パーティは脱退しました!~それでも即席鍛冶魔法使いは名を挙げるために頑張りたい~ 作:ロマンティックな王様
「やぁ、シュミットくん。今忙しいかな? もう部屋は僕らの方で予約してあるから、この後にでも来てくれると助かるんだけど……」
「特に用もないので、準備したらすぐ行きます。カインさんたちは先に待っててください」
「よかった。じゃあまた後でね」
軽い調子で手を挙げて去っていくカインさんを見送り、俺はすぐに宿へと引き返す。
カインさんたち《五葉の風》と出会ったあの日から、すでに数週間が経過した。
いやはや、人生とは何が起こるかわからないとはまさにこのこと。今では彼らと良好な関係が築けていると言えるだろう。
なんの伝手もなかったはずの俺が、まさか
用意しておいた武器を確認し、小さくした剣はポーチへ、残った剣と盾は俺自身が装備して準備は完了。
そのまま宿を出た俺は何食わぬ顔でギルドへと向かい、そのままカインさんたちが待つ部屋へと足を向ける。
(順調すぎて、ちょっと不安に思えてくる……なんてのは贅沢な話か)
《シュミットの魔剣》と、そう名付けた俺の作成する武器。
もちろん剣だけではないのだが、こっちの方が響きがかっこいいので敢えてこう名乗っている。
敢えて、だ。
そして俺のスキルである【鍛造魔法】でそれらを作成するためには、必ず作るものの素材が必要となる。
石や木であれば俺でも集めることは可能だろう。
だがしかし、【
そして残念なことに、クソ雑魚ナメクジである俺には、自身で素材を集めることは不可能。さらには他の人に集めてもらおうにも、
「お待たせしました」
「やっほ~! シューくん待ってたよ~」
どうにかしなければならないと、そう考えていた時に接触してきたのが彼ら《五葉の風》の四人だった。
入室した俺を見て真っ先に駆け寄ってきたのは、《五葉の風》で斥候を務めているコレットさん。
彼女は弟に接するように俺の頭に手を伸ばすと、そのままわしゃわしゃと犬でも撫でるように俺の髪をかき乱してくる。
「ちょっとコレット。あんまりちょっかいかけるもんじゃないわよ」
「シューくん弟みたいで、ついかまいたくなるんだよねぇ」
そんなコレットさんに呆れた目を向けて注意するのが、《五葉の風》の魔法使いであるクララさんだ。
俺と同じ魔法系の【火魔法】のスキルを持つ彼女は、パーティでも一番の火力を持っており、一度見せてもらった本物の魔法の威力には感動を覚えたものだ。
幼馴染は近接系で俺の魔法も魔法っぽくないため、余計に感動したのは言うまでもないことだろう。
「待ってたよ、シュミットくん」
「うむ」
先にソファーに座って待っていた二人に、俺は「どうも」と会釈して挨拶を返す。
撫でることに満足したコレットさんが離れて空いたソファーに座り、それに続いてクララさんも空いたソファーに腰を下ろす。
それを見届けて俺も向かい側の席に座ると、さっそくとばかりにポーチの中身を目の前のテーブルの上へと並べた。
その隣に、腰に携えてきた剣と背負ってきた小盾を置く。
「注文されてたコレットさん用の【縮小】ナイフ十本と、カインさん用の【斬撃】剣です」
どうぞ、と置かれたそれらに目を向けていたカインさんたちの中で、まっさきにコレットさんが動く。
並べられた【縮小】のナイフを手に取ると、「これこれ~、シューくんありがとっ」とニコニコの笑顔で腰のポーチへとしまい込む。
「もう私、シューくんがいないとダメな体にされちゃったよ~」
「こら、コレット! も、もうちょっと言い方ってもんがあるでしょ!?」
「もう、初心だな~クーちゃんは。使い捨ての投げナイフで拾う必要もないから、遠慮なく使えるのがいいよね」
キャッ、と両手を頬に当てたコレットさんは、こちらを揶揄っているつもりなのかチラと俺に視線を向けてくる。
そんな彼女の言動に苦笑を浮かべていると、カインさんが【斬撃】の剣を手に取り、「ほぉ……」と唸っていた。
「シュミットくん。これが僕の注文した……?」
「はい。【斬撃】を付与した剣ですね。前回は【斬撃】効果の確認用の試作剣でしたが、今回のものは正式な《シュミットの魔剣》としての剣です。前回同様、鉄鉱石にオークの牙、グレイウルフの毛皮を使用しています」
「となると……【斬撃】の効果を使用して斬れるのは五回まで、かな? もう少し回数が振れると嬉しいんだけどね」
「ですが、【斬撃】の効果は前回でおわかりになったでしょう?
そう言うとカインさんは、「そうだよね……」と少し残念そうに肩を落とす。
さて、俺のこれまでの経緯について、その続きだ。
運よく彼ら《五葉の風》との関係を持つことができた俺は、彼らにとある取引を持ち掛けた。
その取引というのが、俺が作った《シュミットの魔剣》を提供する代わりに、《五葉の風》は俺に素材の提供および試作品の性能検証に協力する、というものだ。
俺一人では集められない素材も、カインさんたちの協力があれば集めることができる。また、彼らが俺個人に対して恩があり、かつ信用に値する人たちであることも大きいだろう。
協力者としては、まさにピッタリな人材であった。
「……シュミット。この盾は……?」
カインさんが剣を受け取ると、今度はその隣で一人静かに黙り込んでいたキアンさんがテーブルに置かれた小盾を指差す。
黙ってはいたが、コレットさんやカインさんと話している間ずっと興味津々の視線を向けていたのでわかりやすい。
寡黙で巨漢なキアンさんだが、《五葉の風》の中でも俺の《シュミットの魔剣》に一番興味を示してくれているのがこの人だ。
見た目に反して、一番心が男の子なのである。
「これは【硬化】を付与した盾ですね。前回皆さんから提供していただいた素材で付与できるようになったんです。まずは性能検証からしていただきたいんですが、パーティーの前線で体を張るキアンさんに使ってほしいんです」
「俺には少し小さいが……請け負った。検証後はもっと大きいものを頼む」
「その分たくさん素材をお待ちしていますね」
今回はあくまでも【硬化】の検証のために用意したものであるため、素材が少なくて済む小盾にしたのだ。
大きいものを作るのなら、その分だけ素材が必要になってくる。
いつも不愛想な表情のキアンさんが少しワクワクした笑みを浮かべて頷き、その様子をカインさんとコレットさんが物珍しそうに見ていた。
そんな中、ずっと静観していたクララさんが声をあげる。
「へぇ、また増えたのね。シュミット、後で私にも【
「クララさん……いつも言ってますが、そこまでは見せませんよ」
「ケチねぇ。いいじゃない、減るもんじゃあるまいし」
立ち上がってわざわざ俺の後ろへとやってきたクララさんは、グイと俺の頭に手を置いてもたれかかってくる。
その際、彼女の胸が俺の後頭部に当たるのだが……残念なことに、自然に当たっているわけではなく「当ててんのよ」というやつだ。
初回は感動したのに、わざとだと知ってしまうと残念……でもないな、柔らかいぜ!
「クララ、あんまりシュミットくんを困らせないようにね」
「だって魔法系のスキル持ちなんて珍しいのよ? このギルドにも何人かいるけど、手の内は晒してくれないでしょ?」
「それ、俺もおんなじなんですけどね」
ちぇー、と不満げなクララさんは、最後にもう一度「ダメ?」と強請るように上目遣いを見せてくるのだが、俺はただ一言「ダメです」と切って捨てる。
この世界における常識なのだが、個人が持つスキルについてあまり広く広めることは推奨されていない。
なぜならスキルは、持っている者はその一つのみしか持ちえないモノであるためだ。
つまるところ、対策されると終わりなのである。
女神さまが魔物という脅威と戦うために人に与えた力だが、全員が全員その力を魔物に向けるわけではない。
中には人を狙う者も出てくる。
その際、相手がどんなスキルを持っているのか、それを知っているだけでも有利に立ち回れるだろう。
情報を制するものは、というやつだ。
現代日本のように法が整備されているのなら、逆に開示して管理する方が安全なのだろうが……残念ながらこの世界は、前世における中世レベルでしかない。
自ら手の内を晒すような冒険者はいないのである。
スキルについて資料が少ないのもこれが理由だ。
「では、キアンさんは盾の検証をお願いします。カインさんとコレットさんも、ご入用でしたらまた言ってくださいね」
《五葉の風》との話し合いも終わったため、ソファーから立ち上がる。
だがそんな俺を、カインさんが「ちょっといいかな」と呼び止めた。
「シュミットくん。よかったらこの後、皆で食事でもどうかな? いい店を知ってるんだ」
カインさんの言葉に、涎を垂らしたコレットさんが「お肉が美味しいんだぁ~」と零した。
思い出すだけで垂れるとは、それはそれで気になる店だ。
だがしかし、そのありがたい申し出を俺は「すみません」と断った。
「ありがたい申し出なんですが……俺もこの後、ちょうど用事があるもんでして」
「そっか、なら仕方ない。また暇なときにでも誘わせてほしいな」
残念そうに笑うカインさんに礼を言い、俺はそのままギルドを出る。
向かったのは、見慣れたいつもの店。
それなりの味で腹いっぱいに食べられる優良店だ。
中に入って見回せば、以前と同じ席に座って待つ男女の姿が目に入る。
「ようよう! そこにいるのは新進気鋭の期待の新星、ヴェーマくんとリィゼちゃんじゃあ~りませんか!」
「え、なにウッザ」
「修行とやらでウザさに磨きでもかけたのか?」
歩み寄って挨拶すれば、途端に飛んでくる悪口。
そう言えば俺の幼馴染ってこんな奴らだったと、俺は泣き真似をしながら席に着くのだった。