鳴成との試合は、その後も大きく流れを変えることなく進んだ。
銀城を中心にボールを動かし、津川が相手の得点源を抑え、岩村と大室がゴール下を支える。桐皇戦のように限界まで力を引き出す必要はなく、蓮も《
鳴成が蓮への警戒を強めれば春日や津川が空き、外を広く守れば岩村たちが中へ入る。パスを警戒して距離を取れば、蓮自身がシュートを沈める。正邦は相手の守り方に合わせて形を変えながら点差を広げ、そのまま危なげなく決勝リーグ2勝目を手にした。
続く最終戦、泉真館を相手にしても流れは同じだった。
決勝リーグまで勝ち上がってきただけあって簡単に崩れる相手ではなかったが、正邦も桐皇戦を越えてさらにまとまりを増している。津川が前からプレッシャーをかけ、その後ろを岩村たちが固める。攻撃では春日や大室も絡みながら蓮が全体を動かし、泉真館が一つの形へ対応する頃には別の場所から得点が生まれていた。
もう一人の自分に身体を渡す必要もなければ、《
そして第4Q、残り時間が一分を切る。
正邦がリードしたまま時計は進み、泉真館のシュートがリングを外れた。岩村がリバウンドを確保すると、そのまま蓮へボールを渡す。
無理に攻める必要はなかった。
蓮はゆっくりとフロントコートへ入り、泉真館の守備を見ながら時間を使う。最後まで諦めず前へ出てくる相手に対し、正邦も雑には終わらせない。春日へ一度預けたボールが戻ってくると、残された時間はもうほとんどなかった。
ベンチから声が飛ぶ。
蓮はボールを抱えたまま時計を見上げた。
その数字がゼロになり、試合終了のブザーが体育館に響く。
「っしゃあ!」
岩村の声と同時に、正邦のベンチが沸いた。
コートへ出てきた控えの選手たちを迎えながら、春日と大室も笑っている。津川はすぐに蓮のところまで来ると、勢いよく肩を叩いた。
「全国っすよ、全国!」
「痛いって」
「いいじゃん今日くらい!」
蓮は苦笑しながらその手を払った。
桐皇に勝った時とは違い、身体の奥に焼きつくような高揚はない。それでも、仲間たちの顔を見ているうちに実感が少しずつ湧いてくる。
入学してからここまで、誠凛、秀徳、桐皇と戦ってきた。簡単な試合などほとんどなく、そのたびに正邦は自分たちのバスケットを変えながら勝ち残ってきた。
そして今、東京都予選を3戦全勝で終えた。
正邦高校のインターハイ出場が決まった。
『やったね』
【まだ全国で一勝もしてねえだろ】
『それはそうだけど、今くらい喜んでもいいでしょ』
【好きにしろ】
相変わらずの返事に、蓮は小さく笑った。
正邦に敗れた桐皇も、その後の決勝リーグでは勝利を重ねていた。
青峰大輝を擁する優勝候補は正邦戦の一敗こそ抱えたものの、そこで止まることなく全国への出場権を手にする。
蓮はその結果を聞いても驚かなかった。
青峰があの一試合で終わるとは思っていない。
試合後に交わした言葉も覚えている。
次に会う時、青峰がどこまで変わっているのか。それを考えると、少しだけ楽しみでもあった。
全日程を終え、正邦の選手たちは会場をあとにした。
「全国かー」
歩きながら津川が呟く。
「お前、それ何回目だ?」
春日に言われても、津川は気にせず笑っていた。
「だって全国っすよ。言いたくなるでしょ」
「まあ気持ちは分かるけどな」
前を歩く岩村まで笑い、いつもの帰り道より少しだけ賑やかな声が続いていく。
蓮はその後ろを歩きながら、これまで戦った相手を思い返していた。火神大我、緑間真太郎、青峰大輝。東京だけでも、自分が日本へ戻ってくるまで知らなかった強い選手が何人もいた。
なら、全国にはまだいる。
自分の知らない選手も、知らないバスケットも。
「銀城! 置いてくよ!」
前から津川に呼ばれ、蓮は顔を上げた。
「今行く」
少しだけ歩く速度を上げ、仲間たちの方へ向かう。
東京都予選は終わった。
次の舞台は、インターハイだった。