絶対の先制   作:幻影の塔

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再会

一番隊執務室での静かなる威圧劇からしばらくの刻が流れた。

空座町に降り立った仮面の軍勢(ヴァザード)のリーダー、平子真子(ひらこしんじ)。

百年前、藍染惣右介の策略により虚化(ホロウか)の実験台とされ、瀞霊廷を追われた元五番隊隊長である。

黒崎一護に接触を図り、自らの陣営に引き込もうと動いていた平子だったが、彼は現世の路地裏で「ある不自然な既視感」に足を止めることとなる。

路地裏の再会

夕暮れ時の空座町。オレンジ色に染まる路地裏で、平子はいつものように大雑把な足取りで歩いていた。

だが、その鼻腔を突いたのは——百年前、五番隊の執務室や一番隊の回廊でわずかに感じたことのある、「一切の霊子乱れが存在しない、狂気的なまでの静寂」だった。

「……なんや、この感じ。気のせいか思ってたけど、現世に来てからずーっと引っかかってたんや」

平子が振り返ると、そこにはコンビニの袋を手に提げ、冴えない平死神の着流し姿で立つ天理がいた。

「……おや。どなたかと思えば、元五番隊隊長・平子真子閣下ではありませんか」

天理はいつものように、起伏のない声で一礼する。

平子は目を細め、前髪をかき上げながら天理に近づいた。その関西弁の軽妙な口調とは裏腹に、眼光は鋭く鋭利な刃物のように天理を捉えている。

「『閣下』やなんてやめてくれへんか、七瀬。俺はもう隊長でも何でもない、ただの追放者や。……それより自分、なんでここに居るん? 十三番隊の雑用係が、なんで一護の周りの『不自然な運命のズレ』のの中心におるんや?」

平子は百年前から勘が冴え渡っていた。

藍染の怪しさにいち早く気づいていた男だからこそ、天理という存在が持つ「違和感」にも、誰より早く薄々勘づいていたのだ。

過去の因縁と、平子の観察眼

「……相変わらず、嫌な目をお持ちですね、平子隊長」

「隊長って呼ぶな言うとるやろ。……なあ、七瀬。百年前のあの日、俺らが藍染に嵌められて虚化させられた夜のこと……覚えてるか?」

平子の声から軽さが消える。

「あの時、現場に真っ先に駆けつけた浦原や鉄斎の前に……現場の痕跡を完全に消し去り、大虚(メノス)の追撃を影から一瞬で『無効化』した何者かが居った。山じいでもない、夜一でもない……『存在しないはずの誰か』や」

平子は天理の目の前まで歩み寄り、ニタリと不敵な笑みを浮かべた。

「あの時は藍染の手下か思ってたけど……ちゃうな。あの夜、俺らがギリギリのところで理性を保って現世へ逃げ延びられたのは、裏で誰かが藍染の『止めを刺す攻撃』を先制で潰してくれたからや。……そうやろ、七瀬?」

天理は表情一つ変えず、静かに平子を見つめ返す。

(……やはり、この男も鋭い。京楽隊長のような『利用しようとする冷徹さ』はないが、人の痛みに敏いからこそ、真実に辿り着くのが早い……)

「……仮にそうだとして、今更それを聞いてどうされるおつもりですか。過去を掘り返して、私に復讐の手助けでも頼むおつもりですか?」

「アホか」

平子は鼻で笑い、天理の肩をぽんと叩いた。

「そんな殊勝なこと頼むかいな。俺らの因縁は俺らで藍染にツケを払う。……ただな、お礼が言いたかっただけや」

平子の表情から険しさが抜け、昔と変わらない、どこか世話焼きな先輩隊長の顔が覗く。

「あの夜、俺らを見捨てんと影で手を差し伸べてくれたこと。……それと、今も一護や織姫ちゃんたちを、それとなく守ってくれてることや。おおきにな、七瀬」

影の理解者

天理は少しだけ意外そうに目を見開いたが、すぐにいつもの無表情に戻り、小さく息を吐いた。

「……礼には及びません。私はただ、理不尽な破滅を掃除しているだけに過ぎませんから」

「ハハッ、相変わらず可愛げのない奴っちゃな! ま、ええわ。山じいに見つかったら面倒やし、俺は行くわ」

平子は背を向け、手をひらひらと振りながら歩き出す。

「あ、そうそう。一護の奴、いま内なる虚に苦しんどるけど……手出しせんといてやってな。あいつが自分の力で乗り越えるんが、あいつの強さになるんやから」

「……言われずとも。京楽隊長にも同じことを叩き込んできたばかりです」

「げっ、春水に!? ゲハハッ! お前ほんま化け物やな! あいつを返り討ちにしたんか!」

路地裏に平子の爆笑が響き渡る。

去り際、平子は立ち止まり、振り向かずに言った。

「七瀬。……藍染との決戦の時、お前が表に出んで済むように、俺らが綺麗に片付けてやるから見てなってや」

「……期待せずに待っています、平子隊長」

夕闇の中へ消えていく平子真子の背中を見送りながら、天理は提げていたコンビニ袋を持ち直した。

「……やれやれ。護廷十三隊の隊長格は、どいつもこいつも厄介な人間ばかりだ」

脳裏で『百花繚乱』が嬉しそうに囁く。

『でも、天理様。あの者たちは、あなたの払った犠牲と理を、正しく感じ取れる強さを持っていますわ』

「……そうだな」

天理は微かに口元を緩めると、一護たちの待つ夕暮れの町へと静かに歩き出したのだった。

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