技術開発局の通信室、ならびに一番隊執務室。
現世の浦原喜助・四楓院夜一から届いた緊急通信と、その報告を受ける山本元柳斎重國、そして傍らに立つ四番隊隊長・卯ノ花烈。
昏睡状態の天理が稼ぎ出した「2割の生存に縛られた滅却師たちの足止め時間」の中で、現世の智者たちが導き出した起死回生の策が、ついにソウル・ソサエティへともたらされる。
1. 現世からの緊急通信(浦原喜助・夜一)
一番隊執務室に設置された霊波通信機から、聞き慣れた飄々としつつも真摯な声が響く。
『——やあ、総隊長。聞こえていますか? 浦原です』
「……喜助か。夜一も一緒だな。現世での調査、何か掴んだか」
元柳斎の問いかけに、映像の向こうで四楓院夜一が腕を組み、不敵な笑みを浮かべながら答える。
『ああ、総隊長。天理の奴が『終極百花繚乱滅殺陣』で奴らの8割を叩き潰して追い返してくれたおかげで、現世に残された滅却師の痕跡や霊子の解析が思いのほか進んでね。……あのバカ弟子(天理)の命がけの時間が無駄にならなくて済んだよ』
続いて浦原が扇子を折り、鋭い眼光を覗かせる。
『……さて、本題です。奴らがなぜ隊長格の「卍解」を奪うことができたのか、そのカラクリと、奪われた卍解を取り戻す【唯一の手立て】が完成しました』
2. 卍解強奪の真相と「侵影薬」の考察
浦原は手元のホログラム資料を展開しながら、考察を述べる。
『まず、奴らが使った「星章(メダリオン)」による卍解強奪。あれは単に技術で奪っているのではなく……滅却師(クインシー)という種族が「毒」として拒絶する存在を排除した上で、純粋な霊子構造として卍解を構築・支配しているに過ぎません』
「……滅却師の拒絶する毒、だと?」
元柳斎が眉をひそめると、浦原は深く頷いた。
『ええ。滅却師には「抗体」が存在しないエネルギー——すなわち【虚(ホロウ)の霊子】です。滅却師にとって虚の霊子は、極微量であっても魂魄を破壊する「完全なる毒」なのです』
浦原は胸ポケットから、黒く脈打つ小さな丸薬を取り出してみせた。
『そこで作り上げたのが、この『侵影薬(しんえいやく)』です。
これを死神の魂魄に一時的に取り込むことで、死神の魂、そして「卍解」そのものにごく僅かな虚の霊子を混入(虚化)させます』
「なるほどな……」
傍らで聞いていた卯ノ花烈が、感心したように目を細める。
『そうです。奪われた卍解に「虚の毒」が混入した瞬間、それを保持している滅却師の体内で猛烈な拒絶反応(拒絶反応による魂魄の破壊)が起こる。結果として、敵は卍解を維持できなくなり、卍解は本来の持ち主である隊長たちの元へと強制的に送還・奪還される……というワケです』
3. 総隊長への報告と「天理」への想い
『それだけではありません』
夜一が言葉を継ぐ。
『この侵影薬を服用すれば、現在進行形で卍解を奪われるのを防ぐ「予防策」にもなる。……つまり、第二次侵攻において敵は二度と卍解を奪うことはできんということだ』
元柳斎は静かに目を閉じ、深く息を吐いた。
「……見事だ、喜助、夜一。よくぞ短期間でそこまで漕ぎ着けた」
『いえ……すべては天理さんが『2割』だけを生き残らせ、敵に「再構築と恐怖の猶予」を強烈に植え付けて退却させてくれたおかげですよ。普通なら全軍で怒涛の第二次侵攻が即座に来ていたはずです。彼が文字通り身を削って作り出した『空白の時』がなければ、この薬の完成は間に合いませんでした』
浦原の声に、珍しく深い敬意と切なさが混ざる。
『天理さんの状態はどうですか、卯ノ花隊長?』
「……依然として深い昏睡の中にいます。両目の傷こそ完全に再生していますが、隊長格の2倍以上の霊力を喰らい続けた反動で、魂魄の疲弊が極限に達しています。ですが……命に別状はありません。彼もまた、戦っています」
『……そうですか。あいつが目を覚ました時、全部終わって平和になってたら最高なんですけどねぇ』
浦原は苦笑しつつ、表情を引き締めた。
『侵影薬はすでに十二番隊の涅隊長へデータを転送し、量産体制に入らせています。……総隊長、第二次侵攻が来ても、もう我が方に隙はありませんよ』
4. 決戦への準備
通信が切れると、一番隊執務室に力強い沈黙が降り立った。
元柳斎は立ち上がり、壁に掛けられた自身の斬魄刀『流刃若火』を見つめる。
「……聞いただろう、卯ノ花」
「はい。隊長格全員へ『侵影薬』を行き渡らせ、卍解の奪還と再習得の準備を整えさせます」
「うむ。雀部の無念、そして天理が命を賭して繋いだこの希望……何一つ無駄にはせん。滅却師どもが再び影より這い出た時が、奴らの終焉だ」
昏睡する天理が残した「侵影薬」という名の最大の反撃の芽。
護廷十三隊は奪われた刃を取り戻し、完全なる決戦の準備を整えて第二次侵攻の刻を待つのだった。