パーティは脱退しました!~それでも即席鍛冶魔法使いは名を挙げるために頑張りたい~ 作:ロマンティックな王様
そんなこんなで。
結局一日のお休みを挟んでから行動することにした俺は、ギルドへとやってきていた。
冒険者をやめると言ったな。あれは嘘だ!!
……なんて。
続けられないとか終わりとか言ったのはたしかだが、やめるとは一言も言ってないのである。屁理屈に聞こえるかもしれないが、そもそもお仕事をしなければ宿に泊まる事すらできなくなるので仕方ない。
戦えないというだけで、採取依頼なら俺一人でも受けられるのだ。
「というわけで、採取依頼で何かいいのはありませんか?」
「ではこちらは如何でしょう? ポーション用の薬草採取の依頼です」
「つまりいつものですね、わかります」
一昨日パーティ脱退の手続きをしてもらったギルドの受付嬢さんに尋ねると、カウンターの手元から一枚の紙を取り出して渡してくる。
まぁゴブリン討伐以前にもよく受注していた依頼だ。ヴェーマやリィゼは、今日討伐系の依頼を受注したと聞いている。
足踏みしているという実感が強くなり、思わず眉をひそめてしまった。
だがしかし、それも仕方のないことだろう。悲観しても仕方ないため、俺は俺でできることをしなければならない。
そんなわけで、俺はグリュンバルト付近の森……通称グリュンバルト大森林へと足を踏み入れていた。
基本的にグリュンバルトを拠点にする冒険者たちはこの森を狩場としているため、リィゼたちはもっと奥の方へ赴いているはずだ。
森の浅い場所で薬草を摘み、依頼されていた量を手早く採取する。
「さて、まだ日暮れまでは時間もあることだし……始めますか」
薬草を慎重に布で包んで腰のポーチへ収納した俺は、代わりに薬草の採取時についでで集めていた石や木を取り出した。
やることは一つ。俺のスキルである【鍛造魔法】の修行だ。
拳大の石を五つ目の前に並べ、サッと撫でるように手をかざす。
「鍛造、開始」
たったこれだけ。
素材を用意し、使用する素材に手をかざし、呪文を紡ぐ。
この三工程を踏むことで、俺の魔法は発動するのだ。
呪文を口にすると同時に光を帯びた石は、僅かな時間を置いてその姿を変えていく。
そして光が収まる頃には、五つあった石は石製の短剣になっていた。
金属でも同じことが可能。まさに、鍛冶屋泣かせの魔法である。
「まぁ使うと消えるんだけどな」
それ、と近くの木に向かって石剣を投げつける。
前世の漫画であったように、真っ直ぐ綺麗には飛んで行かない。ぐるぐると不格好に回転しながら飛んでいった石剣は、狙った木からだいぶ逸れた地面に転がった。
そして地面に落ちたその瞬間、石剣は大破して砕け散り、欠片も残さず消滅してしまう。
「素材の再利用さえできればなぁ……」
はぁ、とため息を吐きながら次の素材を手に取った。
文句を言ったところで、できないのならば仕方ない。それにもし噂通りにスキルが進化するというのであれば、素材の再利用ができるようになるかもしれない。
だからこそ、今の俺は【鍛造魔法】を何度も使って、スキルの進化という可能性に賭けるしかないのだ。
「鍛造、開始」
拾ってきた木に手を沿え呪文を紡ぐ。
そんな作業を、俺は日が暮れるまで繰り返していくのだった。
◇◇◇
「もぉおお無理だってぇええええ!! ぜんっぜん、スキルが進化する気がしねぇよぉおおお!!」
「な、なんて情けない姿なんだ……」
「脱退したときのかっこつけてたシュミットはどこへ行ったの?」
俺である。
正確には、スキルの進化を目指して修行し始めてから三ヶ月が経過したシュミットくんである。
そんな俺は現在、久しぶりに会った幼馴染の二人に奢られることを条件に近況報告会へお呼ばれし、思い切り涙を流しているのだった。
「あの時のシュミットくんは思っていたのです。『戦えないとはいえ、俺にかかればすぐスキルも成長してこいつら相手にドヤれるだろう!』って……! あれから三ヶ月、何の成果も得られませんでした……!!」
「なんで根拠もないのに、そんなことが考えられるんだお前は」
「地味に私たちにマウント取ろうとしてるところ、実にシュミットしてるね」
「くそったれぇ……! 俺がこうして足踏みしてるというのに、お前らは順調に
すみません! と勢いに任せ、店員さんにドリンクを注文する。
ちなみにギルドのランクであるが、一番下は駆け出しである
冒険者として認められるのは
チクショウめ。今に見てろよすぐ追いついてやる……!
「なぁシュミット。具体的に修行って何やってんだ?」
「あん? 村にいた時と一緒だよ。採取依頼のついでに石と木を集めて、後はその素材で剣を作ってる。雨の日も風の日もな」
「なんて代わり映えしない日々。つまらなさ過ぎて可哀想」
「リィゼさん喧嘩売ってます?」
買ってやるぞオラ、と拳を握って凄んでみせる。
すると嬉々とした表情でリィゼが細剣を抜いた。
ズルじゃんそれは。俺は大人しく拳を解いた。
「残念」
「おいヴェーマ。俺たちの幼馴染、こんなにバイオレンスだったか……?」
「最近討伐系の依頼ばっか受けてるからなぁ……血でも騒いでんだろ。知らんけど」
「幼馴染相手にそれ発揮するのは違わなくない?」
チラとリィゼに視線を向ければ、視線に気づいたリィゼがにっこりと笑みを浮かべる。
もちろん、刀身を僅かに見せながら。
下手に喧嘩を売らないことが長生きのコツである。おーけー、シュミットさんは理解したのであった。
「でもお前は続けるんだろ?」
「……え、リィゼに喧嘩売る話――うそうそ、冗談だってば。だからリィゼ、笑顔で剣を握るんじゃあない」
肉食獣を相手に「待て」を命じるように、少し及び腰になりながらリィゼの行動を手で制す。
そんなに剣が振りたいなら、クソ雑魚の俺にやるよりヴェーマ相手にしろっての。
「まぁ、なんだ。芽が出ないからと言って、諦める理由にはならないからな。数をこなしてダメなら、次は別の方法を試すつもりだよ。可能性があるなら、どれだけだって続けてやるさ」
それで必ず、お前らに追いつく。
冒険者のランクとしてはもう並べないだろうが、お前らが俺を自慢できるくらいにはなってやる。
「ま、お前らが
「シュミットのそういうところ、嫌いじゃないぜ。もちろん俺たちが目指すのは
「私が
ふんす、と得意げに胸を張るリィゼ。
そんな彼女の姿を見て、「ブレねぇなぁこいつ」と俺とヴェーマは互いに顔を見合わせて考えるのだった。
◇◇◇
さて、そんな話を幼馴染たちとしていた次の日のことである。
ヴェーマとリィゼからやる気を貰い、いつも通りに採取依頼をこなして【鍛造魔法】の修行に入った俺だったのだが……十五個目の石の剣を作ったところで、それは起きた。
「ぐぅっ……!? ガッ!?」
突然の頭痛。
頭の中身を無理矢理かき回されるような、そんな経験したくもない激しい痛み。
たった一瞬の出来事ではあるが、その尋常ではない苦痛は永遠に続くんじゃないかと錯覚したほど。
ただ痛みに耐える、それ以外の事が何も考えられなくなった。
だが……それは悪いものではなかった。
いや、むしろいいもの。それこそ、俺がずっと待ち望んでいたものだった。
痛みとともに、俺の頭に刻まれる情報。
理解した。
「ハァッ……! ハァッ……! これが、スキルの進化か……! 噂は本当だった……!」
あの日から三ヶ月、毎日毎日日が暮れスキルの使い過ぎで頭が痛くなるまで続けた成果がようやく表れた。
だけどはっきり言いたい。
こんなに痛いのなら、もっと最初に教えてほしかったんですけど!?
なにあれ、脳みそぐっちゃぐちゃにかき回された後、一から作り直されたような痛みは!? いや、過去そんな経験はないんだけどさぁ!!
森の中でうずくまりながら、心の中で思いつく限りの文句を垂れ流す。
声が出せないのだから仕方ない。先達として、絶対この苦痛については書き残さないようにすることを決める。
後世の奴らも同じ痛みを味わうがいい!!
「それはそれとして、進化した俺の【鍛造魔法】だが……」
ふぅ、と息を整えた俺は、ポーチに残っていた石を並べて手をかざす。
前と同じだ。素材を並べ、手をかざし、呪文を紡ぐ。
だがしかし、この進化で新たな工程が追加された。
「鍛造、開始。
呪文の後に、さらに呪文を追加する。
すると、手元で光った石はいつも通りに剣の形を成して目の前に現れるのだが、その石でできた刀身には何かの文字が刻まれていた。
その文字に、手を沿えなぞる。
「【縮小】」
小さく呟いた一言。
だがその一言に反応したのか、刻まれた文字が光を帯び、その光は瞬く間に石の剣全体に広がった。
形が、変わる。
「……ハハッ。成功、ってか」
つまんで拾い上げたそれを見て、俺は思わず口角を上げた。
短剣サイズだったはずの石の剣。それが今、手で握れるほどのサイズに縮んでしまっていた。
どこかの名探偵もびっくりな縮み方である。これではお土産のキーホルダーだ。
「効果の付与。それが俺の、【鍛造魔法】の可能性」
元の大きさに戻して、もう一度【縮小】を使おうとすると、バキンッと音を立てて壊れる石剣。
どうやら付与された効果を使用しても、剣として『使用した』の判定になるのだろう。剣として振っていなくても自壊してしまった。
だがしかし、そこらへんの石などではなく、ちゃんとした素材を使って作れさえすれば。
そうすれば、少なくともすぐに壊れて消えるようなことはないのかもしれない。
「実験のし甲斐がありそうだな、こりゃ」
石や木だけではない。
鉄ならどうか、魔物の素材ならどうか。
どんな効果を付与できて、どれくらいの使用が可能なのか。
その詳細を調べなければならない。
だがまぁ、しかしだ。
グッ、グッ、と自分の掌に視線を落とす。
まさか幼馴染たちに愚痴った次の日にこうなるとは思わなかったが……それはそれ、これはこれ。
俺は森の中で一人、「ヨッシャァアアア!!」と大きくガッツポーズを決めるのだった。