炎熱地獄の覚悟と、理不尽な乱入
「……落ちよ、藍染。貴様もろとも炎熱地獄で灰燼となれ」
山本総隊長の手から解き放たれようとする、空座町全体を焼き尽くすほどの凄絶な火柱。己の命と街、そして仲間を犠牲にして藍染を討とうとする総隊長の悲壮な覚悟。
藍染が冷徹な笑みを浮かべ、砕蜂や京楽、日番谷らが絶望と悲痛の叫びをあげる——まさにその瞬間。
「——そこまでです、総隊長」
シュン……ッ!!
炎熱地獄の巨大な火柱が弾け飛ぶ直前、総隊長の背後に忽然と一人の死神が現れた。
十三番隊平死神、七瀬天理。
天理は総隊長の肩に手を置くと、総隊長が全霊圧を込めて発動させようとしていた炎熱地獄の火種を、素手の霊圧制御だけで物理的に握り潰して鎮火させた。
「な……ッ!?」
総隊長が驚愕に目を見開く。何百年と磨き上げた己の極大の炎が、ただの平死神の手によって一瞬で「なかったこと」にされたのだ。
「命を捨てて敵を討つなど、護廷十三隊のトップとしてあまりに芸がない。……ここからは私に任せて、下がっていてください」
天理は総隊長を軽々と片手で抱えると、瞬歩の破空音すら立てず、はるか後方の安全圏へと即座に退避させた。
2. 全隊長格への実力開示と慄然
「な……なんだあの平死神は……!? 総隊長の炎熱地獄を……消した……!?」
「七瀬天理……! 十一番隊や一番隊の噂に出ていた、あの平隊員か!?」
倒れていた京楽春水、碎蜂、日番谷冬獅郎、そして周囲の隊長・副隊長たちが絶句する。
総隊長という護廷十三隊最強の死神が命を辞さぬ覚悟で放とうとした大技を、何でもない顔で力ずくでねじ伏せ、救い出したのだ。もはや「ただの平死神」などという欺瞞は一切通用しない。
「……ほう」
藍染惣右介は眼鏡の奥の瞳を細め、静かに天理を見つめた。
「私の計画にも、浦原喜助のデータにも存在しない異物だ。姿を隠していたにしては、あまりに不躾な乱入だな……七瀬天理」
「雑用係の出しゃばりですよ」
天理は静かに腰の斬魄刀の柄に手をかけた。
「藍染惣右介。貴方の相手は、間もなく断界から戻ってくる黒崎一護くんです。……彼が来るまでの間、ここで静かに足止めになっていただきます」
3. 市丸ギンの特攻と崩玉の過剰進化
その後、ワンダーワイスの処理や市丸ギンの密かな特攻が展開される。
ギンは神殺鎗の真の能力で藍染の胸を貫き、崩玉を奪い取ることに成功する。しかし、崩玉の意志によって進化を遂げた藍染は、ギンの身体を容赦なく切り裂いた。
血を吐き倒れるギン。その首元へ、高次元へと進化した藍染の刃が振り下ろされようとした——その瞬間。
キン……ッ!!
藍染の刃が、ギンの首筋に届くコンマ数秒前で完全に固まった。
天理の始解『百花繚乱』が発動していた。
「……くっ!?」
藍染の腕に、不可視の重圧と打撃が叩き込まれ、強制的に攻撃動作がキャンセルされる。
天理は倒れたギンの身体を抱え上げると、即座に回道で出血を止め、背後の安全な屋根の上へと退避させた。
「喋らないでください、市丸元隊長。貴方の執念は見事でした。……あとの時間は、私が稼ぎます」
「……天理……さん……。ほんま……おそろしい人や……」
血を吐きながらも、ギンは微かに安堵の笑みを浮かべた。
4. 藍染をハメ殺す『絶対の先制』
「私に時間を稼ぐだと? 崩玉と同化し、死神も虚も超越したこの私に……!」
怒りを露わにした藍染の姿が消える。高次元の霊圧と速度を伴った一撃が天理を襲う——だが。
「狂い咲け—『百花繚乱』」
ドカァァァンッッ!!!!
「がっ……!?」
藍染が攻撃を繰り出すより前に、藍染の全身へ目に見えない壊滅的な連鎖打撃が叩き込まれた。
高次元へ進化し、概念的な不死となったはずの藍染の体が、先制の衝撃で空中で大きく吹き飛んでビル群を何十棟も突き破る。
「馬鹿な……! 今のは攻撃を弾いたのではない……私が『攻撃しようとした未来』に対して、打撃が先制して着弾した……!?」
立ち上がる藍染。崩玉の力で傷は瞬時に再生するものの、その顔には激しい屈辱が滲む。
「無駄ですよ、藍染」
天理は刀を下げたまま、静かに空中を歩む。
「貴方がどれほど進化しようと、『攻撃しようとする意思』が存在する限り、私の刃は必ず貴方より先に届く。崩玉の再生能力で死なずとも……貴方が私を傷つける機会は永遠に訪れません」
「戯れ言を——!!」
藍染が術式を解き放とうとするたびに、そのコンマ数秒前の時間軸で天理の絶対先制が発動。藍染の動作・詠唱・霊圧の収束そのものが物理的に力ずくで打ち砕かれ続ける。
「凄まじい……なんという理不尽だ……」
京楽春水が冷や汗を流しながら呟く。
「総隊長の炎熱地獄をねじ伏せただけじゃない……藍染のあらゆる後手を強制し、ハメ殺しにしている……! あの男が、十三番隊の平死神だと……!?」
日番谷も、手負いの総隊長も、護廷十三隊の誰もが言葉を失い、影の絶対者・七瀬天理の恐ろしい真価をその目に焼き付けていた。
5. 一護へのバトンタッチ
天理による無慈悲なハメ殺しが何百回と繰り返され、藍染が屈辱と疲弊で霊圧を乱し始めたその時。
天理の上空の空間が、バリバリと凄まじい音を立てて引き裂かれた。
漆黒の霊圧を纏い、覚悟を宿した姿——「最後の月牙天衝」を修得した黒崎一護が断界から舞い戻ってきたのだ。
一護はゆっくりと舞い降り、天理の隣に立つ。一護の瞳には、天理が仲間と街のためにどれほどの異次元の戦いで時間を稼いでいたかが、一目で理解できていた。
「……待たせたな、天理さん」
「完璧なタイミングです、黒崎くん。……市丸元隊長の命は繋ぎ止めました。総隊長や皆さんも無事です。……あとは、貴方の戦いです」
「……応!」
一護が前に踏み出し、進化の限界を迎えた藍染と対峙する。
天理は傷ついたギンを背負い、驚愕と畏怖の視線を向けてくる総隊長や隊長格たちのもとへと静かに降り立った。
「……七瀬」
総隊長が重々しい声で呼びかける。天理はいつもの淡々とした表情に戻り、短く答えた。
「勝手な真似をして申し訳ありません、総隊長。……ですが、これで誰も死に実績も残りました。さあ、主役の決着を見届けましょう」
護廷十三隊の全隊長格がその異次元の実力を知り、畏怖する中で。影の絶対者・七瀬天理は静かに後方へと下がり、一護と藍染の最終決着を見守るのだった