1. 「無我」の刺客と、失われた視界
火の海と化した瀞霊廷。
「攻撃の意思」を察知して絶対先制を放つ天理に対し、クインシー側が投じた唯一の対抗策——それは、霊圧の揺らぎも殺意も持たず、ただ機械のように攻撃動作を行う「無我の境地」に至った刺客だった。
「——何……!?」
初めて生じたコンマ数秒の反応遅れ。
ザシュッッ!!
「ぐあぁぁぁぁっ……!!」
天理の両目から鮮血が吹き飛び、その視界は完全なる闇に閉ざされた。
だが、刺客が立ち去ろうとしたその瞬間、天理の体内から漏れ出したのは痛みではなく、すべての理性を焼き尽くす膨大な霊圧の濁流だった。
「……あ……やって……しまった……」
天理の意識が遠のき、彼の中で静かに眠っていた斬魄刀『百花繚乱』の冷酷なる意志そのものが、主の危機に呼応して目覚めたのだ。
2. 回想——山本元柳斎との秘話と「絶大な代償」
かつて一番隊舎で、山本総隊長と天理が交わした会話。
一番隊舎、執務室。
重々しい沈黙の中、立ち昇る線香の煙だけが静かに揺れていた。
上座に座す山本元柳斎重國は、単身で呼び出した目の前の平隊員——天理を、その一筋の眼光で見下ろしていた。
「……天理」
「は」
「隠す必要はもはやない。藍染の件、そして先刻の激闘でのあのおぬしの動き……護廷十三隊のいかなる剣技、いかなる鬼道にも当てはまらぬ『理外の力』。……おぬしの持つその能力、ワシにすべてを解き明かしてみせよ」
総隊長の発する凄まじい威圧感が執務室を満たす。
逃げ場がないことを悟った天理は、静かに一礼し、腹をくくって口を開いた。
「……畏まりました。私の斬魄刀の名は『百花繚乱』。そして……その本質は『絶対の先制』にあります」
「絶対の……先制、とな」
「はい。私の能力は、いかなる敵であれ、私に害を及ぼそうと『攻撃の意思』または『行動』を起こしたコンマ数秒前の時間軸において、相手の動作よりも確実に早く、不可視の打撃・斬撃を叩き込みます。相手がどれほど神速であろうと、能力の発動条件を満たした時点で、私の攻撃が『先に完了』いたします」
山本総隊長の眉根が、微かに寄った。
数多の死神や敵と対峙してきた老将の頭脳が、その能力の異常性を即座に理解する。
「……なるほど。相手が刀を抜く前に、すでに斬り伏せられているということか。だが……おぬし、先日の戦いでは通常では考えられぬ『異変』を起こしておったな」
「……お見通しでしたか」
天理は苦笑を浮かべ、自らの瞳を指差した。
「通常、この能力は私の『視界』に入った敵に対して発動します。ですが……万が一、私の『視界』が闇や能力、あるいは攻撃によって遮られ、目を潰された状態に陥った瞬間……私の斬魄刀は、意志に反して強制的に『卍解』へ移行します」
「強制発動……。その卍解の名は?」
「『終極・百花繚乱滅殺陣』(しゅうきょく・ひゃっかりょうらんめっさつじん)」
主人公の声から、明確な「重苦しさ」が滲み出た。
「発動時、失われた目の代わりを斬魄刀そのものが担い、全方位の全空間を補完します。そして……私を中心に『私の霊圧が届く範囲で』に存在する『敵』『敵のグループ』『敵陣営に所属する者』のすべてに対し、自動かつ無差別で『絶対先制』の叩き込みを開始します」
「……なに?」
山本総隊長の目が、カッと見開かれた。
「無差別、だと……? 相手が戦闘能力を持たぬ一般人であったとしても、か」
「はい。敵陣営に属していると認識された時点で、例外はありません。非戦闘員であろうと、子供であろうと……私の霊圧が届く範囲であれば、一切の猶予なく先制して撃滅します。そしてこの卍解は、敵陣営の総戦力の『8割』を壊滅させるまで、私の意志で解除することは不可能です」
「……」
執務室の空気が、凍りついたかのように重くなる。
霊圧の届く範囲の無差別殺戮。敵陣営8割撃破までの強制継続。
山本総隊長は、その言葉の裏にある「地獄」を瞬時に思い描いた。
「さらに……その消費霊力は、通常の隊長格の卍解の2倍以上。8割を削り切る前に私の霊力が尽きれば、私自身が死に至ります。……なお、8割の撃破を達成し卍解が解除された際には、潰された目も含め、私の肉体は完全回復いたしますが異常な霊圧を消費し続ける反動で魂魄の消耗と体力の著しい低下を招き昏睡状態に陥ります……」
主人公はそこで言葉を切り、深く頭を下げた。
「これが、私の持つ……誰にも知られてはならない『呪い』に近き力にございます」
静寂が、長く、長く続いた。
山本総隊長は目を閉じ、腕を組んだまま、静かに思索に耽っていた。
やがて、重々しく目を開くと、杖を床にコツンと突いた。
「……相分かった」
「総隊長閣下……」
「おぬしの力……正義の刃と呼ぶにはあまりに不吉、だが、瀞霊廷を護る盾と呼ぶにはあまりに凶烈。……藍染のような謀略家が最も恐れ、手出しを躊躇う理由も頷ける」
総隊長は立ち上がり、天理を正面から見据えた。
「天理おぬしのその能力、および卍解の詳細は、ワシと……おぬしだけの秘密とする。隊長格にも明かすことは許さん」
「……よろしいのですか? 私のような危険な存在を、そのまま平隊員として留めておいて……」
「ぬかせ」
山本総隊長は、一瞬だけ厳父のような、しかしどこか絶対的な信頼を込めた眼光を向けた。
「おぬしがその『終極』を無暗に振るわぬよう、自らを律してきた精神……ワシはそれを評価しておる。……おぬしはそのまま、平隊員として日常を過ごせ。だが——」
総隊長の声が、低く響く。
「もしも護廷十三隊が崩壊の危機に瀕し、万策尽きたその時……ワシはおぬしに、その『解禁』を命じるやもしれん。……それまで、その刃、決して余計なところで抜くのではないぞ」
「……謹んで、拝命いたします」
主人公は深々と頭を下げた。
最強の死神・山本元柳斎重國と、絶対の先制を持つ平隊員。
二人の間にだけ結ばれた、秘められた「絶対の暗黙了解」が完成した瞬間だった。
3. 卍解発動——『終極百花繚乱滅殺陣』
「——我が主の、美しき目を奪ったか」
天理の口から響いたのは、怨念と神罰が混ざり合ったかのような美しくも恐ろしい声。
天理の潰された両目から溢れていた血が、一瞬で純白の霊子の華へと変化し、引き裂かれた眼球と視界が完璧に再生・完全回復していく。
カッと見開かれた天理の瞳。しかしそこに宿るのは、いつもの穏やかさではなく、冷酷無比な神の眼光だった。
天理は静かに刀を垂直に立てる。
「卍解——『終極百花繚乱滅殺陣』」
ズゴォォォォォォォォンッッ!!!!
瀞霊廷全体どころか、「影の領域(シャッテン・ビライヒ)」の深淵までをも呑み込む領域展開。
ユーハバッハ本体と山本元柳斎重國が対峙していた戦場の真上すらも、無限の血と白の牡丹が咲き乱れる地獄の陣へと塗り替えられた。
「な……何だ、この霊圧は……!? 隊長格の卍解の数倍……いや、空間そのものを圧殺するような霊力の濁流だ……!?」
ハッシュヴァルトが凄まじい圧迫感に膝を折りかけ、歯を食いしばる。
完全に目を回復させた天理(百花繚乱)が、冷徹な視線をユーハバッハへと向けた。
「滅却師(クインシー)よ。貴様らは最も愚かな選択をした。……主の目を潰せば勝てると思ったか? 逆だ。私の理性を繋ぎ止める『檻』を壊し、この陣を開かせてしまったのだから」
4. 8割の全滅と「2割の希望」というえげつない地獄
次の瞬間、瀞霊廷中に散らばっていた滅却師たちの「8割」が、叫ぶ間もなく全身を激痛と不可視の裂傷に包まれ、血の海へと崩れ落ちた。
全滅ではない。寸分違わず「8割」だけが壊滅したのだ。
「ぐああああああっ!!」「陛下……! 助けて……陛下ぁぁぁっ!!」
焼き尽くされ、八裂きにされながらも、残された「2割」の滅却師たちは生かされていた。肉体を苛まれ、絶叫しながらも、彼らは必死にユーハバッハの元へ這い寄ってくる。
ユーハバッハは震える手でそれを見下ろし、戦慄した。
「なぜ……なぜ10割(すべて)を殺さぬ……!? なぜ2割を生かす……!?」
完璧に回復した瞳で見下ろしながら、『百花繚乱』が静かに言い放つ。
「全滅させれば余韻しか残らん。だが1割まで減らせば、残された者は絶望のあまり捨て身の特攻(バンザイアタック)を仕掛けてくる。……だからこそ、【2割】を残すのだ」
百花繚乱の冷酷な思考が、ユーハバッハの脳髄を刺し穿つ。
「2割を残せば、種の防衛本能が働き、『生き残らねばならない』という希望に固執する。……人はな、希望があれば焼かれながらでも歩き続けるのだよ。 絶望の渦中で、二度と立ち上がれぬよう『存続の恐怖』に怯え続けながらな」
「……っ!!」
「もっとも、その2割から戦力を再構築しようと企てたところで……千年どころの月日では到底足りんがね」
ユーハバッハの背筋に、生まれて初めての「絶対的な恐怖」と汗が吹き出す。
この『終極百花繚乱滅殺陣』は、ただ殺すための技ではない。「生存という希望を与えることで、永遠に精神と種族を支配し折る」という地獄の陣なのだ。
「退くぞ……ハッシュヴァルト……! 影へ……影へ退却だ……ッ!!」
皇帝ユーハバッハが、恐怖に顔を歪ませながら「影の領域」へと逃げ込んでいく。残された2割の滅却師たちも、這うようにしてその後に続いた。
5. 終劇と、課された重い代償
ユーハバッハたちが逃げ散ると同時に、常時2倍以上の霊力を喰らい続けていた『終極百花繚乱滅殺陣』が静かに解除された。
「……は……っ……!」
両目は完璧に回復しているものの、限界を超えた霊力消費と肉体への超高負荷により、天理の顔からは一切の血の気が引き、その場に崩れ落ちた。
「天理ッ!!」
駆け寄る山本元柳斎と、四番隊の卯ノ花烈。
卯ノ花がすぐさま天理の体に触れ、驚愕に目を見開く。
「傷と眼球は完全に再生しています……ですが、霊圧の損耗と肉体の疲弊が尋常ではありません……! 魂の根幹が悲鳴を上げています……!」
「……すま……ない……総隊長……卯ノ花さん……」
天理は浅い呼吸を繰り返しながら、絞り出すように呟いた。
「暴れ……させて……しまった……。しばらく……動けそうに……ありません……」
そのまま天理は深い意識の闇へと落ちていった。
護廷十三隊の敗北と思われた第一次侵攻は、「天理の卍解がもたらした絶望により、クインシー側がトラウマ的な惨敗を喫して退却する」という結末を迎えた。
しかし、目を回復させた代償として深い昏睡状態に陥った天理。彼が眠りについている間に、ソウル・ソサエティは第二次侵攻に向けた厳しい立て直しを迫られるのだった——。
アカギの名言で、焼かれながらも人は希望があればついてくるという言葉があります、対鷲巣編の一幕です、ですが百花繚乱が放つ卍解後についてくるクインシーなどいないので、種の防衛本能という希望の形で、人は焼かれながらも希望があれば歩き続けるという形にオマージュして書きました。私事ですが昔ギャンブルにハマっていたクソみたいな時期がありました。この名言を聞いた時、負けてもいつか取り返せる。あと2万使って10万勝てばよいとギャンブル脳に焼かれていた自分を目覚めさせてくれた金言でした。なのでどうしても卍解発動時に百花繚乱が放つ言葉として入れておきたかった。私事のくだらないあと書きですが読んでいただいた皆様には感謝です。