パーティは脱退しました!~それでも即席鍛冶魔法使いは名を挙げるために頑張りたい~ 作:ロマンティックな王様
「おい、そこの
あれから数日が経ち、近いうちにキアンさんのお姉さんの店である《鉄の金床》へ行こうと思っていた今日この頃。
ん? と振り返って見てみれば、そこにいたのはいかにもガラの悪そうな三人の男たち。
俺よりも少し年上……だいたい二十歳に満たないくらいだろうか? 見たことも話したこともない奴らだが、俺と同じ冒険者らしい。首元には
「……なぜ? お前らとは知り合いでも何でもないはずだが」
「敬語使えや
「はぁ……? 失礼な奴だ。知らない奴からいきなり命令されて、『はいわかりました』って言うこと聞くやつがどこにいるんだよ?」
なぜかいきなりマントを取られた今日この頃。まったくもって意味が分からず、先頭に立つリーダー格であろう男の言葉に首を傾げた。
だがその行動、そして俺の言葉が癪に障ったのだろう。男はガラの悪そうな顔をさらに凶悪に、そして怒りで真っ赤に染め上げると、「いいからこいや!」と手を伸ばしてきた。
「おっと、危ない」
それをバックステップで距離を取って躱す。
ゴブリン相手にビビる俺だが、これでも昔からリィゼたちと一緒に鍛えてきたのだ。これくらいの動きであれば特に問題はない。
掴む手が空を切り、そのまま男は体勢を崩して躓きかける。
後ろに控えていた二人は慌てて手を貸し、男が転げないように支えに回った。
さっきの声が妙に響いていたのか、「なんだなんだ」と周囲の人隊の視線が向けられる。
「テ、テメェ……俺をバカにしたうえに、恥までかかせるとは良い度胸じゃねぇか……!!」
「勝手にかいた恥を人様のせいにするんじゃねぇよ。それに、俺が言ったのはごくごく当たり前のことだつーの。そんなこともわからねぇのか?」
いったい俺が何をしたというのか。
勝手に突っかかってきたのはお前らだろう、と呆れてため息を吐きたくなるのを我慢し、本当にこいつらとかかわりがなかったのか過去を振り返る。
……がしかし、三秒考えてもやっぱり思い当たらない。そもそもまともに関係があるのは幼馴染であるリィゼとヴェーマ、あとは《五葉の風》の四人くらいなものだ。
「クソッ……! あの二人も気に食わねぇが、テメェはもっと気に食わねぇ……!
「あー……で、聞きたくもないけど、一応聞いてやるよ。どこのどなた様?」
「《大剣団》のドゥザッコだ! グリュンバルトの
「知らねぇし知りたくもねぇよド雑魚くん」
「ドゥザッコだよ!? バカにしてんのか!?」
怒りが収まらないのか、さらに顔を赤くして喚くド雑魚くん。そんな彼を冷めた目で見ながら考える。
《大剣団》というのは、彼のパーティ名なのだろう。後ろの二人はパーティメンバーといったところか。三人全員が
そこまでの情報を整理し、さきほどのド雑魚くんの言葉。なんとな~く、彼が俺に突っかかって来た理由に見当がついた。
「うむ……察するに、リィゼとヴェーマの二人が気に入らない。気に入らないが、実力では敵わない。だから嫌がらせのため、二人の幼馴染である俺にちょっかいをかけてやろう……と、そんなとこだな?」
「なっ……」
つい先日、リィゼたちは俺に話してくれていた通り彼女らは
二人はその気はないらしいのだが、
カインさんも二人には興味を持っていたぐらいだからな。
まぁただ、ギルドでそれだけの称賛を向けられる二人だが、当然その真逆もあるわけだ。
ド雑魚くんは、そんな奴らの一人なのだろう。瞬く間に
もっとも、そんな気持ち俺は理解したくもないが。
「そういうのってさ、俺ダサいと思うんだよねぇ。
「う、うるせぇ!! 黙って聞いてりゃ、いい気になってペラペラと……! 喋ったところで、テメェが
「それはお勧めしないぜ? ド雑魚くん」
「ドゥザッコだっつってんだろ!?」
わかりやすいくらいに怒って突っ込んでくるド雑魚くんの姿を見て、冒険者よりも芸人目指した方が向いてるように思えてくる。
「クソがッ、バカにしやがってぇ……! もういい! 多少痛めつけるだけのつもりだったが、冒険者を続けられないようにしてやる……!」
いいなテメェら! とド雑魚くんの言葉に、控えていた二人も「へい!」と返事を返して武器を抜いた。
ド雑魚くんは両手剣、他二人は逆手持ちのナイフと短槍の両手持ち。
どうでもいいかもしれないが、パーティとしてバランスが悪すぎるんじゃなかろうか。
「おいおい……こんな街中で武器なんか抜くんじゃねぇよ危ないだろうが」
「はっ! 怖いならテメェも武器を抜けよ。そのくらいなら待ってやるぜ?」
三人が武器を手にしたことで、今まで様子見をしていた周囲の面々は悲鳴を上げる……ことはなく、危険を察知して距離を取るだけにとどまっていた。
悲しいことに冒険者も多いこの街じゃ、この程度のいざこざは日常茶飯事なのである。
もうちょっと気にしてくれてよくなーい?
一応街の兵士の人が駆けつけてくるのだが……冒険者同士の喧嘩となれば、真面目に対処はしてくれない。せいぜい注意を受ける程度だ。
まぁ、さすがに殺人や冒険者以外の一般市民に手を挙げた場合は、問答無用でしょっ引かれるが……今は適用外だ。自分の身は自分で守るしかない。
「待ってくれるとはお優しいね。なら遠慮なく――」
腰に携えた剣の柄に手をかけながら腰を落とす。
律儀に待ってくれるのか、ド雑魚くんはニヤニヤと笑みを浮かべてこちらを見ていた。
抜いた瞬間襲い掛かり、数の力でボコボコにする。そんなシナリオが彼の頭の中に出来上がっているに違いない。
「――逃げるっ!」
「……あっ!? コラ待て……!!」
なので、問答無用で逃げる。
誰がそんなシナリオに乗ってやるものか。
くるりと背を向け全力ダッシュ。唖然としたのであろうド雑魚くんは、一瞬の間を置いてから叫んでこちらを追ってくる。
三十六計逃げるに如かずとはまさにこのこと。それに数の不利に加え、武器を持った相手だ。まともに相手をしたところで負けはしないが勝てもしないだろう。
これがリィゼたちだったら、何事もなく真正面から勝つのだろうと考えながら、チラッと後ろを振り返る。
「テメェ! 逃げるとかそれでも冒険者か!」
わざわざ弱い者いじめをしに来た奴が何か言ってやがる。
必死にこちらを追うド雑魚くんたちに向け、一瞬だけ立ち止まった俺は尻を向けてペンペンと二回叩いてみせた。
案の定、三人はさらに怒り心頭の表情を浮かべて速度を上げる。
「【飛行】発動!」
それを確認した俺は、すぐさま【
【縮小】で小さくし、こっそり靴に結び付けていた俺の隠し玉だ。発動させた魔剣の効果により、俺の体が僅かに浮き、そのまま滑るように移動を始めた。
速度調整を続けながら、余裕をもって三人に追われる状態を維持する。
(さて、もういいか)
徐々に人気の少ない場所へと移動し、人目がないであろう路地へと逃げ込んだ。
その際後ろを確認すれば、ド雑魚くんたちは諦めることなくまだ俺を追いかけ続けていた。
さすが腐っても冒険者。その根性があるのなら、こんなしょうもないことに時間を使うんじゃねぇーよと言ってやりたい。
「うし、こんなもんか。あとは追い詰められたふりをしてっと……」
「テ、テメェ! ハァッ……ハァッ……や、やっと追いついたぞゴラァ……!! 急に意味の分からねぇ加速しやがって、どうなってんだよ!?」
逃げ込んだ道は、狙い通り行き止まりの道。
よしよしと頷きながら準備を整えて待っていると、ようやく到着したド雑魚くんたちが肩で息をしながらやってきた。
もう息も絶え絶えといったご様子の三人は、俺の背後が行き止まりであることを理解すると、僅かながらに表情を綻ばせる。
苦労が報われるかも、と嬉しいのだろう。
「散々逃げ回りやがってぇ……!! だが、行き止まりとは運がねぇな!! 覚悟しろよ……!!」
ザッザッ、と距離を詰めてくる三人は、走っている途中にしまったのだろう武器を再び手にしてこちらを脅してくる。
そんな彼らに、俺は「まぁ待て」と待ったをかけた。
「一応警告だ。これ以上は俺に近寄らない方がいいぞ?」
「あ? 命乞いなら、もっとマシなこと言えや。泣いてごめんなさいすりゃ、手加減してやるよ」
「そもそも俺に謝るべきことがあるのか、甚だ疑問だがな。いいな? 俺は言ったぞ?」
言ったからな? と忠告を二度。
それでも三人は、ようやく追い詰めた俺という獲物を前にして止まる様子はない。こちらの恐怖を煽ろうとじりじりと歩み寄ってくる。
彼我の距離が半分ほど縮まった。
「もう逃がさねぇぜ、バカにした分きっちりと落とし前を――」
「【拡大】発動」
「――ガッ!?」
ド雑魚くんの台詞に割り込むように、地面から飛びだす様に伸びた剣の柄頭がカットイン。そのままド雑魚くんの顎を捉えると、彼は白目をむいてひっくり返るように倒れ込んだ。
不幸なことに、彼のお連れの二人はいずれも股間を強打したらしい。股を押さえて蹲り、声にならない声をあげている。
「あーあー、だから言ったのに」
やれやれ、と三人の様子を見てため息を吐く。
やったことは単純明快。路地の通路に魔剣を突き刺し、あとは彼らが通る際に発動しただけのこと。
用意したのは、効果を二つ付与した石剣だ。一つはお馴染み【縮小】で、もう一つは《五葉の風》との取引の中で新たに使えるようになった【拡大】だ。
効果は付与したものを大きくするというもので、下から剣が伸びてきたのもこれによるものだったりする。
「もう関わってくんじゃねぇぞー」
路地から出るついでにド雑魚くんを見てみれば、完全に伸びていらっしゃった。まぁ不意打ちで相当いい一撃が顎に入ったのだから仕方ない。
他二人も当分は動けないだろうと、悠々と路地裏を後にする。
「さぁって、せっかくだしこのまま《鉄の金床》に行きましょうかねぇ」
そうだそうしようと、そのままの足で店へと向かう。
やってきたのは一度訪れたことのある武器屋さん。
ちょうどいい具合に他のお客さんもいないため、躊躇うことなく俺は店へ足を踏み入れるのだった。