. 急襲される一番隊舎と、死線を彷徨う長次郎
一番隊舎の執務室。
突如として結界を穿ち、侵入を果たした「星十字騎士団(シュテルンリッター)」のドリスコール・ベルチ。
「ハハハ! 護廷十三隊の副隊長とやらの『卍解』、確かに奪わせてもらったぞ!」
ドリスコールの巨大な霊子の槍が、雀部長次郎の胸を深く貫いていた。
激しい吐血とともに崩れ落ちる長次郎。まさに止めが刺されようとした——その時。
2. 「遅れ」の理由と、冷徹なる絶対先制
「——そこまでだ」
空間を穿ち、現世から間一髪で帰還した十三番隊平死神・七瀬天理が姿を現した。
天理は直前まで、総隊長の命により現世へと飛び、浦原喜助、四楓院夜一、握菱鉄斎と「滅却師による無差別な虚消失と世界の崩壊リスク」について緊急の意見交換を行っていた。さらに、その前には十二番隊の涅マユリから現世とソウル・ソサエティの霊子バランスに関する奇妙な異変の報告を受けていたのだ。
その重大な調査と移動の隙を突かれたことが、天理の到着をコンマ数秒遅らせていた。
「何だ貴様は!? 平死神が——」
ドリスコールが奪ったばかりの長次郎の卍解『黄煌厳霊離溝』を発動させようとし、周囲の滅却師たちが兵装を向けようとしたその時間軸の「前」。
胸中に激痛と後悔を込めた天理の斬魄刀が、静かに柄から解き放たれる。
「狂い咲け——『百花繚乱』」
ドガガガガガガガガァァァンッッ!!!!
「グガッ……!?」「な、何が……!?」
彼らが攻撃の意思を持った未来のコンマ数秒前に対し、数千重の不可視の壊滅的物理打撃が連鎖着弾。
ドリスコールは卍解を繰り出す暇すら与えられず、全身の骨と肉を粉砕されて吐血し、絶叫とともに吹き飛んだ。周囲にいた部隊も一瞬で壊滅。
ただ一人、伝令係として生かされた男だけが、恐怖で失禁しながらガタガタと震えていた。
「ひ……ひぃぃぃっ……!!」
「お前たちの『陛下』とやらに正確に報告してこい」
天理は冷酷な眼光で伝令係を見下ろし、耳元で低く囁いた。
「『護廷十三隊には、お前たちが攻撃しようとした瞬間に全身を潰す【絶対の先制者】がいる。死にたくなければ二度と足を踏み入れるな』……とな」
伝令係の男は狂ったように叫びながら、影の中へと逃げ帰っていった。
3. 長次郎への謝罪と、命のバトン
天理はすぐさま瀕死の長次郎の元へ駆け寄り、全霊圧を込めた回道を叩き込んだ。
「長次郎さん……! 長次郎さん……っ!」
「あ……天理……殿……。ワシの……卍解が……っ」
「喋らないでください! ……すみません、現世での調査に手間取り、救出が遅れました……っ!」
天理が必死に止血と霊力の維持を行う中、急報を聞きつけた四番隊隊長・卯ノ花烈が一番隊舎へ疾風のごとく駆け込んできた。
「天理さん、どいてください! 施術を引き継ぎます!!」
「卯ノ花隊長……! お願いします!」
卯ノ花による鬼道と最高峰の医療術が施され、息も絶え絶えだった長次郎の胸の鼓動が、辛うじて繋ぎ止められた。
「……命は繋ぎ止めました。ですが……霊ノ臓(れいのおル)と鎖結(さけつ)の損傷があまりに酷い。命は助かっても、二度と死神として刀を振るうことはできないでしょう……」
静かに告げる卯ノ花。天理は拳を強く握り締め、胸を焦がすような怒りを静かに燃やした。
4. ユーハバッハへの報告と全知全能の揺らぎ
「見えざる帝国」の謁見の間。
泡を吹きながら転がり出た伝令係の男が、狂乱状態で叫んでいた。
「へ、陛下……! ドリスコール様率いる部隊が……一瞬で……全滅いたしましたぁぁっ! 奪った卍解を使う間もなく……私たちが『攻撃しようとした瞬間』に、体が内側から粉砕されたのです……!!あれは死神ではありません……『理(ことわり)』です……!!」
男は叫び終えると、そのまま精神崩壊を起こして倒れ伏した。
ハッシュヴァルトが不快そうに眉をひそめる中、玉座のユーハバッハは深く背もたれに体を預け、赤く輝く瞳を細めた。
「……浦原喜助、涅マユリとの情報交換で足止めし、その隙に襲撃する計画だったが……間に合ってきたか。『特記戦力』のどれにも該当せぬ、過去と未来の隙間に割り込む理外の刃……【七瀬天理】」
ユーハバッハの口元に、凶悪な冷笑が浮かぶ。
「面白い。山本元柳斎の炎すら凌ぐその理不尽……我が『全知全能(アルマイティ)』の力で、いかに打ち砕くか見ものだな……」