翌朝の更木地区外縁。
昨夜の激闘の舞台となった荒野に、重々しい足音が響いていた。
やってきたのは十一番隊。先頭を歩くのは、血と戦いを何よりも好む男——隊長・更木剣八(更木剣八)と、その傍らで退屈そうに欠伸をする副隊長・草鹿やちる、そして鋭い眼光で周囲を観察する斑目一角の姿があった。
「……おいおい、何だぁ? この惨状はよ」
一角が顔をしかめ、息をのむ。
あたり一面の地表が、まるで巨大な隕石群でも落ちたかのように無残に削り取られていた。岩山は木っ端微塵に砕け散り、空間には未だに「過剰なまでの物理的な破壊痕」が残されている。
「一角、隊員たちが消えてた現場ってのは、ここか?」
「はい……ですが、おカシイですよ隊長。報告にあった『敵の気配も霊圧も残らない』って話とまるで違います。ここは……まるで、圧倒的な暴力で一瞬にして叩き潰されたあとだ」
一角がしゃがみ込み、砕けた岩の断面を指でなぞる。
「切断面が異状です。剣で斬られた跡じゃねえ。かといって拳で殴られた跡でもねえ。……目にも留まらぬ密度の『打撃』と『斬撃』が、同時に数千発叩き込まれて粉砕されたみたいな痕跡だ。しかも……」
一角の顔に嫌な汗が伝う。
「……攻撃を仕掛けた側の霊圧の残滓が、ほとんど残っていねえ。これだけの破壊を起こしておいて、だ」
その言葉に、これまで退屈そうにしていた更木剣八の目が、ギロリと怪しく光った。
「霊圧を残さずに、これだけのパワーでブチ殺した、だと……?」
剣八はゆっくりと現場の中央へ歩みを進め、地面に深く刻まれた凄惨な痕跡を見下ろした。その口元が、ニヤリと吊り上がる。
「面白いじゃねえか。……おい、一角。この事件の前に、ここへ最初に入った部隊のリストを見せろ」
「え? あ、はい……えーっと、調査に入ったのは九番隊の偵察部隊と、物資搬送のために同行していた十一番隊・四番隊の平隊員数名ですが……」
「その平隊員の中に……『妙な奴』はいなかったか?」
「妙な奴、ですか? いえ、どれも冴えない雑兵ばかりですよ。……あ、そういえば一人、昨日一番隊舎の清掃から戻ってきて、そのまま淡々と荷物を運んでた地味な平隊員がいましたね。確か、名前は——」
一角が名前を口にした瞬間、剣八はフンと鼻を鳴らした。
「そいつだ」
「は? いやいや隊長、あいつは入隊以来、実績もねえただの平隊員ですよ? 乱闘騒ぎが起きても、いつも一番後ろでオロオロ逃げ回ってるような——」
「バカかお前は」
剣八は一角を睨みつけると、殺気立った笑みを深めた。
「そいつが『逃げてた』ときの動きを思い出してみろ。……どれほど乱戦になろうが、誰かの刃がかすりそうになろうが、あいつは『絶対に誰の攻撃も浴びてねえ』。いつも絶妙な間合いで、まるで最初から刃が来ない場所を知ってるみたいにスッと交わしてやがった」
「ッ……!?」
一角の背筋に冷たいものが走る。言われてみればそうだ。自分たちが豪快に喧嘩を売っている裏で、あの男は一度たりとも傷を負って戻ってきたことがない。
「あの野郎……ずいぶんと上手に『気配』を消してやがる。だがな、この破壊跡を見りゃわかる。……あいつの眼は、ただの平隊員の眼じゃねえ。強者を品定めする奴の眼だ」
剣八は自らの斬魄刀の柄に手をかけると、狂喜に満ちた凄まじい霊圧を周囲に撒き散らした。
「見つけたぜ……護廷十三隊の中に、とんでもねえ化け物が隠れてやがる。……おい一角! 今すぐあの平隊員を十一番隊の執務室に呼び出せ!」
「た、隊長……まさか、隊舎の中で斬りかかる気ですか!?」
「ハッ! 挨拶がわりになぁ! あの澄ました面が、俺の刃を前にしてどこまで隠し通せるか……試してやるよ!」
その頃、十一番隊の隊舎裏。
天理は一人、静かに竹箒を持って庭の落ち葉を掃いていた。
(……やれやれ。山本総隊長は上手く揉み消してくれると言っていたが、あの十一番隊長に嗅ぎつけられたか)
遠くから近づいてくる、狂気を含んだ凄まじい霊圧。
天理は溜息をひとつ吐くと、手に持った箒を立てかけ、凪いだ瞳で空を見上げた。
「静かに平隊員として過ごしたいだけなんだが……そうもいかないらしいな」
腰の斬魄刀『百花繚乱』が、主の心に呼応するように、鞘の中で静かに、微かに震えていた——。