っての「休暇」だったのだが。
「……ん? セウ、何で消えないんだ?」
「だって今はセウの自由時間ですからねぇ~~だから自由にしてるんですぅ~♪」
胸を張ってドヤ顔を決めるセウ。
「いや消えへんのかい!!」
俺のツッコミが朝の森に虚しく響き渡った。
休暇を与えて自由にしていいと言ったら、自由にご主人様(俺)についてくる選択をするスキルガイド……まあ、賑やかだからいいけどさ。
こうして俺と番頭少女のセウは、リリシアの狩りについていくのであった。