浦原商店の地下大空間。
地上から遮断された重苦しい空気の中、現世に留まる主要メンバーが一堂に会していた。
黒崎一護、井上織姫、茶渡泰虎、石田雨竜。そして浦原喜助の呼び出しに応じ、影のように姿を現した黒崎一心と石田竜弦の姿もあった。
この場に石田親子を同席させたのには、明確な意図があった。七瀬天理の卍解『終極百花繚乱滅殺陣』がもたらした「滅却師(クインシー)という種族そのものに対する概念的な先制呪縛」の網から、二人を「味方(保護対象)」として明確に識別・隔離するためである。
1. 浦原喜助による事実報告と「先制の惨劇」
「……皆さん、集まっていただきありがとうございます」
扇子を閉じた浦原喜助の顔から、いつもの軽薄さは完全に消えていた。
「単刀直入に申し上げます。護廷十三隊と『見えざる帝国』との一次侵攻戦……ソウル・ソサエティは壊滅を免れました。……ですが、それは通常の勝利などという生易しいものではありません」
浦原は空間に投影した霊子映像を操作し、見えざる帝国の侵攻データを示した。
「十三番隊の平死神・七瀬天理さんが、極大卍解を発動しました。……結果、侵攻してきた星十字騎士団を含む滅却師大軍勢の『8割』が、何一つ抵抗の機会を与えられず、一瞬で存在を破砕され消滅しました」
「は……? 8割……!?」
一護が目を見開き、言葉を詰まらせる。
「じゃあ……ソウル・ソサエティは勝ったのか……? 天理さんが全部倒したのか!?」
「いいえ、一護さん」浦原は重く首を振った。
「あえて『2割』を残したのです。天理さんは敵を全滅させず、極限の激痛と絶望を与えた上で2割を生かして逃がした。……『種族の存続』という希望の枷を打ち込み、二度と牙を剥けぬよう滅却師という存在そのものの精神を完全に挫くために」
2. 石田親子同席の「真の理由」と天理の認識アルゴリズム
静まり返る地下空間で、これまで沈黙を保っていた石田竜弦が冷徹な声で口を開いた。
「……浦原。回りくどい言い方はよせ。私と雨竜をこの場に呼んだ真の理由は、その『七瀬天理』の力に関する警告だろう」
「……さすがは竜弦さん、お察しが早い」
浦原は眼鏡の奥の目を鋭く光らせた。
「天理さんの能力は『害意を持った対象への絶対先制』です。そして今回の卍解によって、その判定基準は『滅却師の霊子反応そのもの』にまで拡大・常時展開されました。……つまり、【天理さんの認識下において『護廷の敵(滅却師)』と定義された瞬間、地球のどこにいようと先制して破砕される】という状態にあります」
「っ……!」雨竜の背筋に冷たいものが走った。
「雨竜さん、そして竜弦さん。あなた方がどれほどソウル・ソサエティに敵意を持っていなくとも、天理さんの不条理な能力の自動判定においては『滅却師=排除対象』として巻き込まれる危険性があった。……だからこそ、今この場で『あなた方は我々の味方であり、保護すべき現世の同盟者である』という魂魄の識別コードを、私が天理さんの残留霊力に組み込む必要があったのです」
黒崎一心が腕を組み、深く息を吐き出した。
「……なるほどな。あのバカげた怪物じみた先制攻撃から、雨竜たちを『概念的に除外』するための緊急避難ってワケか」
「ええ。もしこの措置を怠れば……雨竜さんがふと滅却師の力を強めた瞬間、天理さんの先制が発動し、コンマ一秒で肉体が粉砕されていたでしょう」
3. 一護たちの衝撃と、忍び寄る「選択」
「そんな……天理さんって、いつも竹箒持ってニコニコ笑ってた、あの静かな人だろ……?」
一護は己の手を見つめながら、震える声を漏らした。
自分が死神代行として戦ってきた裏で、それほど恐ろしい「絶対の不条理」がソウル・ソサエティを守っていたという現実に、言葉を失っていた。
「天理さんは現在、常時2倍の霊力を消費し続けた反動で、深い昏睡状態にあります」と浦原。
「ですが、彼が遺した『2割の生存者』という絶望的な地獄……見えざる帝国の皇帝ユーハバッハは、天理さんが眠っている今この瞬間しか勝機はないと焦り、必ず第二次侵攻を仕掛けてきます」
竜弦は息子の雨竜を一度だけ瞥見し、静かに告げた。
「……雨竜。浮かれるなよ。死神側が勝ったのではない。一人の『怪異』が理を捻じ曲げただけだ。……見えざる帝国が再び動く時、その焦燥と絶望は、以前の比ではない狂気となって襲い掛かってくる」
「……わかっているよ、父さん」
雨竜は調整された己の弓を握りしめ、複雑な表情で頷いた。自分たち混血・純血の滅却師が、天理という一人の死神の「手元」で生かすも殺すも握られていたという事実に、寒気を覚えながら。
4. 決意とそれぞれの役割
井上織姫が不安そうに胸の前で手を組む。
「天理さん……大丈夫なのかな……。私、お助けできるかな……」
「織姫さん、あなたの『盾瞬六花』の拒絶能力は、第二次侵攻において絶対に必要になります。……天理さんが眠り、護廷十三隊が立て直しを図っている今、現世の私たちがすべきことは一つです」
浦原喜助は一護、そして石田親子を力強い目で見つめた。
「奪われた卍解を取り戻す手段の確立、そして第二次侵攻への完全なる備え。……天理さんが命を削って作ってくれたこの『猶予期間』を、一秒たりとも無駄にはしませんよ」
地下大空間に、冷たい決意が満ちていく。
滅却師という種族すら恐怖で縛り付けた「七瀬天理」という絶対的な影の下で、現世組と石田親子は、逃れられぬ第二次決戦への準備を開始するのだった。