パーティは脱退しました!~それでも即席鍛冶魔法使いは名を挙げるために頑張りたい~ 作:ロマンティックな王様
我が幼馴染たちにあーだこーだと揶揄われてから数日後のこと。
受付嬢のベルナさん経由で《五葉の風》からの連絡を受けた俺は、指定されていた時間にギルドの予約部屋を訪れていた。
新たに準備した《シュミットの魔剣》の受け渡し、および以前用意した【硬化】の盾についての検証結果の報告を受けるためだ。
既に席について待っていたカインさんたちに挨拶を交わすと、早速キアンさんが口を開く。
「前回用意してもらった【硬化】の小盾だが……素晴らしかった」
使った時の事でも思い出しているのか、すごく満足そうなキアンさん。
しかしそれっきり何も言わず、うんうんと口元に笑みを浮かべながら頷きを繰り返すキアンさんに、俺は「あの……」と声をかける。
「性能検証なので使い心地とか、何の魔物を相手にしたのかを教えてほしいんですが……」
「む? ……すまない、シュミット。あの時の感動を思い出していた」
「あ、いえ……それだけ満足そうにされると、製作者としては冥利に尽きますので」
大きな体をシュンとさせるキアンさん。
まぁ、一番俺の作る武器防具に心躍らせているのはこの人だし、この反応も俺としては嬉しいしかない。
が、それはそれだ。俺が付与した【硬化】がどうだったのか、その性能について詳しく聞きたい。
すると、なぜだろうか。
今まで大人しくカインさんの隣で黙って座っていたコレットさんが立ちあがり、そのまま俺の隣の席へとスゥーッと移動してきた。
「え、何ですか」と彼女の行動に驚く中、コレットさんはブワッと泣き腫らした顔で俺に向かって泣きついて来た。
「あり゛がどぉ~~~! ジューぐんのおかげで、わ゛だじ、わ゛だじぃ~~!!」
「え、ちょっ!?」
がっしりと首の後ろに手を回される中、わけのわからない状況に困惑することしかできない。
そんな中でコレットさんの行動を見ていたクララさんは、「仕方ないわよねぇ……」とため息を吐く。
「許してあげてね。コレットったら、今回はかなり責任を感じてるみたいだから」
「あの、状況がよくわからないんですが……」
「そうだね、報告も含めて話すんだけど……正直な話、君が性能検証で預けてくれた盾がなかったら、僕たちはこの場にいなかったかもしれないんだ」
「え……?」
びぇ~~~! とこちらに抱き着きながら泣くコレットさんはさておき、カインさんの話に俺は思わず絶句する。
「依頼の途中、僕ら《五葉の風》は運悪くオーガと遭遇してしまったんだよ」
「オーガって……たしか、冒険者のランクで
オーガとは二メートルを超える筋肉質な体躯に、ゴブリンをさらに狂暴にした魔物だ。その膂力は簡単に人体を引き裂けるうえに、筋肉の鎧を身に纏った体はかなりの耐久を誇るとされている。
ギルドでも、オーガの討伐が受注できるのは
そんな魔物と、運悪く遭遇した?
思わずその場面を想像して、ぶるりと体を震わせる。
ゴブリンですら苦戦する俺だ。まず間違いなく死ぬだろう。
「……よくぞ、ご無事で」
「シュミットくんのおかげだよ。あの盾が、僕らの命を救ってくれたんだ」
「うむ。素晴らしい盾だった……!」
オーガと遭遇した事実よりも盾の称賛が止まらないキアンさんはさておき、俺はカインさんから事の詳細を聞くことにする。
詳しい話を聞くに、彼らはオークの討伐依頼を受けて大森林へと赴いたらしいのだが、その戦闘中にオーガが乱入してきたとのこと。
三つ巴の戦いは、逃げる間もなくオークがやられたことで、オーガとの戦闘へ切り替わったらしい。
パーティで盾役を引き受けるキアンさんでも、オーガの一撃を喰らえば盾があろうと重傷は免れない。そんな折、一縷の望みをかけて俺が預けた【硬化】の小盾を使ったそうだ。
「すごかったわよ。普通なら盾ごと潰されてもおかしくない一撃を、キアンったら受け止めるどころかあの小盾で弾き返しちゃったのよ」
「結果、反動で弾かれたオーガが仰向けに転倒したんだ。その隙を突いて僕がオーガの目を一突きさ。筋肉の鎧があろうとも、そこなら剣も通るからね」
普通なら剣が届かない位置でも、倒してしまえば剣が届く。
問題はオーガを転倒させることが難しいということなのだが……俺の作った【硬化】の小盾はそれを可能としたようだ。
「ひぐっ……うぇ~……」
「……あの、それでコレットさんはどうしてこんな?」
「オーガの接近に気付かなかったって責任感じてるのよ。オークとの戦闘中だったし、そもそも私たちがいた場所って普段オーガなんて出ないから油断してたわ」
なるほど、とコレットさんが泣いてる原因を聞いて納得する。
彼女は《五葉の風》における斥候……つまりパーティの目、安全の確保が彼女の役割だ。
そんな彼女はオーガの接近に気付かず、結果パーティを死の危険に晒してしまったわけだ。そりゃ責任も感じることだろう。
俺の盾がなければ、その一つのミスで全滅していたかもしれないのだから。
「改めて、君のおかげで僕らは救われた。ありがとう、シュミットくん」
「私からも感謝するわ。ありがとう」
「びぇ~~! シューぐんありがどぉ~~~!!」
「良い、盾だった……感謝する」
頭を下げてお礼を言う三人と、俺に抱き着きながら泣きじゃくっているコレットさん。
ここまでお礼を言われて、俺としても嬉しくないわけがない。無意識に口元が緩む中、素直に彼らの感謝を受け取っておく。
「……はい。役に立ってなら良かったです」
しかし……そうか。
俺の魔法で作った武器は、防具は、それほどまでに有用なモノへと化けたのか。
つい数週間前まで、無駄に素材を消費してできるのが脆くすぐに消えてしまう駄作だったそれらが、である。あの時、スキルが進化することに賭けて方針を変えたことが功を奏したわけだ。
「そしてこれは僕らからの提案なんだが……君が作る武器防具の数々、とてもじゃないが素材の交換だけで手に入っていい代物じゃない。是非とも、素材に加えて金銭も支払わせてほしいんだ」
「……え、金銭ですか?」
うん、とカインさんが頷き、クララさんが続ける。
「考えてもみなさいよ。
そんなの施されてるのと同じよ、とクララさんは腕組みしながらそっぽを向いた。
俺としては得しているからいいのでは? と思わなくもないのだが、どうやらそれは彼女のプライドが許さないらしい。
自分の力を安売りするんじゃないわよ! と怒られてしまった。
「私は別に今のままでもいいんだけどなぁ~」
「コレット、
ペシン、とクララさんにチョップを落とされたコレットさんは、「いったぁ~い!クーちゃんが暴力振るったぁ~!」と頭を押さえて俺の背に隠れた。
どうやらいつもの調子を取り戻したらしい。
そのままそっと背中ごとコレットさんをクララさんに差し出せば、コレットさんは「うらぎりもの~!」と引きずられていった。
さて、話を戻そう。
「それにしても金銭、ですか……武器の相場をよく知らないんですが、どのくらいになるんですか?」
「一般的な剣なら、銀貨四枚から五枚ってところかな。ただ《シュミットの魔剣》は普通の武器じゃない。最低でも小金貨五枚からってところかな」
「しょ、小金貨五枚……」
この世界における貨幣は下から順に銅貨、大銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨で、銅貨十枚が大銅貨一枚と同等の価値になっている。
ちなみに銀貨と金貨が「大」ではなく「小」なのは、銅よりも希少であるからだ。
しかし小金貨五枚か……つまるところ、一般的な武器の約十倍。
「そ、そんなにですか。その、使用回数に制限があるんですけど」
「むしろ安いと思うよ。それに、希少金属で作られた武器はもっと高い。ミスリルの剣なんて金貨十枚は下らないさ」
ミスリル、と言われて思い浮かべるのは、以前リィゼがお貴族様からもらったという細剣だった。
……え、あれそんなにするの?
どこのどいつだ、そんなお高い武器を素材にしようとした奴はよぉ~
「なるほど。そういう事なら小金貨五枚で、と言いたいんですが……すぐには決められないので、もう少し待ってもらっても? 実際に相場も見ておきたいので」
「鵜吞みにせず自分で確認する。うん、いいことだね。それなら僕らがよく利用する武器屋を紹介しよう。キアンのお姉さんがやってるところで、信用できる店だよ」
腕もいいしね、とキアンさんに視線を向けるカインさん。
そうなんですか? と尋ねると、彼は「うむ」と自慢げに頷く。
「姉者の武器もまた、シュミットと違ってよいものだ。派手さはないが、それは無駄を削ぎ落した一種の機能美と言えるだろう。シュミットも是非、姉者の武器を見て学ぶと良い」
「わ、わかりました……」
「すぐに、とはいかないだろうけど、キアンのお姉さんには僕らから話を通しておこう。近いうち、時間があるときにでも行っておいで」
場所はここだよ、と街の地図を取り出してカインさんが指し示してくれた。
店は《鉄の金床》というらしい。
……いや、ていうか知ってる店だわそこ。
前にリィゼとヴェーマと一緒に、この店で鉄を買ったんだった。
胸が特盛のお姉さんが対応してくれたが……まさかあの人がキアンさんのお姉さんだったか。
「それと、これも渡しておこう。オーガ討伐の報酬だよ」
「……え!? いやいや、それは受け取れませんって! 倒したのはカインさんたちじゃないですか!?」
「君の武器あってこそだよ。なに、これでも僕らは
「そ、そういう事なら……ひぇっ」
カインさんから差し出された小袋を受け取ると、ずっしりとした重みが両手にかかる。
おそるおそる中身を確認してみれば、そこには金貨、小金貨が詰められていた。
こ、こんな稼ぎ見た事ねぇ……
「あ、ありがとうございます、カインさん」
「何度でも言うけど、お礼は僕らが言うことだよ。それと、武器の性能検証が必要ならいつでも声をかけてね。無償で請け負うし、素材も言ってくれたら集めてくるよ」
「むしろ無償でも使ってみたいのが本音だ。姉者もきっと興味を持つだろう」
それじゃあまた、とカインさんとキアンさんも部屋を出ていく。
そんな彼らの背中を見送り一人部屋に残った俺は、手に残った小袋にもう一度視線を向けた。
いろいろと考えなければならないことはあるが……
「……とりあえず、飯でも食べに行くか!」
まずは腹ごなしだな、と俺は小袋をポーチに突っ込みギルドを出るのだった。