四番隊舎・特別療養室。
厳重な結界が張り巡らされた部屋の扉が、静かに開いた。
差し込む柔らかな光の中に佇んでいたのは、朽木ルキアと志波海燕の二人だった。
部屋の中央に置かれたベッドには、いつもの平死神の装束ではなく、白い寝衣に身を包んだ七瀬天理が横たわっている。
その顔立ちは驚くほど穏やかで、まるで長い一日の仕事を終えて深く眠っているだけのようだった。
「……天理殿」
ルキアは足音を立てないようにゆっくりとベッドへ歩み寄り、傍らの椅子に腰を下ろした。
天理の開いた手に視線を落とすと、その指先には常時二倍の霊力を消費し続けた極限の疲労の痕跡——薄っすらとした霊子の乱れが残っていた。
「一次侵攻の折……天理殿が一人で背負われたものの大きさを思うと、胸が締め付けられる思いです。あのような不条理な戦火から、私たちを……そして尸魂界の八割もの命を救ってくださったというのに」
ルキアは小さく息を吐き、膝の上で拳を握りしめた。
「私は……天理殿に命を救われてばかりです。双殛の丘の時も、そして今回も。天理殿がこうして眠っておられる間、今度は私たちが……護廷十三隊が尸魂界を守ってみせます」
「おいおい、ルキア。固くなってんじゃねぇよ」
後ろで腕を組んで立っていた志波海燕が、苦笑いを浮かべながらポンとルキアの頭に手を置いた。
海燕は天理の寝顔を見下ろし、どこか呆れたような、けれど深い感謝の籠もった眼差しを向けた。
「……ったく、相変わらず『冴えない平死神』の顔して眠りやがって。だがよ、七瀬」
海燕は頭の後ろで手を組み、天井を見上げた。
「藍染の時の予備計画だの刺客だのも、今回の滅却師どもの急襲も……お前が影で全部先制して叩き潰してくれてたって、浦原の奴から聞いて驚いたぜ。十三番隊の副隊長として、情けねぇ話だが……俺も、浮竹の隊長も、お前に生かされた口だ」
海燕の声が、少しだけ低く、熱を帯びる。
「お前が命削って作った『猶予期間』だ。山爺も健在で、あの市丸の野郎まで引きずり戻して、護廷の準備は完璧だ。滅却師の残党が焦って二度目の侵攻を仕掛けてこようが……俺たちが返り討ちにしてやるよ」
海燕はニッと笑い、天理の肩を軽く叩いた。
「だからよ……お前は安心して寝てろ。目覚めた時に、綺麗に掃除された庭と、変わらない尸魂界を見せてやるからな」
ルキアも深く頷き、天理の手に優しく自分の手を重ねた。
「天理殿。どうか、ゆっくりお休みください」
窓の外では、静かな風が竹林を揺らしていた。
護廷十三隊の精鋭たちがその身を賭して守るこの部屋で、七瀬天理は、来るべき第二次決戦への静寂の中で深く穏やかな眠りを続けていた。