星降り雨のルーミエ The Girl beneath the Rain of Stars   作:鐘餅

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少し長いです


特訓開始!

 ――とまあ、そんな感じで。

 ララの世話をすることになったルーミエ。

 

 一応その日の夜、キズナに連絡したところ、大いに喜ばれた。

 

『おお、ありがとう、ルーミエちゃん。恩に着るんよ〜』

「いやいや、こちらこそ」

 

 そうしてルーミエはしばらく考えてから、キズナに確認する。

 

「あの、キズナ先輩……本当に俺も調査を手伝わなくて良いんすか?」

 

 と言うのも、ルーミエだってこの地域一帯のベテランなのだ。

 今は別々に活動しているが、昔はよく一緒に行動していた。

 相棒だし、親友だ。

 キズナと共にこの町の人々を守ろうという気持ちくらいある。たとえ自分の将来を諦めていたとしても……キズナばかりに任せるのは流石にどうかと思うルーミエなのだ。

 

 だが、キズナは言った。

 

『うん、それについては大丈夫なんよ』

 

 何というか、実にあっけらかんと、電話の向こうでキズナは言った。

 

『ていうか、ルーミエちゃんには今のまんま動いて欲しいんよね』

「今のまんま……っすか?」

『そそ。ちゃんと理由もあるとよ? 聞く?』

「……聞くっす」

 

 ルーミエは壁にもたれかかったまま、スマホを持ち直した。

 すると、キズナはコホンと咳払いをして、まるで授業でもするような口調で話し始める。

 

『まず一つ目。消えとる子はみーんな七川側の住宅街の子なんよ。特にうちの附属小の子が多か』

 

(附属小……先輩の学校の、小学部か)

 

 七川教育大学附属学校……通称七教校、七教中(まとめて附属学校)には、実は小学部が存在する。

 いわゆる小中一貫の名門校で、地元ではそこそこ有名な伝統校だ。

 おまけに入学金が私立の割に安く、生徒数も結構多い。

 

 そんな学校の子たちが何人も消えている……?

 単なる偶然には思えなかった。

 

『そして私は附属の生徒やけん、子どもらの噂話も聞き込みもしやすい……ってのは分かるやろ。制服着とったら誰も怪しまんしね。……逆に君、想像してみ? 昼間っから小学生に話しかけて回るフリーターって』

「…………怪しいっすね」

『でっしょ〜?』

「そこまで言わなくても良いじゃないっすか……」

 

 というか、一応高校生相当の年齢なので、そこら辺の変態不審人物と一緒にならないはずではあるが……女子だし。多分。

 ……そうだよね?

 ちょっと自信がなくなるのは、何故なのだろう……。

 

『二つ目。消えとる子はみーんな十歳前後。……ララちゃんと、同い年の子たちなん』

「――ッ!?」

 

 そこでルーミエは思わず息を呑んだ。

 スマホを握る指に、知らず力が入る。

 固い声で聞いた。

 

「それは本当の話なんですか?」

『うん。魔女やなくて何か別のもんが子どもを狙っとるなら……一番危なかとは、一人で結界に潜るような新人の子どもやろ? 君がララちゃんの側におるのは、そのまま護衛で、そのまま調査になるっちゅー理屈よ』

 

 ――確かに、その通りかもしれない。

 ついさっきまで、ララは魔女に殺されかけていたのだ。

 あの子を一人にするなんてのは危なっかし過ぎる。

 

『そして三つ目』

 

 そうしてキズナの声が、真面目な色を帯びる。

 

『以前も言った通り、魔女が戻ってきとる今、君まで雲母町から離れたら、あそこが手薄になるやろ? あの町の守りは君と、ボタちゃんと、これからはララちゃん。そこを見とけるのは、君だけなんよ。それにね、私が本格的に潜ったら、しばらく連絡つかんくなるかもしれん。やけん、動けるうちに頼んどきたかったと』

「……」

 

 キズナの言い分は、本当に真剣そのものだ。

 そして内容にも、とても筋が通っていた。

 護衛と調査。町の守り。

 どれも反論の余地がない。

 だが、それ以前に、こうもポンポン理由が出てくること自体が、少し引っかかった。

 

「……それで、全部っすか?」

 

 ルーミエは気になって聞いた。

 

『ううん、まだあるよ。四つ目』

 

 そこで、ふっと間が空いた。

 ほんの一秒か二秒だ。

 普段のキズナなら絶対に挟まない、不自然な沈黙だ。

 

「先輩?」

『……ああ、ごめんごめん。えっとね』

 

 しかし、次に聞こえた声は、いつも通り明るいものだ。

 

『君さ、放っておくと一番危なかとこに自分から突っ込むやろ?』

「は? そんなこと――」

『あるったい。やけん今は、新人の面倒見て、ちょっと肩の力抜いとって欲しかな〜って。これが四つ目』

「…………」

 

 ルーミエは思わず眉を寄せた。

 何となく不愉快な気分になった。

 

「……多いっすよ、理由。逆に怪しいっす」

『理由は多い方が説得力あるんちゃう?』

「そーいうもんじゃないっすよ」

『あはは』

 

 キズナはカラカラと笑った。

 いつもの、太陽みたいな笑い声だった。

 だから、ルーミエはそれ以上追及できなかった。

 ……本当は少しだけ、分かっていたのだ。

 先輩がこういう風に、やたらと数を並べて畳みかけてくる時は、大抵何かを隠している。

 けれど。

 

(言わないなら、言えない理由があるってことだ。)

 

 この人はそういう人だ。

 そして、それにズケズケ入り込むのは間違っている。

 五年間、そうやってお互いの背中を預けてきたのだ。

 だからルーミエは、一つだけ確認して終わらせることにした。

 

「なら一つ、約束して下さいっすよ。危なくなったら、俺をちゃんと呼んでください。絶対っすよ」

『はいはい。約束しとく』

「先輩の大丈夫とはいはいは信用ならないんすよ」

『酷くない?』

 

 ぷっと吹き出す気配。

 それからキズナは、柔らかい声で言った。

 

『ララちゃんとボタちゃんのこと、頼んだけんね。おやすみ、ルーミエちゃん』

「……おやすみなさい、キズナ先輩」

 

 通話が切れる。

 急に静かになった部屋で、ルーミエはスマホの暗い画面をしばらく眺めていた。

 

(教育係、か)

 

 実は誰かに何かを教えた経験なんて、ありはしないルーミエだ。

 そもそも自分は、誰にも教わってこなかったのだ。

 それでも――

 

「やるって決めたからには、やるしかねえな」

 

 小さく呟いて、ルーミエは溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ララと出会って数日が経過した。

 

 どういう訳か、ララはあれ以来、仲間の溜まり場である不屈の家に顔を出すようになっていて――結論から言うと、何の冗談かと思うくらいあっさりと馴染んでいた。

 それはもう、家主の不屈が驚くほどに。

 

「どうしてお前が連れてきた奴らは、いつもこうなんだ?」

 

 不屈の視線が妙に痛かった。

 ルーミエは思わず目を逸らした。

 というか、それはこっちが言いたい台詞だ。

 

 ぼたんと言い、ララと言い、何故か昔からいますが何か? という雰囲気で、いつの間にかそこにいる。

 ルーミエとてびっくりする。

 まあ……浮いているよりは全然良いが。

 

「逆にキズナの奴は最近変に来ないし……ったく、アイツは何処で何やってるんだか……」

 

 だが不屈も冷酷でもなければ薄情でもない。

 むしろ情に厚く、甘ちゃんだ。

 なのでなんだかんだ言いつつも小学生のララには特に甘かった。

 

「まあ、ゆっくりしてけ。お茶でも飲むか?」

「うん! ありがと、おじちゃん!」

「おじちゃんじゃなくて不屈さんな」

「おじちゃん!」

「やれやれ……」

 

 そして、それは他の連中とて同じことだ。

 彼らのほとんどが養護施設の出身者であり、幼い年下の面倒を見てきた。

 そんな彼らからしてみれば、ララは可愛くて仕方がないだろう。

 

 毎日のようにララは可愛がられている。

 

「はい、ララさん。星型のクッキー焼いたんだけど、食べる?」

「え、良いの? ありがとう! パクパク、むしゃむしゃ!」

「ララさん! こっちも美味しいよ!」

「ありがとー! バクバク、むしゃむしゃ!」

「ユーヤ……それ俺が取っといたやつだけど」

「えー、カズトはどーせ食べないじゃん」

「……酷い」

 

 の割には、何故か渾名がララさんになっていたが。

 どうやらギークやぼたんの呼び方が皆に移ったらしい。

 ここ最近の仲間のブームは、いかにララを可愛がるかだった。

 ……もっとも。

 

「ちょっと! 皆さん、甘やかしすぎですわよ!」

 

 それに待ったをかける人間が、一人いた。

 練馬ぼたんである。

 いつの間にか遮るように目の前に現れ、仁王立ちで言う。

 

「それ以上はおやめ下さいまし! 少しは自粛しろですわ!」

「な――今良いところだったのに。そんなに駄目なことなのかい? 年長として年下を可愛がるのは当然のことなのに?」

「そうは言っても、ですわ! 限度があります!」

 

 ぼたんはララをビシッと指差した。

 

「見てみて下さいな、この顔を! 調子に乗っているし、何より太ってきてますわ! 皆さんがおやつを与え過ぎるからこうなるのです!」

「直球過ぎる上にひっど!」

 

 今度はララが叫んだ。

 そのララに、ぼたんは手の中のプリントを見せつけるように示す。

 

「ついでに宿題をサボってるじゃありませんか! せめて勉強を片付けてから遊んで下さいまし!」

「ああ〜! 何を勝手に! いつの間に見つけたの!?」

「そこら辺に投げ出されてましたわよ! まったく! 出したら仕舞う! それもこれも、貴方達が甘やかすから!」

「「「え、俺達のせいなの?」」」

 

 ぼたんの怒りが飛び火した男性陣が、口を揃えて驚く。

 流石に理不尽過ぎるだろ……と。

 だが、不屈がポツリと漏らす。

 

「一理あるな」

「ハァ〜?」

 

(ぶふ……!)

 

 そんなやり取りが面白くて密かに笑っていると、いつの間にかギークが隣に来ていた。

 

「あ、ルーミエ、ココアのおかわり持ってきたよ」

「お、ありがと」

「はい。いつも通りの甘さのやつだよ」

 

 ギークがカップを差し出した。

 それを当たり前のように、ルーミエは上機嫌に受け取る。

 ルーミエはココアが大好物だ。

 ギークが入れてくれたものは特に……。

 

「…………」

 

 と、ソファの向かいで、ララがぼたんから差し出されたプリントを放り出して、じーっとこちらを見ていた。

 目はキラキラ。

 口元は微妙にニヤついて、何やら嬉しそう。

 

「……何だよ、ララ」

「いや、何でもない。どうぞ続けて」

「何を!?」

 

 声を上げたのは、ギークだった。

 ララはぶんぶん首を振り、「お構いなく」と真顔で言う。

 全然お構いなくない顔である。

 当然、ぼたんと不屈から説教された。

 

「ララさん、何をしているのですか。手が止まっておりますわよ」

「くっ……!」

「悔しがるな。ほら、お前ここが引っかかってるんだって? 終わったらお菓子やるから、今は頑張れ」

「えーん! 計算なんて嫌いだよー!」

 

 泣いて宿題に戻るララ。

 ルーミエは呆れ顔だ。

 

(……何がそんなに面白いんだか、こいつは)

 

 理由が分からず、ルーミエは首を傾げるしかない。

 ギークは耳まで真っ赤にして「ハハハハ」と苦笑しているばかりだ。

 

 ――とまあ、そんな感じで。

 ララはすっかり溶け込んで、ぼたんもララに年上ぶりながら、以前より肩の力を抜いて過ごしている。

 

 まあ、これはこれで悪くないとルーミエは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「が、いつまでも遊んじゃいられねえし、そろそろ特訓しないとな」

「はーい」

 

 お昼の午後二時――雲母町の外れ。

 とある廃グラウンドにて。

 

 ルーミエはララを連れて、そう告げたのだった。

 

 不屈の家でのんびり過ごした後、休日と言うこともあり、ルーミエはしばらくしてここにララを連れてきた。

 このグラウンドは昔は近所の野球クラブで利用されていたらしいが、人口減少で子どもが少なくなった今、使われなくなって久しい。

 手入れもされていないので雑草がボーボー。

 バックネットも錆びて傾いている。

 そんな場所だが、人目につかないので魔法の練習にはうってつけだ。

 

 ちなみに、ルーミエとキズナが長年特訓に使ってきた場所でもある。

 

「ってことで、ビシビシ行くからよろしくな、ララ」

「うん!」

「あの〜」

 

 と、その時。

 ルーミエとララの横から、話しかけてくる声が一つ。

 ぼたんだ。彼女はどうにも不服そうだった。

 

「何故私もこのような場所にいるんですの? 私は無関係では?」

 

 その顔には思いっきり、無理やり連れてこられた上に何が何だかよく分からないですわ! と書かれていた。

 ルーミエはちょっと呆れた気持ちになった。

 ついこの間、あんな目に遭ったというのに。

 まったく、ララには年上ぶる癖に、本人は抜けているのだから……。

 

「忘れたのか。お前の固有魔法、危なっかしいんだよ。今のままじゃ、いつどうなるか分からない。むしろ、あの時命があっただけ奇跡に思え」

「? 何かあったの?」

 

 だからはっきり言ってやれば、思いの外ララが食いついてきた。

 途端に居心地が悪そうにしているぼたんの代わりに、説明してやる。

 

「あのな、こいつの固有魔法、リミッターの解除なんだ。火事場の馬鹿力って言えば分かるか? それをいつでも使えるってのが、こいつの固有能力なんだ」

「へぇ、すごーい! じゃあいつでも全力で戦えるんだね」

「いや、良いわけあるもんか。人間ってのは、百パーセントの力を出せないよう、常に脳に制限がかかってる。何でかって言うと、そうすると体の方にダメージがいくからだ。でもボタちゃんは、その制限を好きに外せる」

「えーと、つまり……」

「一度外すと、その代償に体がぶっ壊れ放題。しかもボタちゃんの場合、恐怖心も警戒心も、全部外れるんだ。で、安易に固有魔法を使ったボタちゃんは、見事魔女に突っ込み、全身複雑骨折を負いましたとさ」

「ヒィ!」

 

 ララが恐怖で震える。

 実際、その時は大騒ぎになった。

 魔女自体は倒せたものの、ぼたんと一緒に戦った魔法少女は泣き出すし、肝心のぼたんは痛覚や危機感すらなくなって、大丈夫だとテンション高く笑っているしで……幸いなことにキズナの知り合いに治癒魔法の使い手がおり、その人のおかげで一日もしないうちに回復したが、流石に危険過ぎるとのことで、一人で魔女退治をしないよう、ぼたんには活動禁止令が出たのだった。

 

 そして現在は、何かあったら対処できるよう、ルーミエが側にいるのである。

 だが、いつでも駆けつけられるわけじゃない。

 どうしても、いざという時は来るのだから。

 

「だからボタちゃんには、固有魔法に耐えられるだけの体と戦闘能力を身につけてもらう。ララと一緒に、今日からお前も特訓だ。異論は認めない。またあんな目に遭いたくないでしょーが」

「うぐ……」

 

 するとぼたんは、耳が痛いと言わんばかりに呻いた。

 それから、こくんと頷いた。

 

「分かりました。私だって死にたくありませんし……そういうことなら頑張ります。私、こうなったら誰よりも強くなりますわ!」

「うし」

「ですが、最初は何から始めればよろしいのでしょう。やはり魔法の特訓ですか?」

「それもあるが……まあ、これを見てくれ」

 

 ルーミエは持っていた紙を広げた。

 そこには、男勝りな性格の割に女性的な丸っこい字で何かが書かれている。

 その内容は――

 

 一、体力作り(基礎体力・持久力)

 二、魔力の扱い方(制御・出力調整)

 三、連携(意思疎通・コンビネーション)

 四、武器の扱い方(命中・実戦動作)

 五、座学(魔女の生態・戦術・兵法)

 

 これらを毎日、特訓を通して学ぶべし!

 

「……」

「……」

「……」

 

 しばらく無言の時間が流れる。

 と――ぼたんが一言。

 

「なんか……地味ですわね……」

「地味で良いの。逆に何を想像してたんだ」

「え……必殺技とか……滝に打たれて武者修行とか……覚醒の儀とか?」

「必殺技はともかく、滝に打たれるとか覚醒の儀って何だ。厨二病か。……いや、モノホンの中二だったんだっけ……」

「中三ですわよ。まるでそのアホな子を見るのをやめて下さいまし。私、こう見えても水名女学園ではそこそこ優秀だったんですわよ」

「その水名女学園って、あんま知らないんだよな……」

 

 何でもぼたんの地元じゃ有名らしいが、生憎、神浜の町が離れ過ぎていてよく知らないのである。

 でも制服は可愛い。

 ぼたんが普段着ている(七川中に転校したが、制服が間に合っていないらしい)ので、結構似合っているとは思う。

 

「まあ、ともかく! 千里の道も一歩から、塵も積もれば山となる! 今からこのメニュー通り、特訓始めるぞ!」

「おー!」

「おー、ですわ」

 

 こうして、ララとぼたんの特訓が開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特訓は紙に書かれた内容通りに進んだ。

 

 まずは特訓メニューその一。

 体力作り。

 

「ほら、走れ走れ!」

「ひぃ〜」

 

 ルーミエはララとぼたんをひたすらに走らせた。

 後輩二人は、廃グラウンドを囲む形で申し訳程度に残っているトラックを必死に走る。

 その後を追って、ルーミエもまたトラックをぐるぐると走りながら周回する。

 ちなみに三人とも変身しながらだ。普段以上の身体能力が発揮されているため、その速度は人間を超えている。

 

「ペース落とすな! 変身してんだから、そこらのマラソン大会の時よりずっと軽いはずだぞ!」

「そうだけどっ! そうだけどっ! なんかキツいよ、何でなの!?」

「は、走り過ぎて、横腹が痛いですわ!」

「頑張れ! あとトラック二十周!」

「多過ぎですわ〜!!」

 

 そうして走り込みの後は基礎の筋トレと柔軟。

 腕立て、腹筋、スクワット。

 魔法少女衣装に身を包みながらそんなことをしているので、傍から見れば中々にシュールであろう。

 

「ま、魔法少女って……もっとこう……キラキラしているものだと思ってましたわ」

 

 とは、ぼたんの発言だ。

 

 ちなみにぼたんの魔法少女衣装は派手である。

 黒髪をサイドでまとめ、高く一つに結び、結んでいる髪飾りにスペード型の紫のソウルジェムがついている。

 一応、着ているのは黒と金が特徴のシックなドレスなのだが、ヒラヒラしている割に首輪も腕輪も、何ならブーツですら棘がついている。

 パンクファッションと言っても過言ではない。元お嬢様とは思えない、かっこ良さが光る衣装である。

 

 が、体力作りのメニューが終わった後には全身が汗にまみれ、うら若き乙女がしてはいけない顔で、呟く。

 

「は、走り過ぎてリバースしそうですわ。うぇ……」

「お疲れ。ちょっと休憩にしようか。少しそっちの草むらに行ってきて良いからさ」

「貴方、私に吐けとおっしゃるんですの!?」

 

 その後、ぼたんはベンチに座って休憩した。

 ベンチは古びており、座っていると壊れて、ぼたんは「ギャアアアアアアア!」と世紀末でも見たかのような野太い声を出して尻餅をつき、盛大にひっくり返った。

 おいおいと泣くぼたんの赤く腫れた尻をルーミエが魔法で治癒する横で、ララがベンチを「修復」の固有魔法で修理した。

 どうでも良い余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二番目の特訓は魔力操作だ。

 二人を並べ、ルーミエは説明を始める。

 

「次は魔力の話な。まず、お前らはソウルジェムの色を見て、自分の魔力量、ちゃんと把握してるか」

「……んー、何となくは?」

「何となくは駄目だ。今日から毎日、変身直後と戦闘後に濁り具合と自分の消耗感をメモしとけ。基準がないと、いざって時に自分がどこまで戦えるか判断できねえだろ」

「地味だね……」

「地味だからいいんだよ。派手さを求めた奴から先に死ぬ。そういう奴らを俺は何人も見てきた」

 

 その一言に、二人の空気が少しだけ引き締まった。

 ルーミエは構わず続ける。

 

「あとは省エネの練習な。……ララ、お前の電撃は広範囲に届くのは良いが、出力調整が下手だ。狭い場所でも同じ威力でぶっ放すから、すぐ魔力切れるわ、味方を巻き込むわで、ちょっと問題がある」

「うっ、それは……」

「ボタちゃんは、そもそもの魔力操作がまだ粗過ぎる。今のままじゃ論外と言わざるを得ない」

「……い、一応、これでも戦えているんですのよ、星尾さん」

「戦えてることと、コントロールできるのは別だ。細かい制御ができねえのに、デカい代償のある固有魔法持ってんのは洒落にならん」

「正論ですわね……」

 

 そこで二人にルーミエが手渡したのが、小さい星形の石だ。

 これはルーミエの武器を加工したもので、魔力を込めると光る。

 この石の光量を操作することで魔力の制御に慣れてもらおうという魂胆だが……、

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! 目がァ! 目がァアアアアアアアアアアアアアアア!」

「ボタちゃん!」

「最初っから全力で魔力を注ぐ馬鹿がいるかァ!!」

 

 ララは普通だったのに、ぼたんは大量の魔力を注ぎ込んでしまい、急激に石が閃光のように発光。

 結果、ぼたんは目を抑えて悶絶した。

 ルーミエは思った。

 

(危なっかし過ぎる……)

 

 それでも根気強く付き合っていくしかなかった。

 ルーミエは教育係なのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三番目の特訓は連携。

 ルーミエはこの際だから、キッパリハッキリ言ってやる。

 

「お前らは戦闘中の立ち位置と動きがまるで駄目だ。お互いを意識して動かないと、せっかくの連携の意味がないぞ」

「と言われましても」

「実演した方が早いか。なら二人で協力して俺を捕まえてみな。的役やるから」

「よろしいんですの?」

「誰に向かって言ってる」

 

 それなら……と、割と容赦なく二人がかりで飛びかかるララとぼたん。

 だが、ルーミエには止まって見える。

 ひょいひょいと攻撃を交わし、その合間をすり抜ける。

 

「え、何で!?」

「ちゃんと狙いましたのに……キャっ!」

 

 ぼたんが拳に装着された武器のメリケンサックで殴りかかるが、ルーミエは逆にぼたんの腕を逸らし、足を蹴って転倒させる。

 そして固まったララへ向かい、同じように軽くひっくり返した。

 

「十点ってとこだな」

「い、痛い……」

「数をこなして、何処が悪いのか、相手の癖は何か分析することだな。例えば……」

 

 それからも実演は何度も行われる。

 繰り返すうちに、少しずつぼたんとララの息が合ってくる。

 

「ララさん、そっちから追い込んで下さいまし!」

「了解っ!」

「せーの――!」

 

 両側から挟まれ、ルーミエはとうとう捕まった。

 ……まあ、大分手加減してるのだが。

 

「お、やるじゃねえか」

「「やったー!」」

 

 だが、嬉しそうにハイタッチする二人を見て、ルーミエは満足げに頷いた。

 

(この分野の筋は悪くねえなぁ)

 

 ちゃんと形になると嬉しいものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから四番目の武器の扱い方、五番目の座学と特訓は続いた。

 ルーミエはぼたんにはメリケンサックの構えを、ララには光線銃の狙いを、それぞれ何度も繰り返し練習させた。

 

「構えが硬い。もっと肩の力抜け」

「だって慣れないんですのよ、こういうの」

「お嬢様仕込みの武術とか何かないのか」

「お琴と篠笛とピアノとバイオリンとチェロとマリンバとフルートとトランペットとハープぐらいしかやっておりませんでしたわ……」

「うーん。なんか色んな意味で充分すごいけど、戦闘に役に立たねえな、それは……ていうか習い事多過ぎだろ……」

 

 でも、連携と同じで、繰り返すうちに動きは目に見えて滑らかになっていった。

 これならば、成果が出るのも遅くない。

 

 そして最後、日が傾いた頃に始まった座学は結構盛り上がった。

 

「魔女は色んなタイプがいる。それらを見分ける目を養え」

「見分け方のコツは?」

「結界の雰囲気と魔女の動き方だ。後はやっぱり経験や勘……細かいのは実戦で叩き込む。だが、一人で突っ込むな。前衛と後衛は決めろ。無理な消耗戦は避けろ。逃げるのも立派な戦術だ」

「逃げるの恥ずかしくないの?」

「死ぬよりマシだろうが」

 

 その一言に、二人はやはり揃って口を噤んだ。

 そうやって全メニューを終える頃には、すっかり日も落ちていて――

 

「今日はここまでだ」

「ぜ、全身筋肉痛になりそうですわ……心からどこ○でもドアが欲しいと思いますわ。こういう時、誰か家まで連れて行ってくれないかしら……ドラえも〜ん……」

「明日歩けるか不安……」

 

 ぐったりする二人を眺めながら、ルーミエは腕を組んで笑う。

 

「お疲れ様。よく頑張ったな、二人とも。地味だが、これが一番の近道だ。派手な力に振り回される前に、地味な土台を作っとけ」

 

 千里の道も一歩から。塵も積もれば山となる。

 同じように、ルーミエとキズナも強くなっていったのである。

 あの頃のことを思うと、懐かしい……。

 

(マジで地獄のようだったからな……)

 

 キズナと一緒に魔女の胃袋に入りかけたり。

 大量の使い魔に追い回されたり。

 縄張り争いに負けて全治一ヶ月の怪我を負ったり……新人時代は、それはもう酷かったルーミエとキズナなのである。

 だからこそ、キズナと特訓して、今があると思ってる。

 ぜひララたちにも同じようになってもらいたい。

 

「これからも厳しくいくからな」

「「はーい……」」

 

 ――このようにして。

 ララたちにとって、地味で地獄な特訓の日々は始まった。

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