清水寺の舞台に流れる、緊迫した空気。
浦原喜助、四楓院夜一、そして砕蜂率いる隠密機動の完璧すぎる包囲網。
「……捕まえましたよ、市丸さん」
浦原が勝利を確信し、扇子をパチンと閉じた——その瞬間であった。
シュシュシュシュシュシュシュシュッ……!!
「「「……っ!??!?」」」
突如として、清水の舞台を埋め尽くすように、市丸ギンの姿をした無数の「何か」が爆発的に膨れ上がった!
右を見ても市丸ギン、左を見ても市丸ギン、舞台の欄干にも、屋根の上にも、八ツ橋を食べる市丸ギン、抹茶ソフトを舐める市丸ギン、舞妓さんに手を振る市丸ギン——!
その数、実に数百!
「な……なんじゃこれはぁぁぁぁっ!!??」
夜一が目を見開いて叫ぶ!
「ば、馬鹿な……! 霊圧の波形も、質感も、立ち振る舞いすらも……すべて本物の市丸ギンだと……!? 一体どんなカラクリだッ!?」
砕蜂が雀蜂を構えたまま、パニックを起こして後退する!
ただ一人、その光景を目にした浦原喜助の顔から、いつもの余裕ある笑みが完全に消え去っていた。
冷や汗が、浦原の頬をゆっくりと伝い落ちる。
「……まさか……これは……」
そう——浦原には、強烈な見覚え(トラウマ)があった。
かつて空座町決戦にて、自らが藍染惣右介をハメるために使用した極秘兵器……自身の霊圧と姿を完璧に模倣する『霊圧人形(義骸応用デコイ)』!!
「あの時の……私の技だと……!?」
浦原喜助という男の行動パターンを骨の髄まで叩き込まれていた市丸ギンにとって、浦原がかつて使った「最高の手札」すらも、既に手の内にあったのだ。
しかも——!
「ふふっ、浦原はん。びっくりした?」
数百体の市丸ギンの人形が一斉に同じ声、同じ表情でハモりながら、優雅に観光のフリを続けて動き回る!
なんと市丸ギンは、この人形の原形を密かに技術開発局の涅マユリの元へと持ち込み、莫大な対価(※過去の藍染の研究データ等)と引き換えに『自律誘導・京都観光プログラム』へと極小改良させていたのである!
マユリの執念が生んだ「無駄に高スペックな自動観光AI」を搭載された数百の人形たちは、アイスを食べ、おみくじを吹き、写真を撮り合いながら、隠密機動の包囲網を嘲笑うかのように京都市内へと散らばっていった。
「くっそぉぉぉぉぉっ! 本物はどれだ!? 全員で全部叩き潰せぇぇぇぇっ!!」
「待てぇー砕蜂! 京都の観光地でそんな暴挙をしたら現世の霊媒騒ぎに——ああっ! 喜助、逃げられるぞ!!」
大混乱に陥る京都。
浦原、夜一、砕蜂の三人が、涙目になりながら何百体もの「抹茶ソフトを食うギンの人形」を追い回して右往左往している頃——。
本物の市丸ギンは、最初から京都にすら存在していなかった。
「……やれやれ。マユリはんの作った人形、ええ仕事してくれてるわぁ」
どこか遠くの、潮風が心地よい南の島の海岸。
サングラスをかけ、トロピカルドリンクのストローをすいと吸いながら、市丸ギンは青い海を眺めてフッと目を細めていた。
「浦原はんも、自分の技で返されたら流石に動揺するわな。……まあ、あんな地獄の特訓室に戻るくらいなら、ここで悠々自適に暮らさせてもらうで」
浦原喜助の心理を裏の裏まで読み切り、涅マユリの変態技術すらも利用し、護廷十三隊の追撃網を完全に崩壊させた男。
その後——
京都で繰り広げられた「市丸ギン人形大捕り物劇」によって、浦原・夜一・砕蜂の三人が山じいから『現世を混乱させた』として大目玉を食らったことは言うまでもない。
そして、当の市丸ギンの消息を知る者は、三界のどこにも居なくなったのであった——。