1999年の4月のある日。俺、相沢宏太(あいざわ こうた)はバイト先である軽食専門の屋台で開店の準備をしていた。
「よいしょっと」
店で買った飲み物や食べ物がすぐに食べれるように椅子や机を並べていく。
屋台がある公園は他と比べて少し広くベンチや噴水もあって座って飲食もできるようになっていてここが満席になっていても安心だ。
「椅子と机も並べたし次は仕込みの準備すっか…‥」
店主のおやっさんは足りない材料や調味料を買いに行っているしすぐには戻ってこないから今のうちにやっておくか。
「まずはホットドック用のパンを……んっ?」
ふと、後ろを振り返るとそこにはベージュ色のセミロングヘアで黒いリボンを結び、頭頂部には2本のアホ毛が生えていて瞳の色は紫で服装は袖にレースのついた白いブラウスの上に白いスクエアカラータイプの付け襟と紫のボタンが付いた黒いケープを羽織りブラウスの上にケープと同色の白いレース付きのベアワンピースを着て薄紫色のタイツを履いて黒いパンプスを合わせている小さい杖の形のペンダントを下げている女の子がいた。
「まだ開店前なんだけど?」
「知ってる」
少女は表情を変えずにそう返事した。
俺は彼女のことを知っている。彼女の名前は森亜るるかといい二、三ヶ月ぐらい前に屋台の近くのベンチでどこか思い詰めている表情をしているのを見つけて声をかけてサービスにアイスをあげてそれからちょくちょく屋台に来てはアイスを買ってくれて今じゃタメで話すくらいの関係になった(後で知ったけどるるかは俺と同じ高校生だった)。
「もう少ししたら店始めるから座って待っててくれないか?」
「わかった」
俺にそう言われて椅子に座ってオープンするのを待つるるか。
「先に注文聞くけど「アイス。コーンで五段乗せで味はチョコ、オレンジ、ソーダ、ストロベリー、バニラの順で」はいよ‥‥‥」
すらすらと注文をするるるか。
こいつは基本アイスしか頼まず他のメニューには目もくれない。
「たまには他のも頼めよ。アイスばかり食ってたら体冷やすぞ?」
「いいの。アイスならいくらでも食べれるし……それに‥‥‥」
「それに?」
「‥‥‥‥なんでもない」
「?」
なんか言いたそうとしてたけど言わなかったるるか。
これ以上は無理に聞かない方がいいか。
「じゃあ、アイスならすぐ出せれるから今から作るよ」
「うん」
俺は冷凍庫から業務用のアイスケースを出して注文通りの味をディッシャーで掬って順番に乗せていく。
「んしょっと………」
「…‥‥‥‥……」
「んっ?何見てんだ?」
アイスを掬っている俺を見つめているるるかに話しかける。
「別に」
「?」
本当に変なやつだな…‥‥‥
「ほら、出来たぞ」
五段アイスが完成しるるかに手渡しに行く。
「ありがとう。これお金」
「毎度あり」
アイスを渡しるるかからお代をもらいエプロンのポケットに入れる。
「すぐにはお客さん来ないだろうしゆっくりしていけよ」
「そうする」
るるかにそう言って俺は再び仕込みをしに屋台の方へ戻った。
「‥‥‥‥‥‥…」
私はアイスを食べながら宏太が仕事をしている様子を見ている。
「宏太‥‥‥‥‥」
アイスを舐めながら彼と出会った時のことを思い出した………
『‥‥‥……‥』
三ヶ月前、私は行きつけのお店であるパティスリーチュチュが臨時休業のためアイスが食べれず帰りの道中この公園に寄り一休みしていた。
『‥‥‥‥‥くれあ……‥‥』
落ち込んでいるのはアイスが食べれなかったことではなくチュチュで働いている帆羽くれあの様子が見れなかったことだった。
『(私が必ず…………けど……)』
そう決めたのにまだどこかで迷いがあった。本当にこれでいいのか?けど、これしか方法がない………そんなことを繰り返し考えいてると
『ねぇ、君』
『?』
声をかけられ顔を上げるとそこには私と同じくらいの歳の男の子が立っていた。
『なにそんな暗い顔してんの?』
『別に……貴方には関係ないでしょ……』
『そっか……じゃあ、ちょい待ってて』
『?』
男の子は少し先にある屋台に向かい少ししてからアイスを一つ持って戻ってきた。
『はい、どうぞ』
『これは?』
『サービスだ。これ食って元気だせ』
男の子はアイスを私に渡してそう言った。
『いらない‥‥‥‥…』
『いいから。溶けたらアイスが勿体ないし』
『あっ、ちょっと…‥‥…』
彼から無理やりアイスを渡され仕方なく受け取った。
『‥‥…‥‥いただきます』
私はアイスの誘惑に勝てず食べることにした。
『‥‥…‥‥美味しい』
『だろ?北海道産の牛乳で作ったバニラアイスだぜ?』
『そうなんだ‥‥…はむっ‥‥…』
想像していたより美味しいアイスで私は夢中で食べいった。
『ふぅ‥‥…美味しかった。ごちそうさま』
『お粗末さま』
『・・・・・・・・・・』
『何?』
『また来る・・・・・』
『ああ!また来てよー!!』
『・・・・・・・・・・』
彼のそんな言葉を聞きながら振り返らずに公園を後にした。
それから私はチュチュと並行して彼がバイトしている屋台に通いつめてはアイスを注文して食べた。
『なぁ、るるか』
『なに?』
『お前、初めて会った時より元気出てきたな』
『えっ?』
『前は暗くてなんか悩んでる顔してたけど今はうちのアイス食ってると微笑んだりしてるんだよなー』
『えっ‥‥…‥?』
私、そんな顔してたの‥‥…?
『俺さぁ、いろんな人を笑顔にしたいって夢があるから将来はそういう仕事とかしてみたいなって思ってるだ。まぁ、具体的ことはまだ決まってないけどな。あはははっ』
『・・・・・・・・・・』
彼の夢を聞きながらアイスを舐める私。
彼のその熱くまっすぐな瞳はとても輝いていた。彼女のように・・・・・・・・・・
『・・・・・・・・・・素敵ね、その夢』
『えっ?おう!ありがとな!』
『!!?』
彼は少し照れながら笑った。その笑顔は私の曇っていた心を一瞬だけ照らしてくれた。
『てか、るるかは将来何かなりたいものとかあるのか?教えてくれよ!』
『内緒・・・・・・・・・・』
『ええ〜っ』
『アイス美味しい・・・・・』
私は黙々とアイスを食べ続ける。
私の夢とかしたいことなんて彼には言えない・・・・・・・・・・今の私が怪盗であることだって・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・ふぅ、美味しかった」
宏太との出会いの思い出を振り返るとアイスを食べ終えてしまった。
「じゃあ、私行くね」
「えっ、もう?」
「この後用事あるから」
「そうか。じゃあ、またな」
「ええ、またね」
宏太と別れ公園を出て少し歩いていくと
「るるか〜!」
「あっ、マシュタン」
私のお供妖精であるマシュタンがこっちに向かって飛んできた。
「もう〜どこ行ってたのよ〜?」
「宏太のとこ」
「ああ、彼のとこね。それよりもウソノワールが呼んでたわ。早く戻りましょう」
「わかったわ」
私はマシュタンと共に怪盗団『ファントム』のアジトへ戻ることにした。
「(宏太には怪盗である私の顔は見せられない・・・・・)」
彼にはまっすぐに生きてほしい・・・・・私は今度こそ守ってみせる。大切な人を・・・・・・・・・・
宏太、アナタハワタシガ・・・・・・・・・・
百合が咲かなかった世界だ・・・・・代わりに病みの花が咲きそう・・・・・