異世界銭湯おっさん、転移勇者たちが凄い【戦闘スキル】なのになぜか俺だけ【銭湯スキル:せんとう】で追放された件~好きに銭湯ライフ楽しんでたら、身も心もとろけた美人聖騎士や聖女が連日押し寄せてくる~ 作:もちぎゅう
「ふはぁ~~王都の郊外とは思えんな~」
草原からさらに足を延ばした先の森についた俺は、なんとも薄気味悪い感じが漂う木々を見上げて口を開いた。
「ああヨシロウ、ここは魔の森と呼ばれているんだ」
「魔の森?」
リリシアの話によると、王都の郊外北部に広がる森は昔から魔物が出没するエリアだそうだ。
その主な原因は、森の奥にあるダンジョン。
ダンジョンはこの世界の大陸数か所に存在しており、多くの魔物はダンジョンから湧き出るらしい。
「てことは、けっこうヤバイ場所なのか?」
「ハハっ、大丈夫だヨシロウ。ダンジョンの中層以下にでも入らない限りは、強力な魔物はいないからな」
ダンジョンは下層に下りるほど強力な魔物がいるらしい。そしてダンジョンから魔物が湧き出るといってもそこまで大量というわけでもなく、また上層のそこまで強くはない魔物が森に出てくるとのことだ。
ようするに、この森に強力な魔物はいないってことらしい。
「にしてもそこまでリスクはないとはいえ、なんでこんなところに王都があるんだ?」
「ああ、それは聖女様と関係がある」
1000年前に大規模な
いわゆるダンジョンから魔物が溢れだすっていうやつだ。で、この災害を食い止めたのが当時の勇者と聖女。
「んで2人はめでたく結婚したと」
「そうだ、初代勇者様と初代聖女様は行く末を見守るためにこの地に腰を落ち着けられたのだ」
なるほど、それがこの王国の起源といわけか。
「ちなみにリリシアは今の聖女様と会ったことがあるのか?」
「ま、まあな……あたしは聖騎士だからいずれは聖女さまのお傍に……」
何かを言いかけたリリシアはそのまま話題を変えた。
「と、とにかく、そこまで強力な魔物は出ない。だがヨシロウ、セウ、あたしの後ろからは離れるなよっ」
「ああ、わかったよ。リリシア」
「は~~い、リリシアさ~ん」
魔物が出る以上は一定のリスクはあるだろう。
いくらそこまで強くないといっても、魔物である。一般人からしてみれば普通にヤバイやつらに変わりはない。
だが、これはある意味チャンスでもある。この世界で生きていく以上魔物に遭遇する可能性がゼロになることはないだろう。もしかしたら一人で対処しないといけないピンチが来るかもしれない。だから、魔物を直に見る機会は貴重だ。
戦うにせよ逃げるにせよ、相手を知っておくのは重要だからな。
「そういえば、昨日リリシアが放った斬撃はスキルなのか?」
そうそう、これちょっと気になってんだよな。
俺は速攻で王城から追い出されたから、この世界の基礎知識があまりない。
こういうのは詳しそうな現地人から聞くのが一番だ。
「いや、違う。あれは【闘技】だ」
「とうぎ?」
「ああ、【闘技】とは闘気を燃焼させて使う技だ。スキルとは違う」
詳しく聞くと、闘気ってのは身体に蓄えられた生命エネルギーみたいなもんらしい。
こいつを燃焼させて技を繰り出すのが【闘技】。ちなみに剣術、槍術、体術など様々な【闘技】があるとのこと。あとファンタジーでド定番の魔法は魔力を使用するという認識で間違いなかった。
「ちなみに【スキル】ってなにを元に使用してるんだ?」
「あたしも詳しくは分からないが、魔力を元に使用していると聞いたことはあるな」
魔力ねぇ、おっさんそんな魔力もちには見えないけどな。
でも今回の転生者は全員【スキル】が発現したんだから、もしかしたらある程度の魔力を持っていたりするのかもしれん。
「ちなみに【スキル】持ちはそれほどいないんだ」
「そうなんか」
なるほど、だからリリシアも詳細が分からないんだな。にしても……
あの高校生3人組はやっぱ凄いんだな。希少なスキルもちのうえに勇者スキルなんだから。
まあ、俺もある意味凄いスキル持ちではあるんだが。
などと色々リリシアから情報収集していたら、彼女の動きがピタリと止まった。
「ヨシロウ、セウ――」
リリシアが低く小さな声を漏らした。
彼女は先ほどまでの顔つきとは一変して、鋭い眼光で周囲を警戒している。
静まり返ったなか、前方の草むらが揺れた。
「――きたぞ!」
リリシアが素早く腰の長剣を抜く。草むらをかき分けて現れたのは、昨日も見た漆黒の毛並みを狼の魔物――ブラックウルフだった。しかも一匹ではない。周囲の木々の影から三匹のブラックウルフが唸り声を上げながら姿を現した。
「「「グルルル……ッ!」」」
普通ならビビる場面だが、リリシアの表情に恐怖は一切なかった。
「――――ハッ!」
リリシアが地を蹴った瞬間、彼女の身体が疾風となって加速する。
ええぇ、めっちゃ速いんだが!?
凄いスピードだ。一番近くにいたブラックウルフが反応すらできないまま、銀色の刃が首元をズバッと切り裂く。
「ガフッ!?」
一匹目が崩れ落ちると同時に、リリシアは空中での滑らかな身こなしで着地し、間髪入れずに二匹目の懐へと飛び込んだ。流れるような剣舞。昨日、満身創痍で倒れていた姿からは想像もつかないほど、軽やかな動きだ。
「この程度で……まだまだぁ!」
スパァンッ! と眩い斬撃が走り、二匹目の首が跳ね飛ばされた。
「もっと、もっとだぁ!!」
最後の一匹はリリシアに牙を剥いてとびかかって来たところへ、彼女の鋭い斬撃がぶち込まれる。
「……ギゥ」
上半身と下半身が離れたブラックウルフは、そのまま地面へとうち伏せられる。
わずか数秒の出来事。三匹の魔物はあっというまに剣の錆と化した。
すげぇ……人間技にはみえん。やっぱここはファンタジー世界なんだってのをまざまざと見せつけれた気分だぜ。
「ふぅ……」
剣についた血をパッと払い、鞘に収めるリリシア。その顔には驚きと興奮の色が濃く浮かんでおり、自分の手の平を何度も握ったり開いたりしている。
「よ、ヨシロウ……! なんだこれは……身体が、身体がすっごく軽いぞ!?」
リリシアが目を輝かせてこちらへ駆け寄ってきた。
「筋肉のコリも疲労も綺麗サッパリ消えていて、集中力が研ぎ澄まされている! いつもより速く動けた気がするぞ! 一体どうなっているんだ!?」
彼女の興奮ぶりに、俺の隣で腕を組んでいたセウが「ふふん」と誇らしげに胸を張った。
「そりゃそうですよ~昨日の入念なセウサーチ(触診)では、リリシアさんの身体には長年の戦闘と無理な鍛錬による慢性疲労が大量に蓄積してましたからねぇ~♪」
セウは対象に直接触ることで相手の状態がわかるらいしいが、そこまで詳細な解析ができんのか。
おっさんには、単におさわりされている女騎士の声しか聞こえんかったが。
「ご主人様の出した銭湯の絶妙な湯加減と、発汗作用によるデトックス、そして仕上げのフルーツ牛乳による栄養補給で完全復活したのですぅ~!」
「細かな原理は分からないが……つまり、あのセントウに入ったことであたしの身体はすこぶる調子がいいってことだな」
「は~~い、そうですよぉ~~♪」
セウがムフフ~~っとアホ毛を揺らした。
なるほどな……。
俺の【銭湯】スキルは単に気持ちいいお風呂を提供するだけじゃない。日本の銭湯文化が持つ疲労回復効果をファンタジーパワーで極限まで引き上げた、超強力なヒーリング施設でもあるのか。
「凄まじいな……ヨシロウの【銭湯】は、戦闘補助としても超一流ではないか……!」
リリシアが尊敬の眼差しで俺を見つめてくる。まあ、俺は好きな銭湯を彼女におすそ分けしただけなんだが。彼女の役に立ったのならば良かったよ。
ただな……ちょっとひっかかることがあるんだが。まあもうちょい様子を見るか。