パーティは脱退しました!~それでも即席鍛冶魔法使いは名を挙げるために頑張りたい~ 作:ロマンティックな王様
先日の一件で、素材によって【
できることは増えたが、それで金が稼げるようになったわけじゃない。【
そしてその素材が俺に買える、あるいは集められるはずもなく……結局こうして採取依頼を真面目にこなすしかないわけだ。
なんたってお金がないからねぇ!
だがそんな採取依頼にも変化はあった。
あの日以来、よく受けていた安全な薬草の群生地だけではなく、他の少し危険な場所まで遠出することができるようになっていた。
これも【飛行】を付与した石剣を作れるようになったおかげである。
【縮小】しか付与できなかったはずの石剣にも【飛行】が付与できるようになったのだ。どうやら一度付与が成功した効果は、以降どんな素材の武器防具にも付与できるらしい。
今じゃ森へついたら【飛行】の石剣を作成し、そのまま飛び乗っての移動が当たり前になっていた。
当然、人に見られないように注意しての使用である。噂話から幼馴染たちに知られるのは避けたい。
おそらく【飛行】のことを知れば、あの幼馴染たちは乗せろ乗せろと大興奮するはずだが……素材を変えれば使える効果が増えることがわかったのだ。
せっかくなら、もうちょっと増やしてからドヤりたい。
そんなわけで、「また素材が落ちてたりしないかなぁ~」と手に取った依頼書を受付嬢に提出する。
すると、俺の顔を見た受付女王が「あ」と声を零した。
「シュミットさん、ちょうどいいところに。今、お時間よろしいでしょうか?」
「……はい?」
俺ですか? と周囲を見回してから再度確認する。
しかし、受付嬢は真っ直ぐ俺に視線を向けながら「はい」と頷いた。
どうやら本当に俺に用があるらしい。
少々お待ちくださいねと受付前で一人待たされる中、俺は何かやってしまっただろうかと過去の行動を振り返る。
一番に思いつくのは俺の飛行石剣……俺命名フライングソードがバレた、だろうか?
しかし、あれは周囲に人がいないことを確認してから使っていたはずだ。目撃されるようなヘマを俺がするはずもない。
となるとそれとは別になるが……真面目にコツコツ依頼をこなしている優秀な
となると別要因になるわけだが……
「まさかリィゼの奴、ギルドの誰かを斬ったとかじゃないだろうな……?」
脳裏に嬉々として剣を抜く幼馴染の顔が思い浮かぶ。
あの剣バカのことだ、やりかねん。ヴェーマでも抑えきれなかったのだろう。
きっと医療費……ポーション代が払いきれず、幼馴染だということで俺にまで責任が及んだのだろうか。
仕方ねぇ……ここは一つ、俺も一肌脱いでやるか。
「シュミットさん、お待たせしま――」
「うちの馬鹿が本っ当にすみません!! どうか、どうか慰謝料はまけてくれないでしょうかぁー!!」
「え、何に謝ってるんですか……?」
「失礼、忘れてください」
どうやら違ったらしい。
まったく、俺の幼馴染がそんな凶暴なわけがないだろ! いい加減にしろ!
だから俺の想像の中のリィゼさんは剣を抜かないでくださいお願いします。
「えーっと……コホン。とりあえず土下座はやめて、ついてきていただいてもよろしいでしょうか?」
「うっす」
スッと立ち上がり、苦笑を浮かべる受付嬢の後に続く。
いや、苦笑というかあれはドン引きしてるな。幼馴染のせいで受付嬢の心象が悪くなってしまった。
今度文句言っておこう、と心に決める中、受付嬢に案内されたのはギルドの二階にあるとある一室だった。
たしか、冒険者が個人的な話をする際、ギルドに申請すれば使用できる部屋だったはず。
つまりなんだ。俺に対して個人的に話をしたい冒険者がいるということだろうか?
ますます心当たりがない。
まだリィゼが問題を起こしたからと言われた方が納得できる。
「カインさん、お連れしました」
「ありがとう、ベルナさん」
受付嬢とともに中へ入れば、正面に用意されたソファーと、そこに座った四人の男女と視線が合った。
受付嬢……ベルナさん、という名前は今初めて知ったのだが、彼女は役目は終わったとばかりに俺を置いてさっさと部屋を出て行ってしまう。
いや説明とかないのかよ……、と彼女が出て行った扉にジト目を向ける。
するとそんな俺を見ていたのか、カインと呼ばれていた青年が苦笑交じりに話しかけてきた。
「優秀な受付嬢だからね、ベルナさんは。忙しいんだよ」
「はぁ……まぁ、それは別にいいんですけどね。それで、俺に何かご用でしょうか?」
「ああ。とりあえず、そこに座ってくれないかな? 立ったままだと疲れるだろう?」
「では失礼して」
促されるまま俺はカインさんの対面の席へ腰を下ろし、俺を呼び出したであろう四人を見る。
カインと呼ばれた目の前の青年と、俺の左側のソファーに座る大男。そしてカインさんの右隣りと、俺の右側のソファーに座る女性が二人。
一方は軽装で、もう一人は魔法使い然としたローブと短杖を身に着けている。
(
失礼にならない程度に、俺を囲うように座る彼らの首元へ目を向けた。
首に下げられたギルド証は全員が
そんな俺の訝しむ視線に気づいたのか、カインさんは「警戒されても仕方ないよね」と苦笑を浮かべた。
「まずは挨拶をさせてくれないかな? 僕はカイン。それでこっちの大きいのがキアンで、僕の隣の子がコレット、そっちの魔法使いがクララ。全員が
よろしく、と差し伸ばされる手をこちらも恐る恐る握り返す。
《五葉の風》……詳しくは知らないが、名前だけはギルドで度々耳にしたことがある。
派手さはないものの、堅実で依頼の達成率も良いとギルドでも名前が挙がっていたパーティだったはずだ。
「初めまして、《五葉の風》の皆様。俺はシュミット。ただの
ニコニコと笑みを浮かべているカインさんに尋ねる。
しかし、その問いに対しての返答は彼ではなく、俺の右隣りにいた魔法使いの女性……クララさんが口を開いて答えた。
「ケインのことよ」
「ケイン……?」
「そうよ。どこにいたのか、それを教えてほしいの」
身を乗り出すように尋ねるクララさん。
しかしそんな彼女の行動を諫めるように、今度は寡黙そうな大男……キアンさんが静かに口を開いた。
「クララ、焦るな。まずは俺たちから、彼に説明する必要がある。それだけじゃ意味が分からんだろ」
「そうそう。ダメだよ、クーちゃん」
キアンさんの言葉にコレットさんがうんうんと頷き、それに反省したのかクララさんが申し訳なさそうに「ごめん」と小さく呟いた。
いったい何の話をしているのか、身内で勝手に話を進めないでいただきたい。
一人困惑する中、俺は助けを求めるようにカインさんへと視線を向けた。
「今回は君にお礼が言いたくて、こうして時間を作ってもらったんだ」
「お礼、ですか?」
「うん。これのお礼」
カインさんが懐から取り出したものを俺の目に置いた。
それは俺もよく知る、
一部が青緑色に錆びたそれを見て、俺は「ん?」と既視感を覚える。
たしかこれは……先日、俺がギルドへ届けたギルド証だ。
そこでようやく、先ほどのクララさんの言葉に合点がいった。
「なるほど……ケインさんは、あなたたちの……?」
「……うん。ケインは、僕の双子の弟でね。とある依頼で行方が分からなくなっていたんだ」
曰く、五年前に受けた依頼で想定外の魔物と遭遇し、四人を逃がすために囮になったらしい。
無事に彼も逃げきって戻ってくることを祈っていたが……ケインさんが帰ってくることはなく、死体を探してもどこにも見つからなかったそうだ。
「ケインの捜索は続けようにも、もう五年も経ってしまった。もう諦めようかと思っていたところに……これが届いたんだ」
連絡が来た時は驚いたよ、と彼はテーブルのギルド証へと視線を落とす。
家族の……双子の弟の形見だと考えれば当然だろう。
「改めて、シュミットくんにはお礼を言わせてほしい。ありがとう。僕たちの仲間を……僕の家族を見つけてくれて」
頭を下げるカインさんに合わせて、他の三名も深々と頭を下げる。
そんな彼らの態度に、俺はしどろもどろになりながら「わかりましたから、か、顔を上げてください!」とだけ答えた。
そんな態度でこられたら、拾ったものは俺のもの! のルールで勝手にケインさんの武器を使ったことが、なんだか申し訳ない感じになってくるでしょうが……!!
その後は、カインさんにケインさんの遺体がどこにあったのかを質問されたため、俺が彼を見つけた場所を口頭で伝える。
どうやら彼らがケインさんと別れた場所からずいぶんと離れたところだったらしい。「そりゃ見つけられないわけだ」と、カインさんたちは少し悔しそうにつぶやいていた。
だがそれだけ離れていたということは、きっとケインさんは四人を逃がした後、魔物から逃げ切ることができたのだろう。
そこで力尽きてしまったことが悔やまれる。
後日、その場所までの案内も頼まれた俺は、快くその他の身を承諾することにした。
「感謝するよ、シュミットくん。この恩は忘れない。何か困ったことがあれば、いつでも僕たち《五葉の風》を頼ってくれていい。これでも
ドン、と胸を叩くカインさんの姿は、まさに頼もしいお兄さんそのものだった。
他三人も俺よりも年上だからだろうか。キアンさんにはポンと背を叩かれ、コレットさんには頭をわしゃわしゃと撫でまわされ、クララさんは「やりすぎよ」とコレットさんを注意していた。
さて、そんな中でカインさんの言葉を聞いた俺である。
実力もあり、今回の件で恩を売れた
利用しない手はないだろうと、内心でそろばんを弾く真似をしながら手を挙げる。
「でしたらカインさん。早速お願いしたいことがあるんですが」
「なんだい? できることなら聞くよ?」
稽古だってしてあげる、とやる気を見せるカインさん。
そんな彼には申し訳ないなと思いつつも、俺はそのお願いを口にする。
「あなた方《五葉の風》が依頼時に討伐する魔物。その魔物の素材、あるいは拾った金属でも構いません。俺に譲っていただくことは可能でしょうか?」
「それは構わないが……集めてどうするんだい? そのまま売ってお金にするとかなら、ギルドのルール上難しいんだけど……」
「あ、いや。別にそういうのではないんです」
俺がギルドのルール違反を頼んでるみたいに思われている。
それはいかんと、俺は素材の使用目的を伝えることにした。
ギルドからの評価も高く、こうして話してみて信用できると俺が判断した人たちだ。
ケインさんの件で恩を感じてくれているのなら、俺の【鍛造魔法】で作った剣についてある程度は黙っていてくれるだろう。
そうなると……何か呼称が欲しいな。
いつまでも【鍛造魔法】で作った武器じゃ外聞が悪い。
なら、名付けるなら――
「そうですね。皆さん俺の……《シュミットの魔剣》、ご興味ありませんか?」
その問いに、彼ら四人は皆揃って首を傾げたのだった。